わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第十四章
「これが地球か。」
ダレルは地球の軌道を回りながらつぶやいた。
「やけに奇麗だな。」
「確かに。」
ソーが心からのあいづちをうった。
その時、小型宇宙船が急激に高度を下げていきだした。
「こらこら、それはもう、まずいだろう。だめだ、言うこと聞かない。くそ、これ以上行くと崩壊する!」
ソーが叫ぶ。
「なんだ、早く修正しろよ!」
「だめだ、勝手に動いているんだ。何かにひっぱられているようだ。くそ・・・。」
小型宇宙船は炎となって燃え上がりながら地上に降りてゆく。
ぎりぎりだが、何とか持ちそうだ。
「こいつ、明らかに意思がある。ぼくたちを脅かしているんだ。あるいは、楽しんでいるのか。」
実は、そうでもなかったのだ。
その意思は、彼らを急がせていたのだ。
「巨大大陸に降りてゆくぞ。こいつどこに連れてゆくつもりなんだろう?」
「目標地点は?」
「いや、大体あっているが、でも少しコースが違うような。このままだとぼくたちの目標より北に行く感じかな。これは、すごい速度で降りてしまう。地面にぶつける気か?」
「おいおい、やめてくれよな。」
「減速させないと。よいしょ。ダメか。目標地点判明。いずれ南極になる地域。あああ、おわー。」
小型宇宙船は、急に体制を水平に持ってゆきだした。
「やれやれ。落ち着いたか。コントロールは?」
「できない。もうお任せさ。殺す気はなさそうだ。」
ソーは、完全にあきらめてしまっている。
「誰が操っているのかな?」
「全く不明。未知のエネルギー。」
「女王様か?」
「まさか、ここまで来るかな?」
「全然あり得るね。投げたように見せかけていたが。あの人は本来が謎だからね。」
「よし、じゃあ始める。覚悟してほしい。なに、たいしたことはないさ。気が付いたら、新しい自分になっている。それだけだから。」
アダモスは始動のスイッチを押した。
「あれ?」
「どがんしたん? 兄貴。」
「動かないなあ。おかしい。通電してるし、完璧にチェックしたはずだし。まったく反応なし。あり得ないことだ。くそ、異状なしだと?」
「まあまあ、かわいそうに。私が見てさあげましょう。」
「ばかにするな。」
「あなたは医者でしょう? 私はこの道のプロですよ。ほら。ここから起こして。」
リリカ(複写)がそそのかした。
「そんなことできるか!くそ、再チェックだ。ちょっとそこで待ってろ。」
アダモスは焦った。
カシャが割って入ってきたりするとやっかいだからだ。
そこで警報が鳴り響いた。
『侵入者あり。侵入者あり。小型の宇宙艇一機。武装している。』
「くそ、面倒なことを。」
アダモスは通信機械に手を伸ばした。
「どうした?」
カシャが出た。
「お前何してる?政府軍の最新型だ。降伏勧告してきてる。まともに戦ったらこちらはすぐ壊滅するぞ。ここに来い!アンナはどうした?」
「わかった。すぐ行く。」
アダモスは医療用ベッドからリリカ(アンナ)を起こした。
「いいか、余計な事は言うな。相手がカシャでもだ。いいな?」
「ああ、分かったよ。兄貴。」
「君は、ここで寝ていたまえ。後でまた来るから。」
「まあ、お気のどくに。新型小型艇なら、勝ち目なしよ。絶対勝てないわ。惑星一つでも、消滅させられるから。」
「君がいるんだ。できないさ。」
「違うわね。政府はそんなに甘くない。」
リリカ(複写)が言い放った。
アダモスは、一瞬たじろいだかのように見えたが、リリカ(アンナ)を引っ張って部屋から飛び出していった。
「さて、どう出るかな?」
ダレルが問いかけた。
「そうですね、この新型宇宙艇の能力を知っているかどうか、ですが。」
「そうだな、一応見せてやるのもいいかもしれない。このあたりに生物はいるかな?」
「十キロ範囲には、大きいのはいないですね。穴の中の人間以外は。」
「じゃあ、その洞窟は外して、そこを中心に半径五キロ以内の地表を消滅させてみようか。」
「いいのですか?」
「いいさ。この際誰も文句は言わない。」
「了解。」
ソーは目標を確定して、地表面の消滅を指示した。
さーっと何かが走ったような感じがしただけだが、地表にあった植物や小さな山や丘、そうしたすべてが消滅した。後には真っ平らな、新しい地表面がむき出しになった。何かの建物や小屋や施設が、もしあったとしても、それらのすべても消え去ってしまった。
「アーニーさん、アーニーさん。」
声をかけているのは、当然のことながら、アレクシスであった。
アーニーは、女王と彼女が指定したもの以外と話をすることはない。
けれども、アレクシスは一種の例外として、アーニーは捉えている。
それは、女王ヘレナを守るために、唯一認められたアーニーの裁量の範囲に当たるものだったから。
「なんですか、蛍さん。」
「蛍ではない、アレクシス、人類である。」
「そうでしたね。で、ご用件は?」
「火星の状況を見ているであろう?」
「で、あるよね。」
女性の声もした。
レイミもくっついているようだ。
別行動も取れるけれど、くっついているのが、この二人の基本である。
