忘れ物
「忘れ物、取りに行きたいんだけど、いつ行ったら良い??」
別れて、一週間たってから急に麻衣からメールが来た。
俺は、そっけない返事を送信した。
「明日なら、かまわないよ。」
3分ほどたってからメールが来た。
「わかった。じゃあ、昼くらいに行きます。よろしく」
あっちの返事も何気に、そっけない。しょうがないか。
でも、忘れ物て何だ?
麻衣は約束通り、昼間に来た。
いつもと同じジーンズにTシャツ、ポニーテールにノーメイクに近い薄化粧だ。
俺が誕生日にあげたサンダル、まだ履いてたんだ・・・
「久しぶり。急にメールで連絡してゴメンね。じゃあ、忘れ物とらせてもらいます。」
相変わらずのマイペースだ。まだ、俺は一言も話してないぞ・・・
ズカズカと部屋に入っておもむろにタンスの方へ歩いて行き出した。下着でも忘れたか?
「忘れ物って、何だよ?俺にはわからんぞ。」
麻衣は、無言でタンスの上の何かを手に取り、ジッと見つめている。
「返事ぐらいしろよな。」
彼女に近付いた時、手にしているものが、わかった。
「・・・時間戻せないかな。一ヶ月前とかに戻せないかな。亮太の笑顔、独り占めにしてた時に戻れないかな。」
彼女は肩を震わせて涙を流していた。
驚いた俺は、すぐに対応することが出来ず、黙ったまま下を向いた。
「忘れ物なんて嘘なの。ゴメンなさい。。単に亮太に会いたかっただけ。。。私・・私・・まだ・・・」
彼女の急に来た理由がわかった瞬間だった。
俺は、そばにあったタオルを彼女に渡した。
まだ素直になれない自分が、そこにいた。
別れたのは彼女が原因なのだ。
もっと色々と考えたり、経験したいことがあるからと俺に別れを切り出して、一方的に断ち切ったのは誰でもない。目の前にいる彼女なのだ。
あの時の彼女を許せない自分が、優しくなろうとする気持ちを押さえ込もうとする。
「・・・いくらなんでも都合良過ぎるだろ?今更。。今更。。。」
何かわからないが、俺も涙が溢れそうになった。
「そら、そうだよね。当たり前だよね。ヒドい女だよね。。最悪だよね。ごめんなさい。」
麻衣はタオルで涙を、また拭った。
「一つだけ、言い訳させて!私・・亮太を嫌いになって別れたんじゃない。あの時だけ、自分を優先にしてしまったの。。友達が、みんな自由に好きなことにトライしてるの見て羨ましかったの。。あの時だけ、亮太の気持ちを汲むことができなかったの。いなくなって初めて気付いたことがあって、それで会いたくなったの。」
そう言い放つと麻衣は俺の方に向って深々と頭を下げ、部屋を出ていった。
静まり返った部屋は時計の針の音しかしない。
涙で濡れた写真には、明るい表情で笑う麻衣と彼女を抱き締めながら頬を寄せ笑う俺が写っていた。
「今の恋愛、最後の恋愛にしような。」
彼女の誕生日に俺はプチプロポーズをした。
「二人で頑張ろうね。」
彼女はまっすぐな瞳で俺に言ってくれた。
その二人の誓いの後に撮った写真だ。
俺は、気持ちを抑えることが出来ず、部屋を飛び出した。
エレベーターの前で彼女は、しゃがみこんでいた。
足音に気付いたのか、俺の方を見ている。
「タオル返すの忘れてたね。ごめんなさい。でも、こんなにヨレヨレになっちゃった。」
彼女は涙目で精一杯の作り笑顔を俺に見せ、タオルを俺に差し出した。
差し出したタオルを受けとらず、俺は彼女の体を抱き締めた。
「・・・やっぱ麻衣のこと、好きだわ。ずっと一緒にいてほしい。」