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わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第十八章 

        最終崩壊の始まり


 ブリューリの食欲には、際限というものが無い。

 本人が食べようとすれば、一日中でも食べていられる。

 食べる速度は非常に速い。

 人間一人分くらいならば、一分もかからない。

 二人一緒でも、同じくらいだ。

 三人でも、変わるところはない。

 「ブリューリ人間」は、そうではなくて食事に味わいを求める。

 骨まで食べてしまうことは、調理法によっては可能なのだが、通常は他の動物を食べるのと同じ要領になる。

 本物のブリューリは違う。

 食べること自体がすべてなのだ。


 しかし、幸いなことに、ブリューリは怪物ではあるが、知的な怪物だった。

 本も読めば、音楽も聞く。

 哲学もする。

 そのことについての欲求もあり、楽しむことも十分可能なのだ。

 だから、食事以外の事柄に時間を割くことができる。

 また、どんな生き物の姿になることもできる。

 背の高い、見慣れないすらっとした紳士が、王宮内のソファで眼鏡をかけて分厚い哲学書に読みふけっていたら、それはブリューリかもしれない。

 とは言え、一人でその姿を見た人間は、多分それでおしまいになるだろう。

 ブリューリは、食べかすは出さない。

 骨なども、全部すぐに吸収できる。

 血痕などは、まったく残さない。

 食べられる側も、苦痛は、まず感じない。

 全身麻酔を受けたような感じなのだ。

 見た目の残酷さは、ほとんどないのだった。

 もっとも、着ている服は例外で、どうしても残ってしまう。

 なので、そこについては、多少の工夫が必要ではあった。


 女王ヘレナは、長い間「ブリューリ人間」の状態にあった。

 それは、ブリューリの単なる政治的な意図によるものだったが、しかし、いよいよ火星の終末を演出しようとする、この怪物の哲学の頂点となる時期がやってきていたのだ。

 ヘレナは、ついに流動化を果たし、ブリューリそのものになった。

 二人・・・と言ってよろしければだが・・・は闇に紛れて、すばやく王宮から抜け出して、一番近い「普通人」の居住区に向かった。

 勝手は、すべてわかっている。

 実のところ、ここはヘレナがブリューリの為に用意していた特設の巨大食堂である。

 ブリューリはいつでもここに自由に行き来し、いくらでも、好きなだけ食事ができたのだ。

 もちろん減った食料分は、すぐに供給される仕組みになっている。

 ブリューリは、ゲームも好きだ。

 だから、食料は様々な環境の住宅に住んでいて、しょっちゅう建物の内部は模様替えされている。

 中には、獲物から攻撃してくることさえある。

 ブリューリは、適度に狩りを楽しみながら、食べ漁ってゆく。

 途中でテレビを見たりお酒を飲んだりもできる。

 しかも、「ブリューリ様」がいつ来ても良いように,常にお酒が適当にまくばられて、きちんと保管されている。人間が攻撃して来る場合も、すべて「ブリューリ様」のお楽しみの為なのだ。

 ここの「普通人」は、そのように教育されている。

 もし、正気のヘレナならば、いくらヘレナの本体自身が、もともと正体不明の怪物で、月に一人か二人程度、人間の精神エネルギーを吸収する必要はあっても、こんな浪費は絶対に許さないような、道を大きく踏み外した倒錯した世界だった。

 

 しかしながら、二人でこれをやってゆくと、アッと言う間に一区画食べつくしてしまう。

 表現はよくないが、町内すべて終了するのにも、一時間もあれば余裕だった。

「これならば、火星全部を食べ尽くすのは、割と簡単ね。」

 怪物化したヘレナが言った。

「そうだ。だが今までは、十分すぎくらいに時間はかけてきた。あとは計算上の問題なのだ。」

「でも、地球人の完成にはまだ時間が掛かりますわ。」

「少し急ごう。新しい、環境が欲しい。」

「まあまあ、ぜいたくな事ね。」

「人間の時間感覚ではない。多少間が空いても、食料はいくらでもある。例えば、恐竜もなかなかのものだ。大きいやつは特に努力する甲斐がある。大きいやつを作ってほしい。一億年は食料になる。人間はそれからでも良い。」