「仲裁してくれたまえ。少し予定が狂ってきた。ダレル殿があんなに早く動くと思わなかった。ミスである。」
「アーニーに、助力しろというのかな?」
「そうである。」
「ビューナスも同意してる?」
「任されているのである。」
「いるのですよ、だったりする。」
「アーニーは、基本的には火星側にある。ビューナスは敵性主体である・・・あります。です。」
「わかっているのである。しかし、アーニーは民主化に協力してくれている。ちょっとだけであるが。理由は不明であるが、今回もお願いしたい。」
「お願いしたかったりして、だったりする。」
「まあ、理由は明らかにできない。しかし、もし、あの両者の会見を望むのならば、アーニーは同意する。」
「それでよいのである。アレクシスもぜひ、そうしたい。リリカ本体の意思はどこにいるのであるか?」
「それは、いまだに不明。そちらは?」
「ビューナス様も探しているが、まったく分からない。しかし、リリカの複製がある。話は可能だ。問題ない。本人が話しても、同じことになるのであるからして。」
「そうだからして、ですかあ、だったりして。」
「了解した。アーニーは、彼らに会議の場を提供します。厳重に監視はするけれど。」
アーニーは、そのように動き始めた。
「なんだあれは?」
カシャが唸った。
アダモスが続けて言った。
「わからないが、まるで地表にバリカンをかけたように何もなくなった。いや、消滅した、かな。」
「動力装置が稼働不能。太陽発電不能。水力発電不能。蓄電室稼働不能。洞窟地下の電池のみ使用可能。残量はあと五時間です。」
報告があった。
「逃げたほうが良い。第二基地に移動しよう。」
カシャが言った。
「いっぺんに全員は無理だ。俺は最後だ。おまえ、まず、アンナを連れて先に逃げろ。」
「仕方ないな、でも死ぬな。アンナ、来い。」
「わいは、兄貴と、えーつらと戦う!」
「むりだ、戦える相手じゃない。ここはもう、さっさと逃げるのみだ。行け早く。」
ボルが、カシャやリリカ(アンナ)などの幹部四人を転送しようとした。
「ダメだ、どうやら動けないぞ。」
ボルが激しい唸り声を上げた。
「どうした、ボル。」
「よくわからないが、周囲の空間が普通じゃない。飛べないよ。これで無理に飛んだら、みんな体がばらばらになってしまうと思う。」
「くそ。なにかやってるな。あの女だ、連れて来る。」
アダモスは、部下を一人連れて医療室に急いだ。
「来い!いっしょに。」
彼は、リリカ(複写)に銃を突き付けながら言った。
「おかしな真似はしないように。いいな。」
「やはり、私の助けが必要なのでしょう?」
「うるさい。とにかく来てくれ。」
「人にものを頼もうというなら、もっと丁重に扱いなさい。礼儀よ。」
「余計なこと言うな。さあ、こっちだ。」
「返事は来ないな。」
「ああ、来ない、いや待て、通信だ。」
「こちらは『青い絆』である。こちらには、リリカ首相がいる。」
「くそ、そうきたか。僕が出る。ぼくは火星王国の副首相ダレルです。あなたは誰ですか?」
「『青い』絆のリーダー、だ。」
「名前も分からなくちゃ、話しようがない。」
「よいか、ここにはリリカ首相がいる、今、話をさせる。ほら、話しなさい。」
「ダレル?リリカです。遠慮せず攻撃して!私がもう一人・・・」
「こら、バカ・・・いいか、首相は聡明でも、多少攻撃性が強すぎるようだ。攻撃を中止して帰らなければ殺すことになる。」
「断る。リリカは覚悟しているさ。僕が首相に成れるチャンスだ。そちらこそ、今投降しなければ、こんどは洞窟の中全体を消去する。遠慮は無し。1分待つ。返事が無かったらすぐ全滅させる。」
「おいおい、いいのかい?」
ソーが口をはさんだ。
「いいさ、このくらい。中途半端では相手ができない。でも、「私がもう一人」ってなんだ?」
「待て、話し合いをしよう!交渉に応じる用意がある。」
「おいおい、まてよアダモス、そんなこと聞いてないぞ。」
今度はカシャが口をはさんだ。
「ビューナスがさっき言ってきた、ぼくにね。交渉しろと。」
「おまえだけに?」
「僕はリーダーだ。逃げられないんだ、仕方ないだろう。」
「くそ・・・。」
カシャが唇をかんだが、どうしようもない。
ダレルは考えて、それから返答をした。
「ふうん・・・『何かよからぬことを企んでるな。リリカが二人いるのか。そうかコピーか、なるほど、読めてきた。』・・・まあこの際、【怪物の棲み処に入らずんば怪物は得られず】と言われることでもあり・・・よかろう、怪物ども、交渉に応じよう。ただし、リリカを同席させること。応じなければすぐ皆殺しだよ、よし、1分経過、攻撃する。消去開始。」
「まて、わかった、首相は同席させるから、君が消してしまった大地に降りるがいい。」
「いいのか?」
カシャが少し落ち着いて尋ねた。
彼は瞬間沸騰、瞬間冷却の性格だ。
「うん、いま話をする。悪くないさ。二人とも仲間になってもらおうじゃないか。」
「は? 洗脳するのか?」
「まあ、二人いっぺんには無理だし、ちょっと分が悪そうだ。このさい少しだけ手の内を見せてしまおう。」
「何を?見せるって?」
「この二人。」
リリカ二人は、顔を見合わせた。