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わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第六章 

 ダレルはソーの部屋で話し合いをしていた。

 ダレルが副首相になるにあたって、親友のソーを副官として起用することは、すでに女王の了承も得て、確定している。

 女王が承認していれば、議会が否決するというような事態はまず起こらない。

 火星は民主主義を行っていた時期がほんのわずかしかない。だから、それがおかしいと思う火星人はほとんどいないだろう。一番変だと思っているのは、おそらくダレル自身だ。

「どうやら、第一市場で事件が発生したようだね。」

 ソーが自身の連絡網を確かめながら言った。

「見ていいか?」

「どうぞ。ほら。」

 ソーはコンピューターの画面を空間投影させた。

「ふうん。なるほど。しかし、これはもう、あからさまに怪しいじゃないか。」

「そうだね。なんでこの犯人は、わざわざリリカさんを導きいれたのか。かな。」

「そうさ。ほんの少しでも未来予知ができたのなら、リリカを受け入れるわけがない。何か特別な理由がなければね。」

「それか、これは自作自演なのか?」

「だね。でも、ぼくが言うのもなんだけれど、リリカは少し、おばかさんだけれど、つまり正常な感応者だけれども、性格はまっすぐで、自作自演して喜ぶタイプじゃあないことは間違いない。」

「やはり女王が仕組んだかな。」

「まあ、りリカの試験として、また王国民に対する新首相の宣伝工作をした可能性はある。でも、少し間が抜けていて、なんだか女王らしくない。」

「ブリューリがやらせたのかもしれない。」

「あいつは、人間を食べること以外には策を弄する理由がないさ。」

「ふうん。お、画像が来た。ガリーが軍からハッキングしてきたようだね。」

 二人は、第五作業室内の様子を写した画面を眺めていた。

「人質の表情がおかしい。薬の中毒症状のようだ。テロリストの方はロボット人間だろうから、表にはあまり出ないが、固まってしまったような感じだよね。リリカは後ろ向きでわからない。あ、消えた。」

「むむむ、これはまた珍妙な。全員消えたね。ちょっと確認してくれたまえ。消えている時間を。」

「ああ、三秒・・・だね。何か意味があるのか?」

「いや、わからない。見ろよ、テロリストは全員倒れている。こいつらの体はたぶん普通の銃撃程度では壊れない。リリカがそんな素材を開発していた。しかし、内部で自爆したらそうじゃなくて、きっちり爆弾になる。でも、そうなったら跡形もなくなる。だから自爆はしなかった。人質は無事のようだし。リリカもぴんぴんしている。人質の表情は普通に戻っているよね。」

「ふうん。何だったのだろうか。」

「これはまた、リリカ様の新開発の装置かなんかの試験だったんじゃないかな。」

「じゃあ、やはり自作自演か?」

「そうとも限らないな、試験のチャンスに恵まれたのかもな。それか、ご想像通り女王様が仕組んだのかもしれない。あの人の能力はまったく想像外だからね。第一これが本物の映像かどうか、君どう思う。」



