わたしの永遠の故郷をさがして第二部 第十一章
「お呼びですか。」
リリカ(複写)首相が、すぐに姿を現した。
「座って。たぶんもう、時間がないの。」
女王が少し早口で促した。
「いい、核爆弾テロが起こるとの情報がビューナス様から入りました。」
「まあ、それはまた、大変ですが、場所はどこですか?」
「さて、そこが問題なんだなあ。でも待って、空間の微妙な変化を感じる。そうだ、これね。この前もこれを感じた。でも前回はまあ、ブリューリ様と遊んでいて、いいかげんにやってしまって、訳の分からないことになってしまったわ。今回は逃がさないわ。まじめに対応してさしあげますわ。でも、ちょっと遠いわね。第二大陸の食料倉庫だ。リリカさん、ここに行って。兵士も十人つけてあげるから。装備もわたくしが勝手に装着するわよ。ほら行きなさい。」
リリカ(複写)は女王の意思で、第二大陸まで生きたままで転送された。
「わたくしの存在が、本当に架空の物ならば、今回は、いったいどのようにされるのかしら。ぜひ試してみなくては。わたくしが持っているのは、自分に対する信頼と忠誠心だから。だからわたくしは介入しない。黙って見ているの。もし核爆発が起こってもね。間違いならば・・・間違いだけれど・・・いったい何が、どうなるのかを。」
女王は声に出さないようにしながら、心の中でつぶやいた。
アーニーは、もちろんそれを見ていたけれど、残念ながら、彼には人の(女王は、人ではないかもしれないが)心の中を見通す力はないのだ。
リリカ(アンナ)たちテロリストは、すでに第二大陸の巨大な食料倉庫に到着していた。
到着してすぐに、彼女たちは活動を始めたのだ。
幸い・・・多分幸い・・・誰もいない。
もちろん、ここも、先日の加工工場も、監視の目は厳しい。
テロリストの侵入事件が頻発していたから、なおさらだ。
食料倉庫の自営警備隊は・・・みんなロボットだ、警備長だけはアンドロイドだったが・・・すぐに行動を始めた。
けれど、リリカ(アンナ)たちの動きは速い。
カシャの動きは、普通人の百倍以上のスピードがある。
リリカ(アンナ)は、もともとミュータントではない。
ただ、リリカの体はきわめて優秀だった。
比較的小さなこの部屋の周囲には、例のように地雷が撒かれた。
警備隊が到着したのは、侵入から数分後だったが、先頭の隊員数人が地雷で飛ばされてしまった。
「包囲完了、ただし危なくてこれ以上は近寄れません。」
「リリカ首相様が到着されました。」
リリカ(複写)が女王の兵十人を連れて現れた。
この兵は、しかしただ者ではない。
地雷くらいではびくともしない、特殊加工済みの「無敵兵士」だ。
「突入しなさい。」
リリカ(アンナ)が指示した。
「無敵兵士」はテロリストが立てこもる部屋に向かって突入していった。
あちこちで地雷が爆発するが、彼らにはまったく何の障害にもならない。
「ほら続いて突入よ。」
警備隊とリリカ(アンナ)が、後に続いて走り込んでゆく。
「来たよ。じゃんじゃん撃ちまくれ。」
リリカ(アンナ)が叫んだ。
「俺がリーダーだ。くそ。」
カシャは素早く動き回りながら射撃する。
リリカ(アンナ)は、スピードは及ばないが、射撃はやたらに上手い。
ウンタールも射撃の腕なら引けは取らない。
「腕を上げたな、お嬢さんよ。」
「うるせぇ!」
リリカ(アンナ)が毒づいて移動する。
テロリストの使っている銃は、貫通力が異常に高いようだった。
自衛兵たちが打ち抜かれて倒れてゆく。
兵士たちは、一旦突入を止められてしまった。
リリカは、黒い覆面をしたテロリストをちらっと見た。
「なによ、あの銃。でも、あの女。あれ・・誰? あの声、私と同じ? まさか・・・」
いったい、相手は何人いるのか?
