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わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第十九章 

 火星のアリーシャは、困惑してしまっていた。

「まあ、なんだろう、この不誠実な映像は。」

 無理もなかった。

 参加する人間の顔は、ひたすら笑顔に溢れ、交わされる会話は時候の挨拶に始まって、お互いを褒め合う和気あいあいの会話だけ。井戸端会議ならご近所のうわさが飛び交いそうだが、そういう事も特にはなく、ひたすら平和でのんきな意味のない会話が続く。

 困ったことに、口の動きと会話の内容はぴったりと一致している。

「これじゃあ、予算の無駄遣いであるとしか言いようがない。あからさまに、大ウソだよと言っているようなものね。ダレルさんの悪戯としか思えない。まてまて、いやいや、それだけのためにこんなことやるとは思えない。おそらく、裏があるに違いない。ううん。リリカさんがいればなあ・・・わたしは、必ずしも暗号解読の専門家じゃあない。」

 とは言いながら、アリーシャは考えられる解読方法を次々に試してみていた。



 一方で、洞窟の中の「青い絆」は、実際の映像と音声を見聞きしていた。

 それは、リリカがそうできるように指導したからだ。

「あの、ダレルという男は、反女王派か?」

「まさか、副首相だ。ありえない。」

「しかし、あの悪感情は、本物だと思う。」

 心理学者で妖術使いの副隊長の一角、カカウ・マウが言った。

「勘かい?」

 射撃の名手というアダッタチーが冷やかした。

「まあね。でも、間違いないね。」

 どこから集まったのか、銃を手に手に持った他の仲間二十人ほどが、がやがや言いながら画面に見入っている。

「いずれにしても、悪い雰囲気じゃあない。」

 カカウ・マウが肯定的に言った。

「そうか?俺たちは革命派だ。あいつらは女王の傀儡に過ぎない。」

 アダッタチーは反論した。

「ま、利用できるものはしっかり利用すべきだ。」

「利用されるんじゃないのか?」

 画面の前で、いつものように二人がいがみ合っている。

「ほらほら、喧嘩しない。」

 ギャレラ行動隊長が割って入った。

 ギャレラ行動隊長は、ビューナスと同じ両性具有人だった。ただし、ビューナスとの関係は一切なかったが・・・と、本人は主張している。

「おたがいさまだ。結果がうまくゆけばそれでよい。」

「そうだ、そうだ、」

 とか、「ほんとお?」とか、いろんな声が飛んだ。

 こうしたところは、軍隊というよりは学校の「クラス」という感じで、まったく規律正しい軍隊的なものではない。

 これは「青い絆」の特徴ではあった。

 普段自由に意見を言い合うことは基本的には許されていた。

 ただし行動するときは、アダモスの指令が絶対だったが。


「では、これで、われわれは協力関係に立つという事でよいかな?」

 アダモスが言った。

「まあ、そうだな。それでいいよ。ただし非公式にだ。公式には絶対に認めない。それでいいですか?首相?」

「同意する。」

 リリカ(複写=アンナ)があっさり言った。長くはしゃべりたくない様子だ。

 アンナ(リリカ本体=複写)が、なんだかおもしろそうに含み笑いをしている。

「いいだろう。ところで、君は王国政府には、どのように報告するのかな?」

「まあ、お互い合意は出来なかったが、しばらくは停戦。そうだな、まあ三か月は停戦。その間に再協議する、というところでどうかな?」

「ふん。まあ、いいだろう。いいかなカシャ?」

「ふうむ。まあ、まずはそれでいい。」

「いいかな、アンナ?」

「わたし、いや、わいは、それで、ええ。いい。」

 制服じゃない方のリリカ(リリカ本体=アンナ=複写)が慣れない、新しい意識の中で回答した。

 リリカ(複写=アンナ)は今度はうなずいただけにした。

「わい・・・」

 と、つられて言いかけたので、急遽言葉を飲み込んだのだった。

「わかった。しかし、実際三か月は動かないでくれよ。」

「そうだな、まあいいけれど、ダレルさんの誠意もその間にぜひ見せてほしいものだ。そうでないと、続かないかもしれない。」

 アダモスが要求した。

「なるほど、でも、続かないと、君たちが困るのだろう?」

「ははあ、それはお互い様だなあ。ははは。」

 アダモスは立ち上がって、握手を求めた。

 ダレルは、それに応じて立ち上がりアダモスの手を握った。

 次いで全員が彼らに倣って立ち上がり、お互いに握手を交わした。

 二人のリリカも、二人で握手をしていた。



「ううん。だめだ。この映像は言うことを聞かない。」

 アリーシャは椅子の上でのけぞった。

「リリカさん大丈夫かなあ・・・」

 ところが、そこで画面上に不可思議なメッセージが現れた。

『・・・映像・音声解析開始・・・』

「むむ、ハッキングか!」

 アリーシャは椅子から跳ね上がり、周囲の機械類との接続を遮断した。

 しかし、彼女のコンピューターはまったくお構いなしに動いている。

「電源落とすか・・・いや、まって、うん、なんだろう、これ」

