わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第三十五章
リリカ(複写=アンナ)とアリーシャは、王宮に急いで帰ろうとしていた。
「余計なこと言うようだけど、家に寄ってあの陶器の破片持って行った方が良い。あれはお守りになるようだから。女王がいないんだから、いいだろう?」
ダレルがアドバイスした。
「ああ、そうするよ。ありがとう。気にしてくれて。」
「まあね、半分くれたお礼さ。」
「ふん、古いわいのしたことじゃ。」
リリカ(複写=アンナ)は、アリーシャを引き連れて出て行った。
「さて、ソー君。」
「ああ。なんだい。」
「ぼくらが火星を出て行ったら、間違いなくビュリアが乗り込んでくる。どんな役柄で来るかはわからないが。」
「そうだね。五日間で火星中を周回できるような役柄だね。」
「そう思う?」
「うん。どうも、ビュリアはさすがに女王様ほどには強力な力ではないのだろう。リリカのわざわざ隣に座ったんだから。しかし、もしかしたら、一種の音の出ない拡声器のようなものも、持ってるのかもしれない。どこかの誰かに影響力を行使して、世界中を飛行して回る。」
「あさってから、測量局が宇宙と火星の境目から、全火星を周回検査するらしい。これは公表されてる。」
「それだよ。きっとそれを使うと思うな。どの程度の情報を王国民の心に植え付けられるのかは、よくわからないよね。でも、次の総選挙で『青い絆』が勝てるような細工をするに違いない。『普通人』に独立心を植え付けるとかも、たぶんやるだろうな。」
「彼らとの協定では、それには協力する義務がぼくらにはある。方法については、いちいち決めてないよ。」
ソーが指摘した。
するとダレルはこう答えた。
「ああ、そうだね。でもね、ぼくはどうも、そうした強制的なやり方は気に入らないな。それはぼくたち『不感応者』の倫理観に触れるよね。それでは女王と全く同じじゃないか。それって、いったい民主主義なのかな?」
「まあ、違うと思う。でも火星人は、もう長い期間民主主義なんか経験したことがないから、きっと気にはならないだろうね。なにしろ女王様の都合で、ある日突然友人や家族がまったく別人のようになっても、ちっとも気にならないんだから。むしろ喜んでるんだ。」
「困った事だ。とはいえ、今回ここは利用させてもらう方が得策だろうね。ソー君。」
「ほう、君がそんなこと言うとは。なんだか成長したのかい?」
「まさか。僕が一番心配するのは、女王以外の誰かに対する個人崇拝の意識が、火星にばら撒かれることなんだ。リリカにであれ、ビュリアにであれ、アダモスにであれ、カシャにでも、ね。それとも、もしかして・・・」
「ビューナスかな?」
「そう、そう、そうなんだよ。そういうのはいくらなんでも、受け入れ難いだろう?」
「ああ。いやだね。」
「それなら、ブリューリ抜きの女王の方がまだましだ。」
「ほう! そうなのかい?!そりゃあ、驚きだね。」
「比べたら、の話だよ。あくまでね。そりゃあ女王抜きの民主主義が良いに決まってるさ。」
「ふうん。本当に? まあ、でも、なるほど。で、どうするの。」
「向こうが超能力で来るなら、こっちは超未来科学で対抗しなくちゃね。少し嫌でも、アーニーさんに協力を依頼するしかないよ。」
*****
アマンジャは、太陽系の惑星を巡りながら、旅行していた。
『火星』『木星』『土星』と・・・
しかし、その間隔はとても短くて、誰にも実際に宇宙を飛んでいるなど、考えにも及ばないことだった。 そうして、出発から一時間で、一般人にはまだ謎の『第九惑星』にたどり着いた。
「みなさま、ついに本日の目標地点に到着いたしました。太陽系の第九惑星。金星や地球のさらに十倍以上の質量を持つ大きな惑星です。とはいえ、木星よりはずっと小さく、天王星より少し小さいくらいの大きさです。太陽に近い火星までの惑星とは違う、ガス惑星なのです。この惑星はかつて、太陽系の外縁にある天体の動きから、存在が予測はされていましたが、あまりに暗いため、なかなか実際に発見されることが無かったのですが、今やこうして直近の映像を見る事が可能になっています。これも、金星の惑星探査技術の素晴らしさを証明しております。太陽からの距離は、近いときで300億キロ、遠くなると1,800億キロも離れてしまいます。おかげで太陽の周りを一周するには二万年もかかっています。 本日は、展望デッキからゆっくりとご覧になることができます。展望デッキではお食事もとることができます。『第九惑星デラックス定食』がご好評をいただいております。そのほか各種軽食もございます。また、当館でしか手に入らない様々な限定グッズも販売いたしております。本日は新鮮な『ババヌッキ』のジュースも格安で販売いたしております。是非ご賞味ください。」
『格安ですか?やれやれ、さて出てみますか。アーニーさん、どうすりゃいいのかい?』
アマンジャが立ち上がりながら、口の中でアーニーに問いかけた。
『了解。こちらアーニー。まず、そこから出ましょう。』
『あいよ。』
『ただし、きょろきょろしないでくださいよ。あなたの少し上空には、人間の可視波長外のところになったスパイが二人張り付いていますよ。』
『なんだい、わかりにくい言い方だね、光人間のこと❓』
『正解、気にしないで行きましょう。』
『はあ?やだねえ。トイレに行きたい。』
『是非そうしてください。トイレはスパイ活動の重要な拠点ですよ。』
『あたしは、あいにく海賊なのでね。やれやれ・・・。』
アマンジャはそのホールから階段を下りて外に出た。
『まあ、アマンジャ様、お呼び下されば、ご案内いたしますのに。』
