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わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第八十七章

 ************  ************


 基本的に、大学の学食と言うところは、安くて、量がまあ多く、味はまあまあ、という線は最低でも守っておかねばならない。

 そうしないと、隣の学校の学生たちが押しかけて来て、まずいことにそちらの方がランクが上だったりすると、よけいな摩擦が起こったりもする。

 というのは、ブル博士が若かりし日の事であって、最近は、こと学食に関しては、あまり学校間の差が無くなってきたようだ。

 とはいえ、さすがに女王様の肝いりで創設された、この火星最古の大学は学食も大変良い。

 とても広いキャンパスに合わせたように、学食もまた広くて格式があり豪華だ。

 おかげで、お隣の芸術文化大学の学生たちもよく利用しに来る。

 大雑把に言ってしまえば、芸術科の学生たちは自由奔放な気風が強い。

 王立大の学生たちは、それに比べるとやや硬くて幼い感じはする。


 まあ、それはともかく、二人の学者はそれぞれが食べたいものを注文して、座席に座った。

 幸い少しだけ時間が早かったおかげで、まだ混雑はしていなかった。

「金星人の姿もけっこうありますな。」

 ジュアル博士が周囲を見回しながら言った。

「いや、おかげさまで留学生は多いですよ。金星人は火星の学生よりおしゃれであか抜けている。まあ、火星には巨大な重しがあったから仕方がないがね。」

「ようやく、それも空きましたかな。」

「そうそう。そういう意味では、あの首相は評価できる。まだ若いがね。なにしろこの間まで、ここの学生だったんですから。無理やり早期に卒業させられたがね。」

「しかし、かわいそうですな。まあ、この学生たちもだが。」

「そうそう。まったくだ。たまたま女王の孫とかだったおかげでね。副首相は息子だとか。そういう意味合いでは、民主主義ではない。まだまだこれからですな。」

「それは金星も同じですよ。まあ非常時だと言われれば、そうなんだろうが。」

「非常時なのは、火星だってもともと火山のせいと言う訳ではない。噴火の話がなくっても、火星の崩壊はとっくに始まっていた。金星の状況を知っていながら、女王も政府も二酸化炭素の膨大な排出を止めなかった。理由は簡単だった。あの怪物が二酸化炭素が大好きだったから。暖かい環境が好きで、王国民を欺きながら壊滅の方向に導いた。しかし、ここにはさらに大きな哲学的問題があった。これは不感応者しか認識できないことだがね。」

「やはり、それは事実なんだね。」

「そうなんだ。ようやくこんな場所で話しても拘束されなくなったがね。怪物独自の哲学なんだ。「人類の自然絶滅観」とかいうやつだ。人間は繁栄の後、自然に絶滅するのがあたりまえ。そうして、その時期がやってきた。金星も火星もね。火星の多くの人間たちは、その哲学にずっと感染してきていた。ところが金星は怪物と女王が見放したおかげで、早くに女王の支配から脱却できた。ビューナスやその父親と祖父のおかげもあってね。で、空中都市を作り人工的に大気の循環や気候をコントロールして絶滅の時期をずっと先ばししてきた。怪物が金星に興味を示さなくなったらしいことが幸いした様だがね。」

「ふむ。しかし、そこはなぜだったんだい?」

「良くは解らないよ。ただ怪物の興味は、もう、地球に向かっていたんだろう。ビューナスには、怪物が苦手な、あるいは手を出しにくい、何かがあったのかもしれないがね。ビューナスは千年近くは生きたんだろう?」

「実は、本当はもっと、らしいがね。まだ謎が多いんだ。」

「ああ、そうだろうな。まあしかし、火星は金星の歴史を知りながらも、怪物に操られたまま、なんの手立てもとらず、ここまできた。多くの海洋の島が海中に沈んだ。河岸沿いの多くの都市が消滅した。人間を食べる習慣のおかげで、その加工や維持の為に、「おいしいから」とかいうバカな理由の為に、多量の化石燃料をあえて使い、二酸化炭素を排出してきた。女王が正気だったら止めたかもしれないが、もうとっくに手遅れだ。」

「これからなんとかできないのか?」

「まあ、なんとかできると思っていたが。しかし、その前に「最後の鉄槌」が下りそうだな。ぼくはね、火星の再興は、もうかなり無理だと思っているんだ。公にはこれまで言えなかったがね。金星と同じだよ。壊した自然は帰ってこない。それにふたつの星共に、存在する位置が問題だ。女王やビューナスの超能力が無くなったら、もう維持できないさ。残念ながら。違うか?」

「ああ、いや、残念だがそうだ。もう時は来たんだ。しかし、あの息子は諦めたりはしないよ。さっきも言ったが、確実に地球に侵攻する。いや、すでに始めているんだ。火星に先制攻撃する可能性だって高い。君と会えるのは、これが最後の機会だろうなあ。下手したら、もしかして、明日にでも火星に対するおろかな、最終破壊戦争を始めるかもしれない。それなら、いっそここにいた方がましだ。」

