虚空
第九章
虚空
立ち上がり、奥に一歩踏み出すと、ズオォッと空間全体の重力が跳ね上がる。
一歩踏み出す度に、注連縄がピシピシと音を上げ、その力を弱めていく。
いよいよだ。永きに渡る封印が解かれる。
そして、真っ正面まで来たところで、注連縄はパンっと弾け、青い炎をあげ、燃えカスとなった。
その瞬間、大きな黒い玉は、ピタッとその場で静止した。
背後では、人が倒れる音がし、五人の男達がこときれた。
木村はもはや人としての人格は無く、ヨダレをダラダラと垂らし、まるで新しいオモチャを見つけた子供のようにキャッキャッと騒いている。
さらに、重力が重くなり、膝を手につきなんとか堪える。
と次の瞬間、黒い玉は高速で回転をし始め、空間を侵食しながら、世界を飲み込んでいった。
あれから、千年が過ぎた。人類は七度の世界大戦を経て、ようやく宇宙に進出できるようになった。
あの日、闇が世界を覆い、全世界の人口の七割が死に絶えた。
そこからは、国家間での覇権争いが激化し、核の炎が吹き荒れた。
だが、今こうして、宇宙に進出したことは必然である。
人類がどこから来て、どこへたどり着くのか、この目で見届けなければ、ならない。
それが、「業」を宿したものの運命だ。
やがて人類はあの日自分が対峙した「闇」と悠久の時に渡り争うことになるだろう。
そして、因果地平の彼方にたどり着いた時こそ、私の役目は終わる。
宇宙の広がる速さを超えて、「闇」は虚空を生み出す。
人類がこの先の段階に進むためには、これを越えていかなければならないのだから。




