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わたしの永遠の故郷をさがして《第二部》第一章

     第二部

      第一章

       『金星から火星へ』


 この太陽系の誕生は、約四六億年前だったといわれている。

 『そのもの』は、ちょうど、太陽系の形成時期にやって来ていた。

 これは、別に時期を図ったという訳ではなくて、ほんの偶然だった。

 『そのもの』は、ここに到達する遥か昔に、この銀河からは百万光年は離れているであろう所の銀河で、優秀な文明と出会っていた。

 しかしながら、その文明の滅亡を見届けた後は、ぶらぶらと当てもなく宇宙をさまよったり、生命の無い星で長く留まったりしながら、放浪の旅を続けてきた。

 『彼』でも『彼女』でもない『そのもの』は、沢山の塵が集まって、新しい太陽が誕生するのを見た。

 それから、周囲に散ったガスや塵が集まって惑星も形成されてゆく。あっちこっちで衝突したり合体したりしていた。

 中心の太陽では核融合が始まり、宇宙空間内のガスは吹き飛ばされて、原始惑星たちは主導権争いに忙しかったが、結局、『地球』を最大として、四つの惑星が生き残った。

 太陽から遠くでは、巨大なガス惑星が形成されていた。『木星』と『土星』だ。

 そのさらに外側には、氷の星が作られていた。『天王星』に『海王星』。

 この『海王星』と呼ばれるようになる惑星のさらに遠方には、『太陽系外縁天体』などと言われる沢山の星のかけらや、けっこう大きい物まで、多くの天体が太陽の周りを回るようになってきていた。

 そうして、この太陽系には、遥か彼方にもう二つの惑星がある。

 一つは太陽の周りを二万年近くかけて回っている惑星で、元々は、太陽系のもっと内側にあったものの、外にはじき出されてしまった天体。

 もう一つは、かなり小さくて『太陽系外縁天体』と比べると、やや大きめの天体、という程度なのだが、これは地球型の岩石天体で、元々は金星のそばで出来あがっていたものを、『そのもの』が気に入って、太陽系ぎりぎりの外側にもってきた星だった。

 本来人間が住めるような場所ではないが、『そのもの』はここを原点として、異空間にまで広がってゆく別の世界を作ってしまっていた。

 『そのもの』は、そこに『真の都』と呼ぶ世界を作り出した。

 さらに、もうひとつ別の、かなり離れた小さな天体を起点とした『地獄』も、暫く後から、作ってしまった。 

 太陽系が形成されてから、最初に命が生まれたのは『金星』だった。

 次に『火星』、それから『地球』、と次々に生命が誕生していた。

 これは、『そのもの』も見たことが無いような、相当な奇跡だっただけに、大いに興味を持って見守っていた。

 けれども、今から五億年少し前に、『そのもの』は、太陽に一番近い、現在名『金星』の生物に初めて干渉する事にした。

 永遠と言うべきような、時間と宇宙を飛び越えた旅をしてきた中で、『そのもの』は、幾多の生命に出会い、中には大変高度な『超文明』としか言いようのないものを築き上げていた種もいた。

 それらから多くを学び、また新しく考え出してきたのだった。

 まず『金星』で、この太陽系にとって、モデルとなるだろう『人類』の試作を始めたのだった。

 さらに四億年前からは、『火星』で新型人類の創造を始めた。

 『金星』での実験を生かしながら、七種類の『人類』の基礎に成る種を作り、それぞれを育成して最終的に『火星』の人類種を決めていった。

 『そのもの』は自分のこの太陽系での名前を『ヘレナ』とした。

 特に理由はないが、なんとなく気に入ったから。

 この太陽系の生物は、基本的には性別を持つように成ってきていたので、自分の創作でもそれをそのまま踏襲した。

 しかし、この二つの惑星の真ん中にある星、つまり『アース』については、非常に注意深く観察をしてきていた。

 自然の力を重視して、長く手を加えることはしなかたのだ。

 惑星の位置、大きさ、太陽の及ぼす力加減、などから、こんなに恵まれた環境の星は本当に珍しかったから。こここそ、当分の安住の地にしたかった。



           『火星』

 

 発掘現場は大忙しだった。

 新しい、と言うのも変だが、『火星第一次文明』の遺跡が新たに見つかったのだ。

 リリカは、考古学者ではないが、この遺跡の発見には大いに興味を持ってしまった。

 そこで、自らの立場に物を言わせて、この現場に入りこんでしまっていた。

 実際の事を言えば、今はこんな事をしている場合ではないのだろうけれども。

 この星では、偉大なる女王様とその一族郎党が、多数の『生贄』を必要としていた。

 大雑把に言って、女王様と全人口の五%程度の『完全種』と言われる一族が必要とする『生贄』、つまり『食料』は、一人当たり日に『普通種』人類の、二人から三人程度だった。

 『普通種』人類の家畜化が始まったのは、火星第四文明開始直後で、三千万年ほど前の事になる。

 それは、偉大なる女王様に、宇宙からやって来た、『完全生物』のブリューリ様が合体してからの事である。

 ところが、このところ世の中は激しく動いている。

 火星『普通種』人類から、また本来管理者であるはずの『完全種』人類からも、『異端人種』と言われるところの、女王の管理能力が効果を及ぼさない脳をもった、変種の人間が多数現れてきていた。

