伝承
第七章
伝承
長い沈黙の中、とあることに気付いた。
目の前にいるこの木村と言う男、確かに何かの秘密を知ってはいる。しかし、真実は語ってはいない。
それに、この奇妙な感覚は何だ。この男の孕んでいるまとわりつくような感じは。明らかに常人のそれを逸している。それは狂気にも近いものだ。
そして、血族の因縁。そう確かにこの男は言った。
全てを思い出しはしたが、この身体にはまだ秘密が隠されているのか。
思考が渦巻き、精神をすり減らしていく。
そんな時、あの大男が再び現れ、今度は木村も一緒に牢から連れて行かれた。
血と錆に覆われた長い階段を昇り、広場を通りすぎ、古い寺のような建物に案内された。
そこには、あの女性から心臓を掴み出した老人を中心に、四人の男たちが座していた。
皆一様にうつむき、もぞもぞと呟き続けている。
彼らの奥には、注連縄で張り巡らされた空間に、大きな黒い玉がゆらゆらと浮かんでいる。
隣にいる木村は、それを見るや否や、興奮しだし、突然「見つけた!とうとう見つけたぞ!これで世界はオレのものだ!クヒックヒヒヒヒヒッ」と叫び、その場でのたうちまわった。
完全に人格が破綻した木村の姿に哀れみを感じるものの、目の前に座る五人の男達に視線を向けた。
呼吸や気の流れが全く読めない。長く裏稼業に身を置き、人を見る時はまず呼吸の仕方や仕草、視線の漂わせ方に気を配る。
それで大概の次の行動が読むこともでき、不意打ちやかなりの武装がない限り攻撃を回避、もしくは反撃に出ることができる。
仙人か何かとでも言うのか。いや、生物全てにそのものの呼吸がある。野生の獣でもそれは完全に消すことはできない。
かつて経験したことのない恐怖に精神が蝕まれていく。
木村のこの錯乱の仕方も尋常ではない。科学的にしろ、生理的にしろ、催眠術やマインドコントロールには段階があるはずだ。しかし、全く何も感じられない。
やがて、脇から二人の女が盃を運び、白濁した液体をそこに注ぎ、口元に持ってきた。
一気に口の中に流し込まれ、焼けるような感覚とともに、意識が身体の外側に広がっていった。
意識の中に永劫の時に渡る人間の負の歴史、そして目の前の男達が何者なのか、自分の存在の意味。
全ての答えが流れこんできた。
そして、宇宙の原初から果てしない未来までも…。




