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わたしの永遠の故郷をさがして 第二部 第百二章

************   ************


「はあ、金星の嵐はすさまじいけれど、地球もなかなかのものじゃない。」

 マヤコは、結構楽しそうに大きな窓から何も見えない外を眺めていた。

「まあ、金星の場合はガス抜きだけれどねえ。」

 ウナは、相変わらず黙ったまま肯いた。

「しかしまあ、ここでこの先一生過ごすとなると、気が遠くなるねえ。あんた納得するかい?」

 ウナは首を横に振った。

「だよねえ。まあ今日の事にも、お礼はいっぱいしてくれたけど、説明は無いしさあ。他の客にはどうしてるんだろうなあ。」

 ウナは首を斜めに傾けた。

「とりあえず、今夜の食事は全員ですると言ってた。そこで何を言うかだね。」

 ウナは肯いた。


       *        *        *


 そこに、副チーフがやってきたのだった。

彼女は丁寧に頭を下げて部屋に入ってきた。

「今日は、色々とありがとうございました。そこで、お約束通り、状況のご説明をいたします。ただし、これからお話しいたしますことは、今夜の夕食時に他の皆様にもお話しする内容を、大幅に超えております。お気に召さないかと思いますが、全体の安全の為です。是非ご理解ください。」

 

 彼女は、そう前置きして話を進めた。

「お二人が、金星を出発する時点で、すでに金星の維持システムに大きな問題が発生する兆候がありました。それは承知の上で出発したのです。そうして、あなた方、4人以外のお客様は、もともと、そのことを、皆知っていたのです。」

「えー!なんだって。じゃあ、第九惑星の事故の事とかで、表向きVIP扱いになってたのは、つまり逆の意味ってこと?」

「そうですね。他の皆さんは、金星の引退した大物政治家とか、財界の影のドンとか、超超お金持ちの事業家とか、マスコミ界の大物とか、かなり危ないくらいの才能がある芸術家とか・・・昼間、一番最後の車両で騒いだ方があったのは、たまたまスイッチが入っていたので音だけ聞こえたのですが、覚えてらっしゃいますか?」

「ああ、『どうするんだ、なんとかしろ!!』とか叫んだが、すぐ黙ってしまったね。」

「ええ、あの方は、いま金星で最高の若手画家と言われる方です。とても神経質な方なんですね。でも、奥様が大変気丈で常識豊かな方なので、押さえつけてしまわれたのです。」

「おー、こわいねー!」

「ええ、奥様にだけは、頭が上がらないのだそうです。だから行政とかも、何かあの方と、もめごとがあったら、奥様に相談するそうです。」

「はあ。」

「すみません。なので、事実上、あなたがたを超VIP扱いにすることで、お互いの無用な接触を避けさせていただいたのです。あなた方は、謎の人物たちとされています。しかし、あの救出劇で、すっかり有名になりました。そうして、先ほどの三人の兵士を、アッと言う間に、「のしてしまった」ことも、もう話が広まっております。陰から見ていた女子従業員から広がったようですが・・・。」

「あらあら、らららら。」

「まあ、でも、マヤコ様の過去やウナ様の過去については、本来、わたくし共の知るべきところではございません。他のお二人もです。しかし・・・」

「しかし・・・?」

「はい。情勢は思っていたより急激に緊迫してきました。ブリアニデス総統様は、火星政府の意に反して、金星人全員を地球に移住させるお考えです。そうして、総統様が地球の王になられるとのお考えです。」

「そりゃあ、素人には難しい話だねえ。でも、火星は反対なんだろう。たしか地球は火星の持ち物だろう。」

「はい、正確に言えば「女王様」個人の所有物です。これは、『金星・火星条約』にも明記されていますしね。しかし、女王様が消滅状態であることから、ご子息のダレル副首相の所有に近く移されるだろうと、考えられていました。総統は、そこを無視する方針でいらっしゃるようです。我々金星人としては、地球に移住できれば、非常にありがたい事なのです。この、まだ少し荒々しいけれども、美しい星が手に入るならば最高ですものね。」

「でも、それじゃあ、火星だって黙ってないよね。」

「そうなのです。つまり今は、本来、火星との全面戦争の瀬戸際なのです。ところが、火星はオリンポス山の大噴火という問題を抱え、金星はそれこそ、あすにでも「壊滅」の淵に立っていました。つまり、戦争なんかしてる場合じゃお互い無かったのです。そこに微妙な話し合いの余地がありました。しかし・・・」

