わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第三十二章
アマンジャは、周囲を見渡しながらボックス席に着いた。
小さなテーブルも置いてある。
しかし劇場とは違って、ここはこのホールのど真ん中である。
「やれやれ、端っこの方が良かったなあ。これじゃあ囚人環視状態で動きが取れないよ。」
途中で偵察に出かけるつもりだったアマンジャは、ちょっと困惑していた。
「まあ、おそらく、どうせ真っ暗になるから良いようなものを。監禁状態だものなあ。」
別に鍵をかけられた訳ではないけれど、これで動こうとしたら目につくに決まっている。
そこに、接待係の女性がやってきた。
「いらっしゃいませ。本日はようこそ当館にお越しくださいました、アマンジャ様。お飲み物は、お酒がよろしいですか、それともジュース?」
「ジュースは何だい?」
「本日は、新鮮なババヌッキでございます。」
「じゃあそれでいいよ。」
「かしこまりました。間もなく上映が始まりますが、上映中は危険ですのでご移動はご遠慮ください。どうしても必要な場合は、この呼び出しボタンをご利用ください。わたくしがご案内いたします。途中で一度休憩が入ります。前半一時間、後半一時間で、休憩時間も一時間でございます。休憩中は軽食もお食べになれますし、お土産のお買い物もできますよ。当館限定の商品がたくさんございますので、ご利用ください。では、どうぞお楽しみください。」
「どこに連れてってくれるのかい?」
「それは、ご覧になっての、お楽しみでございます。」
「ああ、了解。ありがとう。」
彼女はボックス席から出て行った。
「やれやれ、名前まで言ってくれなくていいのになあ。」
と、ぼやいているうちに、すぐにまた彼女が、ババヌッキのジュースを持ってきてくれた。
「異空間の暗闇の中でも、このテーブルとジュースは浮き上がって見えます。こちらはおつまみです。では、間もなく開始となりますが、この後、一般のお客様用にアナウンスが入りますので、お許しください。」
「ああ、わかったよ。」
***** *****
タルレジャ王国第一王女と第二王女は、大使館からすぐ空港に向かうはずだったが、二人を乗せた車はなぜか道を外れて他所に行ってしまった。
「ちょっと寄り道するから、あなただけは、一緒にいらっしゃい。」
リリカの精神が入った女官の車は、王女たちの自動車に続いて道をそれた。
他の車はそのまま空港に向かって行ってしまった。
それた車が向かったのは、アメリカ国の大使別邸だった。
黒服にサングラスの、いかにも怪しい男たち(女性もいたが)が大勢取り巻く中で、王女二人はそれでも丁重に建物の中に案内されていった。
一方リリカと数人の御付きは、「適当に」と言っては何だが、まあ「適当に」大部屋に放り込まれてしまった。おまけにドアの前には監視役が張り付いているようだ。
「やれやれですね。」
もう一人の女官が、あきらめたように言った。
「王女様が心配です。」
「ほんとうに。」
リリカの精神も同意した。
未来の地球で話されているタルレジャ王国語は、火星の標準言語によく似ている。火星語が源泉となっていることは明らかだ。
軟禁状態ではあるが、しかしテレビが用意されていて、そこではどこのチャンネルでも、火星人たちの動向やら、地球人側の対応やら、いわゆる「識者」の対談やら、なぜ「北海道は消えたのか?」など、いずれも火星人問題ばかりが放送されていた。まあ、無理もない事だ。
そこにリリカの精神の意識の中に、女王様からの意識が入ってきた。
『では、これからタルレジャ王国第一・第二王女と、アメリカ国日本大使キャサリンさんとその仲間たち、そうして、特別ゲスト、アメリカ国特別顧問の、シモンズ・フォン・デラベラリさんのトーク・ショーを中継いたしまーす。解説は、わたくし、ヘレナ第一王女ですよおー。』
「デラベラリって、あのデラベラリの子孫かしら? まさかね。」
そのトークショーは、王女たちと大使一行の挨拶から始まり、やがてすぐに、シモンズ・フォン・デラベラリだけとの話し合いになって行った。
『さて、で、あなたは何を聞きたいのですか?』
・・・・【いま、わたくしが、シモンズさんに質問いたしましたよう。】
『ぼくは、貴方がたと、直接、是非お話がしたかったのですよ・・・』
・・・・【これが、地球一の天才少年シモンズさんです。生意気なやつなの。ちなみに、かつて火星地 域で暗躍した、いえ活躍した大海賊マ・オ・ドクの顧問、デラべリ先生の遥か彼方の子孫で す。勿論本人は知りませんけれどね。マ・オ・ドクの子孫もその後地球に移住し、その末 裔は、やがて地球の指導者のひとりになります。今のところは、ね。その人は。マ・オ・マ といいます。】
