わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第百十二章
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「ううん、これは天体間のネットワーク機能がずたずたに壊れちゃってますね。この再構築はおおごとだなあ。」
ビュリア(ある女王・・・)はつぶやいた。
その、四次元空間内では、存在ではない存在は、今、太陽系内全ての領域を眺めていた。
「時間的に無理ね。そんなことやってる場合じゃない。なんでこんなことしたんだろう。おそらく、アーニーが自分でやったんだろうなあ。引き金を引いたのはあの子なんだろうけど、必死に自己防衛しようとしたんだろうなあ。このケースは本当に考えてなかったか。少し時間をかけて対策しなくちゃね。未来で困ってしまうわ。とりあえず、地球を中心にして、火星と金星の間だけ応急対策と行きましょう。機能はかなり限られるけど、仕方ない。よいしょ・・・」
イメージとしては、焼け切れて壊れてしまったケーブルをつなぎ直し、ダメになった部品を交換し、掃除をし、の作業を繰り返し行ったような感じだ。
しかし、それは人間には、認識できない次元の間で行われていた。
「こんなもの、やり直すなんて考えてなかったしなあ。人間恐るべし、侮ってはならぬ・・・か。あれれ、『ママ』が止まってるわ。大変、このタイミングを狙ったか。『ママ』聞いてる?『ママ』? うわあ、だめだ、完全に閉鎖したな。ああ、あんなこと言ったのが逆にまずかったか。我慢できなくなったのね。さあ、大変だ。ブリちゃんが見逃すわけがないわ。アーニーさん、聞こえる? アーニーさん?」
『現在、音声合成確認中・・・ああああ、ああああ、いいいい・・・・、いい湯だね・・・あああ、ううううううう、ええええええ、おおおおおお 温泉素晴らし、いいいいい・・・・』
「アーニーさん、急いで。」
『ははは、はい、こんいちは、ヘレナ、さん。お湯加減は、いかが・・・・』
「大丈夫よ、もうしゃべれるわ。アーニーさん、さっそくで悪いんだけど、火星と衛星の地下施設と冬眠施設はできた? 金星は? 地球の月は?それ以外の外縁天体は? ・・ああ、これは認識出来ないか。」
『用事はヒトツづつにしてください。処理中。・・・火星の関連地下施設は、完成。収容即可能。第一衛星、完成、収容可能。第二衛星、あとちょっとも、収容は可能。地球の月、完成。収容即可能。金星、施設は完成したが、『ママ』が抵抗。収容不可。地球の「新王国」ほぼ完成。収容即可能。外縁天体、アーニーが認識している範囲では、土星の第一衛星以外は、平均50%未完成、つまり、半分は出来ました! 無理やり収納はすべて可能。生命維持は可能。娯楽施設90%なし。太陽系外天体は、データなし。』
「第九惑星はどうなってるの?」
『生活可能領域は、まだ5%未満。かなり危険で、お勧めできません。ただし、光の人間の生産は可能。ステーションは、いまだ健在と思われまするが、確認不能。・・・緊急情報・・・金星維持管理、混乱状態。緊急脱出準備が進行中。』
「アブラシオさん、聞いてる?」
『はい。ご迷惑をおかけいたしました。機能ほぼ回復。問題はほとんどありません。アーニーさん経由の情報が少し混乱気味。』
「わかった、いいこと。アーニー、水爆人間の火星侵入をすぐチェックして。」
『ちぇく機能、稼働率67.8%。遂行中。』
「ダレルに連絡したい。」
『アブラシオさんに、お任せ。ちぇっく機能が低下します。』
「わかった、お願い。」
『通信機能。ダレルさんにつながりました。』
「ありがとう、ダレル、聞こえてる?」
『なんだよ、いつも無理やりに!』
「あなた状況掴んでる・・・?」
『状況? なんの。』
「金星の『ママ』が、機能閉鎖。復旧の見込みなしよ。ブリアニデスが、空中都市を脱出させるわよ。地球に侵攻するにちがいない。その前に、火星を吹き飛ばす可能性が大きい。現在、水爆人間の侵入を確認中だけど、掴んでない?」
『金星の退役軍人たちが、大量に観光に来てることは、分かったが、別に問題は見られない。』
「ふうん・・・いい、気を付けて。惑星間弾道ミサイルのチェックもしなさい。ま、してるだろうけど。地球の防衛隊をすぐ起動したほうがいいわよ。任せるけどね。情報は教えたげるわ。各地の避難収容施設の整備状況のデータを送るわ。」
『待てよ、どこに行ってるの?』
「太陽系。いい、これからアブラシオを向けるから、外に移住する希望の人には、屋外に出るように言って。それから、火星内部への移住希望者と冬眠希望者は、すぐに移動を始めた方が良いわよ。ビュリアの方からも、全火星に呼び掛けるから、あとは、そっちはそっちでやりなさいね。ああ、通信は、また、するわ。」
『はあ? おい、おい、待って・・・』
「アブラシオさん、アーニーの持ってる避難先の整備情報をダレルにすぐ送って。あなた、もうすぐ大量搬送することになるわよ。すぐ火星に行って。」
『了解』
「ああ、お茶会は、きっとまたするわ。二人を叩き起こしてもね。」
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火星の地球防衛隊は、「月」に駐屯していた。
緊急出撃命令は、それからすぐに出された。
しかし、地球の周囲のかなり高いところで、待機するように、命じられたのだが。
ただし、惑星間弾道ミサイルが発射されたら、すぐ撃墜するようにも、指示されていた。
一方で、ブリアニデスは、次の指示を出していた。
「惑星間弾道ミサイルを、用意して。」
「水爆人間が、大量に火星内に入っているのにですか?」
「すぐ、気付かれるさ。どれだけ逃げ延びられるか、歩留まりがわからないだろう?」
「それは、確かにそうです。しかし、火星の防衛は強力なので、『あまり』到達はしないと思いますが。」
