わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第十七章
「情報をお伝えします。」
ダレルの耳の中だけに、アーニーの声がした。
『この音は、あなたにしか聞こえていません。まあ、イアホンをした状態と思ってください。女王陛下がいま、流動化してブリューリとなって、ブリューリとともに食事に行きました。何しろここまで行った例がないのではっきりしませんが、この状態が続くと、いずれ人間に戻れなくなるものと思います。どのくらいか、と言われても、アーニーにはまだわかりませんが。しかし、そうなると、ヘレナは、もう退治される側になります。つまり、人間には戻れないし、ヘレナの本体は、ブリューリの体に、当分くぎ付け状態になるでしょう。ブリューリは、基本的に宇宙が消滅するまでは、死なないと思われます。もっとも、ヘレナは宇宙が消滅しても死にません。本来生きていないんですからね。でも、宇宙消滅まではブリューリから解放されないという事になるのです。多分。なので、すぐにワクチンを作らなければなりません。急を要します。それと、リリカさんはまだ隣のミュータントに支配されています。支配の解除は、本当には可能なのですが、ここは騙されてください。おそらくこのあと彼女は、もう一人のリリカさんと一体化されます。先ほどは止めさせましたがね。あなたはおいやでしょうが、ここはアーニーに任せてください。一度連れて帰って、もう一人のリリカさんからの情報も欲しいのです。お願いします。なんとか、制服でない方のリリカさんを連れて帰りたい。』
ダレルは、即座に判断したが、何食わぬ顔してこう言った。
「ふうん、まあ、首相がこのテロリストたちと協力すると言うならば、ぼくは従うしかない。しかし、一定の確約は欲しいですな。おたがいの為にも。不要なテロをされては困る。こちらの必要性に沿ってやってもらわねば。よって、いま出現した、アーニーのもとに、条約を作ることを提案します。」
一方、アダモスの頭の中ではビュリアの声がしていた。
『相手は、あたしの支配を解除したつもりですが、それはうわべだけしかできなかった。リリカ首相は、ちゃんとまだ支配しています。このまま条約作成のために休憩にして、二人を一体化させ、送り込みましょう。』
『わかった。彼らと実際に共同できれば、それはよいことだ。』
『アマンジャの動きが心配です。あの魔女は、あまりに良心的すぎる。おまけに、マ・オ・ドクとも関係が深いと思われます。あそこにはデラベラリがいます。しかし用心深くてなかなか探れません。』
『ああ、出来る限りあたってくれたまえ。ビューナスさんもね。うまく立ち回らないと、ぼくはやってゆけないから。』」
『了解。』
それから、アダモスが言った。
「では、条約作成作業に入るために、お互い原案を作りましょう。時間はたった一時間。できますか?」
ダレルはソーと少し会話したあと言った。
「いいだろう。一時間。」
ダレルはそれ以上言わなかったが、ソーはこうささやいていた。
「いいんですか?リリカさん、危ないですよ。」
マ・オ・ドクは魔女アマンジャと暗号通信をしていた。
「アダモス一味が、よからぬたくらみをしているか・・・。」
「ええ、間違いなくね。あちらには、ビュリアがいます。あの魔女はあなどれません。アダモスはもともと、いい人なんだけれど、あの魔女のおかげで悪魔というべき男に成り下がっています。」
「ビューナスは、いったいどういうつもりなんだ?敵なのか味方なのか、どっちでもないのか?君はどう思うんだ?」
「まあ、あの方は、あえて言えば、地球人の味方、なのでしょう。」
「まだ、存在もしていないのにか?」
「そうです。あの方は将来の地球人の潜在意識の中に、金星人は地球人の「美しい味方」という意識を刷り込んでおきたいの。それに対して、火星人は「脅威」という意識を。頭に角、口元に牙。これを恐ろしい「悪魔」や「鬼」という概念にして、地球人の中に置いておきたい。遠い未来の「復活」の為にですが。でも、もう自分には時間が残されていない。今回うまく女王様が正気を失ってしまったらね、これを火星崩壊までにうまく地球人のプログラムに反映させたい。アレクシスとレイミはその為に作られた特別な使者だし、アダモスも、ビュリアもその為に雇われているのですから。でも、ビュリアの真意は、他にあるんだと思います。」
「他ってなんだ。つまり、あいつが太陽系の「大魔女王」になるとか?ははは!!」
