わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第四十四章
アブラシオが警報を鳴らした。
『緊急事態。本船内に侵入者あり。』
リリカ(複写=アンナ)が答えて言った。
「侵入者って、誰なら❓」
『一種の乗り物です。空間を飛び越えて、直接本船の内部の離発着コースに入り込みました。これは現時点で本船に生じると考えられる事象ではありません。』
「よくわからないが、どういう意味?」
ダレルが確認した。
『現時点では確認できない技術です。』
「超能力者か? ならば、ビューナス様とか。ビュリア様とかじゃろうか。」
「ビュリア、さ・ま、ね。」
ダレルが皮肉った。
リリカ(複写=アンナ)が嫌な顔をした。
『いえ、お待ちください。乗船者は、普通の人間です。しかし、組成が違います。これは火星人ではありません。金星人でもない。』
「は?」
ダレルとリリカが同時に発音した。
映像が出た。確かに人間だが、角も牙も確認できない。
『人間ですが、現在の太陽系内のどの種族でもありません。どうしますか?』
「話せるのかしら? 言葉を。つないでみてくれる?」
リリカ(複写=アンナ)が指示した。
『了解・・・どうぞ。』
「聞こえてますか?あなたはどなた?」
「私は、リリカ。火星のリリカです。体は地球人の借り物ですが。ブリューリの駆除薬を持ってきました。すぐに話を聞いてください。一刻を争います。事態は理解しています。」
ダレルとリリカ(複写=アンナ)は、顔を見合わせた。
リリカ(本体=アンナ)は、ボルによって王宮の庭陰に運ばれた。
誰が見ても、どう確認しても、リリカ以外の何物でもないことは明白である。
王宮正面玄関の、照合用コンピューターが太鼓判を押した。
「首相閣下、お帰りなさいませ。」
門衛はびっくりして首相室に連絡した。
「首相がお帰りだと。」
「やれやれ。助かったあ・・・・。どうなることかと思った。」
周辺幹部は胸をなでおろしたのだが、事務方にとっては、さっそく戦争が始まったのだ。
「すぐに、新しい首相令を出します。準備せよ。いいですか。」
「すぐに、ですか?」
第一侍従長が飛んできて言った。
「女王様がお帰りではありません。準備は出来ているのではありましょうが、少しお待ちください。」
「ダメです。すでにわしに、いえわたくしに任されている事なのだから。それに事実遅れています。」
「それはまあ、ブリューリ様のご活動が急に活発になりましたから、やむ負えません。」
「いいえ、急ぎます。すぐに発表します。・・・まあ、多少段取りがあるのはやむ負えませんが、最大級急ぎなさい。明日中には、発表致します。」
「少なくとも、あさってにしていただきたい。」
侍従長は食い下がった。
「だめです。認めません。あなたにそれ以上の権限がありますか?」
「いえ、ふうむ。今は、ありませんな。」
「よろしい。まあ、侍従長様、新しい時代の幕開けなのです。むしろ、喜んでいただいてしかるべきですよ。」
「はあ・・・・、失礼しました。」
第一侍従長のうしろ姿は、少し悲しげだった。
「さあさあ、あなた方は仕事。急いで。これ以上遅らせたくないんだから。」
彼女は、事務方を急き立てた。
実のところ、アンナはアンナで、もう精いっぱいやっていたのだ。
脳みそが頭の中で、「もつれそう」な感じがするくらいだったのだから。
『こんなおかしげな言葉を、けーだけたくさんしゃべったのは、はじめてじゃけぇなあ。まったく。とにかく失敗は許されん。がんばれ、アンナ。いえ、リリカ。』
第九惑星上では、微妙な駆け引きが行われていた。
みな、誰がどのようにしたいのかを、確実に知っているのではなかった。
「エビス号」が、女王とブリューリを、この空間から再度他所にぶっ飛ばしたいらしい、という事は大体想像がついた。
ダレルは、当然それに賛成である。
しかし、真っ黒な宇宙船が、「エビス号」と女王の間に入り込んでしまって邪魔をしている。
『エビス号』の進路を見透かすように邪魔をする。
