わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第七十三章
考えてみれば、マヤコはいつもたくさん宇宙を見ていたのだ。
作り物の宇宙だと信じていたけれども、さまざまな出来事を総合するところ、あれはやはり本物だったのだろう。
豪華な宇宙観光バスのお風呂に浸りながら、マヤコは考えていた。
いいお風呂だ。
金星人は、お風呂と温泉が大好きだ。
窓からは、広い宇宙空間が広がって見えている。
ルルカさんがステーションの外壁から落っこちた時のこと。
先輩作業員たちが、ふわっと消えて、小さな光が飛んだ時のこと。
当局からは、結局なんの説明もなかったけれど、ものすごく印象的なできごとで、ときどき夢にも出てくる。
あのあと、病院での検査を希望したけれども、当局は「少し間をおいて」と回答した。
検査の予約はしてくれたが、地球旅行の方が先に入ってしまった。
「なんだかおかしい」と、いつもさすがに悠長なマヤコも疑問を感じている。
もしかしたら、この瞬間にも、自分も消えて、小さな光になって、ここで飛ぶのかもしれない。
「光の人間」の噂は、庶民の間にも、うすうす広がっていたのだ。
当局は、かなり神経質になっているらしくて、テレビの「日曜座談会」でも「そうしたSF週刊誌的な情報は、あくまでも想像の領域」と訳の分からない話を担当大臣が行っていた。
お風呂の浴槽の壁には、沢山のスイッチがあって、きらきら光っている。
他の三人は、先に入ってもらったから、もうゆっくりでいい。
マヤコは、ひとつのボタンを押した。
『宇宙観光にようこそおいでくださいました。それでは、本物の宇宙を見ながら、星空観測をしてみましょう。』
アナウンスが聞こえ、間もなくお風呂の上空がすべて窓になった。
『これは、いま当船から見えている、本物の宇宙です。湯気で少し見にくいかもしれませんが、ここに目的地の地球が浮かんでいます。まだかなり距離があります。金星も地球も、太陽の周りを回る惑星です。』
太陽系の映像が浮かび上がった。
『わが金星の半径は、6052キロメートルです。目的地の地球とほぼ同じ大きさです。しかし、金星の自転速度は非常にゆっくりしています。あまりにゆっくりしているので、パートナーである火星とのバランスが取れません。そこで、非常に昔から女王様のご意向もあって、一日の長さを火星に合わせています。ビジネスの観点からも、これは仕方がない事だったのです。一方地球の一日は、火星とほぼ同じです。もし私たちが地球で生きることになれば、朝、太陽が昇り、夜太陽が沈むことが、生活の基本となります。もっとも、これはどこでもそうだという訳ではありません。北極と南極の近くでは、太陽の沈まない夜もあります。それは、わたくしたちの方が良く知っています。』
「奇麗な星だなあ・・・」
みんながそう思う。
『地球は美しいなあ・・・』
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ギャレラ行動隊長は、金星の新しい「総統」からの指示を抱えて、帰ってきた。
ビューナスは、自分の正式な地位の名称を決めていなかった。
いろんな呼ばれ方をしてはいたが、どれも正式名称ではなかったのだ。
地位の名前なんか、ビューナスにはどうでもよかったのだ。
しかし、ブリアニデスはそうではなかった。
二代目は立場が難しい。
ビューナスのような、「カリスマ」は、彼には無い。
不思議な力もない。
だから地位を示す名称が必要だったのだ。
「青い絆」は小さな軍団だ。
しかも、金星からは遠く離れた地球に本拠地を置いている。
けれど、これはとても重要な事だった。
金星人の地球入植のための準備として。
ビューナスは、金星人の「永遠化」を図ろうとしていた。
「光人間」によってだ。
しかし、地球への移住を、まったく考えていなかったわけではない。
「青い絆」は、そうした考えの一端から作られた。
ただ、ビューナスは「光の人間」に、とても固執していた。
「青い絆」は、あまり増強されず、スパイ・テロ組織に甘んじて来ていた。
「これからは違う。」
とブリアニデスは弟に宣言した。
「地球移住の、最先端組織になってもらう。人員も機材も各段に増強する。強力な部隊になる。君がその総指揮官になるのだ。」
ビュリアは、ギャレラに呼び出されていた。
「さすがビュリアさんですね。呼ばれる前に帰って来るとは。」
「感じたのです。確かに。」
「ええ、そうでしょうとも。ぼくが何をしたいのか、そこまで解っていますか?」
「まず、あなたはビューナス様のお子様ですね。」
「ああ、そうだよ。前から知っていたのかな?」
「当然です。」
「ははは、そりゃあ失礼した。」
「あなたは、男女を両有している。あなたの親と同じように。しかも、非常に安定していて完全にコントロールができている。ビューナスも昔はそうでしたが。」
「なるほど。」
「問題は、それ以外の力です。あなたには、謎が多い。わからないことが沢山あります。」
「ほう、あなたにも、分からないほど?」
「そうです。」
「しかし、ビュリアさん、あなたこそ謎が多い。経歴は分かっているが、あなたの能力はこちらもよくわかっていない。」
「心配ですか?」
「心配と言うと、心外かもしれないが、自分の武器の性能がわからないのは不安でしょう。」
「まあ、そうですね。あなたのお兄さんは、金星人を地球に移住をさせたいのでしょう。」
「ええ、その通りです。さすがですね。」
ビュリアは立ち上がった。
「地球には、まだそれほどの受け入れ能力がない。それはご存知ですよね。」
「まあ、そうでしょう。」
「空中都市を持ち込むお考えですか。」
