わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第二十八章
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火星王国の現在の王都(首都)は、公式には「アマバラ}だが、古い呼称では「タルレジャ」と呼ばれる。
古代の火星語では「人の顔」という意味がある。
これは、首都のすぐそばにある丘を、高空から見ると、まるで人の顔のようにも見えることから、そう名付けられたのだろうと思われている。
「タルレジャ」は、その丘のふもとに広がった都市だったのだ。
しかし、その「人の顔」は、火星人にとっても実は謎だった。
超古代の火星人が彫ったとか、宇宙人がかつて作ったものだとか、女王様が、むかし、お戯れになって、お創りになったものだろうとか、様々なうわさがあった。
あくまで自然の産物にすぎないと主張する大方の学者たちに対して、こうしたもっとロマンティックな解釈の方が、一般的には人気が高かった。
実際のところ、火星人たちも宇宙船が実用化されるまでは、この顔には気が付きもしていなかったわけだ。
しかし、不思議な事にこの街の名前は、宇宙船が飛ぶようになる、三千年以上前には、もう付けられていたようなのだ。
火星の文明は、どうやって、どう発展したのか?
このことについては、二つの大きな時期に分かれると、現在は考えられている。
女王様の支配以前と、支配以降だ。
学校の歴史の教科書も、そこを基準にして二冊に分かれているのが、当たり前である。
未来の地球も、実はそうなる。
ただ、女王様の実質的な支配以前の地球人類は、まだそこまで至っていないから、それを知らないだけのことだ。歴史は日々重なり、変わってゆく。
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ダレルは中央市場の上空に到達していた。
「一見変わったことはないな。いや、森に隠れてはいるが、警備車両がぐるっと取り囲んでいる。しかし、特に動いている感じはしないな。」
「そうですね。みんなきちんと規則通りの事をしているわけですよ。」
「まあ、当然と言えば当然か。彼らの役目は、中から逃げてくる人間を確保することだからね。外から身を投じようとやって来る「普通人」を止める理由なんかない。「支配人」が入ろうとしたら、さすがに制止するように言われているがね。」
「女王様やブリューリ様のため、条件なしで身を犠牲にすることは「普通人」の最高の美徳だからですね。」
「実にうまく機能してるわけだな。わが女王様の支配は。」
「降りますか?」
「いや、やめておこう。気が重くなるだけだ。」
ダレルはそう言って、そこから引き返そうとした。
「了解。」
その時、何かが「ドス」っという大きな音と共に、空中作業車の天井にぶつかったような衝撃が来た。
「おわ、なんだ?」
ダレルが叫んだ。
「わかりません。急降下してます。自動高度維持装置作動。不安定。何かが揺すってますよ、自動操縦解除。ぼくが操縦します。」
「冗談じゃない。こら、やめろ。っとここで言ってもダメか。落ちるじゃないか。」
機体は激しくゆすぶられ、危うく墜落しそうになったが、そこはさすがにソーの運転は絶妙だった。
なんとか体制をとりながら、地上の森の中に不時着した。
「ふー、やれやれ。どうなってるんだ?」
「天井の上に何かいますね。」
「ああ、何かが這いずり回ってるという感じ。どこから来た?」
「そりゃあ、空からでしょう。」
「空って、どこ?」
「さあ、空の上は宇宙ですから・・・。冗談ですよ。ほらすごく高い木がある。あそこから飛んだんじゃないでしょうか。」
「いやな予感がする。外に出るな。換気口閉鎖して、内部を密閉。」
「窒息しますよ。緊急装置を使っても、持つのは1時間です。」
「わかってる。」
「物体は、換気口の脇で待機してます。やなやつですね。知ってるんだ。この作業車の構造を。」
「まあ、そりゃあ、あり得るよな。誰がブリューリに変貌しているのか分からないんだから。天井の上が見えないかな?」
「場所がよくない。死角です。」
「やれやれ、警備陣を呼ぶか。でも、呼び出して警備員を殺すようなものだな。」
「ブリューリですか?」
