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セルストリア王国には代々語り継がれている話がある。
それは100年前こと。
突如としてセルストリアに魔族を引き連れた一人の男が現れた。
男は魔族を使役し残虐の限りを尽くした。
人々は皆男を魔王と恐れ、成す術なく虐殺されていった。当時の王は魔術師たちと共に魔王を消し去ろうとした。
だが国一の魔術師でも、魔力の多い王自身でも勢力を削ぐことはできなかった。魔王は進み続け、ついに王都にたどり着いた。誰もが絶望した。自分たちに未来はないのだと。
そんな時、女が現れた。
わずかな軍を率いて魔族と対戦しようとしていた王に女は微笑み言った。
『貴方様のお力になりましょう』
女は言い終わると手を掲げた。
紅き双方が少し揺れる。
次の時には目の前の魔族は消し炭になっていた。
魔術だ、女は魔術師だったのだ。
しかもただの魔術師ではない、国一の魔術師をも超える莫大な魔力を所持している。
手も足も出ず、ただ死を享受することしか許されなかった人間が初めて魔族に勝利したのだ。
人々は戸惑いながらも歓喜した。
女は王の部下になり莫大な魔力を駆使して戦い続けた。
そしてついに女は魔王を封印した。
人間が勝利したのだ。
その後も女は王の為に尽力した。
女は優秀な魔術師を残すために王との間に子を成した。
王に忠を尽くし、この国を守るために子孫を残し、セルストリアを救った大魔術師。
後世に語り継がれる大魔術師の名をルーナ=スカーレットと云う。
そんな彼女はとても珍しい容姿をしていた。それまで誰も見たこともない銀髪、真紅の瞳。
人々はその姿を”紅き月” ”月明かりの銀糸”と称した。
そんな大魔術師と同じ瞳をアメリアはもっているのだ。
ルーナの熱狂的なファンは多い。
行き過ぎた信仰者のような人々もいる。
彼女に憧れて王国所属魔術師を目指す者も数多い。
それ程までにルーナは国民にとって大きな存在なのだ。
ルーナへの憧れからアメリアとの間に子を成し、自身の家系に”紅き月”を組み入れたいと思う者や、物珍しさからアメリアを手元に置きたい者は多い。
「でも私は黒髪なのよ」
「でも魔力は莫大ではありませんか」
ローザの言葉にアメリアは自身の髪を見つめた。
彼女の髪は黒髪だ。
黒髪は魔力蓄積量がほとんどないという証。
魔力蓄積量の多さは髪色によってわかる。
黒髪の魔力は無いに等しく簡易魔術くらいしか使えなく、獣人に多い。
茶髪は中級魔術、才能があれば属性にあった魔術を使える程度の魔力量。
金髪は平均より多めの魔力量だ。
灰色の髪は金髪と同じ、もしくはそれ以上だが、ある条件がかされる。
そして銀髪は計り知れない程の莫大な魔力を誇る。
魔術師になれるとすれば、魔力蓄積量からして茶髪から金髪、灰髪、そして滅多にいない銀髪の者だ。
だが、黒髪のアメリアの魔力蓄積量は驚くほど多かった。
それも”紅き月”の影響だろうが。
こんなのはイレギュラー中のイレギュラーだ。
(こんなおかしな娘を欲しいだなんて、相手も相当おかしいわね)
自身で言うのもなんだがアメリアは自身を令嬢らしくはないと思う。
他の令嬢はお淑やかに愛らしくしているが、どちらかというとアメリアは動き回りたい。
きっと素晴らしい令嬢に思われているだろうが、想像には似ても似つかないだろう。
日がな一日茶会や読書にふけるのではなく、料理|(無理やり厨房に押しかける)をしたり、掃除|(無理やりメイドの仕事を奪う)をしたり、園芸|(無理やり庭に菜園をつくった)をしたいのだ。あと、アレもしたい。
ここ最近は忙しくて体を思う存分動かせていない。
「庭に行きたい〜、デビューしたくない〜」
「お嬢様そんな事言ってないで、ドレス選びしましょ!」
デビューに対しての緊張感や不安で最近アメリアの気分は沈んでいる。
そんなアメリアを気遣ってかローザは明るい口調で話題を変える。
どんなに面倒がっても三日後には大人の仲間入りなのだ、しっかりしなくてはならない。
だが、大人しくドレス選びをする気にはならないのも事実。
「ちょっとアレやってくるわ、ドレス選びはまた今度ね」
そう言って早足に部屋から出ていく。少し気分を晴らしたい。
ローザが後ろで何か文句を言っているが、アメリアは聞こえないふりを決め込んだ。
(ああ、でも憂鬱だわ。きっとデビューパーティにはあの男も来るんでしょうから。)