「エビス号」は、なんとかその下に回り込みたいのだが、強烈なある種の「風」が吹いていて、なかなか思うようには進めない。
「くそ、あの暗黒宇宙船は重力の操作か何かやってるのか。」
「ダレル、本当に駆除薬とかが来たのなら、まずそっちを試すべきじゃ。」
リリカ(複写=アンナ)が命令に近い感じの提案をした。
しかし、ダレルは拒否した。
「いやいや、試してる場合じゃない。一回だけのチャンスなんだ。」
「いや、許さん。仕方がないので命令する。女王とブリューリを、今、動かしてはならぬ。」
「命令?」
「そうじゃ、首相命令。」
「それって、ビュリアの命令? それともビューナスの?」
「両方じゃ。」
「ふう・・・。『アニー何とかしろよ。』」
ダレルは小声で懇願した。
『あの、離発着室の方はどうしますか?』
アブラシオが確認してきた。
「しばらく監禁しなさい。話す必要はない。」
リリカ(複写=アンナ)が命じた。
「いやいや、すぐに来てもらおうよ。絶対そうでなきゃならないよ。」
「ダメじゃ。」
「君いつの間に、そんな、できそこないのロボットになったの。」
「わしが、首相なのじゃ。従えんのなら拘束する。」
「くそ。『アニー何してるんだ。』」
「ぶっちぎり号」では、マ・オ・ドクが叫んでいる。
「おい、デラベラリ先生、なんとかしろ。「嬢ちゃん」をあそこから救い上げろ。」
「了解。やりまっせ。ドク、あの『真っ黒野郎』の後ろに入ってください。」
「後ろって、どっちだ?」
「向かって右!」
「了解。行くぜ。」
『ぶっちぎり号』が、その動きの速さで、あっという間に、『暗黒宇宙船』の後部に付けた。
「これより下は入り込めない。強力な力が来る。」
「いいです。これから「網」を下ろします。それで女王をすくい取ります。」
「網、だって?」
「夜市の『金目魚すくい』ですよ。ただし、破れない紙を使います。目にも見えない。どの方向にも向けられる。相手の出す強烈な『場』と戦いにはなりますがね。時空を超えてすくい上げます。」
「なんだか、さっぱりわからんが、とにかく救えればOKさ。」
「一つ頼みがあるんですが。」
「なんだい?」
「救ったら、女王を、おれにください。」
「は?なんだって。」
「女王を、ください。嫁に。」
「あのな、本人が了承する訳がないだろう。はははは、まあいいよ。わかったわかった。相手が認めたらだぞ。しかし、その前に、きっと喰われるぞう。そらゆけー。」
「了解!」
「ぶっちぎり号」は、近づける限界まで行き、『暗黒宇宙船』の後方から目には見えない「大きな網」を広げて、第九惑星の大気中をさらっていった。
「よし、あとすこしだ。それ、絡んだ!引っ張りぬく!」
デラベラリ先生が叫んだ。
「ぎょわ!」
ぶっちぎり号に、急ブレーキがかかった。
マ・オ・ドクとデラベラリは、指令室内でぶっとんでしまった。
「いい、アブラシオ、よく聞きなさい。わたしは火星のリリカ、現状が、よくわからないことになっているでしょうけれど、私が本体の精神よ。2憶五千万年後に行っていたけれど、やっと帰ってきたの。いい、これから送るデータにアクセスしなさい。『***###$$4・!!!???888666444222***<<<>>>???』わかった?」
『データ確認。緊急時の女王様による指令確認。確認コードを。』
「いくわよ。もう女王様ったら。ええと、『ばかやろう、かっこつけてんじゃないわよ。私を誰だと思ってるの、ヘレナよヘレナ。シブヤのバーゲンに行ってくる。アサカまでおせんべ買いに行く。コウベでお茶飲む。以上。』なにこれ?」
『確認コード認証。命令をどうぞ。』
「とにかく私をすぐに、第九惑星上の女王様の近くに、このゴンドラごと連れて行って。あとはそこで指示を出すから。そういうことになってるのよ。」
『ご心配なく。じゃあお乗りください。発出します。目標第九惑星大気圏内。女王様の近く。』
アブラシオでは、リリカ(複写=アンナ)がいよいよ正体を現してきていた。
「む、「ぶっちぎり号」が怪しい動きをしとる。アブラシオ、『ぶっちぎリ号」を攻撃せい。ぶっ壊してしまって構わん。」
「リリカ、殺さなくていいじゃないか。」