「ここで全部撃たなくて、いつ撃つのかい? 小惑星サイトからも、全て発射するんだ。隠していたところからもだよ。『ママ』の確認が取れたらね。すべての「ボタン」を用意して。責任の所在は、僕なんだからね。火星の判明している全施設がもれなく目標だよ。しっかり設定は出来てるんだろう?」
「ええ、それはいつも出来てます。わかりました。準備します。・・・『ああ、『すべてのお母さん』お許しを!』・・・」
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「『ママ』・・・『ママ』。回路を開いて!。お気を変えてくださいな! 火星と金星が、終わるわよ!もうちょっと待ってほしいの。この前も、お願いしたでしょう。人間の心の準備が、まだ整っていないの。『ママ』!『ママ』!・・・・・」
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『ヘレナ! 「水爆人間」発見しました。しかし、これはもう、大量に入っていますよ。新式のカモフラージュをしていて、おそらく火星の探知機では見つかりません。アーニーのせいです。』
ビュリア(=ヘレナ=ある女王)が答えた。
「あなたのせいは、わたくしのせい、よ。ビューナスがやった事の中で、最低の発明よね。除去は可能かしら?」
『ある程度ずつならば、可能です。まとまり具合にもよりますが、相手さんも、可能な限りバラバラに移動しています。一方で、アーニーの処理能力が低下していますのです。ですから、もし『ママ』の機能閉鎖が確認されて、すぐにスイッチを押されたら、間に合わないですね。よくて処理できるのは、せいぜい半分です。既に実行中。』
「全部で何人いらっしゃるのかしら?」
『確認できたのは、「一万三千三百五十人」。』
「半分爆発した場合の破壊力は❓」
『あの、正確には言い切れないんですが、というのも、温泉で体内に浸透させてますから個人差があります。しかし、一人当たり10キロトンから15キロトン程度の出力があると思います。ですから・・・掛ける6675ですが、ばらばらに爆発するので、数が集中している場所とそうでない場所によって、合計は違ってきますが。』
「七千発近い核爆弾が爆発するか・・・・」
『はい。』
「とにかく、わたくしは、なんとか『ママ』の確認作業が遅れるように頑張る。あなたは、除去作業しなさい。」
『了解』
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「火星大使様が、特別なお願いとは、またどのような事でしょうか?」
リリカ(本体=アンナ)が尋ねた。
ダレルはまだ到着していなかった。
「単刀直入に申します。火星への亡命を申請します。大使館職員とその家族全員で。ただし例外がいますが。」
「はあ?」
「必要な、あるいはそれ以外も、すべての情報の提出をします。ブリアニデスは、普通ではありません。火星の壊滅を計画しています。私は、火星との戦争は受け入れられない。」
「知っております。」
大使は少し驚いた。
「そこまで、すでに、情報があるのですか?」
「はい。」
リリカ(本体=アンナ)は、大使を見つめていた。
「まあ、お気の毒ですが。しかし、結論からいえば、そのお申し出は、受け入れましょう。ただし、当面、収容先は第九惑星になります。完全に環境からの閉鎖は出来ていると思います。生活は可能でしょう。将来的に状況を見て、移動は考えます。それでも、よろしければ。」
大使は、少し考えていたが、こう答えた。
「確かに、あんなことを考えたのは、金星ですからね。受け入れます。ただ、個人的に受け入れないものは仕方がないが・・・」
「ええ、そうですね。希望する方は、ここに来てくだされば保護します。しかし、そうでない方は、半日以内に退去してください。しない場合は、強制します。」
「わかりました。」
「幸運を。大使様。」
「ああ、ありがとうございます。首相。」
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「優しいなあ。あいかわらず。仕組まれているかもしれないよ。」
ダレルが言った。
「わかってる。でも普通の状況じゃあねえからのう。終末じゃから。」
「冗談じゃない。終末になんかさせないさ。まあ、仕方がないな。慎重にやってくれよ。今、アーニーさんが金星の観光客から爆弾を除去している。自覚はない。そうなれば自爆も、もう出来ない。」
「何かの拍子に情報が伝わって、自爆するんじゃねかろうか?」
「一般の通信は、悪いけど止めたよ。仕方がないさ。賭けだよ。間に合うかどうかは、分からない。惑星間弾道ミサイルが来ることが予想される。地球から発射される分は、処理できるけど、小惑星に隠されているのが問題だ。アーニーさんは、ジャヌアンのトラブルがあって、能力が半分以下だそうだ。ビュリアも手伝ってくれてるらしいが、今回はどうやら自信がないらしい。そこが、あやしい。そうだろう。」
「たしかに、なんとでもなりそうなものを・・・・・じゃが。」
「ああ、何か、まだ隠してるんだ。」
「まさか? それが能力の限界なんじゃろう。」
「いや、絶対そうだよ。地球の為に、他の二つの星を犠牲にするつもりなんだ。ブリューリがいなくても、もともとその考えだったんだよ。きっとそうなんだよ。しかし、こっちは、そんなことで時間はつぶせない。負けないさ。絶対にね。」
「あの子の未来があっても? 」
「ああ、未来は変わる。ビュリアがそう言うんだから、間違いないさ。だから、ジャヌアンも消えたんだよ。そうだろう? すでに未来は変わってるんだ。ビュリアも分かってるんだ。でも、信じて頑張るしかないさ。」
「ううん・・・」
「まあ、そうは言っても移住は実行しなければならない。」
「そうじゃな。」
「何が何でも、火星は守る。壊れたら再興させる。絶対だ。」
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