「他にないだろう。女王かな? ここに飛んできたとか。」
「まさか。いくらなんでも、それはないでしょう。近すぎです。ここはやはり警備兵を呼びましょう。仕方ないですよ。」
「そうだね。じゃあ、やってみてくれ。」
「了解。あれ・・・・。」
「どうした?」
「通信装置が稼働しませんね。・・・・・ううん、ダメです。」
「しょうがないな、じゃぼくの携帯通信機を使うよ。」
「ええ、どうぞ。」
「よし、警備本部と。うん?・・・・・」
「どうしましたか?」
「通信不能、だと言ってる。」
「はあ?」
ソーは自分の通信機を取りだした。
「ほんとだ。つながりません。どうしてかな。」
「さて、上の奴が妨害してるのかな。」
「まさか、生き物ですからね。」
「正体不明の怪物だよ。・・・くそ、みてろ生け捕りにしてやる。」
「はー?」
「ほっといたら、きっとやがて人間に戻るだろう? 本物のブリューリじゃ無ければね。いっぺん怪物のまま捕まえて、そこらへんを観察しながら調べたい。」
「はあ、その前にこっちが死にますよ。」
「あのね、この作業車ごと、ぼくの秘密基地まで移動させられないかな。」
「それは、つまり?・・・」
「ぶっとばす。さっきみたいにね。ただし、さっきのは最大出力でやったから、どこに、どうなって飛んで行ったか分からないが、こんどは、行く先を定めてやんわりとだよ。まだ実験段階だけれど、やってみたいと思う、今後の重要な兵器になる。偵察静止衛星が大活躍するわけだ。アーニーもびっくりさ。」
「人体実験ですか。しかも自分で。失敗したら?」
「そこは、考えたくないな。リリカだって、目的は違うが結局は同じことをしたんだと思う。で、失敗した。自分を複製してしまったんだ。今のところ確認できるリリカは、ふたりだけだけれど、ぼくは、きっと、もっと、たぶん数人は複製ができてるんだろうと思う。受信機のイメージみたいなもので、複数の複製が浮かび上がったに違いない。宇宙のどこにいるかはわからないけれどもね。もしかしたら、人格の分離とかも起こったのかもしれない。」
「分離?人格の分離?」
「ぼくが勝手にそう呼んでいるだけ。体と精神が分離してしまう現象さ。」
「まさか?」
「ありうるよ。リリカの実験なら特にね。あの状況を見たら、そうした現象が起こっていても不思議じゃない。つまりあんな変なリリカになってしまったのは、アダモスやカシャの力だけじゃないと言う事だけれど。」
「我々は?」
「つまり同じさ。でも、うまくゆけばリリカの、一歩も、二歩も先に行ける。」
「競争ですか。」
「まあね、それがあるから二人とも頑張るわけさ。じゃ、やるよ。いいかい?」
「そうですね。まあ、おもしろいから承認します。」
「よっしゃ。じゃ後ろで操作して来る。ちょっと残り時間と競争になる。間に合わなくて窒息するか、大気とブリューリを取り入れて、食べられるか、いや、もしかして・・・・・だがね。」
「もしかして?」
「君知ってるかい。ブリューリは、食べるだけじゃなくて、仲間を増やすこともできるらしい。」
「ほう・・・・・・。」
ダレルは、空中作業車の後方にある、作業ルームに移動した。
リリカ(複写=アンナ)はカレル女史に通信していた。
「リリカです。王宮に戻ってますが、応接室でブリューリに襲われました。まだ、襲ったやつはこのあたりにいます。それで、各閣僚がいま、誰がどこにいるかチェックしてほしいんです。あなたは、あなたのままでしたか?」
「はあ? まあ、そうでしょうねえ。私がブリューリになっていたとでも?」
「そうです。なぜ閣僚は食べないのか? わかりますか?」
「さあ、滅亡計画に影響するからでしょう。」
「いえいえ、そんなに甘くないですよ。あたい、いえ、わたくし感じました。何か体に植え付けられた感じなんです。あなたは?」
「そういわれれば、少しだけ何か、変な感触があったけれど・・・・。」
「それです。たぶん、ブリューリに変貌するための、「種」か「鍵」か、なにか植え付けられたんですよ。すぐに芽が出るのかどうかは分からないけれど。とにかく、閣僚たちのここ20分ほどの居場所を確認してくだい。わたしは監視室から王宮内を全スキャンします。よろしく。あ、変身するときは、先にそう言って連絡してきてからにしてください。」
「また、リリカさんは、衝撃的な事を言うのね、あっさりと。」
