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わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第九十三章

  ************   ************


 ユバリーシャ教授は、立ち上がって、ゆっくりと話し始めた。

「ええ、この老いぼれが久しぶりに出てきました。幽霊かと思うかもしれないが、残念ながら本物であります。また、アンドロイドとかになっていないかと思う向きもあるかもしれぬが、それもはずれであります。しかしながら、相当骨が折れる扱いを受けたことも事実であります。そこについては、いまさらあまり言いたくはないが。しかし、なぜ生き返ったのかは、よくわからない。まあ、これが最後のご奉公ですな。そこで、言わせていただくのですが、もし火山の噴火がなくても、火星の余命は少ない。文明の維持と言う点からいえば、せいぜいどう頑張っても、いいとこ百年でしょう。ブル君は知っているが、ああ、多分ね。あえて言わなかったような気がする。そこで、言いますが、ああ、火星の女王の意図か、あるいはその同居者の意図かは知らぬが、長年にわたって、火星は環境の管理を怠った。ゆえに、手遅れとなった。金星は、これは天命である。人間の手には負えないことだったと解釈します。そういう意味では、火星は金星に対して歴史的な重しであったことからも、一定の配慮が必要である。また金星も、その歴史の重さから言って、火星を抹殺したい気持ちは分かるが、そこは寛容が必要である。しかしながら、いいですかな、地球には手を出してはならない。これは、どちらも、なのです。火星もそうだ。自分たちの権威が及ぶところだと言うのは、勘違いも甚だしい。」

「あいつ何を言いたいのかな?」

 代理の防衛担当閣僚が、わざと聞こえるように、従者につぶやいた。

「そこで、一般の火星人と金星人は、ともに地球の衛星、それから火星の衛星、そうして木星の衛星に当面避難移住する。当面です。」

「はあ?!」

「聞きなさい。それは一時的だ。少し時間はかかるが、新しい天地を開拓し、やがてそこに全面移住する。」

「ばかな、どこに行くと言うのだ。」

「第九惑星、もしくは、アリフア・ケンタウリ。」

「こいつ、普通ではない。止めさせなさい。」

 防衛担当閣僚が、再び叫んだ。

「あの、先生。」

 リリカ(本体=アンナ)が問いかけた。

「なにか、お持ちなのですか。具体的な根拠とか。証拠とか。プランとか。」

「お望みならば、提出しましょう。」

「いいでしょう。突拍子もないと言いたいが、私は、最近突拍子もないものを実際にいくつも見たのです。一つならずね。まあ、たぶん不可能ではない。」

「おいおい!」

 ダレルが言った。

「せっかくユバリーシャ先生がおっしゃるのです、明日資料を持ってきていただきましょう。今日はどうせ、失礼ながら・・進まないでしょう。あすもう一度集まりましょう。ことが事なので、何とか調節してください。頭を冷やしてきましょう。では。あす三時から。」

 首相に席を立たれては、どうにもならない。

 会議は中断された。



  ************   ************


「ふうん。もし、こうしたら、どうなるのか?」

 踊り子ジャヌアンは、あいかわらず自分の「メカ」を使って、ある新しい事象が未来にどのような影響を与えるか検証していた。

 とはいえ、占いや超能力者の予言に比べて、これが最高に精度が良いとも言い切れない。

 確かに、ジャヌアンにはすでに未来を知っていると言う大きな強みがある。

 それに膨大なデータが、メカには収められている。

 この小さなメカに比べれば、21世紀初めの人類が持っていたスーパーコンピューターなど、赤ん坊のおもちゃ以下でしかない。

 にもかかわらず、この予測が非常に困難になるのは、言うまでもなく、相手が女王だからである。

 さらに、歴史を知っていると言っても、それは結果が中心であって、遠い過去になればるほど、その要因やポイントになる人物は特定しがたくなる。 

 まして、火星人や金星人となればなおさらだ。

だからこうして、過去に遡りながら、細かいデータを色々と入れて見ているが、どうもぱっとしない。

 確かに未来の女王と、この時代の女王が情報でつながってしまったことは、失敗だったのかもしれないが、計算上ではまったく結果に影響はしないとされた。

 そこが問題という訳ではなかったのだ。

「過去に修正すべき事柄は、やはり何も出てこないかな。女王相手では。」

 ことさらに、あせっているわけではないジャヌアンなので、ゆったりと、そうつぶやいた。

「無意味な旅かなあ。」

 けれども、そこでようやくおかしなことに気が付いた。

「なんで、これに気が付かなかったのかなあ。そうなんだよな、あたりまえなのにな。女王は一人じゃないんだ。女王が誰かの心を操ってるとかの問題じゃないんだ。本物はいったい誰なんだろう? いやいや、そうじゃないかもしれない。それ自体がもう間違ってるんじゃないかな・・・。本物なんかいないのかもしれない。すべてがはぐらかされてきた。とか・・・」



 ************   ************


 ビュリア(=女王ヘレナ)は、ジャヌアンと同じようなことで思案していた。

「まあ、問題は火星をここで救うべきかどうか、ね。ここであの火山の大噴火から火星を救うことは、ダレルにも言ったように簡単だし、そのためにマジックを見せてあげても良いし、地下からマグマを抜いたっていい。それなら誰にも見えないしな。面白くはないけれども、確実で、安全だ。でも、やはり金星はもう救えない。それに火星も、結局は、もう救えない。これは太陽系の仕組みそのもので、わたくしがどうこう言う筋合いのものではない。ただそれは、ブリューリのおかげとは言え、私のせいでもあるけれどな。ここで火星を一旦救ったら、どうなるの? 金星人は後には引かないだろう。あの愚かな子は、つまり意識的にはダレルの兄弟は、ダレルと違って本質的にわたくしを憎んでいる。結局妥協はしないだろう。最終的には、地球を植民地化しようとするだろう。ただ、話し合いに応ずるフリはするかもしれない。一時的な平和は可能かもしれない。それは、わたくしに与えられた役目かもしれないな。時間稼ぎに過ぎないけれどね。仕方がないかな。」

