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ことの始まりは四ヶ月前まで遡る。


セルストリア王国の東、そこに慎ましく、しかし活気のあふれる土地がある。

大きくはないが豊かな自然と特産物に恵まれた土地 アルス。

アルスを統治している一族。それがアメリアの家、ナイトレイ伯爵家である。

現ナイトレイ家当主であるアメリアの父 レイルは領民にも貴族にも誰にでも分け隔てなく接する人だ。


気さくで社交界でも顔が効く。誰からにも好意、悪意、羨望に嫉妬、様々なものを含む眼差しを向けられてきた。

彼の人柄が他者を引き付けるのもあるが、やはり一番の理由は彼の容姿だろう。

白磁の肌にグレーの髪が映える美丈夫。

彼の妻も負けず劣らずの美女であるため社交界でも評判の夫婦だ。


そんな二人の娘 アメリアもあと三日で16歳になる。

この国では16歳から結婚適齢期に入る。そうなれば、美少女だと名高いアメリアへの結婚の申し込みはひっきりなしだ。

様々な爵位の殿方から貢物がくる。


(よくもまあ、こんなに贈ってくるわね)


どこの誰から贈られたかも分からないプレゼントをアメリアはつまらなそうに摘まむ。


(私まだデビューもしてないのに)


16歳になった者は社交界デビューをすることになっている。

結婚適齢期になった男女が集い結婚相手を探し、品定めするのだ。そのため、まだ16歳になっていないアメリアと直接会ったことのある者は家族や使用人、領民以外では数えるほどしかいない。

だが、現に彼女の元には大量の貢物が贈られてくる。アメリアはその度に心の中で何かがしぼんでいくのを感じていた。


「また贈られてきましたね」


よくもまあ、飽きずに、そう呟いたのは侍女のローザだ。

ローザはアメリアの専属侍女である。仕事は的確で丁寧、亜麻色の髪は彼女の明るい性格を体現している。それを高い位置で結い動くたびに軽やかに揺れて着ているのは黒白の単調なメイド服なのに可憐な花を彷彿させる少女だ。

幼い頃からアメリアと共にいる彼女は侍女というより友人である。


「そういえば、送られてきた物ってどうしているの?」


これまで贈られてきたものをアメリアは一度見たきり見かけていない。


「ああ、それでしたら花や食べ物は領民と教会の寄付にしました。ドレスや装飾品は丁寧に手紙を添えて送り返しました。お嬢様の好みも調べず金にモノを言わせる男の贈り物など取っておく必要はありませんわ」


ローザはここ最近は貢物の選別をしている。

あまりに高価なものは手紙を添えて送り返し、花や食べ物などの腐りやすいものは早めに生けるか消費しなくてはいけない。


手を休めることなく返答したローザにアメリアはため息をついた。


父も似たようなことを言っていた。

ただでさえ三日後にひかえたデビューで忙しいのに、こちらの都合も考えず貢物を止めない者たちに家の者たちは苛立ちを覚えているのだ。


「会ったこともない小娘とよく結婚したいだなんて思うわね」


「そりゃあ、ナイトレイ家の令嬢で

すし、美しいですし、何よりお嬢様は”紅き月”の持ち主ですからね」


ローザの答えにアメリアはまたもため息をついた。紅い瞳が憂いを帯びる。


”紅き月”とはこの国の者なら誰もが知っている言葉だ。

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