カレルは、全閣僚たちの動向を確認し始めた。
一方リリカ(複写=アンナ)はアリーシャに指示を出した。
「アリーシャ、王宮を全凍結させる用意をして。」
「ええ!それは「おおごと」ですよ。」
「ばかね、簡単でしょ。ブラックボックス持ってるんでしょう。」
「はい、ここに。」
「『核』ボタンと間違わないでよ。「冗談!」 まあ、もし間違っても、すぐには爆発しないんだけれどね。」
「わかりました。」
「そこの部屋で待機。通信確認。・・・・もしもし聞こえますかあ? あ、あ、あ、」
「大丈夫です。」
アリーシャは脇の部屋に入って、机の上に「ブラックボックス」を静かに置いた。
縦30センチ、横40センチほどの「かばん」である。
使い方を誤ると、火星自体が危機に陥る可能性もある。
ただし、今ここにあるのは、持ち出し用のダミーの方。女王からリリカが預かったものだ。
操作した内容は、ただちに本体が確認する。
女王が承認すれば実行される。
現在のところ、火星の破壊など極端な事項以外は、リリカに権限がある。
ただし、女王がどこまで実際に承認しているのかは、リリカにもやってみないと分からない。
実際の機械本体の所在は、女王しか知らない。
と、言うか、その本体とは、アーニーそのものだったけれども。
リリカの精神と、未来の女王ヘレナは、1億五千万年後の地球見学を開始していた。
ちょうど、外国から旅行に来ていた、セレブ女性の2体を借用していた。
「これが地球人の女ですか。」
「そうよ。どう、似合うでしょう。」
「角とか、牙とかは無いんですか。」
「そうなの、地球人の場合は省略したから。」
「どうしてですか?」
「意味のないモノだからよ。区別もつけたかったしね。火星人と。」
「ちょっと、さみしいですね。口元とか・・・。それに、やはりあったほうが奇麗だし。」
「それは、まあ火星人の感覚だからね。慣れたらなんてことないわ。」
日本という国の首都にある、高級ホテルの一室だった。
「さあ、準備ができたら、まずはお食事に出かけましょう。費用はすべて、わたくしが持ちますわ。といっても、当面この方々のお金だけどね。まあ、あとで返金しましょう。お礼も含めてね。」
「こんなことしてて、良いのでしょうか。」
「いいのよ。ここはあなたにとって、浮いた時間よ。しっかり活用しなさい。」
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「はあ、これは、「王都」のシンボルタワーよりも高いですね。何の役に立つのかしら。上ばっかり伸びて。」
「いえいえ、地下だってなかなかのものなの。」
大きな首都の「都庁舎」を見上げながら、リリカ(の精神)が言った。
この国の首都は、王国の「王都」よりも、生き生きとしている。
ただし、地球上には、たくさんの「首都」があるのだ。
ここよりも大きな都市だってあるらしい。
それにしても、ここは空気の香りが、少し慣れるまでは、かなり異様だった。
「確かに交通機関は、随分発達していますね。でもこうやって、血管みたいに「電車」を張り巡らさないと、機能できないのですね。燃料の匂いがきついな。それに人間もやたら多い。計画的に見える部分と、そうじゃない部分が、雑然と入り混じってますね。」
「地震や戦争で、焼けてなくなちゃったところも多い。でも、昔の面影が残っているところもあるの。エネルギーに関しては、まだ、地球人はようやく発達段階だからね。いまだに武器として以外の「核」に頼らざるを得ない要素があるの。それに、地球の人間は、みな良く働くのよ。大体「普通人」なんていう食用人類はいないからね。まじめに働くことが、食べることの必須事項だから。まあ、大方の人にとっては、だけどね。さて、子供みたいだけれど、動物園に行ってみる?」
「動物園?ですか。」
「そう、火星の都会には、ちょっとない施設。お隣におもしろい「科学博物館」なんてものがあるから、そこも行ってみましょうか。地球の生物の進化の過程なんかも見られるから。」
二人は電車に乗って、ぐるっと「この国の」首都を半分ほど回った。
そうして、それから三日がかりで、動物園や博物館、ついでにりっぱな美術館なども、見学して回った。
さらに、夜には演奏会にも出かけた。
それは、リリカ(の精神)にとって、実に面白い体験だった。