 ビュリア(=女王へレナ)は行動に出た。

「アーニーさん。」

「はいはい、なんですか?ヘレナさん。」

「あの火山、鎮静化させなさい。お尻からね。『かっぱ方式』でゆきなさい。」

「え? かっぱ?・・・なんだそれ・・・でも、いいんですか?」

「もちろん、気休めよ。でも、やはりね。」

「気がとがめるのでしょう?」

「そうね。でも火星も金星も最終的には救えないわ。いい、それで?」

「まあ、あなたは神様じゃないから。それは仕方ないですよ。これまでもそうだった。火山の噴火を延期させることなんか、ほかの誰ができますか。」

「まあ、そうね。」


 ************   ************


 翌日、ダレルは思わぬ報告を受けた。

「なんだって?本当のことかい?」

 火山の観測所からの一報だった。

 彼はすぐにリリカ(本体=アンナ)に会いに行った。

「びっくりだよ。地下のマグマが沈静化して、山体の膨張がなくなったらしい。地震も一気に静かになってきた。噴火は遠のいたようだなあ。」

「まあ、それは素晴らしい。というか、もしかしたら・・・」

「まあ、後で聞いて見るさ。しかし、きのうの喧嘩別れは結局なんだったの。まあ、午後の会議で確認しようよ。ブル先生がどう言うか楽しみだ。」

「でもね、避難計画は続行が必要よ。きっとあの人はそう言うじゃろう。ブルさんもね。」

「そう思うかい?」

「当然よ。火星はもうだめよ。まあ百年よりは持つかもしれないけれど、結局は住めなくなるわ。確実にじゃ。それに火山だって、またいつかは動き出すじゃろうし。これを機に対策は進めなくては。」

「しかし、石頭の官僚たちや産業閣僚は言うこと聞かないだろう。火山が落ち着いたなら、金儲けが、いや

経済が先だからね。」

「そうね。でもね、あの人たちが、今の事を一生懸命やってくれるから、世の中は維持できる。おかげで、わいらのような怪しい存在が、未来を考げェられる、という訳じゃろうが。まあそこは分業じゃ。避難対策は、わいら2人、いや先生方を含めて4人に一任してもらおう。そのほうがお互げぇ楽じゃ。」

「それも連中は嫌なんじゃないかな。」

「まあね。まったく何しても嫌なんじゃけえ。」

「形だけでも自分たちが頂点じゃないと気に入らないんだよ。女王がいなければ、首相なんかお飾りさ。」

「そうね。そこは、しかし、上手い事やるしかねぇのう。先生方の顔は立ててあげないとのう。」

「まあね。先にビュリアに会うかい?」

「いいえ、まだあとじゃ。それでいい?」

「ああ、お茶に呼ばれない限りはね。で、ユバリーシャ教授はどうするの? かわいそうだよ。あれじゃあビュリアの回し者にすぎない。ぼくは、やはりあまり賛成しかねるけれど。」

「そうだけれど、とにかく再生は出来たんじゃ。結局はビュリア様のおかげじゃし、本人の意志は十分生かされている。わいらの邪魔はしないと、ビュリア様の確約は取った。協力はしてくれる。とにかく避難計画は実行させる。生きていていただかないと困るわ。」

「ブルさんの意図は、案外そこじゃないと思うよ。あの人は、思ったよりも奥が深い。」

「まあね、持ちつ持たれつじゃ。そこは。」



 ************   ************

 

「君は何で、ユバリーシャ君を呼んだのかな? 同志ではあるが、彼はさらに異端だからなあ。」

 ジュアル博士が会議場のはずれあたりで言った。

「まあね。公表なんかされてないから、君は知らないだろうが、先生はもう、自分の名前も分からない状態だったんだ。通常の医療では回復なんかするはずがない。『女王』のおかげでね。しかし、このところブリューリの消滅、女王の消滅だか逃走だかわからない情勢になって、あのリリカとダレルが台頭してきた。しかし、あの二人は、間違いなく何かの形で女王の指示を、あるいは助言や助力を得ているに違いないと思う。その怪しいテクロジーの援助もね。方法は知らないよ。遺言か、あるいはコンピューターに人格を落としているのか。幽霊もどきか。それとも、実のところまだ生きているのか。乗り移られているのか。改造されているのか。しかし、その真意がわからない。火星を、金星をどうしたいのか。あるいは出来るのか。強制するつもりなのか。助けてくれようとしているのか。いま、ぼくのところにはね、金星のスパイにされた、多分だがね、学生が来てる。かわいそうだが、まあそうだと思うんだ。あきらかに人格がおかしくなっている。そのまま置いてあげているんだ。お互いがそんな状態で楽しい訳がないが、でも、ぼくは権力に飲まれたくはない。だから、こっちも探りを入れたんだ。先生を使うなんて恐れ多いが、仕方がない。」

「まあ、でもそれは、お互いそうだろう。」

「あれ、そうなの?」

「違うかい?」

 ブル博士は、ジュアル博士を見ながら言った。

「違うさ。この二人はね。みりゃあわかるさ。」

「ははは・・・」

 二人は、会議場に入って行った。


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