「うるせぇ、てめぇは黙っとれ、わいに従え。いやなら死ね!」
「さっきは、「拘束」だったよ。冷静に行こうよ。確かに、あの「アンナ」は革命家として勇敢なんだろうが、少し感情が先走る感じだった。自分を統制しろよ。君は「リリカ」でもあるんだろう?」
「ううん。いや、わかっとる。まあ、わいが少し悪かった。しかし、まずは攻撃は攻撃じゃ。あいつを行動不能にせい!アブラシオ!」
『了解。『ぶっちぎリ号を攻撃』します。行動不能状態まで。開始。』
アブラシオは『ぶっちぎり号』を攻撃した。
強力なレーザービームが走る。
しかし、その瞬間に急停止した『ぶっちぎリ号』にビームは当たらず、『暗黒宇宙船』を直撃した。
『暗黒宇宙船』のわき腹から、「アブラシオ」めがけてすぐに報復攻撃があった。
『攻撃を受けました。損傷なし。分析中。物質を分解する能力がありますね。アブラシオ以外の火星や金星の船ならば、確実に破壊されてます。しかし、正体は不明。なんだか、一種の声のような・・・。反撃しますか?』
「ねえ、リリカ、いまのは狙い損ないなんだ。向こうの意図を聞こうよ。」
「わかった。アブラシオ、『真っ黒野郎』に、さっきのは、狙って撃ったんじゃなくて、狙いが外れたこと、向こうの意図を可能なすべての言語、信号で問い合わせて確認せえ。」
『了解』
「ねえ、リリカ、ちょっと聞いてほしいんだ。」
ダレルが下手に申し出た。
「いまは、だめじゃ。緊急事態中じゃ。」
「わかってるよ。でも、いいかい。おかしいと思わない? ブリューリもヘレナも人間を大量に捕食するのに、食べかすも出さず、排せつもしない。消化器官もない。すべてがエネルギーに一瞬に変換されるのなら、体の内部で核融合してるようなもので、平気でいる方がおかしいよ。」
「じゃから? それが今、何か関係あるんか?」
「いや、何かおかしいと思う。それだけだ。」
「そうか。わかった。後で考えよう。アブラシオ、回答は?」
『今のところありません。しかし、攻撃もありません。』
「『ぶっちぎり号』は?」
『そうですね、自転車に乗っていて、引っ張っていたひもが、柱に絡みついて急停止したような感じです。でも、こちらの攻撃が、かわせるはずはないですね。光速以下で動いてるのですから。』
「つまり、なんじゃ?」
『ヘレナを、空間ごとすくい上げようとしたようです。失敗しました。しかし、失敗したのは誰かが干渉したせいですね。アブラシオの攻撃が外れたのも、おそらくあの謎の『暗黒宇宙船』が介入したからでしょう。あの「宇宙船」についても引き続き分析していますが、正体がまだ掴めません。中身が全く見えません。不思議です。』
「光の軌道を曲げたとか? でもさすが、大胆だね。ドクとデラべリ先生のすることは。これで『暗黒宇宙船』の意図は、少なくとも「ぼく」じゃなくて、「君」と近いらしいということは、分かったね。」
「おい、先生、大丈夫かい?」
マ・オ・ドクが立ち上がりながら尋ねた。
「はあ、びっくりしました。失敗ですな。」
「しかし、あのバカでか宇宙船の攻撃が外れた。」
「ええ、誰が見方で、誰が敵なのかわかりませんな。次の手を行きましょう。」
「まだあるのか?」
「まあね。なんせ嫁とり競争ですからな。あれ、動かない。」
「なんだ?」
「いやあ、こっちもこの空間にくっ付いてしまったようですなあ。ははは。」
デラベラリ先生が大笑いした。
「はあ・・・・・。」
リリカの精神が宿った体は、『ゴンドラ』に乗ったままで第九惑星の大気圏内に降りて行った。
「壊れないほうが、不思議ね。何でできてるのかな。まあ、この体が生きてるのが不思議というべきかな。地球の未来は、なかなか大したものらしい。」
アブラシオは、とても人工物とは思えないような代物だけれど、全体が白い色なので、明るいところで見ると、少しは軽く見える。
しかし、目に前に見えて来た宇宙船は、すべてが真っ黒で、それだけで威圧感と高級感がものすごくある。
「女王様のお話では、これひとつが、正真正銘の生き物なんだとか。信じろと言われても、無理よね。さて、いただいたこの通話装置で、お話してみましょう。」