『・・ふうん、強いんだね。』
『だって、王女だもの。』
・・・・・【くそがきが、わたくしを皮肉っています。】
『そうなのか、王女様って。ところで、あの「リリカ」って人は知合いですか。』
・・・・・【はい、出ました。あなたのことですよお、リリカさん。】
『は?どうしてですか。』
・・・・・【ここは、ごまかしております!】
『だって、あの人、君たちに、とってもご執心だから。最初から指名して来るんだから、相当よく知ってる わけですよね。『火星人』なのに、ですよ。あ、『火星人』とは、はっきり言ってないよね・・・』
・・・・・【ね、やなやつでしょう。でも、まあ頭は良いのよ、あれでね。あなたこの子、過去の火星 に連れて行ってくれない? やっぱり、だめかなあ。】
『わたくしたちが、あの『火星人』らしき方と、もとから知り合いだったって、言うのかしら。それか、共犯者と。』
・・・・・【と、わたくしがそそのかしておりますの。】
『そう、だとしたら、物凄くこの話は単純になるでしょう。』
『ふうん。あなたって、すっごく失礼ね。お話としては、面白そうだけれども。王女に対して、初対面でそんなこと、普通、言う?』
・・・・・・【と、もう悪役そのものを演じておりますのよ。わたくし、悪い子でしょう?】
『面白い? どうして? ぼくは面白くなんかないよ。だって相手は、何者にしても、凶悪な犯罪者だよ。北海道の住民と、土地を、略奪して、殺害まで示唆して強迫したんだ、もし、王女様が仲間なんだったら、王女様も恐ろしい犯罪者、ということになるでしょう。・・・・・・』
・・・・・・【まあ、憎らしいこと。でも、当たってるわよね。だから・・・】
『なるほど。』
『否定しないの?』
『否定します。私、仲間じゃあないわ。これで、いいかしら?』
・・・・・・【大嘘よねえ。リリカさん。あなたは大切な仲間よ。】
『あなたは?第二王女様】
『それは、私も、あの『火星人』さんの仲間ではありませんわ。』
・・・・・・【はい、ルイーザ様の登場よ。さっきも言ったでしょう? なかなか怖い妹なのよ。で も、これも大嘘。この時は、ルイーザにわたくしの分身を植え付けて間もなくなの。わ たくし自身に、すっかり染まっている時期なのね。このころはよかったなあ・・・】
『仲間じゃなくても、たとえば、あの『火星人』は王女様たちの部下とか、かもしれない・・・。』
・・・・・・【わたくし、リリカさまを、『部下』なんて思ってないわ。お友達なの。ちょっとしらじ らしかった?】
『・・・・・いま、おたくの軍艦を動けなくしている不思議な力だって、北海道を消したトリックだって・・』
・・・・・【トリックじゃやないわよね。実際、異次元に交換転移させてんだからネ。】
『・・・巨大な宇宙船だって、君たちが持っていた力かもしれないでしょう。」
・・・・・【大正解!でも、ここではまだ、認めないわ。もう少しじらしてあげるの。】
『あの、でっかい宇宙船も?あんなもの私たちがどこで作れるの?どこに保管していたの?タルレジャ王国が、いつ宇宙船を打ち上げたの?・・・』
『それは、うん、ないよね。』
・・・・・【あらま、あっさり言ったわね。】
『ほらごらんなさい。言いがかりです。』
・・・・・【ね、この子、何だか楽しいわ。】
『・・・確か、第一王女様はタルレジャ教団の第一の巫女ですよね。』
・・・・・【さあ、きました。ここからは、あなたよく聞いておいてね。あなたには、ほとんどまった くない概念だからね。宗教というのは。】
『ええ、そうですよ。』
『偉い人ですよね。』
『偉いかどうかは解らないけど、重要な立場です。』
『そう、しかも、タタルレジャ教に関する知識では、どんな学者でも歯が立たないほど詳しいよね。」
・・・・・【そりゃそうでしょう。だって、『タルレジャ教』は、私が創始したのだから。いい、リリ カ様?あなたの時代には、まだ始まっていないこと。だからあなたはまだ知らない。でも、 もう間もなくそういう事が起こる。そういう事態を引き起こすのはあなたな訳よ。つまり、 実際の、つまり陰の「タルレジャ教」の創造者は、あなたなわけなのよ。これ、知っておい てね。未来を知るって、大変なことよね。】
『最近は、一概にそうとも言い切れませんよ。私が掴んでいない事実を知っていらっしゃる学者の方も増えてきております。』
『それは、あなたが徐々に開放政策を取っているからでしょう。・・・・』
