悪夢
第五章
悪夢
それからの三日間は地獄そのものだった。
自らが目にしたあの光景が、寝ても覚めてもフラッシュバックし、口には未だに感触が残る。
吐瀉物は赤黒く、しばらく普通の食事をしていないにも関わらず、自分の三倍以上の体積を吐き続けた。
のたうちまわり、壁に頭を繰り返し何度も打ち付け、手足は鎖が食い込み骨が露出していた。
だが、痛みは全く感じず、それどころか力が体の底から湧き上がるのをひしひしと感じた。
ある瞬間、何かが頭の中で弾け、昏睡状態に陥った。
夢だ、夢を見ている。それも極上の悪夢を。
燃え盛る炎の中、苦痛という苦痛が、そして憎しみや哀れみ、怒りといった負の感情全てが肉体と精神を創り変えていった。
そして、過去の記憶が蘇っていった。
自分には、10歳より前の記憶が全て抜け落ちている。
孤児として児童施設で育ち、交通事故で家族を亡くし、記憶が消えたと教えられた。
しかし、今蘇った記憶は違う。そうだ、あれは祖父だ。自分には両親がおらず、祖父に育ててもらっていたのだ。
そして、祖父からは闇の世界の処世術を幼い頃より叩き込まれたのだ。
それはまさに地獄の日々だった。
暗殺の術からサバイバル術、マインドコントロールなど心理操作まで。
忍の流れを汲む一族の末裔として、また、陰陽道の血も混ざっていると聞かされた。
だが、ある日突然祖父は自分を残し、無残な姿で死に絶えた。
闇だ、祖父の亡骸を見た時に感じたものは。圧倒的な闇。
それが自分に取り付き、気付いた時には病院のベッドの上にいたのだ。
全てを思い出し、同時に戦慄を覚えた。
あの時、自分に取り憑いた闇の元凶がここにいると直感したからだ。




