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わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第九十章

  ************   ************


 金星のブリアニデスは、ふと我に返った。

「なんだ、今のは?」

 彼の手には、「お土産」のケーキが入った袋が握られていた。

「くそ!」

 彼は、袋を床に投げつけようとしたが、なぜかそれは出来ずに、長い椅子兼ベッドの枕元にぼんと置いた。

 ブリアニデスは、あの不思議な部屋の中では、結局ケーキは食べなかった。

 彼は、昔、母と父と一緒に食べたケーキの味を思い出してはいた。

 もう、遥かに昔の、消えてしまった過去だ。

 ブリアニデスは、そうした過去は実際消去してしまいたかった。

 彼は、もう、後戻りはしないと決めていたのである。

 それは、高貴な決断だったが、民衆にとっては、必ずしも良い決断ではなかった。

 生きて行けるのならば、多くの民衆にとっては、別に、それが地球である必要などなかったのだから。


 ************   ************


 一方、ギャレラ行動隊長は、もっと不安定な場所にいた。

 彼は、地球に帰る宇宙船に乗るためのタラップにいた。

 右足を下ろそうとした瞬間に、彼は消えた。

 それから、右足が降りる瞬間には戻ってきていた。

 その様子は、飛行場の担当者たちが、ちゃんと眺めていた。

 彼らの多くは、非常に奇妙な感覚を覚えたのだ。

 はっきりはしない。

 ただ、テレビの画面が、ほんの一瞬だけ、途切れたような感じがしただけだ。

 「間違い探し」の、バラエティークイズ番組のように、再び現れた行動隊長の右手には、ケーキの袋が下がっていた。

 しかし、そこに気が付いた人間は、二人だけだった。

 その瞬間を見ていたアンドロイドの作業員は、当然見逃さなかった。

 アンドロイドは、それが、何を意味しているのかを分析し、きちんと上司に報告した。

 しかし、人間二人は、あえて報告はしなかった。

 そのかわり、医療室に向かったのだった。

 この内容は、どちらもブリアニデスにまで、すぐ上がってきた。

 ブリアニデスは、新首相にこう言ったのだった。

「ほっとけ。ちゃんとわかってるさ。」


 ************   ***********

 

 ビュリア(=女王ヘレナ)は、完成寸前の新しい教会(初めての教会)にいた。

 門前には、すでに多くの人が並んでいる。

 それも、並の多さではなかった。

 コピー人間が整理にあたっていたが、入口から最後尾までは、遥かな距離になっていた。

 考えてみれば、こうなるのは当然と言えば当然だった。


 まず、場所が女王の私有地ではあるが、王宮の敷地内でもあること。

 つまり、めったに入れない場所なのだ。

 

 次に、女王様のお体が、ブリューリ様と共に、「消滅」したと伝えられている事。

 この具体的な事実関係は、まだ一切公表されてもいないのだが、現在の「新しい時代」になってからは、まったく初めての事態だったのだ。


 さらに、巨大火山が大噴火の兆候を見せている事。

 これも、どのような事態なのかは、まだ発表されてもいないが、さすがに火山は目に見える。

 すべてを隠すことは不可能だ。

 王国民の心理は、かなりの部分まだコントロールされてはいるが、このところビュリアが意図的に緩め始めていたおかげで、微かな不安が漂ってきてはいた。

 

 そうして、その「ビュリア」への興味。

 いったい『ビュリア』とは、何者なのだろうか?

 女王様によって指名された、「タル・レジャ教」初代の『巫女』。

 だいたい多くの火星人には、『宗教』というのがなんであるかの認識が、そもそもほとんどない。

 特に大都市の居住者はそうだ。

 地方で、土着の地域信仰に関わっている人には、その点まだわかり易い。

 このあたりは、ヘレナは当然十分考慮していた。

 火星の土着宗教は、多くの場合、太陽や、自然や、星々に関わる「精霊信仰」を持ってきた。

 「タル・レジャ教」は、そうした古代信仰の形態を土台にしている。

 個人信仰を、事実上、表向きには持っていない。

 そこに「火星の女王様」という特別な存在は、常に裏に意識されることになってはいるが、表面上にはほとんど出てこない。実際に表に出てくるのは、常に『巫女』だけなのだ。

 いま、まさに「火星の女王様」のお体が消滅した、ということは、実際偶然に近かったものの、大きなインパクトがあったのだ。


 そうして、首都にいた多くの人々が、不思議な光景を実際に目にしていた。

 新しい教会が、自分で建ちあがってゆく姿だった。

 ブル博士のような「不感応者」や、金星からの留学生などは、もとから何か他の人為的な工作を考えるが、普通の「感応者」は、そうは考えないようになっている。

 良く言えば、とても素直で、単純なのだ。

 しかも「不感応者」たちの意見もそれなりに尊重されるし、けっして、だから排除しようとしたり、いじめたりすると言うことは、まず起こらない。

 とても寛容な、しかも確信のある心理状態だった。

 ビュリア(=女王へレナ)が書いた『経典』も、実際のことを、そのまま、ありのまま記載したようなものだ。

 しかし、大きな相違があった。

 火星人は、ブリューリのおかげで、長年忌まわしい習慣を維持してきた。

 人肉食の習慣、差別的な階級社会。

 ビュリアは、そこをまず、公式に否定する必要があった。

 「タル・レジャ教」の第一の意義は、まずそこにあったのだ。

 もうひとつ。最大の意義・・・

 それは、未来の事だった。

 


        **********



 『オリンパス山の超巨大噴火を、ビュリアさんは、つまり女王様のご意志は、はたして初めから想定していたのだろうか。』

 リリカ(本体=アンア)は、いま、そこをビュリアに尋ねたかった。


「会議に戻らなきゃあならない。ぼくたちの方針は変わらない。ただ金星と話し合いをする用意はある。必要ならば、金星に訪問しても良い。早急にね。それでどうかな。」

 ダレルが提案した。

「それでいいわ。じゃが、どこまで譲歩可能かは、あらかじめ決めておかなくては。」

 リリカ(本体=アンナ)が答えた。

「ああ、それは今夜また考えようよ。」


 二人は、会議場に戻りかけた。

 その途中で、新しい教会の大行列を見たのだった。

「すごいな。のんきなものだ。」

「違うわ。これこそ、新しい時代の始まりなのよ。」

「いいや、新しい時代の、終焉だよ。」

 ダレルが答えた。



  ************   ************



















































































   ************  幸子さんとの会話 3 ************


「うわあ、やましんさん、たいへんよお。お湯が噴き出してるう!」

 幸子さんが二階に音もなく駆け上がってきました。事実上の幽霊なので、飛んでいるのです。

「あ、忘れてた! ラーメン作ろうと思って、沸かしてたんだった。」

 ぼくは、台所に駆け込みました。

 でも、そういえば、今は勝手にスイッチが切れるんだった。

 やれやれ。便利にはなりましたが、食べてるラーメンには、見た目の変わりはありません。

 ぼくには、宇宙的な進歩と言うものがありません。

「ふう、幸子さんも食べる?」

「はい。もちろんです。」

「醤油がいい? それとも味噌味?」

「お味噌が良いですう。」

「はいはい・・・」

 

  大雨が気がかりです。やはり気候が何だか変です。これが地球の普通なのですか?
















         

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