マ・オ・ドクは、半分冗談のつもりで言ったのだが。
「ええ。あたしは、そうだと思います。あの女は、あの魔女は、自分が女王様に取って代わろうと思っているに違いありません。」
「本気で?やれやれ、困ったもんだ。で、君もそこを狙ってるのか?」
「まさか!あたしは、『質素なテロリスト』ですもの。『行動しないテロリスト』『眠れぬテロリスト』ですよ。」
「『眠れる・・』だろう。」
「ああ、そうそう。それです。」
「女王の、『影の庇護者』とも言われているが。」
「またまた、もう、テロリストが女王様の庇護者でなんか、あるはずがないでしょう?」
「そうか?デラベラリ先生の分析では、君が登場すると、「女王が常にうまくゆく」らしいぞ。」
「あらま、また随分アバウトな分析ね。」
「そうかな。またデラベラリ先生によれば、君はどうやら女王と近親関係にある、と。」
「おやおや、そこまで来ましたか。じゃあ言ってごらんなさい。どうつながってるのか。」
「いや、そこがわからんのだそうだ。がははは!」
「ひどい分析ね。デラベラリ先生は、たしか占いがご専門ではなかったかな?」
「ほう、よく知ってるな。そうさ。未来宇宙易学がご専門さ。」
「あたるの?」
「いやいや、もうあたるなんてもんじゃない。後から考えたら、すべてあたってるんだから。」
「あやしいわね。」
「ははは。まあいいさ。近く飲みに来ないか?」
「ええ、行きましょう。こちらも、そのつもりでいたから。お招きが無くても。」
「じゃあ、火星時間で、あさっての正午にしよう。いつものところに。」
「了解。」
「なにもかも,すべてが怪しいよ。」
「ああ、君の言うとおりだ。しかも、リリカをおとり、というか犠牲に使うようなものだから、気は進まない。けれども、あの連中、ここで手に入れておくのは悪くない。」
「向こうは、こちらを手に入れたと思っているよ。」
「ああ、そう思わせておけばよい。間違っていたら、ぼくは辞任する。君に任せてね。」
「それは政治家的な言い訳けだよ。いつも彼らが使う手だ。」
「よく言うよ。すでに政治に首を突っ込まされてるんだ。」
「なるほど。そうかな。」
「さあ、もう一度、ここに横になって。」
「かしこまりました。」
リリカ(複写)は、アダモスに言われたとおりに、あの医療用ベッドに横たわった。
カシャは、契約文の作成に没頭させられていた。
「で、アンナ、さあ、こちらに。」
「ああ、兄貴、わい、少し何だか怖い・・・。」
「お前が怖い? 初めて聞いたぞ。」
「でも、さっきの話し合いで感じた。わいは、これからどうなるんじゃ?」
「だから言ったろう。この女と同一人になるんだ。君でもあり、この女でもある。」
「わいは、わいじゃのうなるんか?」
「いいかい。分裂するんじゃなくて、合一するんだ。死ぬんじゃないし、必要が無くなれば、また分解も可能だから、心配ない。」
「わいも、兄貴を、信じたいんじゃ。じゃけれど、心が騒ぐんじゃ。やたらにのう。危ない、言うて。」
「いいかい、革命のためだ。そこを考えて。いいね?」
「ああ、革命の為に!・・・いいよ、やって。」
「よし。機械は調整した。」
アーニーは、じっとすべてを監視していたが、今回は介入をしない。
アダモスは機械を始動させ、機械は正常に稼働した。
時間はかからなかった。
せいぜい十分足らずで、処置は完了した。
そんなことは知らされていないカシャは、とにかく契約の原案を書き上げた。
「やれやれ、これはアダモスの仕事だろうが。最近あいつはおかしいな。まるで救世主気取りになってきている。まあ、しかし、あいつは人望がある。俺には無い。この違いは大きい。よし、できた、と。」
そこに、二人のリリカを伴って、アダモスが入ってきた。
「悪いな、同志。ちょっとこの二人と話をしていた。」
「ほう、それはそれは。できたぞ、見てくれ。」
アダモスは、さらさらっと読んだだけのように見えた。
「ああ、いいよ。これで行こう。」
「ほんとか?直しは無しかい?」
「君が書いたんだ、文句あるはずがないさ。」
「そうか?わかった。アンナ?大丈夫か?」
制服を着た方ではないリリカが答えた。
「ああ、大丈夫だよ。」
「うん?」
カシャは、少しひっかかった気がした。
「『おう、でーじょうぶじゃ!!』」
アンナなら、そう言いそうなものだったからだ。
しかし、アダモスが促した。
「時間が来る。行こう。」
「ああ、わかった。」
カシャは、何だか少し騙されているような気分で、地上に向かった。