第一章
お日様が一番高いところに登ろうとしている頃、男は近くの図書館で一冊の青い本を手に取った。
古くホコリが被っていて、背表紙には何も書かれていなかった。だが、表紙を見ると、手に取った男の名前が刻まれていた。
男は一瞬心臓を止められた思いをしたが、心を落ち着かせておそるおそるページをめくった。
「やぁ」
一ページ目、男に挨拶が向けられていた。本は更に続ける。
「そんなに怖がることは無いさ。」
男はまた心臓を握られた感覚に陥った。
「気持ちの悪い本だな…まるで俺の心が見透かされているみたいだ。」
そう呟きながら次のページをめくると、
「『見透かす』とはちょっと違うかな。『推測する』という表現の方があってるかも。ま、どっちでもいいんだけど。」
またもや本は現実をこれ以上ないまでに認知し、男に意見した。
「お前はなにものだ??」
男はおかしなことだと分かりながらも本に問うてみた。すると、
「この本は一冊の本に過ぎないよ。本ってのは過去に書かれた書物。ただ、もしかしたらこの本を書いた人は普通じゃないかもしれないね。私のことなんだけども。」
作者の軽い自己紹介を読み、男は更に問うた。
「普通じゃないって、どういうことだ。」
至極素直な質問だが、本もこれに真剣に答えた。
「私は科学を極めた者だよ。君が今、
この本を手に取っているのも、様々な科学を使い、様々な計算を行って予測していたことなんだ。」
男は理解したようでしていない様子だ。が、本は続く。
「君が先程まで思ったことも計算で完全に予測できていた。だから私にその返答を用意することが出来たんだよ。」
「つまり俺は本に完全に見限られたってわけかよ。」
男は本の意表を突くようにページを飛ばしめくってみた。しかし、待っていた言葉は男の期待する言葉ではなかった。
「そんなことをしても無駄だよ。この本は君を完全に把握しているんだ。」
男は悔しながらも、自分が科学や計算の上で見限られてしまう存在だということを認めたのであった。