「ええ、兄はそのように考えています。準備が整ったところから地上に降りてゆくと。急ぐ必要はない。何世代も、いえもっと、かかるでしょう。」
「空中都市は、様々な廃棄物を出します。それを地球上に廃棄するのは、感心しません。」
「ほう、あなたは、移住に反対ですか?」
「結論を急いではダメです。」
ビュリアは、ぴしゃりと言った。
「それは、いや、失礼した。」
彼女は、母親の様にギャレラの前に座った。
それから、また語気を和らげた。
「あなたがたは、火星の現状を、どう掴んでいますか?」
「火星の現状ですか? 温暖化が進み、海面が上昇し、酸素量が減少してきている。長期的に見れば危険だが、金星はもう滅亡寸前です。火星にはまだ時間がある。」
「なるほど・・・」
ビュリアは、また立ち上がった。
「火星人と、協力するお気持ちは、お兄さまにはあると思いますか?」
ビュリアは、ギャレラをじっと見つめて言った。
「それは、あると思います。地球を独り占めする考えはないと言っていましたからね。」
「そうですか。」
女王は、さかんにギャレラの中を探っていた。
『こいつ二重思考、いや複数思考人か。気が付かなかったな。やっかいな。どれが本当なのかは確認不能だ。ただし、すぐに地球を征服したいとは思っていない。わりとまだ純粋だ。しかし兄は信用できない人間だ。不感応だが、平気でうそもつく。独裁欲が非常に強いと感じた。おそらく地球全部が欲しいことは間違いない。たくさんの部屋を作っておいて、その都度言い逃れをする。最後は権力で押さえつける。典型的な独裁者だ。言うほどの協力ができるとはとても思えない。
しかし、金星人にも未来を切り開く権利はある。火星人にもね。でも、もし、最初からダレルやリリカが譲歩したら、あとで取り返しがつかなくなる気がするが、どうするかな。結局は同じ気もする。まあビューナスはそこも見越して二人の取り込みを図った訳だし。このまま任せてみてもいい。というより、任せることに決めたんだっけ。わたくしは、わたくしが、いまやりたいことに集中するか。ここでビュリアを放り出せば、それで終わりだ。ただし、もう分身化は懲りたしな。それに地球は、まだまだ解放したくないし。さて、どうしようかな?』
「ぼくとしては、新しい火星政府とも協力して、地球に活路を見出したいのです。ぜひビュリアさんに協力してもらいたいと思います。時間はもうないのです。」
「なるほど。少し考えます。それで、この後の会議でわたくしの考えを示します。あなたはあらかじめ約束が欲しいのでしょうが。」
「ええ、あなたの立場から言えば、ここで回答すべきです。味方になるか、敵に回るか。」
「アダモスには言ったの?」
「いえ。正式には言っていない。まあ、感づいているとは思います。強行した方が良いと兄は言うが、ぼくはそこは賛成しなかった。あくまで、民主的にやりたいから。」
「ふうん。アダモスがどう出るかしらね。」
「ぼくの立場から言えば、行動隊長の命令に逆らうものはまずいない。命令系統から見ても、実績から見てもね。すでに下ごしらえもしたし。そこから外れているのは、アダモスと、カシャ、アンナと、ボル、それに、あなただ。個人の戦闘能力から言えば、あなたがずば抜けて高い事はよくわかっています。その次がカシャ。そしてアンナだ。アダモスは戦うことは苦手だ。ボルは逃げるのが専門。それも大事だけれども。」
「アダモスはどうするつもり?」
「殺したりなんかしませんよ。金星でゆっくり過ごしていただく。」
「そうしたら、アンナは言う事を聞かない。」
「あなたが聞かせるのではないですか。」
「ほう? わたくしには、どんな利点があるの?」
「そうですね。」
ギャレラが乗り出した。
「まあ、「青い絆」に関して言えば、ぼくがリーダーをさせていただくのは、兄との絡みがあるから、仕方がないとしてほしいのです。でも、あなたが保ってきた一種の独自性は、そのままでよいのです。これまでのように、必要な時に必要な事をしてくれればいい。別にここにいなくてもいい。ただし、あなたが現場の地位を望むのであれば、カシャの立場についていただく。この先このグループは金星でも有数の組織となるでしょう。もう単なる「テロ組織」ではない。が、もし、外地が良ければ、火星の首相の地位をあなたに差し上げましょう。」
「ほう、それはまた・・・大胆な事を言いますのね。」
「大胆でなければ、事は収まりませんから。」
「あなたの提案?それともお兄様?」
「これは、兄が望んでいる事なのです。」
「ほう。なかなか。うん。なかなかね。でも、上手く行くのかな? 火星では、やがて選挙が行われるわ。わたくしには知名度がない。」
「まあ、そこはそれなりにやり方はある。」
「ふん。そうかしら。」
「そうでしょう。あなたなら。」
「リリカ首相の補佐役ではいかがかしら?」
「それは、あなたがそれでよいのならば、いいでしょう。あなたが手綱を握ってくだされば。」
「ふうん。そうね。」
『敵を欺くには、まず味方からか。しかし、それでは決めたことに反するわね。立場としては悪くないけれどもね。自分を縛ることにもなるからな。ここはやっぱやめとこうかな。でも喧嘩になるかしらね。』
「攻撃です! 攻撃です! 相手は正体不明の宇宙船! 大きい! 大きい!」
スピーカーが爆発したように叫んだ。
行動隊長は、すっくと立ちあがった。
「仕方ない、あとで、また。あなたは指令室に。」
「了解。」
ギャレラは走り去った。
『おやおや、誰かなあ? 見に行きましょうか。』
ビュリアも指令室に向かった。ゆっくりと。
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