 勿論、昔からそういう人間は一定程度生まれはするものの、このところ大幅に増加してきていたのだった。

 結果的に、火星上は『内戦』状態に陥ってしまっている。

 おまけに、このところ『金星派』が力を持って来た。

 言葉の通り、火星の盟友であったはずの『金星人』とその子孫たちが、公然と『反女王』の側に立っていた。

 これは、ひとえに、金星の支配者にのし上がった『ビューナス』の意図したところだった。

 『ビューナス』は、両性具有の超能力者、すなわち『異端人種』だった。


 まだ二十歳に手が届いていないリリカは、偉大なる女王陛下の、現在のお体の、娘の子ども、という恵まれた環境に生まれた。

 当然『完全種』であり、支配者層の一員だった。

 けれども彼女は、口には出さなかったものの、『独裁』という支配形態が嫌いだった。

 火星では、第三次文明時代に、五百年ほど君主制を維持したまま、民主政治が行われていた時期がある。

 大昔の事だが、実は彼女はこの時代が理想の時代だったと考えてきていた。

 そこでは『完全種』も『普通種』もなかったし、今のような『生贄』も行われていなかった。

 偉大な女王様の能力を維持する為に、月に二人程度が儀式に捧げられていたが、これは、そのために特別に育成された複製人間だけだった。

 こんなこと、やはり口に出しては言えないが、リリカはこの難局を打開するには、今のようなやり方は変えなければならないと思っていたのだ。


 「この地層から、第一文明時代の石器が出て来たのですね。」

 リリカが尋ねた。

 「ええ、そうですよ。是非ご覧になってください。リリカ様。」

 一億二千万年以上前の地層から出て来たのは、素朴な石斧と、石で造った矢じり、のような物だった。

 「まあ、割と綺麗ですね。」

 「ははは、まあ、洗ってますから。でも、いいものですよ。」

 「ふうん。 女王様は、これ、御存じなんですか?」

 「いやあ、僕達が聞ける立場でもないですからね。でも、偉大な女王様は、当時も存在なさっていたのでしょうからねえ。」

 「ええ、そうですね。 意外と『本物』を隠しているかもしれませんね。今度聞いてみるわ。」

 「そりゃあいいですな。是非、結果を知りたいものです。」

 「はい、勿論です。」

 リリカは笑いながら答えた。


 「こらこら、あんな事、安請け合いするなよな。」

 と文句を言ってきたのは、友人のダレルだった。

 この男は、実は只者ではない。

 なにしろ、現、女王様の体から生まれた、言ってみれば王子様なのだ。

 ただし、『完全生物』ブリューリ様の子供ではない。

 女王様の、人間の夫の一人から生まれた子どもなのだ。

 彼の父親と言うのは、偉大な科学者である、アーサー・ダレルその人であった。

 「君は、女王様の家系でありながら、あまりに安易すぎる。」

 「あら、そう? まあ、貴方は王子様ですからね。私はその点もっとお気楽なの。」

 「王子と言っても、僕は『外王子』だからね。王様になるわけでもないし。それはそうと、今夜の舞踏会には、ちゃんと来るのかな?」

 「まあ、仕方ないのよね。女王様ご本人から直々に言われちゃったから。」

 「いやいや、参加ですか?」

 「まあね。苦手なのです。ああいうのってね。」

 「好い人がいるのかな?」

 「まさか!貴方は?」

 「いないよ。 今結婚したって、すぐ戦場に行くかもしれない。実際、ここだけの話だけれども、反逆者達が次第に首都にも迫っているようだからね。君も、用心した方がいい。ああ、君はもしかして、相変わらず民主主義派だっけな?」 

 「もう、大きな声で言わないでくださいますか?」

 「ははは、大丈夫さ。相手が僕だからね。でも本当に用心したまえよ。身内からも刃が飛ぶかもしれないからね。」

 「ええ、分かってるわ。」


 リリカは、今、研究室で画期的な、いや革命的な研究をしていた。

 人間の体を、不死にする技術。

 それは、完全な事実ではなかったが、ほぼそう言えるだろう。

 拳銃で撃たれたら、当たり所がよほど悪ければ死ぬかもしれない。

 原子分解銃なら、消えて死んでしまう。

 まったく殺せなくなるのではない。

 しかし、通常の状態ならば、まず死ぬことは無くなる。

 まだ完成とは、はっきり言えないものの、(だってやってみなければ、本当には分からないから)ほぼ出来あがっている。

 問題は、それを女王様に、いつ申し上げるかどうかだ。

  女王様は勿論喜んでくださるであろう。 もっとも、女王様はもともと不死、そのものなのだ。体は逐次入れ替えるものの、中身は永遠に死なない。

 しかも、この宇宙が終末を迎えても、なお死す事は無いという。

 こうした事は、一般的には一種の伝説なのだが、リリカにとっては切実な問題である。

 なにしろ、女王様からこの謎を解くように申し渡されているからだ。

 女王様はどこから来て、どこに行くのか。

 さらに、死なない人間を作るように、と命じられていた。

 ダレルは、これもまた、もういっぱしの天才科学者として知られているが、なぜか(実の子なのに)、リリカほどには女王様の覚えがよろしくないようだった。

 本人もその点は良く心得ているが、だからと言ってリリカに対して、特につらく当たるような事は、一切しなかった。

 「まあ、今夜機会があれば、完成ではないが、多分、いえ、ほぼ、完成、とか申し上げてみましょうか。木端が散るかも。」

 リリカは、内緒で遺跡の土中から持って来てしまった、第一文明の小さな遺物を眺めながら思った。



           『舞踏会の前』


 女王様は、舞踏会とかお祭りが大好きでいらっしゃる。

 多少気乗りがしないものの、リリカはともかくも、舞踏会用のドレスに着替えて、車で王宮に向かった。

 火星中のどこを探しても、こんなに豪華な建築物はここにしかない。

 リリカの住むお屋敷も、けっして小さくはないが、王宮に比べたら、木星と火星くらいの違いがある。

 『普通人』の一般的な家から見たら、数万人が暮らせる、いや、もっとかもしれない、巨大なものだ。

 車からリリカが降りると、周りに居た多くの人々が一斉に頭を下げて挨拶してくれる。

 まあ、女王様の孫だから、当然かもしれない。

 しかも、目下最高のお気に入りであることも、みんな良く知っているから。

 「いらっしゃいませ。女王様がお待ちかねですよ。リリカ様。」

 「え?本当に。直々にさっそくお目通りなのですか?」

 「はい。良いお話があるはずだと、申されておりますよ。」

 第一侍従長が、何だかとても、うれしそうな顔をして言った。

 「そうですか・・・。まずいな。」

 「は?」

 「ははは、いえ別に、ははは・・・」

 「では、どうぞこちらへ。」

 二十年近くここには通っているが、まだ知らない部屋や場所が山とある王宮の中だ。

 「また別のお部屋ですか?」

 「さようでございます。まったく女王様が今どこにおられるのか、私も毎日が、ただそれだけで、てんてこ舞いでございますよ。」

 第一侍従長は、もう楽しくて仕方がないというように答えた。

 「こちらへどうぞ。」

 リリカは、一人で中に入った。

 そこはまた、一段と巨大な部屋だった。

 しかし、その薄赤暗い部屋の中はがらんとしていて、人の気配が無い。

 「やれやれ。王女様かくれんぼですか?」

 返事が無い。

 仕方がないので、リリカは豪華なイスにどかんと座り込んだ。体が深くめり込む。

 『完全種』の高官でも、こんな事をしたらすぐに首が危ない。(そのままの意味でだ。)

 こうした場合は、部屋の隅っこで、ひたすら片膝付いて待つしかないのだ。

 椅子の中から見上げれば、天井など、いったいどこまで高いのか分からない位だ。

 周囲の壁も、さて、どこにあるのか判別しがたい。

 装飾品も、闇の中に不気味に影が浮かび上がっている様子だ。

 しかし目が慣れてくると、横側の壁に大きな絵が掛っているのが解る。

 勿論、女王様ご自身の絵だ。

 大きな角が頭にある。口元には巨大な牙が見えている。

 良く判らない何かに乗っているようだ。

 そうして、大きな胸と、空間の彼方を見つめているらしきその姿勢は見て取れるが、細かい事はさっぱり分からない。

 「ああ、これが女王様ご自慢の絵ね。始めて見せてくれたわ。」

 リリカがつぶやいた。

 「あなた、また角と牙、引っ込めているのね。」

 ふと、女王様の声がした。

 目の前に、彼女の姿が浮かび上がった。

 「なんだか久しぶりのようね。リリカ様。」

 何時の間に現れたのだろうか?

 リリカは飛び上がって、それから女王様の前にひれ伏し、三回拝礼してから、右足の親指に接吻した。すんなりした身体にしては、太く丈夫な指だ。

 爪はするどく尖っている。

 「私の前では、きちんと出しなさい。」

 「はい、失礼いたしました。」

 リリカは、言われたとおりに、自分の角と牙を目一杯出した。本当は最初からこうしておかないといけないのだ。

 まあ、多少の失礼は何時もの事だが。

 「何か気に入らない事でもおありになるのかしら。リリカ様?」

 「いえ、とんでもございません。女王陛下。

 私はいつも心から貴方様を敬愛いたしております。私は、身も心も貴方様のものでございます。」

 「それはそうでしょう。そのようにきちんと洗脳してあるのですから。」

 「はい。恐れ入ります。」

 「まあ、いいわ。で、ちゃんと報告をなさい。」

 「え? あの。はい・・・・。」

 「ばかね。ほら、ちゃんと言いなさい。好い事があるのでしょう? 大丈夫よ。今はブリューリ様は、分離なさっています。」

 「はあ、まあそれはまあ、どうでも構いませんが・・・。」

 「まあ、あいかわらずご挨拶ね。今の時点で、貴方以外なら即刻死刑ね。」

 「はあ・・・・」

 『昔は、こうではなかったらしいけれどなあ・・・・』 

 リリカは内心そう思って、まずかったかなと反省した。

 「まあ、貴方には、特に思考の自由を認めておりますから、許しましょう。でも、それは、それなりの見返りが期待できるからですよ。さあ、報告なさい。それとも、アーニーに言わせるのかしら?」