「ビューナス様、事件が終結したようです。」

「おや、それはまたお早いことね。女王様は?」

「まだお出になりません。」

「拒否かなあ?映像は入手できた?」

「ええ、もちろん。」

「見せて。」

 ビューナスたちは、ダレルが見ていたものと、同じ映像を見ているようだった。

「あやしいわねえ。思いっきり偽物っぽいわねえ。」

「そうですか?」

「あんな風に、人間が消えるかしら?首相さん科学者の立場でどう思う?」

「それはまあ、常識的には無いですよね。」

「常識じゃなければ、あるのかしら?」

「そりゃあまあ、詭弁とか冗談の分野だで、失礼、なので私の専門外ですなあ。」

「女王様ならあると思う?」

「はあ、あの方は物理法則の範囲外の方で、まだ現代科学の及ばない魔女ですから、まあ何でもありでしょうが・・・」

「ま、つまりこんなことの犯人は女王様以外にはありえないということね。」

「はあ、しかし失礼ながら、この映像そのものが、正しくないのかもしれません。」

「この短時間で編集されていると?」

「まあ、無いとは断言できません。大体出所が軍である以上は。」

「ふうん。まあそうよねえ。」

「ビューナス様、火星から映像が来ています。専用回線。」

 指令室から報告が入った。

「見せて。」

 再び大きな映像がビューナスの私室内に展開された。

 同じ広大な第五作業室だと思われるが、映像は真上から見ているようだ。

「はあ、これは立体映像ね。皆で違う角度から見てみましょう。」

 三人は、ばらばらに分散した。

「これはいいわね。事件前からの記録のようじゃない。誰が発信しているの?」

「それが、発信人不明です。発信場所も特定できていません。」

「じゃあ、うちのスパイくんかしら。ちょっと出来すぎよね。」

「残念ながら、そうではないですね。」

「ふうん。ほら、まだ作業している。初めて見るわね。すごいな。近代的で合理的な巨大食肉加工工場。でも、これは常識的に言えば、恐ろしく凄惨で残酷な情景よね。」

「いや、これは見ていられないですよ。作業員は全体で十人程度かな。」

「ええ、監視しているだけね。実際に動いているのは機械。向こうの区切られた部屋の中は?」

「あそこは、超高級食材の加工場だと思われます。ごく少数の専門の職人がいると聞いています。まあ、絶対中は見たくないですがね。何でも親方から弟子に直伝されるらしいですが、厳しい掟があって、外部の社会とは接触禁止らしいです。その代り、大変な高給取りだとか。実際に中を見たという話は聞きません。勿論立ち入り禁止でしょう。写真も皆無です。」

 情報長官が説明した。

「あそこは、襲撃中どうなっていたの?」

「さて、それはまだ未確認ですね。」

「ふむ。賊が侵入する様子を見たいな。その画像はないの?」

「なにしろ、これが初放映で内容は未確認ですから。」

「そりゃあそうね。そろそろ侵入の時間じゃないこと?」

「ええ、さすがよく御覧です。その通りですね。」

 情報長官が持ち上げた。

「入ってきた。あら、何かしらこれ?」

「女が一人。男が一人ですが。これは作業所内用の防護服ですなあ。」

「銃なんか持ってない。持っているあれは、多分作業場内の環境チェック用の機器ですね。後ろから市場の幹部たちが付いて回っているのでしょう。大名行列というやつです。つまりあの三人は王国政府の検査官とかでしょうねえ。」

「つまり、何なの?襲撃ではなかったってことよね。これ、先ほどの映像と同じ時間なの?間違いなく?」

「確認してますが・・・データ上は同じですね。同じ日、同じ場所、同じ時間です。」

「じゃあ、どっちかが”嘘”ってわけだ。」

「まあ、今のところそうじゃないという証拠は何もないです。」

「それは、あり得ることかな?情報長官様?」

「いわゆる並行宇宙とか、ですか。理論上はあっても、証明はされていないでしょう。ねえ、首相。」

「確かに、多元宇宙については実在していることはまず間違いないですが、まだ実際に確認はされてはいない。これは見た目同じ部屋を作って、個別に撮影したのでしょう。」

「でもね、見てほら、例えばこの犯人の女。こっちの役人。同じ人でしょう? この人、ほら同じ顔ね。ほらピッタリ一致するわよ。この人も、ね、同じ人でしょう?」

「まあ、そう見えますね。」

「そうよ。あくまで見た目ですが。もう少し見てゆきましょう。ほらこっちは、作業員を固めて、銃で殴ったりしている。まあ、痛そうね。可愛そうに。でも、こちらでは、測定器のようなもので従業員の体をさらっているわ。よく聞こえないけど、何か命令してる。作業機械はもう停止している。こちらも作業機械が止まった。何か不具合があったみたいね。幹部の人が慌てているみたい。こちらは、銃を持った男がまた捕虜を連れてきた。こっちも、他の従業員を連れて入ってきた」