あちらこちらから銃弾が飛んでくる。激しい銃声が飛び交う。
映像では、四人が侵入したはずだが、弾の発射される地点があまりに多い。
「くそ、近寄れないか。仕方ない。」
リリカ(複写)は手りゅう弾を投げ込んだ。
しかし、カシャはそれを手でキャッチすると、投げ返した。
リリカの向こう側の角で爆発した。
兵士が二人飛んだ。
一人は「無敵兵士」だったので、体に傷は負わないが、もう一人は破壊された。
リリカ(アンナ)は、「かぐや二号」を連れて隣の小部屋に移った。
ボルが、まだひっくり返っている。
「さあ、てめぇ、ここで隠れるんじゃ。座って。」
「かぐや二号」は、にっこり微笑んで床に座った。
リリカ(アンナ)は、彼女の背中に手を入れて、やや幅の狭い背中の「ベルト」の裏側を探った。
そこには、安全装置の解除スイッチがある。
「よし、けぇじゃ。そら、解除じゃ。」
リリカ(アンナ)は「かぐや二号」の顔を見ながら言った。
「たのむでぇ。てめぇに、かかっとるんじゃけぇな。」
彼女は、またにっこりとほほ笑んだ。
「けぇで、隣の部屋の様子を見ながら、わいらが移動したら、すぐ爆発せぇ。ええな?」
「かぐや二号」はにっこりとうなずいた。
リリカ(アンナ)は、映像タブレットを渡した。
それから、彼女の肩を少し抱いてから、隣の部屋に戻って行こうとしたが、そこでボルに声をかけた。
「どうじゃ、動けそうか?」
ボルは、上半身を起こして答えた。
「ああ、あと五分で大丈夫だ。」
「よし。」
リリカ(アンナ)が銃撃のさなかに戻った瞬間に、銃弾が彼女の首筋を通過した。
「おりゃあ!」
リリカは小さく叫んで、その場に座り込んだ。
「大丈夫か」
カシャが撃ち続けながら言った。
「てめぇ、くそ。何じゃ、下手くそめ。」
赤く染まった彼女の首は、しかしすぐに再生を始めた。
「おまえ、やはり化け物か?」
「うるせぇ、あと五分足らずじゃ!」
リリカ(アンナ)は立ち上がって、再び攻撃を始めた。
「これじゃあ、ラチが開かないわ、よし、突入するわ。続いて、あなたたちはいい、外で援護して。」
リリカ(複写)は、「無敵兵士」を率いて、ドアに近寄って行った、何発かの銃弾が、リリカ(複写)を貫いたが、こちらもすぐに再生してしまう。
しゃがみながら、とにかく部屋に侵入できた。
机の裏に隠れる。
カシャがすぐに攻撃を仕掛けてきた。
「ううん、見えないわね。そらともかく乱射。」
リリカ(複写)が応戦する。
「ものすごく正確じゃないか。危ない危ない。ありゃ、こいつはアンナだ。いや、リリカか!」
カシャは、一度リリカ(アンナ)の傍らに戻った。
「お前が来てるぞ。」
「なんじゃ?よく見えん。」
「あの机の陰だ。」
「くそ、ぶっ飛ばしてやる。」
リリカ(アンナ)は自分の複製に向かって銃を乱射した。
「後ろに回りたいが、隙間がないな。」
カシャは動き回りながらつぶやいた。
「やれやれ、仕方ないわね。あれを使うわ。全員、視力ガード。」
リリカも特殊グラスを装着し、空中に「太陽球」を放り投げた。
太陽の光を、目に前で急激に破裂させたような、猛烈な閃光が走った。
「うわ!」
動き回っていたカシャは、閃光を直に浴びてしまった。
彼は床に落ちた。
「狙って!」
リリカ(複写)が叫ぶ。
カシャは集中砲火を浴びたが、素早く動いてとにかく大きなテーブルの後ろに入った。
「大丈夫か?」
そこにいたウンタールが声をかけた。
「くそ、目が見えない。」
「おれも、やられた。こりゃあだめだ。」
「アンナは?」
「一つ向こうにいるが、ありゃあ正気じゃないぜ。時間はまだか?」
「多分、もう良いころ合いだろう。」
リリカ(アンナ)も、丁度、下を向いてはいたが、視力の大部分は奪われていた。
