牢屋
第三章
牢屋
モノクロのイメージが頭の中に流れ込んでくる。
苦痛、あらゆる苦痛、そして圧倒的な苦痛だ。
絶え間なく流れ込んでくる苦痛のイメージが、幾千回も繰り返され、自分の名前さえ忘れかけた時、目を覚ました。
冷たい感触が肌に伝わり、背筋がゾクっとする。
薄暗闇の中、目が慣れていくにつれ、自分が置かれている状況に絶句した。
血とサビの臭いが充満した石造りの牢屋に、手足を鎖で繋がれ、布切れのみを身に着けていた。
記憶が混乱し、思い出せることはある依頼を受け集落を目指し、山中を彷徨っていたところまでだ。
幸いなことに、身体には特に異常はない。
なぜこのような所に囚われているのかは、皆目検討もつかないが、長年の裏稼業の経験として、拘束されたのは一度や二度ではない。
しかし、直感的にこれまでのどの仕事よりも、「死」の危険を感じていた。
思考を整理しようと、しばらく目を閉じ、息を整えてから、辺りを見回すと、反対側の牢に人影らしきものがうずくまっているのが見えた。
「おい、ここはどこだ?応えてくれ」
聞き取れる最小の声で呼びかける。
「オレは佐藤、とある人物を探している。木村隆という青年を知らないか?」
率直に切り出す。すると、向こう側の鉄格子からうめき声がした。
若い男の声だ。それに続け、しゃがれた声がした。
「オレがその木村隆だ!あんたかい?助けに来てくれたのは。
でも到底この状況から助かる見込みはなさそうだな。終わりだよ、あんたもオレも。」
そこで声が途切れた。どうやら、男はかなり衰弱しているようだ。
とにかく、ターゲットは見つけた。後はどうにかしてここから脱出する手立てを見つけねばならない。
だがすぐに、奥から足音が聞こえ、無駄な足掻きだと気づかされることとなった。




