わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第三十四章
稀代の変人と目されている、海賊マ・オ・ドクのところの参謀がデラベラリである。
基本的に、人間と付き合うのは大嫌いな男だ。
寝ているとき以外は、ほとんど何かの機械と向き合っているか、本を読んでいるか、音楽を聴いているか、あるいは本人が開発した「暇無し体操」とかいうモノをやっている。
この体操は、結構危ない体操で、手掛かりがほとんどない直角の斜面を命綱もなく登ったり、プールの高いところに設置された板から飛び込んで、さらに泳いでみたり、マ・オ・ドクの要塞衛星を宇宙服を着て走り回ったりする。
しょっちゅう、何かに向かって独り言を話しているし、たまには奇声をあげたりもする。
しかし一方寡黙で、めったに人には口をきかない。
何を考えているのか、マ・オ・ドクでさえ全く分からない。
その、デラベラリが、突然指令室のマ・オ・ドクの後ろに現れて言った。
「見つけました。」
「何を?」
マ・オ・ドクが聞き返した。
「たぶん、女王だと思います。」
「え? どこだ、どこだ。」
マ・オ・ドクの目の前にスクリーンが現れた。
何らかの信号が、視覚化されてグラフになっている。
「これは、人間には普通感知できない、思考通信。まあ、テレパシーというものだと思われる。もちろんどんな通信機器でも受信は不可能。当然、内容も意味もまったくわからない。しかし、通信ができる以上は空間内の物質になんらかの動きがあるはず。この感知器は、宇宙空間内に伝わる様々な物質の動きを感知し、その中から通常の通信や、意味のない自然な雑音や、そうしたものを取り去った残りから、何かの意味があるだろう「動き」を抜き出してゆく。重力波通信なんかも、あれば感知できる。ぼくは、いずれダークマターやダークエネルギーの検出もできるようになると思っていた。」
「それは、あんたの夢の中の話だろうに。」
「まあ、かなりは。」
「はあ。」
「しかし、「量子もつれ」の現象は大分昔から確認されていた。人間の離れた脳同士がお互いに反応しあう。ぼくは、これを機械で測定することが可能だという事を発見した。」
「本当に?」
「そう。ただしその内容はわからない。」
「ふん。で、このブラフは、その測定結果ということか?」
「まあ、統計的にみてね。ぼくはここしばらくずっと、女王の所在地から発せられるさまざまな物質の動きを観察していた。あの女からは、常人では見られない、量子レベルの、おかしな活動がたくさん起こる。しかも強烈な強さで。たぶん、ブリューリとの通信かもしれないし、他人を支配するための彼女の意思の送出でもあるんだろう。で、今回宇宙の様々な場所でその検出につとめて来ていた。しかし、なかなか見つからない。異空間に閉じ込められた可能性もある。そうだとしたら、検出できるかどうかは、これは非常に苦しいだろう。お互いに何の関連性も無ければ、何にも感じない。まして、どのくらいの距離なら感知可能なのかもわからない。でも、この「信号」は、非常に強力で、女王のものとそっくりだし、その可能性が高い。」
「どこから来てる?」
「確実じゃあないが、太陽系のもっとも端っこあたり。第九惑星の軌道付近だと思う。」
「いいかげんな。遠すぎだよ。あいつは、太陽を二万年近くかけて回っている。」
「今は、太陽から約1000億キロ離れていますね。」
「『ぶっちぎり号』で行っても五日はかかるぞ。」
「行きますか?」
「普通なら行かない。時間の無駄だ。商売にもならん。しかし、嬢ちゃんがそこにいるなら助けに行く。」
「化け物でも?」
「怪物になっていようが、お化けになっていようが行く。俺の責務だからな。」
「はあ、相手はそこまであなたの事を、思ってくれていますかな?」
「それは関係ない。俺の勝手な責務だ。」
「ええ、いいでしょう。『ぶっちぎり号』の準備は、もうしておきました。しかしこの背景には、ビューナスがいますよ。いいんですか? もめますよ。あなた、殺されるかもしれない。」
「もめさせたくはない。が、まあそれはそれ、これはこれ。商売道具を積んでくれ。新規開拓営業だからな。それと隔離病棟のブースを一人分。」
「はあ、一人は見捨てますか。まあ、退屈だからお供します。」
「ありがとう。もし食べられたら、その時は、悪かったな。」
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リリカ(本体=アンナ)はいくぶん機嫌が良くなかった。
「ええツらにまかせていていいんか? わいら、暇でしょうがない。」
アダモスが慰めた。
「まあ、待て、いずれすぐに出番が来る。間もなく「首相令が」発令される。政府の陣容が変わる。そこに我々は閣僚を送り込む。最初は一人だが、やがて自然に我々の仲間が多数を占めるようになる。」
「で、おまえが首相になるのか?」
「悪いな。いずれ首相になるのはカシャ、君さ。しかし最初に閣僚として入り込むのはビュリアだよ。他にいない。彼女が入れば周囲はみんな仲間になる。問題はダレルだ。こいつは、おそらく排除する必要がある。」