・・・・・【ほんと、意地が悪い子ねえ。でも、気に入ってきたわ。】
『あなたって、相当いやな男の子ね。』
『そうだよ。ところで現在のタルレジャ教の聖典では、タルレジャ教団の祖先、つまり大司教様は『偉大なる赤い星』、火星から来たと書いてるよね。』
・・・・・【だって、本当だもん。では『タルレジャ教』の大司教様って、誰でしょうか? お分かり になりますか? そう、その通り。わたくしですよお。いくらなんでも、簡単だったか な。】
『ええ、そのとおりです。』
『君はそれを信じているの。』
『ええ、もちろん』
『で、君は、その教祖様の直系の子孫なんでしょう。」
・・・・・【本人ですよ!ただね、この肉体は、まさに直系の子孫なんだなあ。本当にね。』
『そう伝えられています。』
『ということは・・・『火星人』が君たちを地球の支配者に据えようとすることも、全然おかしくはない訳でしょう。君から見ても彼らは仲間なんじゃないのかな。』
・・・・・【またまた、大正解。でも、もう少し反論します。だってキャサリン大使たちも聞いている からね。】
『偉大な教祖様が火星を出たのは宗教学上の推論では、今から三億年前です。一億年間宇宙で修業をし、二億年前に地球にやってきたと言われております。・・・』
・・・・・【これは、大ウソね。まあ、宗教的誇張という事かな。ただ一億年宇宙で修業した、これは 結果的に事実に基づいたお話よね。だって、あなたと一緒に修業したでしょう? 実際 は、わたくしは二億年間修業した訳よ。後からみてみれば。】
『・・・二億年地球で生きてもまだ『火星人』と呼ばれるのかしら?それで三億年前の仲間が今でも仲間かどうかなんて、まともにそう考える方がおかしいでしょう? それに、じゃ、なぜわたくしは無視されてるわけ?『火星人』が地球の支配者に選んだのは、私の妹二人よ。まあ、ここに一人いるけどね。なぜ、わたくしではないの?・・・・』
・・・・・【そうなの、なぜわたくしではないのか? 本当はわたくしだった訳なのね。でも、それで は、妹に殺されることが実験で明らかになった。だから修正すると言うことなの。】
『・・・君が外れているいる理由は、今のところ正確には解らない。ただ表には出たがらない、影の支配者でいることが好きな人間は、歴史上少なくないさ。・・・それと、ぼくが注目しているのは『女王様』なんだ。『リリカ』が、最初の声明で触れたよね、『火星の女王様に忠誠を誓う』ことって・・・』
・・・・・【うん、これね。一応切り札は持っておきたかった。それだけのことよ。そうなのよ、リリ カ様、事実上の地球の支配者は、あなたなんだからね。まあ、今のあなたにとっては、大 分先の事ではありますが。】
『・・・でも、経典では・・・『教祖様』が、放浪を終えて、地球に居を定めたところ。最初のタルレジャ王国の『女王様』が登場するところ。僕が思うに、きっと、ここで『教祖様』が『女王様』にすり替わっているんだ。『教祖様』イコール、初代『女王様』なんだよ。たぶん。で、この経典のお話は、その『初代女王様』か、その側近が書いたんだよ。・・・』
・・・・・【まあ、ほとんど正解ね。ただし、放浪のお話は、さっき言った通り、事実上作り話だった のよ。それが、ここで現実になっちゃった。】
『でも、この『経典』にはきっともっと古いバージョンがあるんじゃないかとぼくは思う。・・・そこには、真実がばっちり書かれているんじゃないか・・・』
・・・・・【なんで、そんなことがわかるのかしらね。大正解。ありますわ。でも、それはアーニー の、いえ、ここではアニーなんだけれど、記憶の中に収めてあるから、人間には普通、読 めないけれど。】
『もちろん、宗教的事実は真実だと、わたくしは、信じておりますのよ。教祖様たちは三億年前に火星を出た。亜高速で走る宇宙船でね。・・・帰ってきた時、火星の文明は滅亡してしまっていた。教祖様は地球に移住した。まだ恐竜たちの世界にね・・・』
・・・・・【そう、これは、だから事実と食い違うわけ。でも、いいリリカ様。火星の文明が滅亡した 事は事実なの。つまり、あなたにとってはこれから起こることな訳よ。教祖様は、自分の 大ドジを、さすがに正式な経典に残すのは、気が引けたわけなの。まあ、今こうして、い ろいろ言い訳している、訳だどね。】
『・・・・アニーこの部屋の盗聴、遮断しなさい。映像もね。』
・・・・・【で、これからわたくしは、シモンズ様を誘惑します。仲間になるようにね。だって、この 子、気に入っちゃったから。】
『・・・それって、誘惑? 僕に悪に加担しろというの?』