「こちらは検査上、何か異常があったんでしょうね。」

「そう。ほらどちらも従業員たちが一か所に固められた。少しづつ違うけれど、流れは似てる。」

「ここに、別部屋の映像が出ました。これは入口の除菌ルームですね。あ、これはリリカですね。」

「ええ、リリカさんが入って来るわね。どちらも同じリリカさんですね。」

「こっちはもう、緊張感が最高ね。生きるか死ぬかの境よね。」

「何か、どちらも従業員の表情が変です。これは何らかのガスが放出されたようです。」

「あ、銃撃が始まった。こっちは、検査官が検査機器を振り回してます。」

「何でしょうか?ああ、消えた?」

「消えましたね。」

「消えました。同時に。時間を図って・・・・・」

「ああ、戻った。あれ、これ、画面が逆になっていますね。入れ替わった?どちらも、消えていたのは三秒ほどですが。」

「ふうん。画面が入れ替わったわね。どうしてですか?長官?」

「さあ。世界が入れ替わった。たぶん。まさか!ですが。」

「あり、ですか?それって。」

「いや、だから、まさか、ですよ。もしかしたら回線の故障かもしれない。これが事実なら、何にせよ、もう犯人は決まったようなものですね。」

 三人は顔を見合わせた。


「女王様がお出になりました。」

 そこに報告が来た。

「それは、素晴らしい!」

 ビューナスは男性形態に変貌して、大きなガウンを身に着け、自分の椅子に座った。

「まあ、ビューナス様、相変わらずいい男ねえ。」

 女王が感嘆するように言った。

「それはどうも。」

「で、どんなご用件かしら?」

「他でもありませんが、そちらの中央市場で事件が起こったと聞いております。まず、けがをなさった方などがおありでしたら、お見舞い申し上げます。」

「それはどうも。でも、それってなんの事かしら?特に大きな事故とかはございませんのよ。ちょっと、まあ一種のガス漏れ事故があったことは本当なのですが、それで、リリカ様が就任直前でもありますし、視察も兼ねて行ってもらったのですが。問題は解決したと聞いておりますのよ。特にけが人などは出ておりませんし。そちらには、何だか間違った情報が行ってますか?ご心配をお掛けしたのであれば、お詫びいたしますわ。」

「はあ?ふうん。そうなのですか。」

「そうなの。そうそう、金星の情報員さんとかいう方がおひとり急病になられて、こちらで手当ていたしまして、今日送還いたしましたわ。まあ、これはお互い様ですわ。特に問題化させるつもりはございませんの。だって、ビューナス様とわたくしとの仲ですもの。ところで、それよりも、先日火星の第一衛星をぶっ飛ばした方がいらっしゃいますの。ご存知でしょう?」

「ええ、知ってますよ。犯人は見つかったのですかな?」

「それがね、どうやらかなり用心深い”やつ”らしくて、まだ正体が掴めませんの。ビューナス様、お心当たりがございませんか?」

「実は、こちらも心配しております。情報があれば、即座にご提供いたしましょう。」

「ええ、よろしくお願いいたしますわ。なにしろ、あのくらいいっぺんに、吹っ飛ばすのは、相当強力な爆弾でしょう。ビューナス様の水爆人間かと思いましたが・・・。」

「いえいえ、ご冗談を。あんな何もないところを爆破しても、ぼくには利益ないですよ。」

「まあ、そうですわね。確かにね。じゃあ、よろしくお願いいたしますわね。じゃまた。」

「じゃあ、また。」

 女王は消えていった。

「むむ、大タヌキ女め。」

 情報長官が言った。

「何が本当なのでしょうなあ。」

 首相がつぶやいた。

「さてね。情報長官、さっきの情報の出所をよく探してみてください。」

「わかりました。」



 リリカは、さっそく女王に召喚されていた。

 その前に、王国独立新聞(と言っても、半分以上王室が出資していたが)が、『第一市場強襲か!』との緊急ニュースを火星中に配信してしまっていた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 『現在は通常稼働に戻っている。ーーー『テロではない、小さな事故』

