わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第十二章
異空間を漂うリリカは、もうほとんど諦めてしまっていた。
「これは、やはり、人知ではどうにもならないわね。大体生きていること自体が、不思議そのものよね。体がないくせに。幽霊なのか。やはり、そうよね。」
リリカは、そう言った。
「子供のころに、次元の隙間を漂う人たちが出てくる映画があったな。そのとき、もっと研究しておけばよかったわ。」
その時だった。声が聞こえたのは。
「おや、あなたはそこで、何してるの?」
リリカは驚いた。
声の主の姿は見えない。
まるで、お風呂場の中で幽霊がささやいているような声だった。
「見えないわ。あなたと同じようなものだから。でも、わたしにはあなたが見える。そこが違いね。」
「どなたですか?あなたは。」
「そうか、声の周波数が違って聞こえるかな?まあ、それはどうでもよい。あなたのことはよく知っています。リリカさま。」
「え? もしかして、女王様? まさか。」
「まあ、いい線行ってるわね。わたしは、直近の名前は「弘子」。地球に住んでいたの。ちょっとした間違いで、こんなところに流されてしまったの。」
「地球?地球にはまだ人間はいない。」
「まあね。ここは時空の狭間だから、すべての現実から隔離されているけれど、すべての現実に繋がってもいる。あらゆる次元の、あらゆる空間のね。問題は、入口が限られていて発見が難しい事なの。でもね、わたくしは、こうしてもう一億年以上に相当する無為の時間を漂った。そうして、ついにヒントを見つけた。あなたお饅頭見なかった?」
「オマンジュウ? 白い丸いものですか?」
「それなの。わたしは、あのお饅頭が飛んできた方向を辿っているの。よかったら、一緒にいらっしゃい。多少遠回りになるけれど、おうちに帰れるわよ。」
「え、本当ですか?」
「ええ、請け合うわ。ただし、アナタの時代とは別の時に出るけれどね。」
「あの、わたしの体は、まだ私の時代にいるのだと思います。もう、死んだかもしれないですが。」
「ええ、わたくしも同じ。まあ、希望を持ちましょう。ただし、時間はかかるわよう。」
「どのくらいですか、ヒロコさん?」
「ううん、まあでも、地球時間で一億年くらいじゃないかな。いい?」
「そんなに、私、持つでしょうか?」
「そうね、他の方法が見つからない、とは言い切れないですが、まあ、ないわね。たぶんね。でも、お話相手がいるだけで、随分違うでしょう?いろいろ教えてあげる。役に立つわよ。きっとね。」
弘子は、リリカがこうなった事態と、その後の顛末を知り尽くしていたのだが、それには一切触れなかったのだ。
「わかりました、ヒロコさんとご一緒します。」
「やったあ。そうこなくっちゃね。」
「実は、もうお尋ねしたいことがあります。」
「なあに?」
「私、その「おまんじゅう」とは別に、おかしな幻影を見たのです。たくさんの女の人らしき人たちが、歌を歌いながら踊りを踊っていたのです。分厚いカーテンの向こうのような感じでしたが。『トオランセ、トオランセ』とか・・・そんな歌です」
「ふうん。それはきっと「幸子さん」達じゃないかなあ。「とおらんせ」じゃなくて、「とおりゃんせ」なの。遥か未来の地球にある国の言葉よ。これがまた、いわくつきの不思議な「あそびうた」、なのね。あなた、その未来の世界を盗み見したのよ。」
「サチコサン、ですか?」
「そう、『池の女神さま』たちよ。」
「『イケノメガミサマ』、ですか?」
「そう、池の女神様、ね。長いお話なんだけれども、じつは私にとっても、まだ完結していない事なの。まあ、ゆっくりお話ししてあげる。時間はたっぷりある。それに、あなたも、登場人物の一人だもの。」
「は?」
「旅は長いわ、さあいらっしゃい。」
弘子は、リリカの見えない手を引っ張った。
リリカはそう感じた。
「むむむ、これは・・・・・・。」
アダモスがうなった。
「目がまだ見えない、どうなってるんだ?」
カシャが確認した。
「同じリリカが二人になった。服装が同じだったらまったく区別はつかないな。聞くが、お前はリリカなのか?首相の。」
「そうです、火星王国首相、リリカです。」
「本物か?」
「その通り。私がリリカそのものです。」
「じゃあ、このリリカは?」
「さあ、おそらく偽物でしょう。しかし、私には関わりのない事です。」
「おどりゃあ、きょーちのわりぃ女じゃ。」
「私は、こうした話し方は、いたしませんから。」
「うるせぇ!てめぇ、ぶっ殺してやる。」
「ちょっとお前は黙っててくれないか、アンナ。」
アダモスが優しく促した。
「ふん、くそ!」
「さて、どうするかな。しかし、もし本当にあなたがリリカ首相ならば、それは我々にとって非常に好都合だと言える。そうだろうカシャ。」
「まあ、使い勝手は大きいな。しかし、ここが発見される可能性もあるぞ。」
「ああ、わかってる。」
「さっさと、頭の中を頂いて、俺たちの仲間になってもらうのが、最善だろう。こいつを教育する手間が省ける。」
「そうだな。しかし準備には多少時間が掛かる。新しい意識プログラムを作る必要がある。まったく予想外だしな。この際、第二基地に移動するかな。」
「それも、おおごとになるぞ。それこそ時間が掛かる。それにしても、これは火星の民主化にとって、またとないチャンスだ。逃すなよ。」
「うん。そうだな。警備は君に任せる。とりあえず監禁する。最下層の留置部屋に入れよう。連れて行け。ただし、丁重にな。首相閣下だ。ぼくは爆弾がどうなったか確認して、声明を発表する。」
「ああ、了解。お前たち来い。」
カシャは部下を伴って、リリカ(複写)を連れて行った。




