わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第六十五章
********* **********
女官に乗り移っていたリリカの精神は、リリカ(複写)の中に入り込んだ。
役目を果たした女官の体は、意識を封じられたまま、ゴンドラに移された。
問題は、アーニーが隠れてしまったことだ。
「アーニーさん、返事しなくていいから、ゴンドラを発出してもとに戻してあげてくださ/
い。出来るんでしょう?」
やがて、リリカ(複写=精神)は、ゴンドラが遥か彼方に去ってゆくのを見つめた・・・
*********** **********
「じゃあ、約束通りに、しっかり君の体を調べてあげよう。」
ダレルはいったん研究室に戻った。
「じゃあ、こんどは監禁しているお二人を、人間に戻してみようか。アブラシオさんがやってくれるのかな?」
『わかりました。まかせてください。』
「何か分かった?」
リリカ(複写=精神)が尋ねてきた。
「そうだね。連中の「巣」がいくつか分かったよ。あと、あのお二人が知っていることを教えてもらおう。彼女は帰ったの?」
「ええ、多分ね。で、固形化したブリューリの戻し方は?」
「そいつは、もちろんまだ分からない。本人たちが知っているわけはないしね。ただね・・・」
「ただ?」
「それは、分からないほうが良くはないか? もしわかったら、ブリューリの本体を復活させる方法が見つかるのかもしれない。将来の為に、良いことではないような気がするんだ。」
「あなたが見つけなくても、他の誰かが見つけるんじゃない?」
「まあ、その時はその時だ。未来の地球からのレポートに、その方法が示されていなかったのは、それが理由じゃないかな。」
「ふうん・・・・・、じゃあ、ソーはどうするの? アリーシャは?」
「ソーの場合は、もし人間に戻ったら対処できるだろう。アリーシャは、まあ当面諦めてもらった方がいいんじゃなあいかなあ。」
「賛成できない。他の誰かが解決法を発見するよりも、あなたか私が見つけた方が良い。あとは情報をしっかり管理すればいい。アーニーの中に情報を収めてしまう。ならば問題ないでしょう?あなたがやらないのならば、私がここに残ってでもやるから。そうよ、それが一番でしょう。お薬の進歩の為にも。月の裏側で引退するより絶対いい。それか月に施設を作ろう。そうよ。そうしましょう。おたがいの為に、悪くないわ。」
「いや・・・後で考えよう。」
「そう、いいわ。でも、あなたがいやでも、そうするから。アブラシオさん、それってできる?」
『まあ、アーニーさんと共同でやれば、簡単と言えば簡単ですが。』
「ほら、ね?」
『あの、それで、お話し中すみませんが・・・お二人に注射しようとしたのですが・・・』
「うん・・・」
「ブリューリに変態なさっていて、やめましたが、どうしますか?」
********* *********
リリカ(本体=アンナ)は、再び例の部屋に戻ってきた。
「気は進まんけーど、まあ、仕方がねえのう。」
彼女は、ビュリアから言われたとおりに、ノックを四つした。
すると、その大きなドアが、内側に開いた。
「よし!行くぞ。」
彼女は、部屋の中に入った。先ほどの様にだ。
そうして、ドアのノブをさがした。
「ノブがない!」
そうなのだ、ノブがなくなっていたのだ。
心臓がどきどきしている。
中は何だか薄赤い。しかし、良く見えない。
「あら、どうしたの?入っていらっしゃい。」
ビュリアの声が聞こえた。
「ビュリアさん。どこですか?」
「ああ、ごめん。暗くし過ぎていたかな。」
それから、すぐに周囲が明るくなった。
大きなソファー。
そこに、ビュリアがいた。
いや、ビュリアじゃない。
これは、いったい誰なのだろう?