 「ああ、わかりました。では申し上げます。お申し付けのありました、人間の不死化の技術は、ほぼ完成したと思います。」

 「そう。『ほぼ』とは何?」

 『また、言い方間違ったかな』

 そう思いながら、リリカは付け加えた。

 『確証が得られていないからです。この場合は実験するのが困難なのです。確かに、データ上、すべての細胞は、無限の自己回復を行うと信ずることはできますが、本当にそうなるかは、やってみなければ証明できませんから。』

 「では、やってごらんなさい。」

 「は?」

 「やってごらんなさい。あなた自身で。まだなのでしょう?」

 「まあ、確かにまだです。」

 「ほらごらんなさい。怖い?永遠が?」

 女王様は、リリカの顔を覗き込むようにしながら少女のように言った。

 「永遠と言っても、宇宙の終焉には滅亡します。正確なタイミングは確定しにくいですが。それは、必ず訪れるでしょう。」

 「そうね。命を長引かせるだけだと?」

 「いえ、もちろん貴方が命ずる事には、全てお従いいたします。」

 「ならば、明日実行なさい。そうして、この宇宙がある限り、私に従いなさい。いいわね?命じます。」

 「はい。ご命令とあらば、そのようにいたします。女王陛下様。」

 「いいわ。それで。ダレルは知っているのかしら?」

 「いいえ、まだ。」

 「そう。じゃあ、いいこと、あの子も、同じようにしてあげなさい。これは、まあ、親心です。」

 「ご本人は、きっと拒否する、と思いますが。」

 「まあ、よく言うわ。失礼ね。やはり、今のうちに処刑して差し上げましょうか。本当に。私が、そう命じるのです。」

 「それはもう、御命令には全て従います。ただ、ダレル様は、いずれ女王陛下の、あの、失礼ながら、障害になるかもしれませんよ。」

 「確かに、あの子は強烈な不感応者です。でも、私の、この体の生んだ子供なのです。それとも、まだ言いますか?」

 「いえ、もう、申しません。」

 「いいわ。それで。まあ、貴方のような人間も、一人ぐらいはいなければね。ダレルには、少し荷が重いでしょうから。じゃあ、死刑になる前に、早く会場に行きなさい。美味しい物も、沢山ありますよ。特に今日はね。スイーツも沢山よ。『普通人間』も、山盛りですわよ。」

 「はい。わかりました。女王様。 あの・・」

 「何でしょうか?」

 「その絵です。」

 「ああ、そうそう、貴方に見てもらおうと思っていたのに。いかが?」

 女王が右手を少し上げると、絵の部分だけが、ふいに明るくなった。

 「私の、前の体なの。まだ若い頃よ。どう?」

 「はい。あの、何かお悩みでしたか?」

 「ばかね。未来を見つめているのです。」

 「どのような未来ですか?」

 「そうね、もうどうしようもないくらい素晴らしい未来よ。まるで今のような、ですわね。リリカ様、あなたも、私と共に、これからも、それを作り続けるのですよ。いいですか?」

 「はい。女王様。」

 「では、もう行きなさい。あ、そうだ、新しい命令です。もう少しましな『普通人間』の調理法を開発しなさい。すぐにですよ。」

 リリカは、後ずさりし、立ちあがって、大きくお辞儀をして、部屋から出て行った。





         『金星』


 『ビューナス』は、異常なほど美しかったのだ。

 普段の見た目は、明らかに女性だった。

 けれども、必要ならば何時でも精悍な男の姿にも成れる。

 どちらの性的な機能も完璧に果たせる。

 また、どちらが取り立てて好き、と言う事も無いが、相手によっては男の方がよい事もあるし、逆の事もある。

 しかし、いずれにしても、非常に冷静で、思慮深く、大胆に行動する。

 

 金星は、太陽に近すぎた。

 今後、もうしばらくしたら、人間形態ではとても生きてゆけなくなる事は、明らかだった。

 女王様は、このところ火星と、まだ幼い地球にご執心で、金星はとっくにほって置かれてしまったようだ。

 もっとも、詳細は解らないが、その原因は女王様に取りついている怪物『ブリューリ』にあることも間違いない。

 もともと女王様ご自身が、宇宙の果てからやってきた得体の知れない『幽霊』が人間に取りついているものだ。そこに、さらに訳のわからない『怪物』が合体してしまった。

 金星人類も、火星人類も、これから登場するであろう地球人類も、みな女王様のお産みになったものだ。

 だから女王様はかけがえのない、神様のような存在なのだが・・・。

 今では、仲間となった人間と共に、毎日大量の同族の人間を消費する、『人喰い鬼』そのものになってしまった。

 金星に、あまり興味が無くなった理由は分かっていない。だが実に幸いなことではあった。

 「火星の様子はいかがですか?」

 ビューナスは第一首相に尋ねた。

 「いや、良くありませんなあ。火星人類の人口はこのところ明らかに急速に減少しています。食べ過ぎですな。僅か五パーセントの支配層が、残りの九十五パーセントの同胞を喰い尽くそうとしています。もう時間の問題ですな。」

 「気の毒なことね。仲間は増えているのかしら?」

 「『金星派』は一定の数は維持していますが、なにしろ『不感応者』を意図的に生み出すのは、なかなか難儀なことですからなあ。こちらも切迫しているだけに、それだけに掛ってはいられませんし。」

 「ふうん。わたしは、これまでの平和的妥協政策は、もう変更が必要だと思うの。この星の命運も、思っていたより早く尽きそうでしょう。」

 「そうですな。空中生活も悪くはありませんが。」

 「女王様は、もはやこの星の盟主ではありません。自らお辞めになったのですから。叩くなら今しかありませんよ。準備をもっと早く進めなさい。」

 「はあ、財政的にはきついのです。これだけの都市を、空中に維持するのは大事おおごとですからなあ。」

 「だから、急ぐのです。どちらもね。われわれの『形態変貌』は、もう避けられない。火星をこのままにしたら、やがて現れるだろう地球の人間をも、いずれ喰い尽くすのは明らかでしょう。本当のところ、人間を食料にするような悪しき習慣を我々が止めさせたいけれど、もう時間的には難しい、未来の地球人に託すにはあまりに時間差がありすぎる。地球人の為にも、今のうちに、一挙に、怪物もろとも、火星をあの世に送るしかありません。まあ、その前に女王様が改心して、ブリューリをなんとか出来れば、話は別ですけれどね。 まあ多少は遅らせても構わないわ。 で、あの二人は、どうなのですか?」

 「今のところ、ダレルには脈がありますがね、あの孫娘は、基本的には女王の言いなりですから、難しいでしょう。才能は、明らかにダレルより遥かに上ですが。惜しいですなあ。」

 「時間が無い、出来る限り何とかしなさい。ただし慎重に。」

 「ええ、ええ。それはもう。下手したら、あっと言う間に、消されてしまいますからな。」

      


