グルメ家の話
T氏は困っていた。歳は60ほどだろうか、だが精力有り余る、といった雰囲気がある。
T氏は自他にみとめるグルメ家だ。方々へ行って食べた話を友人たちにするのがT氏の人生の楽しみであった。
だが、世界中のあらゆる食べ物を食べたT氏は、友人たちに話す事がなくなりはじめていた。
「今度の会食で、何を話せばよいものか、インパクトのある食べ物は無いものか・・・」
頭をひねり悩んでいたが、いい考えが浮かんだのか、さっそく準備に取り掛かる。
「これなら、友人たちたちも、驚くに違いない。」
長方形の大きなテーブルのある部屋に、T氏と友人達が入る。
「今回は、どんな話が聞けるか、楽しみですなぁ。」
「ええ、楽しみにしていてください。」T氏が友人たちに、椅子をすすめながら言う「とっておきの、話ですので、まあ座って・・・」
友人たちが座ると、さまざまな食べ物が運ばれてくる。
「これは、また、豪勢ですな。」
さっそくと友人たちが食べようとしはじめる。
「・・・?、これは食品サンプル?、ではないですか。」
「ええ、そうです、もっと近くで、見てみてください。」
どういうことだと、友人たちが顔を近づけると、T氏が手元のボタンを押した。すると、食品サンプルが割れて、人形の首が飛びだす。友人たちは驚き、椅子をひっくり返してしまった。
その反応をみて、満足したT氏は。
「それでは、今日の話は、人を食った話です・・・・」