「わいは、どがんするんなら。」
「君は、「青い絆」の幹部でいてほしい。」
「もう一人のわいは?」
「彼女はすでに、ビュリアの忠実な腹心になった。副首相が適任だ。」
「たしかに、同じ顔が二人いちゃあ、まじぃわな。」
「うん。しかし、君たちには時々入れ替わってもらう。」
「ふうん・・・兄さんは何なんだ?」
「ぼくは「青い絆」専門だよ。」
「それでいいのか?お前の方が政治家向きだろうが?」
「違うね。僕は政治家向きじゃない。わかってるんだ。」
そこに伝令が入ってきた。
「失礼。ちょっと火星で事件が持ち上がっているようですよ。これがレポート。」
「ありがとさん。」
カシャが受け取った。それから、アダモスに同じ写しを渡した。
「ふうん・・・。これは、ぼくらが思っていたよりも、現実は速く動いている。」
彼は、レポートを皆に回した。
何も言わずに、暗がりにずっと埋もれていたビュリアが発言した。
「私は、火星に行く。」
「え?いまから、か?」
「そう。すぐに。女王がいない間に、火星の人心を支配する。またとないチャンスだ。」
「しかし、女王が戻ったら、意味がないのでは?」
「たしかに、女王の力に比べれば、私の能力は問題外なのではある。しかし、やってみるべきだ。「青い絆」への信頼感を醸成する。それだけ位なら可能だ。五日もあればできる。女王が戻らなければ、革命は成功したも同然だ。」
「ふうん。まずは捕まらないように気を付けてくれよ。」
アダモスが言った。
「そんな、どじはしない。ボルに送ってもらってほしい。入管なんか通りたくない。」
「わかった。向こうのリリカには?」
「私が指示する。」
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「リリカ大丈夫か?」
ふっと気が付くと、ベッドに寝かされていた。
「やあ、ブリューリの細胞は排除した。いい実験材料が手に入ったよ。」
「あの、怪物は?」
「それが、眠ったように動かなくなった。というか、生きてるのか死んでるのかの区別さえ、見た目はつかないな。体温もぐっと下がって、冬眠してるみたいだ。おかしな生物だよ。」
「生き物じゃあないのかも。」
「はあ?人間を食べるんだ。生き物だよ。」
「食べてるところは、まだ調べていない。」
「まあ、そうだけどね。この際、『食用普通人』を使おうかと思うんだ。」
「あなたは、やりたくないのだろう?」
「まあね。でも、その前に、君が言ったセリフ、君は覚えているの?」
「ああ、覚えとる。勝手にしゃべっていた。わいの意思じゃあない。」
「ふむ。女王だと思う?」
「まあ、そうじゃろうのう。」
「ふうん。実はね、『アーニー』から情報をもらったんだ。現在アマンジャが金星から、どうやら第九惑星に向かっていて、もう到着する。普通の宇宙船とかじゃない。ビューナスが作った、空間ジャンプができる特殊な船らしい。また、マ・オ・ドクが自慢の『ぶっちぎり号』で出発した様だ。こちらは光速の八割くらいは出せるらしい。もう少し早いかもしれない。」
「ふうん。じゃあ、あなたも行きなさい。」
リリカ(複写=アンナ)が大分気分が良くなってきたのか、起き上がりながらあっさりと言った。
「何しに行くの?」
「お母様を助けるのよ。」
「女王を? やっと追放したんだ。助ける理由がない。」
「なら、言い方を変える。アマンジャも、マ・オ・ドクも女王様を助けようとするじゃろう。阻止した方が良くないか?わいとしては、阻止してほしいんじゃが。それが女王を助ける道じゃろう。永遠に封印してさし上げるのじゃよ。」
「それは、ビュリアの意思かい?」
「まあ、そうじゃ。」
「きみ、たしか、あの陶器の破片を研究していたよね。」
「ああ、あれか・・・。あれは進展しておらぬ。」
「進展させるのを、やめているのかな?ビュリアの意思で。」
「勝手に想像せえ。」
「ふうん。(こいつ僕が破片の半分持ってるの知ってるはずだよな。何だろうな。どうもこいつの考えは読めない。こうゆうとき無能力者は不便だな。ビュリアが火星に乗りこんでくるつもりかな。まあ、面白いか。)」
「でも、第九惑星なんて小さな宇宙船では疲れるしなあ。」
「いいわ。アブラシオを使わせてあげる。できたばかりの巨大戦艦。女王様の言う事しか聞かないが、女王様に事故があったときは、わいに従う様になってる。たぶん、今は従うじゃろう。第二衛星の秘密ドッグに入れてあるから、使いなさい。」
「ビューナスと戦争になりかけたら?」
「まかせる。」
「ほう? それはまた大盤振る舞いなことだ。僕は火星にいないほうが良いらしい・・・かな。」
「いや、そういう訳ではない。」
「ははは、いいよ。わかった、じゃあ行くよ。でも結果も任してくれよな。文句言いっこなし。いいね?」
「報告はきちんとしなさい。」
「ふうん。帰ってみたら、みんな怪物に食べられてるかもしれないね!ぼくは、そんなところにいたくはない。」
「心配はいらん。わいも行く。」
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