     『舞踏会 その一』


 ヘレナは、そのまま大きな部屋の中に残っていた。

 「ヘレナ」

 「なあに、アーニー。」

 「あの、しゃべっていいですか?」

 「ええ、どうぞ。」

 生体コンピューターのアーニーが呼びかけて来たのだった。

 「実は、金星で不穏な動きが見られます。」

 「まあまあ、それはもう、何時もの事でしょう?」

 「はい。しかし、あの、超小型核融合爆弾ではないか、という物を、大量に製造しました。一遍に使うと、まあざっと十五メガトンクラスかと。」

 「バーゲンでもするのかしら?」

 「は? それは、どういう意味ですか?」

 「ああ、いいのよ。気にしないで。」

 「はあ。まあ、火星を攻撃する以外の使い道は無いかと思いますが。」

 「まあ、怖い事。でも不可能でしょう。貴方が居るのだから。」

 「それがですね、そうでもないのです。あれだけ小さいと、沢山の輸入物品や貴方への貢物の中に混ぜられると、ちょっと区別が付かないかもしれません。」

 「おばかさんねえ。アーニー、だって絶対わかるでしょう。混ぜてるんだったら、その時に。」

 「でも、ヘレナ、お化粧パウダーとか水酸化カルシュウムみたいなものですよ。」

 「まあ、すごい物、作ったのね。さすがはビューナス様だ事ね。」

 「ヘレナ、アーニーは、何時も貴方の味方ですが、ブリューリは危険です。」

 「ブリューリ様を呼び捨てにしないで。」

 「失礼しました。しかし、私の計算では、間もなく火星は回復不能の危機に陥ります。そこに核爆発など起こされては、どうにもならなくなります。今なら回避可能です。ブリューリは、いえ、ブリューリ様は、早くお捨てになるべきです。」

 「いやよ、だって、私自身が、もう完全にブリューリなのだもの。 愛しているの。どうしようもなく。火星が滅んでも、一緒だわ。」

 「しかしですね・・・」

 「貴方、私に逆らうの? コンピューターなのに。」

 「いえ、逆らいません。計算結果をご報告しているだけです。論理的な帰結です。」

 「そう。いいわ。じゃあ、金星を訪問しましょう。すぐ準備なさい。リリカにも伝えなさい。ただし、明日ね。」

 「何時行かれますか?」

 「今夜。」

 「はあ?」

 「だって、早い方がいいのでしょう。さっさと金星に伝えなさい。ビューナス様にお会いしますわ。」

 「舞踏会は、どうなさるのですか?」

 「出るわよ、ちゃんと。でも、ちょっとだけね。その後は、分身に譲るから。それでいいわね。」

 「はあ、しかし危険だと思いますが。お互いにですが。 直接乗り込むのは止めた方がいいのでは?」

 「いえ、いいの。」

 「それは、まあ・・・忠告はしましたよ。分かりました。あ、ブリューリ様のお帰りですよ。」

 

 天井の換気口から、どす黒い、霧のようなものが降りて来た。

 それは間もなく、一人の男の姿に統一された。

 「お帰りなさい。あなた。」

 「誰か来ていたのかな?」

 男は、ヘレナを抱きしめて、キスをした。

 「ああ、リリカ様なの。今日は舞踏会だから。ねえ、お願い、早く合体して。ずっと待っていたのよ。」

 「いいのか?」

 「だって・・・じらしちゃ厭です。」

 男は、再び霧のように分解し、その影はヘレナを包み込んだ。

 女王は、歓びの表情の中に溶け込んで、そのまま沈んでいってしまった。着ていたものは、その場に脱ぎ捨てられていた。 


 舞踏会そのものは、午後三時から開かれている。

 始めのうちは、『完全種』達の、自由な社交の場である。

 商人にとっては、貴重なセールスや情報交換の場でもあった。

 王族や、高官、その関係者が出てくるのは、夜になってからのことだったが。

 女王は、当然、一番最後に登場する。

 なので、リリカが会場に出て行った頃は、もう舞踏会場は大いに盛り上がっていた。

 「リリカ様、いらっしゃいませ。すごくお綺麗よ。」

 「ありがとうございます。」

 声をかけて来たのは、王室会議の議長夫人であった。

 「今日は、ずいぶん素晴らしい舞踏会ね。」

 「はい、少し目がクラクラいたします。」

 「ほほほ、がんばってね。あなたもう、お酒が飲めるの?」

 「はい、一九歳ですから。でも、ほとんど経験していません。」

 「経験は大事よ。お酒も、男もね。あら、失礼。」

 議長夫人は、誰かを見つけたように、さっさと人混みの向こう側に消えて行った。

 「はあ。経験ですか。」

 リリカは、ため息をつきながら、広大なフロアーをあてもなく、ふらふらしていた。 

 天才科学者の卵、とは言え、社交界では、まったく無名なのだから。

 その時、ふと、同じようにぶらついている女に目がとまった。

 リリカよりも背が高く、女としては、かなりがっしりしている。

 「あ、彼女、大学の、確か『武道派』の、ほら、なんて言ったかなあ、そうそう、アリーシャよね。よし!」

 リリカは、以前からこの女性が気になっていたのだ。

 つまり、将来の仲間として、だが。

 「今晩は。アリーシャさん。」

 リリカは頭を下げて丁寧に挨拶をした。

 「今晩は。あなたは・・・『準王女様』ではありませんか?」

 「まあ、そうですが、その言葉はほとんど死語ですね。リリカです。」 

 「ああ、大学では、よくお姿をお見かけいたします。確か、発明の分野では天才と、お伺いしていますが、また・・・女王様の最大のお気に入りとも。」

 「まあ、それは少し言い過ぎですね。孫ですから、上手い具合に使われてしまっているのです。」

 「おやおや、それはお気の毒に、いえ失礼しました。女王様には言わないでください。私は金星移民の子孫ですから。」

 「ああ、そうなのですか。でも、金星から移ってきた方達の系統は、全人口の三〇%に達します。珍しい事ではありません。気にする理由なんか無いでしょう。」

 アリーシャは、少し意外そうにリリカを見つめた。

 「勿論そうですが。しかし、暗黙の差別は今でもあるのです。就職とか、結婚とか。」 

 「ええ、感じてはいます。でも、そうした事は、お互いの信頼の中から、解消しなければなりませんから。ほって置いてよくなるものでもありませんでしょう。」

 「そうですね。リリカ様は、政治家志望ですか?」

 「いえ。科学者志望です。」

 「女王様のお孫さんなら、なんでも出来そうですね。あなたは、女王様に、何を言っても罰せられないと聞いていますよ。」

 「そんな事が、言われているのですか?」

 「はい、学生の間では。勿論、裏側では、ですよ。表立って言うような者はいませんから。」

 「はあ。そうだアリーシャ様は、お酒はお飲みですか。」

 「はい、もう二十歳が来ましたから。制限は解除です。」

 「そうですか、私は一九歳なので、原則コップ三杯までです。」

 「ふふふ、そんなの守っている方は、まあいないでしょう?」

 「ええ、多分そうです。女王様なんか、一〇代半ばから、もうガブガブだったって。どうぞ、新しいグラスを。」

 「ありがとう。」

 「では、アリーシャ様の未来に乾杯。」

 「リリカ様の未来にも、乾杯!」

 

