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わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第四章 

           光の人類(1)


「個々の個体がすべて転換するのには、五千年はかかるとの説明が就任時にありましたが、それは正しいのでしょうか?」

 首相が尋ねた。

「まあ、そういう事にしてあるけれど、それではいくらなんでも時間が掛かりすぎだよね。実際はね、あとたった五百年で、アッという間に完了させるつもりなんだ。ここだけの話だけれど。ぼくはそのつもりでいる。君は強固な不感応者だから安心だけれど、相手はあの女王と怪物だ。用心が大切だからね。そこまでには、まだかなりの駆け引きが必要になる。実のところ、技術的には、ほぼ完成に近い状況なんだよ。ただ問題がある。」

「問題?」

「そうなんだ。まだ達成率が低すぎる。転換できずに消滅する個体が全体の八割を超えている。これでは自滅に近い。どんなに悪くても、成功率が五割にまでは高めたい。あともう一歩なんだ。」

「五割。半々ですか。」

「まあね、賭け事にしては悪くないだろう。急がないとみんな食べられてしまうよ。条約なんて、ヘレナは重視してくれても、怪物にとっては冷蔵庫に暫く入れておく程度の認識しかないからね。今はあいつも急ぐ必要はないと考えてくれているようだが、いつ気が付くかわからない。首相、君だから言うんだ。解ってくれるよね。」