                      王国政府高官見解


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「さて、リリカ様、お入りなさい。」

 女王は、リリカを招き入れた。

「ご苦労様でした。・・・でも、まあ、今まで気が付かなかったわたくしがおバカさんね。あなたは本物のリリカ様かしら?」

「女王様、私は勿論本人です。」

「ふうん。さあどうかな。まあ、そこにお座りなさい。頭の中とか見てあげるから。」

「はい、どうかお願いいたします。」

 リリカは、用意されていた小さな椅子に腰かけた。

 こうしたことは、けっして珍しいことでもない。

 なにしろ、こうして女王様から直接頭の中や体を確認していただける人間なんて、火星中を探してもそうたくさんいるものではない。

 言ってみれば、これはリリカが女王の側近中の側近であることの証でもある。

 多くの火星の人間にとっては、女王様が時々発信する『忠誠心』を確認するご意思の恩恵に与かることが、もうすでに最高の喜びなのだ。

 とは言え、そんなに時間はかからない。ほんの十秒程度のことだ。

「なるほど。事件の内容はよくわかりました。で、あなたにとっては酷な言い方だけれど、あなた偽物ね。」

「そんな、私は間違いなくリリカです。」

「そう、コピーはみんなそう言うわ。実際本人はそう確信しているから無理もない。でも、あなたは間違いなく複写人間なの。複写マークがしっかり刻まれているから。でも、困ったことに複写した責任者の証明がないわね。つまりは、違法コピーなわけ。あなたなら解るでしょう。わたくしがこのことで嘘を言うと思う?」

「いえ・・・、いいえ。」

「そう、ショックでしょうけれど。さて、困りましたね。あなたは、いつ複写されたのか。誰が複写したのか。本物はどこにいるのか。あなたどう思う?」

「さあ、判りません。」

「ふうん。今見た限りでは、私を暗殺するとか、スパイするとか、何かの暗示を与えられているような様子はないわ。でも、それはしばらくして与えられる可能性もある。そうよね?」

「はい。その通りです。」

「元々、これはわたくし本体の固有の能力だけれど、それをわざわざ技術化したのは、あなたの五代前の祖先で、わたくしのこの体のご先祖様でもある。で、現状その技術をすぐに活用できるのは誰と誰かな?」

「私が知っている限りでは、女王様と、私と、だけです。ただし、ビューナス様が、どうした訳か、この技術を内密で確保している、とは思われます。」

「うん。まあ、そうね。そこはまあ、仕方なかったのだもの。つまり犯人はこの三人の中にいると、思わなければなりません。」

「そうですが、可能性があるとしたら、もうビューナス様だけです。」

「まあ、そうね。一方でマスコミさんに漏らしたのは誰なのかしら?」

「私ではありません。」

「あなたがそう確信していることは分かるわ。調べなさい。早急に。誰が漏らしたのか。どこまで漏れたのか?いいわね。」

「はい。あの・・・」

「うん?」

「私は、誰ですか?もし本物が出てきたら、私は消えるのですか?」

「怖い?」

「はい、なぜか分からないのですが。」

「そう。」

 女王は、再び小さな銃を持ち上げて、リリカの腹を打ち抜いた。

 彼女はその場で倒れて、もだえ苦しんだ。

 しかし・・・

「まあ、ちゃんと再生してるじゃあないの。複写人間にも有効なのね。」

「私は、・・・これはつまり、個々人ごとに処理しなければ、不死にはなりません。あの・・・」

「ふうん。そうか、不死化の処理はあなたが自分で行ったわけか。だとしたら、あなたはちょっと前から複写だったことになるわね。しかも、わたくしを結構だませるような、高級な意味のね。しかも自分ではまったく意識もしていない。」

「はい、いえ・・・。私はでも、リリカです。」

「そうね。まあ、とにかく今の時点ではあなたに任せるしかないわ。もうすぐ就任式だし。いい、ちょっと頭の中をいじるわね。」

「はい。すべてを女王様に委ねます。」

「いいわ。・・・もう、今のあなたに恐怖心はない。あなたは、わたくしにすべて従えますか?」

「はい。心からお従い致します。私はあなたの忠実な僕です。」

「そう、よかった。うん、問題はないわ。ただ、時間が少し経つとまた不安が再発するだろうな。その時は、でもわたくしが治してあげるから心配しなくていいわ。じゃあ仕事しなさい。」