 二人は、自然に意気投合した形となった。

 オーケストラは、最近人気の作曲家、ドルンビーの舞曲などを、盛んに演奏している。

 彼は、王室付きの作曲家であり、今夜も楽団の指揮を行っていた。

 「あ、ダレルさんが来ました。」

 リリカが入り口を見ながら言った。

 「女王様の息子さんでしょう。ただし、王子の継承権は無いけれど。」

 「まあ、詳しいのね、あなた。」

 「まあ、『武道派』と言うのは、政治研究派でもあるのですから。色々と。」

 「好きなのですか?彼の事。」

 「まさか、まさか。合いません、あの方はね。私のタイプの男じゃないから。」

 「恋人は、いらっしゃるの?」

 「・・・はい。です。 あなたは?リリカ様。」

 「いません。あえて言えば、新しい物を作る事。それが、恋人なの。」

 「はあ、でもそれでは、愛しあったりできないでしょう。」

 「いえいえ、もう一日中愛しあってます。」

 「まあ、はははは。」

 アリーシャは豪快に笑う。

 しかし、喋っていない時は、どことなく孤独で周りを寄せ付けない感じもするな。

 リリカはそう思った。

 「こら、いたずら娘。ここに居たか。」

 ダレルがさっそくやってきた。

 「ひどい言い方ね。ほら、これがダレル様よ。こちら同じ大学のアリーシャ様です。」

 「よろしくお願いいたします。」

 ダレルの手の中には、ひときわ大きいグラスが握られていた。

 「こちらこそ。君の事は知っているよ。確か今年の選手権で優勝したはずだ。」

 「優勝?選手権って、あの全惑星武道選手権のこと?」

 「そうだよ。君から一番遠い世界だ。」

 「おほん。失礼ね。あ、でも、ごめんなさい。気にはしてたの。でもお名前が違っていたような・・・。」

 「ああ、選手権は必ずしも実名では無いのです。『グアンゴ』というのは、わたしの『武道家』としての名前です。」

 「ああ、そうなんだ。」

 「相変わらず常識が無いね。」

 「それは、失礼いたしました。」

 「はははは。」

 アリーシャとダレルは一緒に笑った。

 「時に、君、もう女王様に会ったのか。」

 「え、どうして?」

 「いや、そうかな?と思っただけだが。」

 『ふうん、やはり気にはしているのか。』

 リリカは、そう考えた。

 「ええ、お会いいたしました。」

 「なんだって、あいつ。」

 「あいつは、ないでしょう。母親ですよ。しかも女王様。まあ、実は新しいお仕事を、言いつけられました。」

 「何を?」

 「それは、企業秘密です。」

 「ふうん。企業秘密ねえ。良いじゃないか、言ってしまえば楽になる。ほら。」

 「ほらって、ね、アリーシャ様この人、何時もこうなの。まあ、私から見れば、目上になるのだけれども、礼儀と言うものが不足してるのよ。」

 「でも、確かに、その中身は気になりますね。軍事機密ですか?」

 アリーシャも、興味深そうに顔を少し寄せて来た。

 「あのですね。まあ、良いでしょう。では、言います。新しいお料理の作り方の研究ですわ。」

 「何だそれ?」

 「まあ、それって調理器、とかですか?」

 「ええまあ、そうでしょう。機械と、その活用方法、と言う事かと思います。」

 「新型の電子レンジとか、か?」

 「はいはい、ちゃんと申しましたでしょう。ほら踊りましょうよ。」

 「ちぇ!」

 ダレルは、ぷいっと向こうに行ってしまった。

 「女同志じゃ駄目ですね。」

 アリーシャが控えめに言った。

 武道は得意だが、社交ダンスはそうでもないらしい。

 「いえ、マナー違反じゃないし、ここでは良くありますよ。気にしないで。行きましょう。」

 二人は会場の真ん中近くで踊り始めた。

 曲は、ちょうど、ドルンビー作曲の『美しき火星の夕暮れ』だった。

 三拍子の、ゆっくりした洒落た舞曲だ。

 ヘレナ女王曰く、『現代火星音楽の傑作』なのだそうだ。


 「さっきのお話ですが・・・」

 アリーシャが切り出した。

 「あれは、人間の調理法ですか?」

 リリカは、少しどきっとした。

 『完全種』が『普通種』の人間を食料にし始めてから、すでに二千万年経過していた。

 実際僅か五パーセントの『完全種』が残りの『普通種』人を、計画的に飼育するシステムは、当り前の事として、実行されてきている。子供のころからの成長状況を見て、『食用』、『労働用』、『知的作業用』『娯楽用』などに分類してきていたのだ。

 少数ではあるが、非常に秀でた才能がある子供の場合は、養成所に入れて、一定の人格形成を(つまり女王様に対する完全な忠誠心を持つようにして)行ってから、高等教育機関に入れる事もあったが。

 実は、ドルンビーは、そうした一人だったのだ。

 けれど、精神の完全な自由が無いところには、特に芸術分野で、それ以上の、社会をひっくり返すような天才が現れる可能性は、非常に低かった。

 リリカのような特権階級者も、勿論子供の頃から、女王様に対する絶対的な忠誠心を与えられる。大部分の『普通人』は、女王様に対する否定的な意見を考える事さえできないし、まして言う事は許されない。

 にもかかわらず、人間の精神は緩む事もある。

 うっかりした事を言ってしまうと、すぐ消されてしまうか、『食用』に回される。

 『完全種』でも、そう変わらないが、ある程度、意見を述べる事はできる。

 そこは本人の裁量だ。

 しかし、女王様のお気持ちに添わなければ、それで、人生終わりかもしれなかった。 

 誰も聞いていないはずなのに、質の良くない悪口は、必ず摘発される。

 それらは、アーニーの仕業なのだが、その存在は公式には認められていない。

 それでも、二千万年も続けば、立派な社会制度になる。

 最近、この計画的食糧生産が、崩れてしまっている。崩しているのは、女王自身であり、その原因は、ブリューリにあった。

 リリカは、しかしはっきりと答えた。

 「そうです。」

 「なるほど。」

 ここに居るものは、皆きちんと、角と牙を出している。それが礼儀と言うものなのだ。

 二人も例外ではない。

 「あなたは、今の食料事情を、どう思いますか?」

 「ジジョウ?ですか?」

 「そうです。」

 アリーシャは踊りながらではあるが、明らかに真剣だった。

 リリカは、うつむきながら答えた

 「その事情は、良くありません。あまりに浪費し過ぎています。そのため、これは伏せられていますが、この星の人口は、最近激減し始めています。一定以上減少すると回復が困難になります。まだそこまでは行きませんが、戦争でも起これば解りません。かなり危険な状況なのです。」

 「女王様はご存知なのですか?」

 「勿論です。でも、女王様はブリューリ様と一体です。ブリューリ様は、『人類の自然絶滅主義』を掲げていらっしゃいます。女王様はそれに盲従しています。どうにもなりませんよ。」

 「子供を作らないで人口を減らすのなら、まだ理解可能ですが、食べ尽くしてしまう事は、どうなのでしょうか。まあ、私達も『普通種』を食べますが。」

 アリーシャは、大きなテーブルを見やった。

 そこには、大量の人間の手や足や、胴体の料理があった。勿論、それとは解らない料理もあるにはある。スープも、今日は人間スープだろう。

 「そこです。そこなのです。でも、これは絶対に外部には言えません。今この会話でさえ、かなり危ないです。」

 「あなたは、あえて付き合ってくださっています。そうした『完全種』を見た事がありません。あなたは、これからの支配者に相応しい。」

 「またまた、アリーシャ様は、もう、突飛な事をおっしゃいますのね。ふふふ。」

 アーニーは当然、これらの会話すべてをチェックしていた。以前ならば明らかに、即刻女王様行きの案件である。

 しかし、火星人類滅亡が実際に現実となるだろうと予測したアーニーは、この種の報告を、最近大幅に見合わせている。

 『火星人類の最終的な保護と絶滅回避』は、かつてアーニーに与えられた、女王様からの最高命令事項だ。今の事態は、そこに触れてきている。コンピューターはそう判断したのだった。

 