先ほどの女性が声をかけてきた。
『いいよ。一人が好きだからね。展望台はどっち?』
『あ、ここをまっすぐでございます。ラウンジも併設されております。どうぞご利用ください。先ほどのチケットで三割引きになりますので。』
『ほう?お土産も?』
『はい。さようでございます。』
『お手洗いは❓』
『あ、そちらは、反対側です。どうぞ。』
『ありがとう。』
アマンジャはお手洗いに向かった。
『トイレですよね。』
アレクシスがレイミにささやいた。
『トイレですよね、なのですよ、だったりして。』
『レイミに任せる。男の出番ではない。』
『アレクシスの出番ではない、のですか、だったりして。』
レイミだけがお手洗いの中にすっと入って行った。
一方では、アーニーがアマンジャに説明をしていた。
『いいですか、まずざっと聞くだけにしてください。その宇宙船は現在第九惑星の周囲をめぐる宇宙ステーションにドッキングしています。あなたにはステーションの方に移動していただきたい。先ほどお話したステーションの交代要員が現在休憩室で時間待ちしています。まもなく宇宙船から移動するでしょう。そのうちの一人をアーニーがこれから誘拐してきますから、あなたはその人と入れ替わってもらいます。方法は任せてください。あとで説明しますから。恥ずかしいとかは言いっこなしです。アーニーはコンピューターですから。気になるなら女声で話しますが。それと、新しい情報ですが、マ・オ・ドクが、たったいま『ぶっちぎり号』で出発しました。さらにダレルさんとソーさんが、新巨大戦艦『アブラシオ』に乗船しました。アーニーのライバルです。スピードはどちらもよい勝負ですから、到着もそんなに変わらないでしょう。五日はかかります。でも、こちらも実際ヘレナを見つけるには、少し手間取りそうです。アーニーの計算では、惑星本体のどこかにいると思いますが、いろんな邪魔な電磁波やら放射線やらがいっぱいありますからね。あなたの本心は、ヘレナを救出することですか? マ・オ・ドクは同じ目的ですが、どうやらその後が違うようですね。ダレルさんはよくわかりません。ビューナスの最終目的は、金星人が、光の人間となって、火星も地球も従属させることで太陽系の統一を達成すること、だと思います。ダレルさんは、そうじゃなくて、火星人が主人公になる事で太陽系の統一をしたいという事が、最終目的だろうと思います。しかし、『青い絆』はそれぞれが独立した民主主義社会を作ることが目標のようですし、リリカさんは、そう言う意味では、『青い絆』にもともと一番近かったのでしょう。しかし、ビュリアさんは理解不能です。一人でヘレナの後釜として、完全独裁を狙っているかもしれません。それぞれが違う思惑がありますから、ヘレナをどうしたいのかも、多分同じじゃあないでしょう。』
『あたしゃ、ヘレナを連れだすことだけ以外にはなにも無いよ。なんで、そんなに解説してくれるのさ?』
『あなたは、救出後のヘレナを、この宇宙から追放しようと考えている、からです。ここは絶好の場所ですよね。』
『おらま、お見通しかい? あんたすごいね。じゃあ最後まで手伝っておくれじゃないかい。』
『あなたの宇宙船が、そっと追跡してきています。でも、異空間に隠れていて、ビューナスにも、ダレルさんにも、マ・オ・ドクにも、まだ見えていないでしょう。でも、アーニーには見えていますよ。でその船内には『棺桶』が積まれています。ヘレナを詰め込むつもりですね。いったいどこで、空間ジャンプの技術なんかもらったんですか?』
『ないしょ。』
「はあ、まあいいですよ。とにかく、そういうことで、それぞれが、それぞれ各自の思惑で動いています。そこんところは、ご理解ください。アーニーは、もうしばらくは、あなたと、ご一緒しますから。でも、最終的には、アーニーも、あなたの意思に反する行動をとるでしょう。あとは、まあご自分で頑張ってください。』
『あんたは、誰の指示で動くのさ?』
『それはもう、ヘレナです。』
『なるほど。』
『じゃ、いいですか、のぞきませんから、すんだら言ってください。レイミも中までは入ってゆかないようです。』
*** ***
『ほら、すんだよ。』
『了解。いいですか、じゃあ誘拐した職員さんと、あなたの姿を入れ替えます。もっともこれは人間の目に映る姿を交換するだけで、実際のところあなたはあなたです。しかし、医者が見ても間違いには気づかないでしょう。職員さんの方はしばらく黙っててもらいます。じゃあ、貴方と職員さんを空間移動させて交換します。』
『え、そんなことができるのかい。それじゃあ、宇宙船なんかいらないじゃないか。』
『今のところ、あまり遠くは無理ですから。まあ、これからどんどん改良してゆきますよ。もうすぐ、大陸ごと、正確に目標に移動できるくらいにはなります。じゃあ、やります。』
レイミは、ドアの外で待っていたが、アマンジャがなかなか出てこない。
『これはおかしいのではないのではないのです。この際偵察しますのですのです。・・・・あらら、大変。倒れてる!アレクシス、事故事故、報告。事故、事故。』
レイミはトイレの中の、非常ベルを鳴らして、アレクシスを呼びに行った。
すぐに、救護隊員も駆けつけてきた。
『まず、救護室に運びましょう。』
女性の隊員たちがてきぱきと動いた。
『レイミ、これはどうするのであるかな。』
アレクシスがささやいた。
レイミが答えた。
『ついて行くのですかあ、だったりする。』
『わかった、しかしアレクシスは、報告もするのである。』
「はい。報告して下さい、ですかあ。』
光人間の二人は、とりあえずアーニーの計算通りに、偽アマンジャにくっ付いて行ったのだった。
『要改修』