「この会話は、安全なのですか。」

「ああ、多分。それだけの事はしたからね。でもね、早くしないと、先に光になった同志たちにも、消滅した大部分の同志たちにも、申し訳ないものね。」

 ビューナスは、男性形態ではあっても、そのあまりに美しい半裸の肉体を、椅子の上でぐっと後ろにそらしながら言った。

 それから立ち上がった時には、もう女性形態に変貌していた。

「わたし、ちょっとお散歩ね。」

 傍らにあった挑発的な服を身に着けながらそう言ったビューナスは、そのままふっと消えてしまった。


 金星表面の深い山の中から、千メートルほど降りたところ。

 そこに広がった人工的な洞窟の中に、ビューナスは降りて行った。

 人間にとっては、かなり暗すぎるぼやっとした照明の中で、まるでほたるのように小さな光が舞い踊っていた。

「いらっしゃいませ、ビューナス様。」

 どれかの光が話した。

「こんにちは。これはどなたかしらね。ごめんなさい、わたしには区別はつかないの。」

 女性形態のビューナスが、少し申し訳なさそうに言った。

「これは、アマモAなのです。」

「そう、ありがとう。では、アレクシスはいますか?」

「アレクシス?アレクシスはいますか!お客様なのです。」

 彼方の方から、別の光がやってきて、そうして言った。

「アレクシスなのである。おや、ビューナス様ではないか。」

「こんにちは。久しぶりね。どう、様子は?」

「まあ、まあである。問題はない。うまくいっている。新入りさんも少し自分に慣れたのだ。まだ体があるような感覚があるようであるが、それは仕方がない。」

「そう、もう少ししたら、仲間がいっぺんに増えるわよ。そうなったら、あなたも忙しくなるわ。」

「ビューナスはいつ来る?」

「さあ、わたしは一番最後のつもりだけれどね。」

「なるべく早めがよいのである。ローテーション装置の具合が少し良くない。いつかコントロールが効かなくなるのである。」

「まあ、空中都市の方が先にイカレルわよ。時間の問題ね。」

「ヘレナはご機嫌かな?」

「それがねえ。このところブリューリ化がかなり進んでいるのは間違いないのね。まだ正気を保ってはいらっしゃるけれど、これももう時間の問題。全部が競争ね。」

「もともと金星のお尻から手を突っ込んでかき回したのは、ヘレナなのであるぞ。そこんところをみな忘れてしまっているのであるぞ。」

「気品のない表現とはいえ、まあアレクシス以上に詳しい人間はもういない。勿論女王様は大切にいたしますとも。なんとかして、あの化け物をひっぱがしてあげなくちゃね。」

「戦争はするものではないのであるぞ。」

「ええ、わかってます。でも、そういうこともあり得る。アレクシス、協力してね。これからも。」

「まあ、大昔に女王様から、金星の管理者には協力するよう、言われたのである。だからそれは有効なのである。」

「ありがとう。レイミは元気?」

「いま、金星中心部の様子を見に行っているのである。ビューナス、この星は死にかけている。」

「ええ、そうね。わかってる。だからこんなに雲を張り巡らそうとしている。大きな絆創膏だもの。人間の手にはもう負えない。」

「また来るか?」

「もちろん。そう遠くなくね。」



「どうですか?ご気分は?」

 リリカが尋ねた。

「別に、何にも。」

「それはよかった。じゃあ成功です。」

「なんだか、カッパにばかされているようだ。」

「そう。じゃあ実験。」

 リリカは机引き出しの中から拳銃を持ち上げて、ダレルの足を打ち抜いた。

「おわ、何するんだ。」

 ダレルはそこにしゃがみ込んだ。

「よく見てなさい。ほら、出血が止まった。弾が排出される。組織が再生されて、傷がなくなる。」

「本当だ。これは、いい。漫画みたいだ。」

「でしょう。これであなたも、わたくしの仲間です。もう、人間じゃない。」

「よせやい。」

「死なない人間なんていません。だから死なないあなたは、人間じゃないの。」

「じゃあ、何?」

「まあ、怪物・・化け物ね。女王様やブリューリ様の同類よ。気持ちも新たに、働きなさい。化け物は化け物らしくね。」

「命令するのか?」

「当然。私はあなたの上司だから。でしょう?」

「ふうん。」

「ま、多少の言動のぶれは許してあげる。敬意は保って差し上げるわ。女王様のご子息である以上、もしかしたら次期国王ということもあり得るから。でも、それはその時よ。仕事上は節度を持ってください。いいわね。万が一従わないような場合は、厳しく対応します。」

「従わないなんて、だれか言ったか?」

「いえ、まだ。」

「じゃあ、言ってからにして欲しいな。」

「なるほど。いいでしょう。ではまず、女王様は今回の人事が早急に実施されるように、望んでいらっしゃるの。なので、就任式をあさって行います。わたくしが火星首相。あなたは副首相兼国防大臣。もちろん議会の承認は必要になります。組閣はそれからすぐ行います。」

