わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第五十二章
宴会は、すぐに絶好調に達しつつあった。
「ちょっと、片目のジニーと話してくる。めったに会えない超レア美人だからな。」
マ・オ・ドクは、ダレルのもとから離れて行った。
「ねえ、デラベラリ先生。」
「うん?」
ダレルは、子供の頃から、デラベラリを個人的に知っていた。
彼は・・・もう大昔のことだが・・・王宮でダレルの家庭教師を半年ほどしていたことがある。
「何を入れたんですか? 棺の中に。」
「それはね、秘密なのだよ。」
「ふうん。もともと何かを考えて作っていたんでしょう。このために作っていたなんて、考えられないものな。」
「まあ、緊急の場合は、「お使い物」を使いまわしするのは、ある事だ。」
「それはそうですが、問題は中身ですよ。」
「『ラジオ』さ。アマンジャが、さみしいだろうと思ってね、浮世の情報が欲しいだろう?」
「あのですね、まあ葬儀をやろうと言われたから、同意しましたがね。必ずしも、死んだとは言い切れないのです。あなた方、非常に近くにいたんだし、何があったのか知っていることを教えてくれませんか。対立はしていたが、母なんです。」
「まあ、うん。そうだな。確かにそうだ。それは、気の毒だと思う。僕らが見たことは、きわめて単純なんだ。ぼくは、あの空間に固定されていた女王を、空間ごとひっぺがして持ってゆこうとした。上手くいったと思ったが、思ったようには剝がれなかった。手ごたえはあったんだ。掴んだことは事実だ。だが、引っ張り抜こうとした時に、向こうから引っ張り返された感じなんだ。それもはるかに強力な力でね。こっちも危なかった。けれど、「エビス号」が撃った、訳の分からん光の束が、全てを持って行ってしまった。アッと言う間だ。あれはいったいなんなんだ? まあ、いま親分がジニーに聞きに行ってるがね。教えてくれるかどうか・・・」
「つまり、さっき見た、あの柱だけの宮殿のようなものは、そこでは見ていない?」
「そうだ、そんなものは、見ていない。」
「ふうん。あなたは、あれは何だと思いますか?」
「そりゃあ、ダレル君はどう思うの?」
「ええ、ひとつの回答は『幻覚』、一つは『異世界』あるいは『その入り口』、でも実際にそこで人が消えてしまっているならば、『幻覚』というのはおかしいです。このところ、ぼくも身の周りで、やたらこうしたおかしな事象にいっぱい巻き込まれてる。何か意図的に誰かがこうしたマジックを多用しているように思うんです。」
「ミュータント、とか?」
「それは大いにありです。これは内部情報だけれど、実際テロリスト「青い絆」にはミュータントが複数いる。しかし、それだけじゃないようでしょう。実は、ぼくが火星から女王を異空間に放り出した装置があるんですがね・・・。」
「ほう。それは秘密事項?」
「そうです。激レア秘密事項ですよ。こんな話をしたら、王国から追及されかねない。といっても、王国にも秘密にしてますがね。」
「ほう。面白い。」
「でもここは、情報の共有といきましょうよ。先生。」
「まあな。」
「ぼくの使った機械は、物質を通常空間から異空間に移動させる機械です。ただし、未完成。今のところ、どこに行くやらわからない。女王の場合、それでいいと思ったんです。これ以上、醜態をさらさせたくないですからね。今回女王とブリューリは、実際異空間を通ったのだろうけれど、結局第九惑星に飛んだ。でも、そこで、あんな形で磔にしたのは、ぼくじゃあない。できないですよ。あんなことは。その、犯人の一部は、まだ言えないけど、おそらく、わかっています。ぼくと共謀したんだから。」
「ふうん・・・・・・。」
「でも、なんかおかしい。どうも、うまくつじつまが合わないんです。これも詳細はまだ伏せますがね、その共犯者は、ぼくの器械なんか使わなくても、もっと正確に同じことができるんじゃないか? と思われます。しかも、その共犯者というのは、女王の子分です。」
「ほう。」
「つまり、この共犯者は、女王を第九惑星じゃなきゃいけなかったとは思わないが、ああいう、人の目から遠い場所で、秘かにブリューリから女王を解放させたかったわけです。そのために、今の体は犠牲にしても仕方なかった。」
「ふんふん。」
「でも、女王は、ブリューリに支配されていて、そんなことを望むはずがない。つまり、女王が命令したはずがない。ぼくは、ある意味利用された。」
