Birthday
「好き」
その一言が言えず、何度後悔したことか。
頭の中でひたすら繰り返して、それでも言えない。そのむずがゆさを幾度も痛感した。
私は同じ部活の彼に片思いしていた。
彼は私と大して身長は変わらないけれどたまに垣間見る男子のしぐさに完全にやられた。
好きと自覚してからもう1年は経っていた。
何度か告白のチャンスはあったし、いい感じの雰囲気になったこともあった。しかしそこでもう一歩を踏み出すことができなかった。
すきを積み重ねたところで何になるのか。ただどんどん辛くなっていくだけだ。
昼間はセミの鳴き声もまばらになってきて、朝晩は少し冷え込むようになった。
部活帰りで校舎からばらばらと家路につく生徒たち。その中で私のことを見つけた彼が息を切らしながらこちらに来た。
「めっちゃ探したんだけど!LINEしたのに何で見てないわけ!?まぁ、見つかったからいいけど」
なぜ彼が怒っているか私には急すぎて理解が追い付かなかった。
「何で怒ってんの?ってかLINE返したじゃん、門のとこで待ってるって」
「え、うそ!あ、ほんとだ。ごめん」
「いや、いいよ…。で、用って何?」
「あのさ、今日誕生日でしょ?」
「うん…。それで?」
「これ、誕生日プレゼント」
彼はぶっきらぼうにプレゼントの入った袋を押し付けてきた。
「え、ほんとに?ありがとう!うれしい」
「それ、絶対家帰ってからあけてよ。絶対だから」
それだけ言い残し、彼は走って友達の輪の中に入っていった。
さっきのはなんだったのだろう…。私の頭の中をぐるぐる廻る彼の表情。
気にはなったが彼の言いつけを守るように私は家に帰ってから袋を開けた。
その中には私の好きなお菓子が2つと紙切れが入っていた。紙切れを広げると、
『誕生日おめでとう。ずっと前から言いたかったけど、いい機会だからいうけど、俺、お前のこと好きだから』
私は一瞬これは夢なのではないか…。と不安になったが、丁度のタイミングで携帯がうなった。
「もしもし…?」
「あのさ、手紙みたっしょ?」
「うん。見たよ…。あれってホント?」
「がちに決まってんじゃん。俺そーゆー軽い感じじゃないって知ってるでしょ?」
「うん…」
彼の声が一瞬にして固くなった。
「それでさ、返事、聞いてもいい?」
心臓の音がうるさい。まるでのどに心臓があるみたいに脈打っている。
「………私でよければ」
「お前がいいの、俺は。…好きだよ」
こんな奇跡があってもいいのだろうか。好きになった男の子から告白されるのがこんなにもうれしいことなのか。
「何泣いてんの」
「泣いてないし…」
「泣いてるじゃん」
「…最高の誕生日プレゼントだ…」
「そりゃどーも。これからもっと大事にするし、恋人であってそれで最高の友達でもいたい」
「うん…。ありがとう、本当にうれしい」
「とにかく今日は誕生日おめでとう。じゃあ、今日はとりあえず切るね」
「うん…。また明日」
「じゃあね」
それだけを交わし、通話は切れた。
うれしすぎて上気した頬を両手で押さえながらベッドに倒れこんだ。
ここまで後悔していた言えなかったことはここでやっと前に進めることができたのだと前向きに考えることができた。
彼のことを好きになって1年と少し。思いが報われた瞬間だった。
8月27日、16歳の誕生日。一生忘れられない一日になったのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
私自身も今日で16歳になりました。
今日絶対何か作品を投稿したいと思っており、短時間ですが、このように投稿できたこと、とてもうれしく思っております。
今後ともよろしくお願いいたします。
2015.8.27 高橋夏生