「でも、わたくしは、もう人間ではなくなりました。」

「いや、まだだ。この状態でかなりの時間はかかる。君はまだ一定時間以上は流動体を維持できない。やがて人間の体に戻る。だが、そのうち、自然に人間に戻ることは出来なくなり、人間になるには意図的に「変身」することが必要になる。そうなれば、本物だ。」

「待ち遠しいわ。どのくらいかかりますの?」

「慌てることはないが、人間感覚で言えば、大体、大急ぎでやって、百年程度だろう。しかし、それではそれ以外の事がほとんど、何もできないぞ。」

「でも、おばあちゃんになりますわ。」

「だから、そろそろあの機械を使えばよい。」

「そうですわね。この体ならば永遠に使ってもよろしくてよ。」

「君の場合、もともと体を入れ替えることが可能なのだ。少女からやり直しても構わない。その際、再びリセット期間は必要だが。そこは私がきちんと管理してやる。火星の終わりは急速に近づくが、まだ急ぐことはない。君は永遠に私のものなのだ。」

「まあ、うれしいわ。」 

 二つの怪物は、ねじれた飴のようになって、じゃれていた。



 アリーシャは、かなり困惑していた。

 リリカは「複写」。

 彼女だけは、女王からそのことを聞かされていた。

 その女王は、もう真夜中だというのに、行方不明になったままだ。

 ダレルとソーは、地球にテロリスト退治に出かけた。

 文化大臣のカレルがアリーシャを心配してくれている。

 女性という事も大きいのだろうが、カレルはそうした気遣いの出来る人なのだった。

 「あなたは、あまり周囲の事は心配しなくていい。まあ、心配でしょうが。モルス大臣とサリンズ大臣がしっかりしているから。あなたは、リリカ首相の事だけ考えていればいい。」

 「はい、ありがとうございます。そのつもりです。他に、私には権限もないのですから。」

 カレルは、美味しいお茶を持ってきてくれていた。

 「で、首相に関する新しい、情報がありあますか?」

 椅子に座りながらカレルが尋ねた。

 「いいえ。ダレルさんは、ああいう人ですしね。あの後まったく情報なし。最後に通信があったのは、これからテロリストと話をすると。副首相なのですから、その場で決定したらいいのでしょうが。リリカさん「たち」の居場所がわかりそうだ、とは、言ってましたが・・・。」

「その「たち」って何なのかしらね?」

「さあ、まあ言葉の都合なのか、確かにテロリストに誘拐されている関係者は他にもいますし、まさかとは思いますが、女王様の含みがあるのかもしれませんが、そこが特に心配です。彼は、ご承知でしょうが、女王様とはあまり良い関係では無かったようです。「不感応者」ですが、息子さんですし、複雑な感情をお持ちであるのではないかと思います。」

「テロリストと取引する可能性があると思うの?」

「はい。正直言って、ないとは言えないです。テロリストと「話し合いをする」ということ自体が、もうおかしいです。なにしろ「青い絆」は、表向きの信条と、やってることがもっとも食い違う過激民主主義集団ですから。しかも、私の見るところ、見えていないミュータントが必ずいます。ダレルさんは、ミュータンントの影響は受けにくいですが、油断はできません。何するか分からない人ですし。」

「あなた、ソーさんと親しいのでは、とかの噂もあるけれど。まあ、いいのよ個人的な事だし。」

「確かにソーさんが付いているので、異常な事はやらないとは思いますが。でも、心配なので・・・。」

「まあ、あなた何かやった?」

「はい、あの、小型の「見えない偵察艇」を地球に送りました。アンドロイドが乗っていますが、「人間サイド」の方で、とても優秀な人です。もう着いたでしょう。間もなく報告もあると思います。すみません。」

「はあ、さすが最優秀若手スパイさんね。報告が来たら教えてくれる?」

「もちろん。時間差が生じるので、ちょっとやりにくいですけど。とっと、あ、来ました。そのまま居てください。はい、アリーシャです。」

「こちら、地球。居ましたよ。話し合いが始まるところですね。これ以上近づくのはまずいですが、超小型空間盗聴器を放出しました。映像は分解が必要です。後から送信します。」