「はじめまして、かな。わたしは、アバラジュラ。ブル先生の生徒にして秘書。同時にビュリアでもある。また、さらにヘレナでもあるけれど。」
「ヘレナ・・・もしかして、女王様?」
「どうも、そうらしいわね。自分でもよくわからないのよね。」
「あはは・・・ご冗談を。まあ、わいも、いえあたしも、自分がだれなのか、よくわからんが・・・。」
「いいのよ、誰だって自分が、だれかなんて、本当のところわかっちゃいないのよ。みんな与えられた役を演じているだけ。さあ、いらっしゃい。美味しいケーキがあるの。ジュースもね。どうぞ。説明してあげるわ。で、これから、どうするか相談しましょう。」
********* ************
「あからさまに、証言拒否か。」
ダレルが言った。
「ブリューリは話さないものね。」
リリカが応じた。
「そうだね。口を割らされるのを防いだわけだ。でも、ブリューリの意識は、人間に戻っている時も継続されているという証拠だよ。しかたがない、ガラスケースの中に放り込もうか。」
「さっきの話だけれど、本当に月に研究所を作りましょう。まだ引退なんかできないし、そちらからしても、生活費ただ払いより、よほどましなんじゃない?」
「そうだなあ。まあ、悪くはないな。確かにね。もう一人のリリカさんも、認めるのならばね。この船だって、ただで動いているわけではないんだろうし。」
「いいのよ、既成事実よ。今ならできるわ。この船の経費は、まだ謎よ。だいたいどうやって動いてるのかさえわからないもの。ねえ、アブラシオさん。どうなの?」
「経費については、アーニーが握っています。ただ、私は燃料の補給をしてもらう必要はありません。宇宙空間から自動的に補給します。なので、燃料費は基本的にただです。女王様以外の方の命令には、今回の様に女王様のご指示があった場合を除いて、従う義務がありません。いやならさっさといなくなりますから、予算と言っても、立てる必要があるかどうか、わからないです。実際に運航したのは今回が最初なのですが、維持費や食費など会計的な事は、アーニーに聞いてください。なお、今後の就航プランはお話しましたように、ありません。女王様が現状お隠れになっていますし、王宮の財産目録の中にもありません。」
「ふうん。政府が変わったら、そう言う問題は当然出てくるんだろう。いまのままでは、済まないかもしれないよ。ところで、今回勝手にやったけど、カシャたちが怒るだろうね。」
ダレルが言った。
「まあねえ。でも、元に帰すべきものは返さなくてはね。」
「じゃあ、君も、もいちどジャンプしなくては。」
「そうね。そのあたりのことは、また考えましょう。まだまだ、先の事だわ。」
「そうかな。それにしても、ブリューリの体は謎だらけだよ。ほら、これ、分析中のものだけど、この人は、確かに人間だったのだろうけれど、こうしてみたら、くびから下の内臓器官がまったくない。ブリューリと同じだ。心臓さえない。これで生きてると言えるのかな。でも、脳に血液は循環しているようだ。体の表面からかなり内部までは、カチカチに固まっている。その内側に、まだ生きているらしい細胞の領域がある。まるで植物みたいだ。試しにちょっとだけ、放射性物質入りの薬液を注入してみたけれど、ほら、これがそのデーター。」
「これは、つまりどういうこと? 体の中心部分に吸収されて、消えている。」
「そう。まだ少しだけ生きているブリューリ細胞に、吸収されて消滅した。」
「死んではいない。」
「もちろんそうだよね。で、どうするか、この少し残ったブリューリ細胞に、再度、薬を入れて全滅を目指すのか、まあ、それができるのかどうかも、やってみないと分からないが。吸収してくれるのは期待できるね。」
「この人、この先どうやって生きるの?」
「うん。切り離してロボットの体に接合すると言う方法はある。」
「そうだけど、当面栄養分はどうするの? 水は?」
「まあ、本人の意見を聞いて見ようよ。どうなりたいか。」
「そりゃあ、元に戻りたいでしょうに。」
「まあそうだけど、これは望み薄かもしれないなあ。」
「アーニーさんの見解も聞いて見たら?」
「返事してくれないんだ。」
「あらま、やはりいじけてしまった? でも行動はしてくれてるわ。」
「ああ、そうだね。アーニーさん文書でもいいから、意見をくれないかな。」
研究室のプリンターが、レポートをガンガン印字し始めた。
********* **********
******* シモンズ・フォン・デラベラリさんへのインタビュー **********
作者:「今日は、シモンズさんが来てくれました。こんにちは、最近出番がないですが、ご機嫌いかがですか?」
シモンズ:「まあ、ぼくがどうこうできることではないから、気にしないよ。」
作者:「あなたは、ヘレナをどうお思いですか?」
シモンズ:「どう思うかって。嫌いさ。化け物だもの。ただ、そう言うと、喜んでしまうので困るんだ。」
作者:「ルイーザさんの事は?」
シモンズ:「彼女は、事実上ヘレナのコピーだからね。本人には、気の毒だと思う。正直なところ。」
作者:「ヘネシーさんは?」
シモンズ:「それって、誘導尋問?」
作者:「いえいえ、とんでもない。」
シモンズ:「だって、第一部では、ぼくはまだヘネシーに会ったばかりだよ。しかも、本当の彼女ではない、ダレルに洗脳された状態でね。」
作者:「かわいいと思ったとか、何かないですか?」
シモンズ:「ない。」
作者:「もう少し、愛想のいい答えをしましょう。」
シモンズ:「できないな。」
作者:「はあ、今後のご希望は?」
シモンズ:「あの魔女をぎたぎたにして、火星人を撃退して、地球を普通の平和に戻すこと。それで、このくだらないお話はおしまい。それが希望です。」
作者:「ご希望には添えそうにないです。ただ、作者があまりもう、長くは持たないかもしれないので、もしそうなったら、あと、あなたにお任せしていいですか?」
シモンズ:「だめ。拒否。ぼくは、自由に学び、自由に研究したい。あなたのしりぬぐいは、いやです。」
作者:「ええ、今日は、なにかにつけて、愛想のよくない、でも、はっきりはしているシモンズさんでした。あ、もう、帰えっちゃったって?」




