呪詛の祝言 咲本倉南編 幸せの皮・私の始まり
メリー苦しみマース!!
『―――――――そりゃあね。さっきも言ってたとおりこの事件、三か月前から捜査が始まってるわけじゃないですか・・・。そりゃあ閉鎖にもなりますよ』
『でも問題は閉鎖している間の児童たちの教育ですよ。一時的な閉鎖でも、開校の目途は立ってないわけですし、自宅での教育だって限界があるでしょうに』
『教育は、勉学だけではないですからね。同世代の子供たち同士で遊ぶことも人間性を養うという意味で道徳的な教育ですもの。でも、今回の事件の場合外出すること自体に危険性があるわけですからね・・・』
『こういった事件の犯人というのは、予測の難しい手口で犯行に及ぶケースもあります。現状は外に出ている児童が狙われていますが、犯行の対象がいないと家屋にまで浸入する輩がいる可能性も否定できません。ですので、家の戸締まりをしっかりして外出される際には絶対にお子さんと離れることのないように注意していただきたいですね』
ここ三か月の間で起きている少女連続失踪事件。それに関する報道が早朝のニュース番組に流れていた。番組に出演しているのはメインキャスターと局アナ、数人の職業コメンテーターと警察関係者だ。
昨日も同じような報道内容だった気がする。けれど、そんなことは正直どうでもいい。あたしが今一番気になるニュースは数週間前に起きた火災だ。その火災は、ちょっとした豪邸が全焼したもので、被害としては豪邸一棟が全焼、周囲の建物とはある程度の距離があったことから、火は燃え移らずに消火された。ガラスの破片などが飛び散ったことで一部隣家の窓に突き刺さるなどの二次被害が多少確認されたものの、けが人は出ていないようだった。ただ、その豪邸に住む一家に関しては今もなお一人として発見されていない。その豪邸とは、あたしの友人である咲本倉南の実家で、発見されていない一家とはその家族だ。そして、その日以降、別居していた咲本倉南本人とも連絡が取れなくなった。
インターホンが鳴る。今日は休日で、あたしはまだパジャマ姿だった。
乙女の恥なんざクソくらえなあたしとしては裸じゃない限りは人前に出てもあまり恥ずかしいとは思わない。よって、この姿のままで応対することにした。
カメラ映像が部屋内で確認できる仕様になっており、その映像を覗く。
そこには、見覚えのない可愛らしい顔の女の子がいた。どこか体型と顔が一致していない感があるが、きっと部屋の番号を間違えたのだろうと無視を決め込むことにした。
しばらく経つとまたインターホンが鳴る。さっきの女の子だ。間違っていることに気づいていないのか?それとも、童顔なだけの保険関係の営業ウーマンか。まぁ、なんにせよ知人かデリバリー以外は我が家に入れるつもりはないのでこのまま居留守を続けようと思う。
そして、三度目のインターホンが鳴る。さっきからなんなのだろうか、いい加減諦めて帰りなさいな腹立つ!ほらっ三度目の正直なんてないぞ、二度あることは三度あるだ。あたしは絶対に出ないからね。
四度目のインターホンが鳴る。おかしい、もしも営業とかなら二回目くらいで諦めて別のお宅に鳴らすはずだ。どんなに粘り強くても三回がいいところのはず・・・。だって、いるかいないかもわからないのに四回も鳴らすなんて。
そのとき、ある推測があたしの脳内で浮き出た。
私が部屋にいることを知っている?
もし、そうだとするならこの女の子は私の知り合い?
それとも・・・・
あたしは咄嗟に背後に設置しているテレビを見た。そして、先程の報道内容を思い出す。
『現状は外に出ている児童が狙われていますが、犯行の対象がいないと家屋にまで浸入する輩がいる可能性も否定できません』
まさか、件の失踪事件の犯人!!
でも、それでも私が部屋にいることを知っているっていう説明にはならない・・・。
それに、狙われているのはあくまで幼児。あたしはどっからどうみてもただのヲタクだ。となると、この女の子は本当に誰なの?!
