インゲン
「で、好きな人って誰なの?好きな人の話してよ。」
友達がトイレに立って2人っきりになった瞬間、彼が聞いてきたもんだからフリーズした。
今日は男2人と私、仲良し3人組で飲みに来ている。彼らとは学生時代からの友達だ。ただひとつ、あの頃と違う点といえば私が今目の前にいる彼に、恋心を抱いてしまっているという事だけだ。
勿論誰にも言っていないのだが。
顔が真っ赤になってきたのを自分でも感じる。アルコールが回ってきてただでさえ「ほろ酔い」の気分なのだ。好きな人が目の前にいて、美味しいお酒とおつまみを口にして、何も考えずに時が過ぎる。ふわふわした視界とふわふわした思考で、「この時間が永遠に続けばいい」なんてありがちなフレーズが浮かぶ。そんな中、突然の彼の発言に私の脳内は完全にフリーズしてしまったのだ。
沈黙が続き、時間だけが過ぎる。隣の席の大学生たちの話す声が聞こえてくるが、会話の内容を聞き取る余裕なんてない。ただのザーザーザワザワとしたノイズのようだが、鼓動が鳴り響くであろう無音状態よりは百万倍マシである。
ーーどうしよう。なんて答える?
目の前のインゲンを箸でつまむ。
「元カノの箸の持ち方が凄くてさ。本当は直してほしかったんだよね。」という1ヶ月前の彼の発言をふと思い出した。私だって本当はとんでもない持ち方をするのだ。「エックス持ち、いや、ばってん持ちか」そんな風に思われたくなくて見よう見真似の丁寧な箸使いをしてつまんだインゲンは私の問いに答える。
ーー俺に聞かないでよ。
他人行儀の知らんぷりをされる。
彷徨う視線の中、彼をチラッと見るとタバコを吸いながら視線をこちらに向けている。心なしか口元がニヤついて見える。あぁ、もう、意地悪。それとも鈍感?
働かない脳みそで絞り出した答えを私は呟く。「そんな楽しいことないよ。話すようなこともないよ。」2回目の「よ」のタイミングで戻ってきた友達に心からの感謝をする。グッドタイミング!神!!!黙り込む彼を横目に友達と写メ大会を始める。彼は疲れが限界なのか不貞腐れたのか壁にもたれかかって寝の姿勢に入る。
ーーいきなり聞いてくるのはズルいよ。でももっと可愛い事が言えてたら何か変わったのかなぁ。
そんな事を思いながら「寝ないでよー」と彼をつついて起こすのが、私の精一杯だった。




