授業
「ルーミャさん、どこに行くんですか?」
「ルーミャって呼んで、同い年だよ。カウリー先生の所だよ。色々と教えてもらうの」
色々って何だろう? 学校みたいなところかな? 歴史とかだったら面白そう。この国は、どうやってできたんだろう?
ルーミャは、お城の外に出て、裏に回る。目の前には草原が広がっていた。所々に建物が見えるが、腰ぐらいまで生えた草が目に入る。
「こっちだよ」
ルーミャは、獣道のように細い道を迷わず進んでいく。
しばらくして、大きな岩が目の前にそびえたった。その前には、一人の男の人が立っている。男の人が口を開いた。
「初めましてアスエラ様。私はルーミャお嬢様の教育係のカウリーでございます。これからよろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
初老のお爺さんだ。姿勢がよく、できる人。という印象を受ける。とても優しそうだ。
これからどんなに大変か、この時はまだ分かっていなかった。
「えっ……。ル、ルーミャ、あれは何?」
挨拶をするとカウリー先生は、手先で空中に円を書いた。するとそこには、七色に輝くブレスレットが出来ていたのだ。
「あっ、そっか、アスエラは見たことないよね。魔法だよ。グリモを着けると使えるようになるの」
魔法が使えるとは。まるで夢みたいだ。
まさか、夢なのか? けど、草のにおいや地面の感触は本物だ。夢だと、こうも感じられまい。つまり、現実だろう。
この世界には魔法があるのだ。
早く使いたい。使ってみたい。
「これから、魔法の授業を行う。アスエラ様はこちらのグリモをお使いください」
先生から渡されたのは、先ほど作られていた、七色に輝くブレスレットだった。なぜか、二つも渡される。二つとも同じデザインのようだ。
二つとも着けていいのか?
ルーミャを見ると、片手に一つずつ着けている。どうやら、二つで一組らしい。左右の手に着ければいいようだ。
それにしても、どうつければいいのか? ゴムじゃないので伸びないし、金具もない。
「あぁ、そのままブレスレットを手首に押し付けるようにしてください。入れ。と念じると入りやすいですよ」
「は、はい」
言われた通り、手首に押し付けながら、入れと念じる。
「うわっ」
手首に押し付けられている感触がなくなり、手首の中を冷たい水が通り抜ける。一瞬のうちに手首にブレスレットが着いていた。
「すごい」
「反対の手も、同じようにやって着けてください」
「はい」
両手に着いたことを確認すると、カウリー先生は口を開いた。
「お嬢様は、いつもと同じようにコントロールを練習してください。アスエラ様はまず、自分の魔法を見つけましょう」
「はい!」
「は、はい」
返事を聞くと、ルーミャは岩に魔法をぶつけ始める。先生は、手の拳くらいの珠を取り出した。先生は、布で手が直接触れないようにしている。
「アスエラ様、こちらに触れてください」
「はい」
珠は中で煙が揺れているようだった。
「……うわっ!」
思わず手を引っ込める。
触った瞬間、何かが引っ張られる感覚があり、珠が四色に光った。先生を見ると、何かすごいものを見たように目を見開いている。
引っ張られた時ののゾワゾワが、まだ体に残っている。
「アスエラ様、あなたは……」
あの光は、何だったのか?
「あ、あの……。これって……?」
「……あぁ、すみません。四色の光は書物でしか見たことがなく、実際には初めて見たものでして。アスエラ様の魔法の種は氷、炎、風、そして、俊足です。これら四つの魔法を使うことができます。ちなみに私は、物体を作る制作と水の魔法を使うことができます」
光る色によって、魔法の種類が分かるらしい。使える魔法が限られているのが残念だ。魔法は、何でもできると思っていた。
「ルーミャお嬢様。訓練を中断して、こちらへ来てください」
「はい。先生、アスエラの魔法の種が、わかったの?」
「はい。分かりましたよ。四種類ありました」
「えぇ!」
ばっと、ルーミャはアスエラの方を向く。目がまん丸だ。驚いているのがよくわかる。
「先生、そんなことがあるんですか?」
「ええ、昔はあったみたいです。私も書物でしか見たことがありません」
「そうなんだぁ」
話を聞くうちに、受け入れ、賞賛してくれているのが分かった。目がキラキラしている。
「アスエラ、四種類なんて凄いね。私は、二種類だよ。雷と飛翔の魔法だよ。ちなみにアーシュは、会話と水の魔法が使えるの」
「へぇー!」
色々な種類の魔法があるみたいだ。何種類くらいあるんだろう?
「それでは、ルーミャお嬢様、アスエラ様に魔法を見せてあげてください。しっかりコントロールをしてくださいね」
「はい! 分かりました」
ルーミャは手を前に出し、目をつむる。手首に着いたグリモが、光に反射して輝いている。ルーミャは集中しているのか、微動だにしない。
しばらくすると、右手と左手の間に電気が見え始めた。その電気は、だんだんと中心に集まっていき、球体になっていく。最後に、その球を空中に投げる動作をした。花火のように打ちあがり、空中ではじける。光があたりに広がり、上から降ってきた。
「よく練習しました。これでこそ次期我が国王です。あえて言うなら、最後はもっと上まで打ち上げることができるはずです。すると。もっときれいに見えますよ。次は、飛翔の魔法も頑張りましょう」
「はい!!」
一仕事を終えた少女は、次なる目標に向かう誇らしげな表情をしていた。
「次は、アスエラ様やってみましょう」
「は、はい」
魔法だ。どう使うのだろう?
「イメージを強く持つことが大切です。イメージをすると、魔法が使うことができます。形や色、様子なども細かくイメージしてください」
「はい」
イメージするだけなら、簡単そうだ。
「炎は危ないので、まずは氷を出してみましょう。」
「はい。冷たい氷をイメージすればいいのですよね」
「はい」
目をつむってイメージする。冷たい氷を。冷蔵庫で作る氷を。
手から冷えた空気が染み出ている気がする。次に球をイメージする。手で撫でるように、さっきのルーミャのように……。真ん中に、手の真ん中に、冷気を集めていく。
そして、空中に投げるようにして、雪を降らせるように。手を上にゆっくり上げる。両手で氷の球を押し出すイメージで。
パッと投げ出した。
「うわぁ」
ルーミャの声と同時に、冷たい何かが顔に当たる。
「まさか、ここまでやってしまうとは……」
アスエラはそっと、目を開けた。
雪だ!
冬じゃないのに、雪が降っていた。うっすらと広場一面を覆っている。
これを、自分で作りだしたなんてびっくりだ。
「今日の授業はここまで。アスエラ様は、本当に初めてですよね?」
「は、はい」
カウリー先生は一度、顎に手を当てると、口を開く。
「よくここまでできました。明日はもっといろいろな魔法を試してみましょう」
「ありがとうございました」
最後は、ルーミャと声を合わせて挨拶を言った。
二人は、カウリー先生のいる広場を後にし、来た道を戻る。
「アスエラ、凄いね!」
「ううん、ルーミャの見本が良かったからだよ。電気の光、キラキラしていて綺麗だった」
ルーミャのおかげで、どうやればいいのか分かった。
「えへへ、そう? ありがとう」
授業はあっという間だった。
計算や、語学について学校のように学ぶと思っていたが、まさか魔法だったとは。それに、思ったより体力を使う。イメージすると頭が痛くなってくるし、手に力を込めて上にあげるからだ。集中すると、疲れる。
まだ、明るい昼間。放課後は何をするのだろうか?
次は、放課後です。