「じゃあそうしろよ。帰らなければいいんだ。」



 ************   ************


 金星発の、最終「火星観光団」の一行は、大型宇宙バス八台に分乗して、いままさに飛び立とうとしていた。

 すでに地球に旅立っている「地球観光団」の帰国を禁止する方針は、ブリアニデスによって決定されていたものの、まだ末端には伝えられていなかった。

 それは意図的なものであって、偶然ではない。

 この人たちは、もう金星には帰って来られない運命になっていた。

 そうして、その乗客たちの内のかなりの人数は、金星軍の退役または退役間近の軍人だった。

 まだ現役の人には、全員に公式な休暇が与えれており、長年の功績に対する感謝を込めてではあるものの、あくまで私的な観光が目的とされていた。

 『金星・火星条約』に基づいて、退役軍人、またはその直近の人たちの短期観光に関する入国の扱いは、『お互いに柔軟に扱うこと』とされていた。

 これは、実際のところはブリューリの趣味だったのだ。

 この怪物は、妙に義理堅いところがあったのだ。

 火星も金星も、その軍人たちは、なんだかんだと言いながら、何千万年も、ブリューリや女王を守ってきてくれた。それは事実だった。

 しかし、今この時期にもその約束が守られる必要があるなんて、正気だったらば、誰がまじめにそう考えただろうか。

 女王ヘレナは、ブリューリに支配されていた関係上、そこはほったらかしだった。

 一方で、現在ビュリアである女王へレナは、そこには関係していなかった。

 当然リリカとダレルは、改正の必要があると考えてはいたが。

 つまり、この『軍人集団』は、警備上のちょっとした盲点になっていた。

 もしこの中に、たとえば『水爆人間』などが混ざっていても、すり抜けてしまう可能性があった。

 とはいえ、火星には『アーニー』がついている。

 アーニーの目を逃れて、危険な武器が火星に侵入することは、まず実際不可能だったのだ。

 誤った指示が出されてさえ、いなければ。

 

 宇宙観光バスは、次々に飛び立った。

 しかし、例によって、中で宴会などしながら、ゆっくりと飛んだのだ。


 ************   :***********


 踊り子ジャヌアンは、与えられた宿舎でゆったりとしていた。

「まあ、当面すぐすることはない。」

 と、ダレルから言い渡されたからだ。

 言ってみれば、ちょっと切り離された感じだ。

 そこでジャヌアンは、自らの実験に精を出していたのだった。

 彼女は、この時代で積極的に何かをしようとは思っていなかった。

 歴史の研究によれば、女王ヘレナは、魔法使い「ビュリア」の体に隠れている。

 一方で、オリンポス山の超巨大噴火が起こるのは、まだ実際には2年ほど先の事だ。

 実はここがまず問題だった。

 この時期には、大噴火が起こるのは、もう、1年以内と見積もられていた。

 おそらくこの推計は、正しかったと考えられている。

 しかし、そうはならなかった。

 どうしてこの誤差が出たのか?

 実際に、この時代の火星では、その程度の観測力だったのか?


 そうして、女王へレナの動向が次の課題だった。

 どうやって、なぜ、あの『宗教』は短時間で広がったのか。

 おかげで、ジャヌアン、つまりアリムの時代は、その勢力によって大きな迷惑を受けてしまっていたのだ。

 できればこの勢力は、早めに弱体化させたい。

 

 しかし、歴史におかしな変動があっても困る。

 ジャヌアンにとって、女王はその妹によって、遥か未来の地球において追放されなければならない。

 しかし、その存在さえ不確かな『幸子』とかいう『池の女神」、つまりは実体のある間抜けな『幽霊』のおかげで、女王は地球に帰ってきてしまう事態となった。

 未来の地球の女王は、自分が追放されることを知った後、地球の皇帝になる道を取りやめようとした。

 そうすると、アリムの時代はなくなってしまう。

 それでは、困るから、彼女は、動き回ってきている。

  

 しかし、失敗続きの中、ここで、さらにまずい事態が起きたらしい。

 それも、自分の失敗によるものだったのだ。

 未来の地球の女王と、この時代の火星の女王が『情報』でつながってしまったらしい。

 未来を知ったこの時代の女王は、いち早く、当然その回避に動くだろう。

 すると、また歴史が違ってきてしまう。

 なんとかして、本来の歴史に戻さなければならない。 

 このままだと、ますますねじれてしまう。

 まずは『池の女神』の存在を消すことを、ジャヌアンは考えていた。

 しかし、『池の女神』とかいう『幽霊』が、どこから始まったのかが、どうもわからない。

 その背後には、『永遠の都』と『地獄』と呼ばれるものがあるらしいのだが、その存在がどうしても見えてこないのだ。

 でも、ここに来た甲斐はあった。

 彼女は見た。

 おかしな空間が開くところを。

 その情報も得た。

 おそらく、もう少しで、その空間への移動が可能になるだろう。


 もうひとつ、大切な事がある。

 女王の背後にいつもいる、『幽霊』ではない存在。

 その存在を捕まえて、支配はできなくても、干渉できる方法を見つける事。

 別にこの時代に見つからなくたって構わない。

 ただこの時代は、大いなる分節点だ。

 金星と火星の文明が共存していたことは、歴史学でも、かなり分かってきていた。

 また、地球人類が生まれたのは、まだこの大分後の事だ。

 時代としては、非常に興味深い時期なのだった。


  ************   ************


















 **********  幸子さんとの会話 2  **********


「やましんさん、のびてませんこと?」

 お酒ぱっくを飲みながら、幸子さんが言った。

「いやあ、やはりこのお話は、将棋盤をひっくりかえしたほうが、良さそうです。」

「そう? でも久しぶりに『幸子』出たし、うれしいです。」

 こんどはお饅頭を頬張りながら、幸子さんが言った。

「明日、全面書き直しするかも。」

「まあまあ、もったいない。やり直すんだったら、ここはここでおいといて、他のコースを作ったらいいじゃあないですか。」

「まあね。いや、それより、頭の問題なんだな。」

「そこは、幸子に相談しても、無駄ですよ。」

「はいはい。わかってますよお。。。。今日はもうやめましょう。」

 何だか幸子さんのお饅頭が、昨日より大幅に増えている。

 お酒ぱっくも、倍くらいになったような気がする。


            **********

























 





  

 








 


 

 



 

 

 

  

 







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