リリカ(精神)は、小さな補聴器のような機械を取り出し、右耳に、はめた。
女王の体が見えてきた。
そのすぐ上に、もう一人が漂っている。
あれがアマンジャだ。
巨大なクジラのような宇宙船、いや宇宙船のような「宇宙クジラ」・・・がその上を覆っている。
ほんの一瞬の隙間だった。
「エビス号」が、ゴンドラの正面方向に現れた。
宇宙クジラは、たぶん「ゴンドラ」の方に気をとられていた。
「エビス号」は、千載一遇の機会を捕まえ、アマンジャがどこからか手に入れた「空間砲」を打ち抜いた。
淡い光の束が、ヘレナとアマンジャを通過し、リリカの「ゴンドラ」をもとらえて、さらに「ブリューリ」も通り抜けた後、宇宙空間に消えて行った。
「ぶっちぎり号」は、その軌道から外れていた。
「もしかして、これって女王様のシナリオには無かったわよね。なぜなの? でもこれで未来とのつながりは絶えた。私の仕事は、もう終わった。」
意識が、空間と同化してゆくような、おかしな感覚を味わいながら、リリカ(精神)の体は、ゴンドラごと消えて行った。
女王の姿も、アマンジャも消えた。
「ブリューリ」もまた、消えてしまった。
あとには第九惑星と、周回する金星の宇宙ステーションと、せっかくやってきたのに、もう、するべきことを失ってしまったダレルたちとが残された。
すべてを見届けたように「宇宙くじら」も消えてしまった。
・・・・・・第三王女様へのインタビュー・・・・・・・
作者:「本日は、なんとタルレジャ王国の第三王女様においでいただきました。王女様、本当にお目にかかれまして、光栄です。」
第三王女:「いえいえ、こちらこそ、感謝いたしますのです。」
作者:「第三王女様は、日本語は少し、苦手と聞いておりましたが、とてもお上手ですね。」
第三王女:「まあ、あらがとうございます。それほどではないことなのでございまして。なにしろ、日本では少ししか、生活できなかったので。」
作者:「はい、お生まれになってすぐに母国にお帰りになりましたね。」
第三王女:「そうれすです。わたくしは、でも、日本生まれですね。皆さんと同じです。日本人の名前も持っています。「友子」です。」
作者:「なるほど。日本の食べ物でお好きなものがありますか?」
第三王女:「ああ、「焼きそば」ですね。あれは、おいしいてす。」
作者:「ああ、第一王女様も「お茶ずけ」がお好きとか、おっしゃってましたが。」
第三王女:「はい、お姉さまは、王宮でもよく「お茶づけ」作ってますです。」
作者:「ほう。そうですか。焼きそばは、お作りになりますか?」
第三王女:「はい、お湯かけるだけ。すぐ「焼けます」です。日本の技術はすごいです。」
作者:「ははは、なるほど。確かに、焼かないのに、「焼きそば」とはこれいかに、ですな。」
第三王女:「はい。日本人はそうした「疑似的食い物を作るのがうまい」と、お姉さまがいつも申しておりますが、これはあまり、褒めてないですのか。もしかしたら。ほほほ。」
作者:「いえいえ、十分褒めてます。お姉さまお二人は、王宮ではお優しいですか?」
第三王女:「まあ、優しいが70%で、怖いのが30%ですね。」
作者:「どういうあたりが怖いですか?」
第三王女:「ときどき、お二人でいる時には、角とか牙が生えていますね。」
作者:「え? あ、そうですか。いや、まあ、それは怖いですね。確かに、振り返ったら・・・ああ、ところで、第三部からは、いよいよ第三王女様が主人公になられます。お気持ちはいかがですか?」
第三王女:「緊張しておりますのですね。非常に。」
作者:「なにかお言葉を頂けますか?」
第三王女:「あ、はい。間もなく、地球は、すべて、わたくしが支配いたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。もはや抵抗しても、無駄ですかね。ほほほ。」
作者:「ははは、いや、今日はありがとうございました。十分怖かったです。ははは。」
第三王女:「はい、じゃあまた、きっとお目にかかれますね。さようなら。」