理由
第六章
理由
しかし皮肉なことだ。記憶を無くしていたにも関わらず、こうして裏稼業に身を置き、危険にさらされているとは、なんとも因縁めいたものを感じる。
今回は特に危険度が高い仕事だ。どおりで報酬が莫大な訳だ。おそらく依頼人は何かこの集落について知っているのだろう。
反対側の牢で恐怖に身を震わせている男にそれだけの価値があるということだ。
「おい、木村!なんでお前さんはこんな所に閉じ込められてんだい?この場所に何かあるのか?」
多少強引な口調で問いを投げかける。恐怖に震えながらも、その男は答えに応じた。
「どうせ、あんたは何も聞いていないんだろうな。あの女はそういうやつだよ。まあ、そんなことはどうだっていいさ。オレはある機関の情報高官だよ。特に、世間一般では相手にされない土着宗教や超常現象、いわゆるXファイルというやつの調査員だよ。世の中の九割方はならんらかのトリックだが、たまにヤバイ事例があるんだよ。この状況なら情報漏洩の罪に問われることもないだろうから、全て話しておこう。」
木村は、血走った目をしながら、顔を手で覆い隠し、一気に話すと、こう続けた。
「あの女は、おそらく上の連中も知り得ないネタを掴んだんだろうな。世界規模で有効価値のある何かを。それで情報操作を行い、オレを嵌めて探りを入れたかったんだろうな。ここはあまりにも危険過ぎる。君もこの場所に来てしまったということは、まず偶然ではないだろうがね。」
それを聞き、質問を返した。
「偶然じゃないだと?オレも裏稼業で飯を食ってきた人間だが、あくまでも現実的な人間を相手にしてきた。そりゃ中にはそういう類のカルト集団も相手にしたが、結局はただの詐欺師だった。そんなオレがなんでこんな狂った事態に巻き込まれてるんだ?」
威圧的に迫る。木村は冷静にまた答える。
「だから言っただろう?九割方はまやかしだと。残りの一割、特に今回の例はその中でも最上級にヤバイ。これまでの経験から率直に言うと、第三次世界大戦の引き金になり得ない。とにかく、正体は分からないが、やつらそういった力の一端を呼び起こすつもりだ。あんたも見たんだろ?夢の中であの「闇」を。つまりはそういうことだ。」
「闇」、あれは夢幻ではなかったのだ。抜け落ちた記憶が蘇り、強大な何かを感じてはいたが、まさかこの男の口からその言葉を聞くとは思わなかった。
「これは推測だが、あんたの血族の中にこの場所、もしくはやつらが呼び起こそうとしてるものに因縁を持っているはずだ。だからここに呼ばれたんだろう。」
そう木村が語ると、互いにしばらく沈黙した。
血族の因縁。まだ何か思い出してないのか。それとも...。