「ふんふん。」

「ここにきて、火星の火山の大噴火は、なぜか遠のいたようです。金星の「ママ」も、これもなぜか復活してきた様なのです。しかし、どっちも、あと百年持つと言う保証は全くなくて、「逃げる暇ができた」という状況なのだと、私は思います。ここの施設長も同じ考えですし、チーフもそうです。ただし、ホテルの総支配人と支配人は、金星の中央官僚ですから、ちょっと立場が違うのです。これが前置きですね。」

「ふんふん。」

 マヤコが両肘をテーブルについて、手をげんこつにしたまま、あごの下にじっと敷いている。

 ウナは、ただ大人しく座って聞いているだけ、のように見える。

「で、ここからは、非常に微妙な極秘のお話になります。実は、緊急事態が起こって、総支配人と、支配人が排除された場合、地球のこの施設は、チーフが最高責任者になります。ここの施設長が、ナンバー2です。わたしが3番目。」

「ほう・・・・・」

「ただし、これは本当に極秘事項ですが、テロリスト「青い絆」の本部が、割とすぐ近くにあります。実はこのホテルは、「青い絆」の影の本部であり、かれらの娯楽施設でもあり、病院でもあります。秘密飛行場でもあります。」

「え! それは、びっくしだね。」

「はい。なので、現状を受けて、本日、「ホテル本部」と、この「パレス」を、事実上正式に「青い絆」が接収するために、「青い絆」の主要メンバーが訪れてきたわけです。」

「え、え~!じゃあ、あたしがぶっ飛ばしたのは?」

「はい、その組織の幹部でした。」

「あらまー!」

 マヤコは、本当にびっくりした。

「でも、マヤコさんが、あそこで、ああやらなかったら、私が実行するはずだったのです。施設長もその仲間です。」

「つまり・・・」

「はい、チーフと施設長と私と多くの職員は、反逆者なのです。」

「あらあ・・・」

「でも、『青い絆』は、大幅に油断していました。みんな仲間だと考えて疑ってさえいなかったのですからね。確かに「総支配人」と「支配人」は、お互いにとって厄介者だったのですが。そこで、本部にやってきたギャレラ行動隊長、つまり今の「青い絆」のリーダーですが、彼らはすでに本部で拘束されています。「総支配人」と「支配人」もね。この二人は信用不可能ですが、もしかしたら、行動隊長は仲間に加わってくれるのではないかと、期待しております。そうなったら、ホテルに来ている大勢のVIPたちを、大切なお客様兼人質、やがては仲間として、金星と対抗し、火星とは話を付けて、ここ地球は、私たちが当分支配させていただきます。そうして、ここに理想に近いような、新しい民主的な世界を築くのです。やがて地球人も出現するでしょうけれど、その邪魔にはならないように、十分配慮いたします。ただ、この事業の進展方向には、まだ修正が入るでしょうけれどね。だって、このままでは、あまりに我々は脆弱で、金星軍には結局歯が立たないですから。火星の支援が欠かせません。」

「うわ!」

 マヤコがかなり反応をした。

「そこで、マヤコさんと、ウナさんには、ぜひ仲間に加わってほしいのです。あなた方の過去は、調べさせていただきました。ですから、心配なさらなくて大丈夫です。ここでは、過去は問題になりませんよ。ウナさんも。」

 ウナは、うつむいて黙ったままだった。

「結論は急ぎませんよ。特にお二人は、契約期間終了までは、まずは正規のお客様ですから。その先も、無償での滞在がチーフによって許可されております。ですから、遊んで暮らしていただいても、まったく構いません。でも、この先もずっとここに残るのならば、お仕事も必要でしょう?」

 キャロンは、そのキャラクターには少し合わない位に、可愛らしく首を傾けて見せた。



     ************     ************

 


 やがて、夕食の時間になった。

 外では、激しい嵐がまだ続いている。

 大きな食堂の、巨大な丸い「空がすべて見える天井」には、大粒の雨たちが、自分でも訳の分からない怒りを撃ち付けている。稲光も、雷鳴もひっきりなしに轟いているのだが、内側では、そんなに大きな音は聞こえない。

 つまりこの場所は、例の「ジャングル食堂」である。


 全体の見通しは悪いけれども、集まった旅行客は、全部で結局50人程度だった。

 皆は、中央付近の、大きく開けた空間の中に、固まって座っていた。


 食事が運ばれる前に、副チーフのキャロンがマイクを持った。

「皆さま、お食事の前に、大変恐縮です。皆様の楽しい旅行にもかかわらず、本日事故が発生いたしました。お客様の中に、お怪我をなさった方が出てしまいました。深くお詫び申し上げます。これから、当「パレス」の施設長から、お詫びと事故の状況などのご説明をいたします。」

 

 いささか太り気味の施設長が、ゆっくりと立ち上がった。



       **********  **********






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