発端
カラス
第一章 発端
かつて、これまでの恐怖に囚われたことなどない。
今、目にしているこの光景が現実のものだとはにわかには信じ難い。
しかし、私はこの事実を記し、世に伝えねばならない。それが私の使命なのだろう。
世に警笛を鳴らすためにも。
私の職業はいわゆる私立探偵というやつで、不倫などのイザコザや表沙汰にはできない行方不明の捜査、カルト集団の実態調査、闇の要人の依頼などそれなりに危険な事例にも関わりを持ち、その筋の人間からは、「カラス」とあだ名されている。
それゆえ、危険から身を護るために武道や暗殺術の心得も多少は身につけている。
一度とある依頼を受けた際に、元ロシア軍の特殊部体の殺し屋とも渡りあった。
多額の報酬を得るためには止むを得ないことだ。
学歴や金もなく、身体の頑丈さだけが取り柄の人間には危険を犯す以外にこれだけの金を得られる職業はなかなかないだろう。
かと言って、夢や目標があるわけではない。
人の心の闇や世の裏側を最前列の特等席で堪能出来ることの方が自分にとっては最大の報酬だと言えるかもしれない。
だがこんな仕事をしていると、偶然では片付けられない人智を超えた現象に出会うことがある。
そんな折、とある依頼が仲介業者を通じて舞い込んできた。
内容はとある集落の調査ということだ。
なんでも、依頼者の恋人が5年ほど音信不通になっており、突然その件ね集落から手紙が届いたそうだ。
依頼は受けた。問題依頼内容の難易度にしては報酬が多額すぎることだ。
1週間の準備期間を経て、目的地の集落へと出発した。
これが事の発端だった。