「さて、始めようか。まあ、ご承知の通りかもしれないが、ぼくらの安全上の理由から、こんな見え見えの場所で話をする以上、公務員や政治家は騙せても、アリーシャは無理。きっと火星から見られているだろうから、疑似映像と音声を即座に合成して提供する僕の作ったシステムがすでに稼働しています。だからまず内容はばれないのでご心配なく。じゃあ、ぼくの原案を言うね。お互いが済むまで文句は無し、でいいかな?」

「まあ、いいでしょう。でも、そのシステムをこちらが信用できる根拠がある?こちらにもその改ざん、いや改善した方を聞かせてほしい。」

 アダモスが尋ねた。

「それは、まあ、ダメだな。そこの技術を提供するとなると、あとでぼくも困りそうだから。信用してもらうしかないね。」

「ダレルさんなら、きっと信用できます。」

 リリカ(複写)が言った。

「そうか。君がそう言うなら、きっとそうだね。」

 アダモスが気楽に言った。

『ばーか。しっかり心を支配されてることを告白したようなもんだ。受信要領は、もう、リリカがばっちり提供したに違いない。本物のリリカならやらないミスだね。今はもう、ミックス・リリカなんだから。でも、可愛そうに。言葉を間違わなかった分はりっぱだがね。』

 ダレルは思った。

 ミュータントには、強固な不感応のダレルの心はまず読めないだろうが、しかし、あの魔女がもし新種のミュータントならば、必ずしも安心はできない。

 アーニーが耳の中で言った。

『相手は、あなたのご想像通りでしょうが、地下でチェックしながら聞いていますよ。さっきリリカさんが技術提供してましたから。』

 アーニーがどこまで観測可能なのか、どれほどの能力があるのかは、ダレルも全く知らないし、リリカも知らないから、相手もきっとよく解ってはいない。しかし非情に危険性がある事は認識してやっているはずだ。まったく、厄介な奴が登場してきたもんだ。

 実は、ビューナスか、もしかしたら、もっと他の誰かが、これをやらせたいわけなのかもしれない。

『ううん。よくまだ読めないなあ。全員が操られているのかもしれないぞ。これは本当の「ロボット芝居」かもしれない。僕たちは、何の意味もないバカな存在かもしれない。これをテレビで、お菓子を頬張りながら、この展開を馬鹿にしながら喜んでる見ている、一番悪い視聴者、つまり「真犯人」が、どうやらいるような気がするな。くそ、もう副首相なんかさっさと辞めてしまおうかな。ぼくの柄じゃない。』 

 ダレルは自分が、相当下手な役者のような感じがしていた。


「ええ、まずこれは、ぼく、つまり現副首相と、「青い絆」さんのリーダーさん、つまりアダモスさんとの、個人的な協力関係を確認するものです。双方は、火星の民主化と、火星の「食人習慣」の廃止において共通の認識があることを認める。そうして、火星に於いてこの目標達成に関して協力すること。「青い絆」さんは次回の行動から、事前にその行動情報をダレルに通報する事。ただし、もし、しなかったからと言って、すぐには批判はされない事。次に、ぼく、つまりダレルは、「青い絆」さんに対する王国政府の制裁行動等がある場合は、事前に注意を促すこと。ただし、しなかったからと言って、すぐには批判されない事。すぐには批判されないという事は、そうした事例が発生したら、お互いにただちに協力関係を否定して報復し合うのではなく、まず事態を確認し合うことを必須とするという事。確認行動を拒否した場合は、これはまた話は別とする。お互いの王国民、組織員の生命は可能な限り保全する事。また現火星王国首相「リリカ」については、肉体的に区別のつかない個体が二体確認されており、当面は拘束時に王国政府の制服を着用していた個体は、火星側に引き渡すこと。また、一定期間後にその後の扱いを協議すること。まあ、先送りですな。お互いそのれらの個体に危害を加えないこと。火星の民主化と食人習慣の廃止については、その実施プロセスや現状を逐次協議する事。目標達成時以降の火星の政権運営については、その時点で必要な関係者が加わることも含めて協議することとする。まあ、これも今は、考えないでいるという事。その他、協力するに必要な事項、火星・金星双方に影響する新しい政策については、逐次協議して決定する事。以上。こほん。」