ただ、なんとなく影はわかる。
ボルはようやく動き始めた。
「くそ。まだ限界ぎりぎりだが、やるぞ。」
隣の部屋で、「かぐや二号」の映像タブレットを見ながら、そう言った。
強烈な閃光だったが、タブレットは防衛機能が働いて、無事機能をしていた。
彼はドアの隙間から、はいずり出ながら移動してゆく。
まずウンタールとカシャを確保した。
しかし、リリカ(アンナ)との間には弾が、まだ飛び交っている。
「アンナ、来い。援護する」
ボルが声をかけた。
リリカ(アンナ)は机に背中を持たせながら、そちらに這い寄ろうとしていた。
が、彼女は感じた。
銃を突き付けられた。
いつの間にか、リリカ(複写)が背後から忍び寄ってきていたのだ。
「捕まえたわ。動かないで。ほら、あなたたちも動くな。さあ立って。ゆっくりよ。」
リリカ(アンナ)は、手を上げて立ち上がった。
「兵士さんたち、こっちに来て。さあ、たっぷり尋問させてただきますから、いっしょにおいでくださいね。あっちの部屋、押さえて。」
数人の「無敵兵士」が隣の部屋に押し入った。
「まずいかな。」
ウンタールがリリカ(アンナ)にささやいた。
「おのれで判断するじゃろう。」
彼女は答えた。
実際、兵士たちは、もぬけの殻の部屋を眺めていた。
かぐや二号は、どこかに自分で移動していたのだ。
「そこ、何? ほら、マスク取りなさい。失礼ですよ。」
リリカ(複写)がリリカ(アンナ)の黒いマスクをはぎ取った。
「うそ」
リリカ(複写)が言った。
「今じゃ、ボル、行け!」
リリカ(アンナ)が叫んだ。
そうして、テロリストたちと、リリカ(複写)は消えてしまった。
*******特別インタビュー 松村弘志さん姉を語る*******
作者 「今日は、タルレジャ王国第一・第二王女様の弟さんで、第三王女様のお兄様に当たられます、 弘志さんにお越しいただきました。こんにちは。」
弘志 「どうも。」
作者 「さて、学校はお忙しいですか?」
弘志 「そうですね。まあ、けっこう普通ですよ。特に部活とかやってないですし。」
作者 「そうですか。で、王女様でいらっしゃるお姉さまお二人と、妹さんのことですが。」
弘志 「はいはい。」
作者 「第一・第二王女様、それから第三王女さまは、どんなお姉さまですか?」
弘志 「そうですねえ、まあ天才というか、変人というか。でも、弘子姉さんのことは、尊敬してま す。もちろん道子姉さんも。友子のことは、実際よく知りません。一緒に生活したことがないか らです。まあ、いずれにしても、代ってあげるのは嫌ですね。」
作者 「ほう。どうしてですか?」
弘志 「とにかく、早朝から真夜中まで、スケジュールがぎゅうぎゅう詰めで、個人の時間というもの がまったく、ありません。あれでは、窮屈で仕方ないですよ。ぼく、王子に指名されてないので 助かります。」
作者 「ほう。しかし、あなたも、先ごろ雑誌の表紙になるくらい人気がありますが、学校ではいかが でしたか? かつらをかぶると、お姉さまと区別がつかないとか・・・。」
弘志 「まあ、そういう噂は、先走りしますよね。はっきり言って、学校では少しいじめられました よ。からかわれた、かな。でもまあ、仕方ないです。姉が姉ですから。確かに姉に無理やり、 かつらを被せられたリしたことはあります。あれは姉の秘密のストレス発散方法なんです。」
作者 「そ・・・、そうなんですか。あの、将来の夢は?」
弘志 「普通のサラリーマン。ぜひ、その方向でお願いします!」
作者 「はあ、まあ、考えてみます。今日はどうもありがとうございました。」
弘志 「いえいえ、まあ、色々世の中ありますが、あなたもあまり気を落とさずに、がんばってくださ い。」
作者 「うわ~~~~ん。(涙)」