「だれが決めるの?」

「当然わたくしです。もっとも、女王様の承認は必要ですが。こうした首相制度の導入は、もともと憲法の中に・・」

「いいよ。それは解ってるから。」

「そう、そうね、失礼。」

「そんなに緊張していては、二~三日で壊れちゃうよ。もっとリラックスしてやろうよ。」

「ああ、それは、ありがとう。実際経験もないしね。なんだか、あなたずいぶん余裕ね。何か企んでるのかなあ。」

「よく言うよ。女王といい、君といい、ぼくが必ずなにかしでかすことを前提にしてる。違うか?」

「まあ、そう・・ですけれど。」

「ふうん。まあ、確かに考えるところは実際あるけれどね。反逆じゃあないよ。」

「そう。よかった。」

「時に君、発掘現場で、何か見つけたんじゃない?」

「え、なんで?」

「いやあ、たまたま担当者が僕の知人でねえ。君が破片を持ち帰ったようだ、と言っていたからね。それが何だったのか、興味があるんだ。」

「なんでもない、小さな破片。昔の土器のね、特に意味はない。」

「ふうん・・・あそこは、発掘中止になったの知ってるよね。その破片見せてほしいんだ。」

「捨てました。それに、もう忘れました。」

「女王に、忘れるように命じられた?」

「いえ、そんなこと。お願いその話はやめましょう。頭が動かなくなるから。」

「はあ、やっぱり蓋をされたね。女王は、自分に都合が悪いことは、相手がそこを考えないように、よく脳を処置することがあるよ。」

「いやです。その話はこれで終わり。命令です。」

「だってまだ、就任してないから、命令はまだできないよ。」

「いいえ、女王様が、すでに可能になるように、御触れを出しました。先ほどね。わたくしは、あなたに命令できるの。従いなさい。」

「おおこわ。解ったよ。また機嫌がいいときにする。で、今日明日は、ぼくは自由でいいのですか?」

「まあ、特に呼び出しがなければ、身辺整理をしていてください。あなたの住居は城内に移転させます。」

「え?それは、ちと困るなあ。通勤したい。さまざまな実験データや、資料や機械がある。」

「必要なものはここに持ち込みます。こちらの方が広い。副首相の公邸が広大なのはご存知でしょう?」

「まあね。屋敷のふろ場と廊下の間に線路があるものね。」

「また、話をこじらせる。」

「事実さ。今はもう走ってないけれど、実際小さな電車が走っていたし、まだ線路跡もきっちり残ってる。大昔の王子が女王に頼み込んで作ったんだ。おもちゃさ。でも、王宮内を縦横無尽に走り回っていたんだ。王子はそれを自室からコントロールしていた。ちゃんと時刻表まで作ってね。女王はしっかり城内に御触れを回した。仕事中に模型の汽車や電車に出くわしたら避けること。万一接触したりして脱線させたり、脱線しているのを発見したら、きちんとレールに戻すこと。大きな事故の場合は宮廷警護員に連絡すること、とね。」

「そう、いいわ。そこらあたりは、お坊ちゃまのあなたの方が詳しいから。まあ、男の子って、そういう無駄な遊びが好きなのよね。じゃあ、あさっては朝8時に出仕して。以後は、お城に住み込みよ。」

「はあ、了解しました。次期首相殿。」

「まったく、先が思いやられます。」

 リリカはぶつぶつ言いながら、どこかに行ってしまった。

「おや、それは思いやりかい?」

 ダレルは、そうつぶやいた後、見たことのない『破片』を探してみた。

「まあ、あるわけないか。しかし、ここにもおかしな物がいっぱいあるぞ。見ろよ、あの棚はお人形でいっぱいだし、こいつは一人寂しく置きっぱなしか・・・」

 机の上には、かなり大きめの女の子のお人形が置いてあった。

 着せ替え人形のようだ。

 ダレルが少し触れると・・・

『コンニンイチハー。ナニカ、オハナシシテ。」

 少しもつれたような話し方で、人形がしゃべった。

『エ、ヨクキコエナイ。キミ、ダレ?』

「ダレルダヨ」

『ダレレッテダレルヨ、デスカー?』

「なんだ、こいつ。不良品か?ダ・レ・ル・ダヨ。」

『ダ・レ・ル、ダレル、カクニンダヨ。アタシ、オウタガジョウズデス。ウタッテイイデスカ?』

「ああ、勝手にどうぞ。」

『キョウハ、アタシノウタ、ウタウネ。イキマス。~ポカポカオテンキ、ウレシイナア~ミンナデピクニック、ニ、オデカケデス~、トコロデサガシテイルノハ、カケテシマッタオワン、カナ、ソレナラ、アタシノオナカノナカヨ。ミツケテホシイッテ、ナイテイル、~。」

「なんだ、こいつ?」

 ダレルは、その人形を持ち上げて、お腹のあたりを探った。

 服を脱がせて、お腹のパーツを外す。

「む、袋がある。おお。これは怪しい。」

 ダレルが見つけたその小さな袋の中からは、明らかに食器の一部と思われる破片が出てきた。周囲に青い刺青のような線が浮き出ている。

「ふうーん。これがなんだか、まだ解らないが。ま、いただいてゆくよ。」

 ダレルは、いつも持ち歩いている、特殊な合金の小さな箱の中に、それを入れて、上着のポケットに収めた。

 



  








































 




















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