 画面にメッセージが現れた。

『解析処理終了。表示します。』

 それから、先ほど見ていた、地球上でのテロリストとダレルたちの会見の様子が再び再生され始めた。

 しかし、何かが違う。

 緊張感が漂う中で、前とは全く違う映像と、音声が流れ始めたのだった。

 アリーシャは、椅子から乗り出して、その画面を食い入る様に見つめた。



「じゃ、約束通り、こっちのリリカ首相には火星に同行してもらうよ。」

 ダレルは、制服を着ている方のリリカを指さして言った。

「服を交換させたりしてないよね。」

 ダレルは『バカなことを』と思いながら確認して言った。

「ああ、大丈夫だ。そうだな、リリカさん。」

 アダモスが二人に向かって尋ねた。

 二人のリリカは、顔を見合わせてから、まったく同時に答えた。

「ああ、してない。」

『やれやれ。本当は逆にしたいが、それでは相手の不審を募らせるだけだしな。まあ、うまい具合に混ぜてくれたようだから、ここは仕方がない。』

 そう思いながらも、内心は少し複雑だった。

「では、今日は帰る。今後の通信については先ほど確認した方法以外は使わないでくれたまえよ。」

 ダレルは念を押した。

「ああ、勿論大丈夫だ。」

 二人は席を立ち、リリカ(複写=アンナ)を連れて小型宇宙艇に向かった。



 アリーシャは周囲の状況を確認していた。

 盗聴などはされていない・・・多分。

 しかし、何者かがここに干渉してきている事は確かだ。

 が、どうやら助けてくれたようだから、あからさまに敵でもなさそうだ。

 「まあ、それにしても、これはどういう事? 明らかにこれは反乱ではありませんか。テロリストと内通しようとしているなんて。どうしよう。でも、わたくしの立場は、リリカ様の補佐。つまりは彼女の意図を確認したうえでなければ、ここで通報などしたら、リリカさんに対する裏切り行為になる。しかし、黙っていたら、政府に対する裏切りになる。どちらをまず選ぶか。答えは、はっきりしてる。」

 アリーシャは、リリカが帰ってくるのを待つことにした。



 アマンジャは、一人乗りの小型艇で、マ・オ・ドクのアジトに向かっていた。

「まあ、女海賊なんて、言われたくはないよね。海賊行為なんか、めったにしない。じっと、ただいつまでも待ち伏せてる、小さなアリジゴクみたいなものさ。しかも、ちゃんとお客を選んであげてる。ありがたいことさ。」

 そんなことをつぶやいていたが、もう目の前には、ごちゃごちゃと小惑星たちがうごめいていた。

「おおきな船じゃあ、ここには入れない。危なくってね。さて、どこにいるのかな。おおい、ドクおじさん、どこだーい?」

 彼女は暗号信号を送信した。

 するとすぐに、割と近くから返事が入った。

「よっしゃ。それ行け!」

 彼女の小型艇は、信号に乗って、マ・オ・ドクの動く要塞に向かった。



「なつかしい火星に帰れて、よかったな、首相さん。」

 ダレルが、なんとなく皮肉っぽく言った。

「しかし、悪いけれど、事情聴取をさせてもらいたい。少しなら休憩しても良いさ。でもサリンズとモルスが、かなり息巻いてるし、カレルは本当に心配している。僕が言うのもなんだけれど、彼女は良い人だ。本当に信頼できるのは、あの人だけだよ。違うか?」

「いいえ。」

 リリカ(複写=アンナ)は、ぽつりと答えた。

 まだ自信がない。

 言葉の整理が完璧には、まだできないかもしれない。自分はリリカであり、しかも確実に、間違いなくアンナだと、彼女は認識していた。そうして、「青い絆」こそが、自分の本質だと固く信じ込んでいた。

 だから、気を引き締めていないと「わいは、アンナじゃ。おどりゃあ!てめえ!」とか言いそうになってしまう衝動が突きあがってくる。

 このあたりは、アダモスの装置が、洗脳装置としては、まだ不完全なものだと言う証拠だ。

 リリカなら、そんな危ない衝動は起こさないような、ちゃんとした処置をする。

 だから、彼女のリリカの部分は、研究所に帰ったら、この衝動をうまく吸収する方策を講じるつもりでいた。つまり、事情聴取はその後にしてもらいたい。ダレルに、そこを認めさせる必要があった。

「あの、ですね。」

 リリカ(複写=アンナ)は言った。

「ならば、自室で少し休ませてほしい。1時間でいいから。」

 彼女は出来る限り、一人称や語尾は省略する作戦に出ていた。

 ここで、しっぽは出したくない。

「ああ、いいよ。二時間だっていいさ。「偉いさん」は忙しい。やることは、いっぱいあるんだ。ぼくも、少し準備したいしね。じゃあ、事情聴取は到着の2時間後としよう。ぼくの決定さ。」

 リリカは、ほほ笑んで答えた。

 二人の小型宇宙艇は、火星の首都の上空に達し、基地に向かって降りて行った。
































 








 





















 

 



























 

















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