 ダレルは席に着いた。

 アダモスが立ち上がった。

「まあ、リリカさんは、お互いにこうなった事情自体がよく分からないので、仕方ないだろう。実質的には、何にも決まっていない気もするが・・・。まず我々組織の維持と保護について、もう少し踏み込んだ表現が欲しい。何しろ我々は政府に比べてあまりに脆弱なのだから。それから、もっと目標の時期を明確に織り込んでおくべきだ。女王に対する記載が欲しい。つまりは、権力からの排除の明確化が必要だ。また、民主化と人間食の廃止が達成された後の政権について、我々が、もちろんすべてを把握するなどというバカなことは言わないが、一定の職責を任せてもらえる担保は欲しい。僕がとは言わないよ、なんせ生きていられるかどうかさえも、怪しいものだから。それから、この先志を共にする同志の参加が可能であることの表現が欲しい。」

「まあ、いっぱいあるね。そうだな、リリカ首相はどう思う?僕は元々こうした協定自体にあまり、いやまったく賛成ではないからね。でも、決めるのはあなただから。」

「どうして、ダレルさんが責任者なの?私ではなく。」

「そりゃあ、あなたの状況から考えて、ごめんね、不安があるからだよ。あなた方が何者なのか、確認できない。」

「私に、責任が来ないようにしているのでは?」

「そう考えるならそれでいいが、ぼくはあまり優しくない。事実、ここを完全に消滅させる積りだったのだしね。つまりは・・・」

「いいわ。そうね。アダモス様のおっしゃることは、盛り込んでよいのでは、と思います。そのうえで、協力し合いましょう。新しい火星の為に!」

「はあ、『新しい火星の為に』か。君らしいな。・・・『ちっともらしくない。リリカはそんな扇動的な性格じゃない。相当危ない人間になってるな。基本的にはテロリストになってしまっているわけだ。仕方ない、アーニーの言うことで、ここは一応受け入れるか。ちょっと条件は付けておくか。」

「そうですか。じゃあ、ぼくは、「青い絆」さんの安定した存在に相当の配慮を行う事、として、民主化と食人習慣の廃止後の政権には「青い絆」さんの一定数の人的参加を承認し、当然その為の協議への参加を認める事とし、目標は十年以内に達成する事、とする。」

「五年だよ。五年。」

「それは速すぎる。」

「いや五年だ。それと、政権への人的参加を「承認」じゃなくて、「確約」する、だ。」

「じゃあ、六年にしましょう。それと「保証する」と。」

 リリカ(複写)が口をはさんだ。

「なんで、七年じゃないの?」

「早いほうが良いに決まっているからよ。」

「そんな、アバウトな。何が根拠なの?」

「資料は、ないわ。」

「はあ、どうする、同志?」

 ダレルは、五年でも、七年でも別に構わなかったのだが、ともかくソーに尋ねた。

「まあ、『五年を当初の目標』とする、でかたずけましょう。」

「ああ、いいよ、それで。それから「女王」について、「女王は政権から一切排除し、国民の審判に付す。」としたい。」

 アダモスが提案した。

「女王は、『ただちに処刑』としよう。」

 ダレルが訂正した。

「はあ? いや、君、実は超過激派かい?」

「それでも、生ぬるい。」

「これはこれは。母親だろう?仮にも。」

「仮だよ。」

「はあ・・・」

 アダモスとカシャが、顔を見合わせながら薄ら笑いした。

「いや、そこまでは良い。むしろ王国民の反発が心配だ。先の言い方で十分だ。」

「じゃあ、そうしよう。」

 ソーも、リリカもこの件には一切口を挟まなかった。

「じゃあ、これをまとめて、確認しよう。」

「了解」






















































 

 



 


































 



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