「ふむ。黒幕がいる、と。」
「そうですよ。姿の見えていない、大物がいるんですよ。きっとね。そいつを探すの手伝ってください。」
「なるほど。でも、ならば、親分に言ったらいいのに。」
「あの方は、商売人ですからね。儲けが必要でしょう?」
「ぼくもそうだ。」
「先生だから、お願いするのです。ぜひマ・オ・ドクに仲立ちしてください。」
「ふうううっむ・・・・。ま、考えてみよう。」
「お願いします。」
「お、親分が呼んでる。行ってくる。」
「ええ、どうぞ。」
マ・オ・ドクは、ダレルから離れて行った。
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リリカ(本体=アンナ)の、新しい首相令の発布にむけた作業は、もう秒読み段階になった。
原稿は完成している。
発表はリリカ自身が行うつもりだ。
問題は、女王陛下がいない事だ。
「青い絆」のビュリアからの情報では、「あの」女王が帰ってくることはないだろうという。
「あの」じゃなければ、他の女王が帰ってくるのだろうか。
リリカが実際に知っている歴史の中では、「女王」の「換体の儀」が行われたことはない。
前回行われたのは四十年も前だ。
女王様の精神が、新しい肉体に乗り換えるのだ。
しかしながら、女王様が新しい肉体で現れるまでに、多少時間が開く場合もある。
前回は三か月ほどかかった。
そこのところの理由は、女王様本人しかわからない。
儀式の日取りは、第一侍従長に夢の中で知らされる。
新しい女王が誰なのかは、第一侍従長だけが知っているのだが、儀式の前の日に、彼は五人の従者を従えて、その人の家に赴く。本人は自分が女王に召されたことをそこで初めて知るのが普通だが、どうやらそうではない場合も、中にはあるようだった。
そうして儀式の当日、奇跡が起こる。
女王の人格と能力が、新しい女王の体に乗り移るのだ。
列席の人々は、その場で様々な奇跡に出会うことになる。
新しい女王は、知っているはずのないことを、全て知り尽くしており、その場で、あり得ない能力を披露してみせるのだ。
そうして火星の人々は、儀式が終了するときには、もう新しい女王の完全な虜になってしまっている。
「不感応者」は別だ。
彼らは、いつもこの儀式を(生きて見ていた場合は)非常に客観的にとらえることになる。
それでも、女王が引き起こす、あきらかに物理現象を超えてしまっているように見える事象には、必ず驚かされてしまう。
さまざまな技術が発展した今の時代にあって、新しい女王は何を見せようとするのだろうか?
とうはいえ、まだその珍しい儀式が行われるかどうかはっきりしないし、第一そうなのであれば、その前に「葬儀」が行われることになるだろう。
「首相」が火星の首長であった時代も、はるか昔に確かに存在してはいた。しかしそれはもう、なん千年も、もっと前の事だ。
リリカは、新しい事をたくさんやらねばならなかった。
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「片目のジニー」は、非常に目立たない存在である。
実際、ビュリアと同じように、いつも黒色系の服を着ている。けれども、いかにも「魔女」という感じのビュリアとも、まるで違っている。
きわめて実務者タイプの現実派だった。
ただし、左目の眼帯が、どことなく海賊風ではあったが。
横に立っていても、あとから考えてみて、そこに彼女がいたかどうかもはっきりしない、そういうような感じの人だ。
マ・オ・ドクとデラベラリ先生は、ジニーとなにやら時に激しく、次には柔らかく話し合っていた。
ダレルは、舞台の上で休みなく踊りまわっているジャヌアンを、ただただ感心して見つめていた。
ちょっと人間離れしすぎている・・・実際この彼女はコピーなのだが・・・と思った。
すると、なんと彼女と目が合ってしまった。
どきっとした。
「なんだろう、このいやな胸騒ぎは。」
ジャヌアンは、さらにもうひとしきり舞台上で踊った後、そこから下に降りてきた。
そうして、つかつかつか、っと、ダレルの脇にやってきていたのだ。
それから、素足の右足を床について、大きなしぐさの挨拶をした。
たしかに美しい。
相当お化粧もしているけれど、美しい事は事実だ。
だが、もう次の言葉が、さっそくダレルを打ちのめした。
「ご機嫌はいかが、ダレル様。わたしのかわいい子。」