 その女王様は、二人がダンスを止めて座り込んでから暫くして、ようやく舞踏会場に姿を現した。

 「女王様のお成りです。」

 会場に案内役の男性の声が響き渡った。

 会場内の人々は、一斉に立ち上がり、大きな拍手が湧きあがった。

 偉大な女王ヘレナが、ひな壇に登場した。

 なんという、神々しい美しさだろうか。

 その神秘的な姿から発せられる輝きは、あたりのすべてを圧倒し、覆い尽くし、打ちのめした。

 もはや誰も、彼女に逆らうことなど絶対にできないと確信していた。

 それこそ、女王ヘレナの強烈な能力であり、ほとんどの人間は、どうする事も出来ず、隷属してしまう。

 「素晴らしい。」

 「神そのものだ。」

 あちらこちらから声が上がった。

 「女王陛下、万歳。火星万歳。」

 その叫びが、舞踏会場中をまんべんなく支配していた。

 女性達の多くは、涙に溢れた目をハンカチで拭いながら、また叫んでいた。

 リリカも、アリーシャも、その流れには逆らえない。

 二人とも、訳も分からず同じように絶叫していたのだ。

 しかし、その狂気の中で、テラスに出て一人だけ冷静にたたずんでいる人間がいた。

 ダレル、その人だった。


 

       『舞踏会 その二』

 

 「皆さま、本日は、ようこそ、この舞踏会にお越しくださいました。心から歓迎いたします。どうか心行くまでお楽しみください。飲物も、食べる物も、沢山用意がございます。尽きる事はありません。野暮なお話は、もういたしません。ただ今日は、偉大な作曲家で指揮者のドルンビー先生においでいただきましたので、ご紹介いたしましょう。」

 女王の挨拶に、盛大な拍手が沸いた。

 その初老の大音楽家は、少しだけ頭を下げて、歓声に答えた。

 「舞踏会が終わるまで、ずっと指揮をしていただく訳にはゆきませんので、先生には途中休憩や、お食事も取りながら、ということでお願いをしています。では、始めましょう!」 

 女王がそう叫ぶと、ドルンビーが軽く右手を振った。

 すると、会場のどこかから、華やかなファンファーレが鳴り響いた。

 オーケストラの団員は、身動きもしていない。

 それは、広い会場の、あちらこちらから湧きあがってきていたのだ。

 人々が手で高いところを指さしながら声を上げている。

 「あそこだ。 いや、こちらにも!」

 奏者は、天井の直ぐ下のテラスや、三階部分のボックス席や、中には天井から釣り下がった派手な金色のゴンドラの中から、力いっぱい吹奏していたのだ。

 それから、それに完璧に調和しながら、平舞台のオーケストラが鳴り始めた。 

 人々は、踊ったり食べたりの大騒ぎを再開させた。

 女王様は、舞台から降りて、グラスを片手に、人々の間をゆっくりと挨拶しながら歩き始めていた。

 偉大な女王様が、もう、すぐそばまで寄って来て、運が良ければ話しかけてもらえる機会など、他には無い事だったのだ。

 もっとも、ここに来る事ができている事だけでも、大したものだったのだが。 

 女王は、外のベランダに逃げているダレルに気が付いた。

 しかし、その時彼女は、何か不満げに会場内を見まわした。

 それから数歩歩いてから、急に非常に険しい表情に変わった。何か苦しそうにも見えたのだ。

 リリカは、その様子を、じっと観察していた。自分がそれに関係があるなど、思ってもみなかった。

 しかし、女王はまだ大分向こうから、大きな声でリリカの方を向いて叫んだのだ。

 「あなた、すぐここから出て行きなさい。」

 人々は、女王が誰に向かって言っているのか、その声が飛んでいった方向を確かめた。

 そこにいたのは、他ならぬリリカだった。

 リリカは、当惑した。

 しかし、人々の視線も、女王様の視線も、全て彼女に集中している事は明らかだ。

 音楽も、完全に停止した。

 「聞こえないの! あなたよ、あなた。」

 女王様は、リリカをはっきり指さした。

 「直ぐ出て行きなさい。仕事を命じたはずです。帰って、直ぐに始めなさい。」

 リリカは、もう訳が分からなかった。隣に居たアリーシャが、すっと動いた。

 「リリカ様、行きましょう。早く。」

 リリカは、困惑しながらも、大きく頭を下げて、そうしてアリーシャと共に会場から外に出た。

 会場の入り口には、衛兵が二人立っていて、二人が出た後、ドアはしっかり閉じられた。

 戻ってくるな、という事なのだ。

 

 「もう、訳が解らない。」

 王宮の建物から外に出てから、リリカは言った。

 「でも、あなたを巻き込んでしまって、申し訳ありません。」

 「とんでもありません。あのまま、あそこに居たら、私もどうなる事やら。ここは大人しく引き上げましょう。あの会話が、やはりまずかったのでしょうか。明日は大学に出ますか?」

 「はい、午後からのユバリーシャ教授の講義に。」

 「では、教室の前で、またお目に掛りましょう。」

 アリーシャはその場から立ち去った。

 リリカも、このままのんびりしていては危険だと察して、早足で自宅に向かった。

 

 「何をぷりぷりしているの?」

 女王は後ろから声をかけられた。

 ダレルが、窓際に寄った女王に、暗がりから話しかけたのだ。

 一般の人間がこんな事をしたら、ただでは済まないかもしれない。

 「あなたは、黙っていなさい。関係の無い事です。」

 「ほう。おかんむりですか。あの子が何をしたの?」

 「何も。問題ありません。」

 「ふうん。でも、あれはショックだよ。みんなの前でね。よくやるね。」

 「それが私に言う言葉ですか。あなたも消えなさい、すぐ。」

 「おお、怖。でも、母上が、あの子を処罰したりしないと約束したら消えますよ。」

 「そんなことは、いたしませんわ。」

 「ふうん。いまは、あいつが、くっ付いてるのか。」

 「お黙りなさい。消えて。」

 ダレルは、少し嘲るようなそぶりをしながら、暗がりに消えた。

     

 

         『金星』

 

 「ほう、女王様が乗り込んでくるとおっしゃるのですか?」

 ビューナスは、今は男性形態だった。

 「はい。これから、直ぐにと。」

 「ふうむ。効果てき面でしたか。」

 「はあ、そうだと言えば、そうですが。直接来るとは思いませんでした。」

 第一首相は、汗を拭きながら言った。

 「まあ、そう緊張することはないさ。お相手しましょう。」

 「危険です。あまりにも。拒否すべきです。怪物の種をまかれては、金星が危ない。」

 「なるほど。じゃあ、こうしましょうか。地上でお目に掛りましょう。僕だけでね。着陸も、地上にしてもらう。それ以外はお断り、ということで。どうかな?」

 「いやあ、そんな無茶な。貴方一人で対応するなんて。それこそブリューリ化してくださいと言うようなものです。」

 「ああ、その点は大丈夫。僕は一人じゃないから。」

 第一首相は、まだ着任して間もなかった。慣れていないのだ。

 「はあ・・・私、そこのあたりは、良く判りませんが。」

 「ははは、まあ気にしない、気にしない。」

 ビューナスは、次の瞬間には、急速に変貌していた。

 「そうですわ。気になさいませんように。」

 それは、眼もさめるほど美しい、完全な女性形態のビューナスだった。

 着衣がそのままなので、胸が溢れ出てしまっている。

 「これで、お会いしましょう。 ではわたし、下におりますわ。」

 「はあ、はい。」

 どぎまぎしながら、第一首相がやっと答えた。

 