・・・・・【ね、リリカ様。わたくしは、『悪魔』、『魔女』、『化け物』、『怪物』、なんて呼ばれ るのが好き。昔からそうだった。だって、本当だからね。あなたは、その『怪物』の仲間 な訳よ。でも、自分が『悪』かどうかは、判断できない。あなたは、どう思う?】
『もうひとつだけ・・・君たちって本当にいつも、裸足なの?・・・・』
・・・・・【『あの、女王様、私もお伺いしたかったのです。本当に地球ではいつも裸足なのです か? 火星では、そうではなかったように、思います。』リリカが尋ねた。『そうよ。そ れが、宗教的真実の証だもの。でもね、これからわかってくると思うけれど、このことに は、本当に真剣な意味があるの。それはね、私が火星で行ってしまった過ちの、長い長い 贖罪なの。このことに嘘はないわ。それを教えてくれるのは、貴方なんだけれどね。私に 支配されている肉体の痛みや苦しみは、私自身にも感じられる。それは、私という、『実 際には存在しないのに、存在しているように振舞う』なにかにとっては、自己矛盾の現れ でもあるのよ。わたくしは、月に最低でも一人は、人間の持つ何かを消化しなければなら ない。それは、人間から見ればね、『食べられる』ということに見えるわけ。私が食べる のは、ブリューリと違って、本来肉体ではない。でも、実際、その人間は、物理的には死 に至るのだから同じことよね。でも、そうやって死んだ人は、『永遠の都』に転移する。 そこで永遠に存在してゆくわ。だから、貴方にもお願いしたいの。火星に帰ったら、わた くしがいったい、何なのかを、さがしてください。これは、シモンズさんにも、これから お願いするつもりよ。いい?お願いですから、どうか、さがしてくださいね。わたくし の、永遠の故郷を。』
***** *****
アマンジャの目の前で、そうして、すべての観客たちの目の前で、金星がだんだん遠ざかってゆく。
感覚的には、明らかに自分自身が宇宙に飛び出してゆく感じだった。
「これは、すごいね。よくできてる。テーブルとババヌッキがいっしょに付いて来るところも、面白い。」
アマンジャは、珍しく感心していた。
『アマンジャさん。関心ばっかりしてないで。さあ、お仕事ですよ。』
アーニーが声をかけてきた。
『はあ、どうしろと?』
アマンジャは口の中で言った。
『いいですか、これはただの映像ではありません。』
『はあ?』
『つまり、あなたは実際宇宙を飛んでいます。』
『んな、ばかな。』
『でも、そうなんです。ここの観客は、実際宇宙空間を移動しています。この中には、でも、実は本当の観客ではない人が、十人ほど混ざっています。』
『はあ?』
『ビューナスは、観光と娯楽と実務をいっぺんにやっています。いいですか、彼らは太陽系の、まだまったく未開拓になっている辺境地帯の開拓員です。お客と一緒に、そこに移動して、先に行っていた要員と休憩時間を利用して交代しているようです。つまりですね、この後の休憩時間にお茶を飲んだり、宇宙の様子を眺めたり買い物したりするのは、模擬では無くて、本当に太陽系の最も周辺にある巨大開拓惑星の上なんですよ。』
『なんでまた?』
『さて、ビューナスは、金星滅亡後の仮の住まいを、このあたりにするつもりなんでしょう。で、観客を使っていろいろ実験もしているんでしょうね。内緒で。詳細はこれから確認します。』
『そりゃあ、人体実験だよ。』
『ええ、そうです。あなたも参加してください。』
『はあ? なんだいそれ。』
『ただなんですから、協力してください。』
『はあ、やられたねえ・・・。でもさ、片道一時間と言ってたろう。太陽系の外縁惑星って、どいつの事だい?』
『まだわかりません。が、アーニーが絡んでない星ですよ。じゃなきゃとっくに分かってますから。たとえば、第九惑星とか・・・今なら太陽から1000億キロあたりにいます。こいつは、ヘレナがアーニーを作ったときに、なぜか、無視されたんですよ。』
『1000億キロ。そりゃあ、だっていずれにしても、一時間で行けるわけがないだろう。』
『そこです。ビューナスさんは異空間移動の技術を持ってるんだと思います。火星人は、やっとその基礎技術を持ち始めてます。ヘレナもブリューリもそれで行く先指定なしで瞬間に飛ばされたんですから。おかげで行き先がわかりません。でも、こいつは、こうして捕まえてますから、アーニーも一緒に乗っかってるような状況です。だから、ちゃんと追いかけてゆけますよ。ご心配なく。」
美しい地球を眼下に見ながら、アマンジャたちは、太陽系のはずれに向かって空想・・ではない旅を続けて行った。




