『第五話 ダンス!ダンス?の前に』
この豪邸に来て3日目。
今日の授業はダンスと武道である。
ダンスは双子さんたちだった。
双子…、いいね!
ていうか、よく考えたら今の状況って結構いいものじゃないか?
イケメンヴァンパイアと一緒に暮らすとか、前世オタクの私には涎物ですよ…!
でも、皆授業は鬼へと変貌するんだよね…。
さーて、こんなことは考えずもっと明るい話しをしよう!
…どうか、誰か1人くらい授業も優しい人いないかなぁ…?
あ、フラグだ。とか思っちゃ駄目だよ?
「杏樹ちゃーん、ダンスの時間だよっ!」
来たー!来てしまった!!
ダンス担当の双子の一人、コウさんの無駄に明るい声がドアの外から聞こえてくる。
ダンス…、やらなくてもいいじゃん!
早く術の練習したいよーー!!
シオンさんが教えてくれないんだよね…。
「まだまだたくさん覚えてほしいものがあるので術はその後です」
って偽爽やかスマイルで言われた…。
シオンさんのうそつきだ!!
その日のうちに教えてもらえると思ったから頑張ったのにー!
「あーんじゅちゃん?」
ぐぎゃぁああ!!!
ど、ドアを開けようとしている!!
早く、早く隠れないと!!
すぐに能が最善の選択肢を考える。
選択肢1、窓の外へ✩
いやいや、死ぬでしょ!!
ここ2階だからね!?
選択肢2、寝たふりをする
起こされるか、ひきづられて連れて行かれる。
次だ、次!
選択肢3、クローゼットへ
…あ、死亡フラグが見える。
でも他に考えがないし、ここに入ろう!!
――――
がちゃ、とドアが開く音がする。
どうやらコウさんが部屋の中に入ってきたようだ。
「あれー?どっか行ったのかなぁ?」
今のところ、ここにいるのは気づかれていないはず。
クローゼットの扉は閉めているのでどの辺にいるかは声の近さで見分けるしかないのだ。
「んー、でもさっき物音が聞こえたし…」
最小限の音しか立ててないのに聞こえていた、だと…?
ヴァンパイアって、耳いいのかなぁ?
そんなことを考えながら、耳を澄ませる。
とんとん、とコウさんが移動する足音だけが部屋に響く。
「いないみたいだね。他の部屋へ行こうっと」
ドアが閉まった音が聞こえた。
どうやら出て行ったらしい。
よかった…。
そして、ゆっくりクローゼットを開け立ち上がる。
「みーつけた、そこにいたんだね。杏樹ちゃん?」
目の前にはいるはずのない、コウさんが立っていた。
「ぎゃあああああ!!」
その日、可愛くない私の悲鳴が屋敷に響きわたった。