もう一度インターホンの画面を見ると、その女の子は何やらコートのポケットからスマホを取り出し、耳に当てる。
あれ?画像が若干粗くてわかりづらいけど・・・このスマホ―――――――――。
その約1秒後、あたしのスマホから着信音が鳴る。それに反応するように若干の駆け足でスマホを置いているテーブルまで向かい、画面を確認する。
【倉南ちゃん】
画面には、あたしにとって今一番仲がいい友達である咲本倉南からの着信であることが示されていた。
「倉南・・・ちゃん」
あたしは電話に出ることにした。
「もしもし・・・」
『あ、かな恵。今どこ?』
電話越しの声は、間違いなく咲本倉南のものだった。
「え、今・・・今はうちにいるよ?」
『あれ、そうなの?おっかしいなぁ、さっきから私、かな恵の部屋のインターホン鳴らしてるんだけど』
「え、だって画面にいるのは――――――――」
ぜんぜん知らない少女が一人いるだけじゃない!
『そう、私だよ?あ!顔が違うからわからなかったんだね・・・いやごめんごめん』
顔が違う?今、あたしと話している女は顔が違うと言ったのか!?
「ど、どうして顔が・・・・」
なんだか、声色もいつもと違う。本能的に危ない気がする。
『この前、電話した時に訊いたラノベあったでしょ?あれを読んだ晩からいつのまにか顔が変わっちゃったの』
・・・・・・・・・ああ―――――――――――――、つまり、この顔はあたしにもわずかながら責任があるということなのだろうか。
割と飛躍した考えかもしれない。けれど、もし顔が変わったことで困っているというなら―――――――――、友達として何かしてあげたいと思った。それに、火災の件も含めて訊きたいことはたくさんある。
でも、それよりも先に言ってあげなくちゃいけないことがあるよね。
「いいよ。開けてあげる」
『ありがとう!』
「・・・・・本当に、心配したんだから!!」
あたしは、何かに突き動かされているかのように彼女の思い通りにエントランスの扉を開くボタンを押した。
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私は、今頼りにできるヒトは本條かな恵しかいないと思った。この数週間の記憶はない。私がどうしていたのか、どうして今、かな恵のマンションの前に立った状態で目覚めたのか・・・・そのことについても一切合切、
本当に何も憶えていない。
けれど、実感はある。だから、大雑把にだけど、何をしていたのかはわかるんだ。そして、きっとかな恵が私を部屋に入れた瞬間また気を失うのだろうという予感がある。けれど、止められない。いや、止めたくないんだ。
だって、今の私はとっても充実している。きっと、これまでの人生で一番。
たぶん、この充実感が幸せって感覚なのだと思う。もっと、この感覚を味わいたい。今の私にはそのことしか考えられない。
方法も、なんとなくわかってるんだ。私が幸せを実感する方法・・・。
それはね、誰かに成りきることなんだ。
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気が付くと、私は公園にいた。昔、遊んだことがある馴染みの場所だ。
風と雨が私の身体を凍えさせよとしている。身体が寒い。手の先も足のつま先もまともに駆動しない。
咥内が鉄の味で満ちている。吐き気を催すようでその実、受け入れようとしている。これは、他人の血液だろう。顔の額のあたりからうまく接着できてなくて漏れ出したモノをぼーっとしている間に口に含んでしまったのだろう。遊具に設置されていた鏡を覗くと、私の顔には血液が垂れ堕ちた跡があり、雨でかなり薄くなっている。凝視しない限りはわからないだろう。
こんな、状態でどうしろというの?
私は自分の腕を力いっぱい伸ばした。どうも両腕が痒くてたまらないのだ。
そして、私は安堵した。指先は動かなかったけれど、腕はまだしっかりということをきいたから?違う。この両腕に見覚えがあったからだ。
私は左手の方が僅かに右手より長い。
私の右手の甲には大きな黒子がある。
私の爪は丸い形をしている。
この三つすべてが当てはまらないこの両腕は・・・いったい誰のか?
あひ・・・・・あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!!!!!!
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暗闇が支配する刻限。風は次第に弱くなり、雨粒は勢いを奪われる。
女は次第に笑い疲れ、その場で沈黙する。スイッチを入れなければ稼働しないロボットのように、女は死んだように静かに待つ。自分を呼ぶ声がこの皮膚を伝うまで。
そうして一人の男が女に近づく。
声を掛ける。それが女の祝福を増長させると知らずに。
そうして――――――――、紅いコートの女性は覚醒した。
読んでいただき誠にありがとうございます!
今回で咲本倉南のお話は一旦の終わりを迎えました。
Twitterでもチラッと呟きましたが、クリスマス中に投稿できてよかったです!
今後の予定としましては、3人目の主人公のプロットを完成させながら、これまでのお話を加筆しようかなと考えています。期間としてはお正月くらいまで。
それでは皆様!良いお年を!!