 女王ヘレナの乗った宇宙船は、平均で光速の六十パーセントの速度で、金星に向かった。大体三十分足らずで到着する。

 「久しぶりねえ。ほらアーニー、何か言いなさい。」

 「あの、本当に、良いのですか?」

 「良いのよ。だって来て良いって言うんだから。」

 「いやあ、絶対何か企んでますよ。」

 「まあね。いいじゃない。久しぶりに。」

 「はあ・・・やはり時々、あなたは理解不能です。」

 

 『女王の宇宙船、大気圏に入ります。赤道大陸に降下中。ダニアルポイントに着陸予定です。』

 「やれやれ、困った方ね。来たいと言われたら、受け入れない訳に行かないわ。まあ、予定通りとも言うけれども。」

 『女王の宇宙船、着陸完了。地下に移動します。』

 「さて、お迎えに行きましょう。」

 ビューナスは金星の地下深くにある空港のロビーに向かった。たった一人で。

 

 

           『再会』

 

 「宇宙船のドアが開いた。

 そうして、すぐにビューナスにも劣らないほど美しい女王ヘレナが現れた。

 「いらっしゃいませ。お久しぶりですね、女王様。」

 「まあ、ビューナス様直々にお出迎えとは、光栄なこと。」

 しかし、ビューナスは平伏して女王の足の指にキスするという、王国の基本的な礼は行わなかった。

 金星は、形の上では火星の女王を頂点に戴く事になっている。

 しかし、最近交わされた平和条約で、それはそれとして据え置くが、事実上は対等な立場ですよ、と、うたっていたのだ。

 また、火星の女王は金星に対し、内政干渉は行わない事、また『古典的な』物理的法則を根拠に出来ないような干渉も行わない、ともされた。

 一方で、金星も、火星の内政には一切干渉しないこと、とも規定された。

 「相変わらず、目が眩むほどお美しいわ。」

 「女王様もですよ。」

 「それはどうも。」

 二人は両手を取り合い、それからお互いに抱擁した。

 「今日は、二人だけですよ。」

 ビューナスが言った。

 「久しぶりに、一緒に温泉に入りませんか?」

 女王は答えた。

 「まあー。あなたが、ずっと女のままでいてくださるならば、まあ良いですが。この前みたいに途中から変身したりとかは、なしですよ。」

 「あら、期待しておられるのでは?」

 「まさか!」

 「ふふふ、まあ、参りましょう。このところ、火山活動が著しく活発化してきているのです。学者の見立てでは、近く大規模な火山噴火が頻発するようになるだろうと。そうして地下のマグマの状態から見て、相当長引くだろう、と。金星の地表が、マグマで覆われてしまう日は近い、と。」

 「おやおや、それは大変な事。でも、皆さんには、影響が無いのでしょう? そのために空中都市をご提供いたしましたのよ。」

 「さあ、どうでしょうか。女王様は、どのように御見立てなのですか。ここは、貴方が開発し、私達をお育てになった場所です。おっしゃるように、あのような素晴らしい施設も与えてくださった。それは感謝していますよ。しかし、どうもさまざまな状況は、予想以上に緊迫しております。ぜひ、この先のお考えを確認したいのです。」

 「そうですね。星の行く末は、星に任せるしかありません。しかし、空中都市に関しては、いささかでもご不安があるのならば、技術的ご協力はいたしますよ。」

 「それは、ありがとうございます。さっそく技術的な面を、担当者からご連絡させていただきましょう。さあ、どうぞ、少し模様替えいたしましたのよ。」

 「ああ、すごく綺麗になりましたね。まあ、素晴らしい。」

 温泉のエントランスは、白く光り輝いていた。金星人は温泉が大好きなのだ。

 「今日は、貸切です。さあ、どうぞ。」

 「ありがとうございます。ビューナス様。」

 巨大な洞窟を掘り抜いていて、温泉の内部はあまり人工的な加工はしていない。

 野趣たっぷりの状態だ。

 温泉と言うよりは、洞窟の中の神秘的な大きな池、という感じになっている。

 ヘレナは、遥か後の時代に、地球の自分の王宮に同じような施設を作る事になるが、どうやらこの場所をモデルにしたらしい。

 「相変わらず、すごいですわねえ。」

 ヘレナの美しい裸体が、薄暗い温泉洞窟の中に浮かび上がっていた。

 そうして、女性形態のビューナスが、その傍らに寄り添ってきた。

 「さあ、どうぞ湯船に入りましょう。ヘレナ様。」

 「はいはい。」

 何時の世にあっても、温泉は良い物だ。

 「ふう。これがしたかったのよねー。」

 「女王様は、やはり今回、金星の温泉に入りたかったのでしょうか?」

 「まあ、そうですねえ。これも大きな目的でした。勿論、ビューナス様との友好関係を確かめたかった、のですよ。」

 「そうですか。安心いたしました。」

 「でもね、ビューナス様。報告によれば、何やら新しい洗剤を開発していらっしゃるとか。火星にパラパラっと振りかけると、火星上が綺麗に消えてしまうような。それは、本当ですか?」

 「まあまあ、さすがに情報早いなあ。まあ、本当・・・ですわよ。大体ね。でも、まだ実験段階なのです。もう、部下の皆さんが、作ると言って聞かないのです。そのような物、出来ないでしょう?と申し上げたのに、出来ると、強く主張されまして。で、何しろあんな粉ですから。どうやって使うの?と聞きましたのよ。」

 「まあ、そうしたら、何と答えたのですか?」

 「それがもう、女王様聞いてくださる? 使い方はもう様々とのこと。おっしゃいますように空中からぱらぱらと振り撒く事も出来ますが、それだと相当拡散しますでしょう。でも、あの粉一粒で、街の一区画位を、消滅させる事が、出来るのだと言うのですよ!」

 「まあ、怖い。」

 「それから、荷物に振りかけとく事も可能ですし、人間に食べさせておいて、次元爆発させるのも自由自在とか。食べる時には、チョコレート味とか、イチゴ味も出来る、と言ってましたわ。」

 「へえ、それは美味しそう。」

 「ええ、そうなのです。用い方は、いっぱい考えられます。でもね・・・」

 「はい?」

 「実験をどうやるかで、もめてますの。」

 「はあ。」

 「何しろ粉なもので、ちょっと吹いただけでも飛び散るでしょう。体の中にも入ってしまうし。服にもくっ付くし。もう危なっかしくて。」

 「それはそうですねえ。」

 「まあ、長所は短所なのです。」

 「ふうん。で、何に使うの?」

 「それも未定です。作ってみただけなの。でも、ね、女王様・・」

 ビューナスは、湯船の中で、ヘレナにぐっと体を寄せて来た。

 「わたしね、女王様と、こうするのが大好きなの。」

 「もう、ビューナス様ったら。」

 「ああ、良い気持ち。あのね、ご提案なんですけれど、女王様、もう長く支配者でいらっしゃって、お疲れじゃないですか?」

 「いえ、それほどでも。」

 「まあ、そうなんだ。さすが。でもね、実はね、その粉なんですけれど・・・」

 「はあ・・」

 「試しに、この温泉のお湯の中に、大量に入れておきましたの。」

 「え? お湯の中に、ですか?この?」

 「はい。で、人間と言わず、細胞のある生物の中には自然に浸透してゆきますの。短時間に。だから、もう女王様も、私も、今すでに核爆弾人間になりましたの。あ、でも、直ぐ勝手に爆発はしません。被ばくもしません。私が指示しない限りは。絶対にです。ご安心ください。」