「はい、女王様。」

 リリカ(複写)は、女王の部屋から退出して行った。



「アーニー、出てきなさい。」

「はい、はい。何ですか?ヘレナ。」

 ヘレナは空っぽになった自室の中で、空間と話をしていた。

「あのね、誰なのかな。犯人は?こんな事したのは。」

「今のところ、把握できません。」

「まあ、あなたともあろうものが。」

「申し訳ありません。しかし、犯人は見当たりません。」

「あり得ないわ。結果があるのよ。わたくしの故郷ならば、原因がなくても結果があるのかもしれない。でも、ここではそれはあり得ない。」

「はい。しかし、誰も何もしていないのです。アーニーの確認できる範囲では。」

「納得できない。何かある。」

「ブリューリ様ではありませんか?」

「彼が?・・・・・それは、あり得るわね。でも、何のために?今は不在だし・・・。」

「あの方には、ヘレナ様に準じる、ある意味、それ以上の能力があります。おそらく、アーニーが理解できていない能力もお持ちでは?」

「それは、認めます。でも、彼には、そうした事を行う理由がない。意味がないわ。」

「そこは、アーニーには認知できない領域になります。」

「あなた、反乱起こしていない?」

「アーニーが認識してお答えできる範囲において、ありません。」

「ふうん。あなた最近、夢を見ることがある?」

「アーニーは睡眠しませんから、ありませんね。」

「つまり、あなたの中に異常が起こっていないか?と聞いてるの。」

「自己診断機能にも、その保護機能にも、その保護機能にも、さらに無限保護機能にも、結果にも、問題はありません。あなたが御作りになった範囲では、何も異常は見当たりません。」

「ふうん。わかったわ。いい、アーニー、情報を漏らしたのが誰か、再調査しなさい。リリカを複製したのは誰なのかも。その途中経過をきちんと報告しなさい。わたくしがいいというまで、ちゃんと継続しなさい。また尋ねますよ。」

「了解。」


『やれやれ、アーニーのお目付け役相手を作らせる指示をしておいて正解だったかな。あの子一人で太陽系全部を支配するなんて簡単な事だろうし。ま、わたくしはその全部を消し去ることも簡単だけれど、それじゃあこれまでのすべての意味がなくなっちゃうわ。もう完成するかな、巨大軍艦がね。別に動かさなくていいからね。そうそう、そこでゆっくり美味しい人間ケーキとか、食べられるわね。リリカ様も誘えるし、あの頑固なダレルにも、そこでしっかり食べさせることもできそうだしね。一度確実に体が覚えさえすれば、あとは、人間は癖になるほど美味しいんだから。繰り返し食べさせてやるわ。そう船の名前は、『アブラシオ』がいいわ。・・・さてと、でも、リリカは、またわたくしを裏切ろうとしていたのね。あれだけ脳をいじって、実母の愛情まで注いでやったのに。確かに人間の脳は気まぐれ。しょっちゅう監視しておかないと、狂いやすいわ。とりあえず余計なことは忘れてもらって、しっかり複写人間の気分になってもらったけれど。あの子の脳が狂った原因は、やはりあの破片かなあ。でも、それはどうもありそうにないなあ。あの子の記憶からすると、ダレルがその破片を持ち帰ったことも、まず間違いない。絶対認めたりはしないでしょうけれどね。わたくしが強硬手段は使わないと、たかをくくっているのならば、思い知らせてあげなくてはいけない。わたくしに、母の愛情など求めるのが馬鹿げているくらい、理解しているでしょうに? この際、一挙に二人とも、脳の手術を行いますか。でも、ちょっと惜しいなあ。あの二人はめったにいない人材だし。脳自体をいじると、せっかくの才能が失われるかも。それに問題は、なぜアーニーは何も知らせてくれなかったのか、よね。アーニーにはわたくしを裏切る能力は絶対にない。これだけは確実に言える。断言できる。にもかかわらず・・・か。ふうん。何を考えてるの、アーニーさんは。いったい何があったの。」

 ヘレナ女王は、アーニーには聞こえないように、その内心で、しかし珍しくかなり深刻に考え込んでいたのだった。 


































































 





























 








































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