 「あなた、自分が言ってる事、ちゃんと認識してるわよね。」

 「はい、女王様。間違いなく。」

 ビューナスはぐっと、その胸を強くヘレナの背中に寄せ、腕も首に巻きつけて来た。

 「もう、正直に申し上げました。私は、御存じのとおり、両性人間ですが、女性である時に受けた傷とか、体に入りこんだ異物とかは、男に変貌する際に、消えてしまうか、体外に排出されてしまいます。多分、ご存知でしょう。洗脳とかも、同じで性を変えてしまえば、無効になりますの。ブリューリ細胞も同じです。それと、思考は二重に出来ますからね。まあ、この粉はちょっと厄介ですが、上手く処理できるような、そういう施設もちゃんと作りましたのよ。きちんと回収できますから大丈夫。でも、普通の人間は、一度入ってしまった粉を、完全に取り除くことは困難でしょう。まあ、貴方ならできるかな?そうですわね。あなたなら、そのお体を捨ててしまえば良いだけですものね。ああ、そこは考えなかったなあ。まあ、そんなことできるのは女王様だけですから。なので、まあ、意味ないかもしれませんが。」

 「ふうん。で、どうしろと、おっしゃるのですか?ビューナス様は。」

 「そこなのですが、あのですね、この際、権力の実際の場からは、お引きなってはいかがですか?もちろん、女王様のままでよいのですよ。実権だけ、移譲するのです。昔なさった事がおありではと、思いますが。」

 「あなたに?」

 「まさか。そんな事は申しません。条約もありますから。リリカとダレルに、です。」

 「まだ、子供です。」

 「いえいえ、あなたの血を引き継いでいるのですから、なかなかの物ですよ。で、民主主義に移行しましょう。ね。完了したら、その粉は除去して差し上げますわ。そうなったら、もう何時でもご自由に、温泉に遊びに来れますよ。おまけに、ね、女王様、ブリューリ様と、いつもご一緒に、何でもできますよ。政治なんて一切、気兼ねなくね。いいでしょう。それに、私ビューナスが、最高のご援助をいたしますわ。」

 「あなたの、奴隷になれと言うの?」

 「いえいえ、もう女王様ったら、そんなことではありません。パトロンですわ。パトロン。で、火星に対して、攻撃を仕掛ける計画は、破棄いたしましょう。さらに、地球に対する一切の要求は、撤回いたします。何も求めません。永遠に。いいでしょう?」

 「ふうん。あ、そう。それ本当?」

 「はい、お約束いたします。それに、お望みとあらば・・・」

 「あ、あ、それは駄目です。男にならないで・・・。いやです。あ、ビューナス様ったら、いやよ・・・」

 ビューナスは、すでに男性化していたのだった。

 

  

           『帰路』

 

 「ヘレナ、いくらなんでも、やりすぎですよ。」

 「そう? いいじゃない。たまには。」

 「良くありません。火星を売るつもりですか?」

 「売って無いわ。救ったのよ。それだけの事よ。」

 「あなたは、本当に変わってしまった。威厳のある女王は、居なくなってしまった。」

 「じゃあ、わたしを見捨てますか?」

 「それはできません。アーニーは、どうなっても、あなた個人に奉仕すべく作られています。あなたが、大犯罪者に成ろうが、大量虐殺者に成ろうが、です。そうなれば、アーニーもそうなります。ただし、常に客観的な忠告は怠りません。そのように作られておりますから。ですから言っているのです。このやり方は、やはり貴方の立場から言って、良くありません。」

 「じゃあ、どうするの?」

 「まずその粉、つまり粉状の核融合爆弾ですが、あのビューナス様がおっしゃった事にかかわらず、アーニーが除去できます。完全に。」

 「解ってるわよ、そんな事。」

 「は?」

 「あのね、あなたは、私が作ったの。だから、あなたがそのくらい簡単に出来る事は、良く判っているのよ。」

 「あの・・・」

 「もう、おばかさんねえ。コンピューターのくせに。ほら早く除去しなさい。気持ち悪いから。」

 「はあ、了解です。・・・・・やりました。粉は回収しました。安全に保管します。」

 「はいはい。チャンと分析してね。」

 「それは、もう。でも、実際に権力を移譲するのですか?」

 「そうね。ブリューリ様も、始めからそれをお望みなの。だから、私は彼に従うの。それだけよ。」

 「それだけ?」

 「そう、それだけ。難しい事は、ないわ。」

 「結局、あいつの指図ですか?」

 「あいつって何よ。ブリューリ様は、私のすべてなの。火星をビューナスにやれとおっしゃるなら、やりますわ。でも、彼が求めているのは、あたくしなの。この体と中身の心なの。それに、おいしい火星の人間。それだけ。」

 「まさか、本当に、食べ尽くしてしまう積りなのですか?」

 「そうよ、それがブリューリの本性だもの。一つの惑星に取り付いたら、憑依した生物と共に、全部喰い尽くすの。終わったら、他の星に行く。火星が終わったら、次は、地球なの。その為に、地球は絶対必要なの。新しい美味しい種族を繁殖させるの。それにね、文明の痕跡をあからさまに残すと、いずれ地球人が騒ぎ出す時が来る。まあ、それでも別にいいけど、ブリューリとしては鬱陶しいわ。最後には、古い食料調達場所の巣は、しっかり破壊しておくのよ。それも、ブリューリの本能なのです。でも、自分でやるのはあまり好きじゃない。人間だってそうでしょう? 自分では手を下さないで、部下にやらせる。報酬はそれなり出すけど、切り捨てるべくは、切り捨てちゃう。安心だからね。ビューナス様は、無意識に、その準備をしてくれているのよ。それも一応きちんと確認できたわけよ。あと、あなたがあの粉の効果を検証出来たら、合格な訳。つまり、この旅は成功だった、って事なの。温泉にも浸かれたし、良い気分にもなれたし。おわかりかしら。」

 「あの。はい。いえ、うーん。あなたからブリューリを分離できないのが無念です。」

 「お黙りなさい。いい、今後は、その方針なのだからね。良くわきまえなさいね。」

 「はい。まあ・・・・解りました。」

 「オッケー。じゃあ、帰りましょう。」

   

          『火星』

 

 リリカは、夜空を見上げていた。

 『女王様は、何を思っているのかな』

 隣の地球が、天空に輝いている。

 『火星に、自分を取り戻させなくては。でも、その前に、まず女王様を何とかしなくては。このままでは、共倒れになるわ。火星も、金星も、そうして地球の未来も。』

 彼女の手の中には、あの遺跡で拾った、小さな遺物が握られていた。火星の行く末を決める、大きな意味のある破片が。

   

                               第二部 第一章・・・終り 



















****第一・第二王女様へのインタビュー*****


作者「こんにちは、今日はヘレナ第一王女様にお越しいただきました。」

王女「どうも、こんにちは。」

作者「さて、第一王女様の、お好きな食べ物は何ですか?」

王女「む!それって、いやがらせなの?」

作者「いえいえ、とんでもない。普通のお話ですよ。一般的な。」

王女「ああ、そう。そうですわね、まず一般的なもので一番好きなのは、お茶漬けですね。あの、のりが   たまらないです。」

作者「え?意外と、庶民的ですねえ。」

王女「はい。だってわたくし、普段は普通の高校生ですよ。あと、たこやき、お饅頭、ソフトクリーム、   それから、カクテルでは・・・」

作者「ストップ。日本ではまだ、お酒はダメですから。そこはカットします。」

王女「あら、失礼。あと、金星のババヌッキのジュースとか、火星のガマダンプラールのジャヤコガニュアン風ステーキとか・・・・。」

作者「ええ、わけがわからなくなってきましたので・・・・、また次回お会いしましょう。」











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