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空気の様な主人公達だ

先行者との対決ムード。駒の使い方が勝負を分ける

「それで、普通に学校に来てるんだ」

 織羽の言葉に星語明日が頷く。

「はい、幸運です」

 織羽が歩達を指差して言う。

「それをあいつ等は、知ってるの?」

「知らないです。歩さん達に公私の切り分けなんて高等な事は、不可能なので、秘密にする事になっています。よろしくお願いします」

 亜李子の言葉に呆れた顔をする織羽。

「一番大事な所に居るはずなんだけどね」

 亜李子が難しそうな顔をして言う。

「ヤヤさん達も色々と大変そうで、こちらの精神的なフォローまで手が回らないって言うのが本音みたいです」

 星語明日が頷く。

「そういう風に動いていますから」

 織羽が手を叩く。

「そういえば、敵幹部だったか。あんまりクラスメイトを苛めないでよね」

 星語明日は、申し訳なさそうな顔をする。

「残念ですけど、約束できません。どうしても、必要な事なのです」

 織羽が笑いながら言う。

「謝らなくても良いよ。八刃が絶対正義だって訳じゃない。前にヤヤさんが言ってたよ、八刃は、自分の身内が平気だったら構わない最低な連中だって」

 亜李子が首を傾げる。

「それってどういう事ですか? あちきからすると、八刃のやっている、異邪の排除は、正しい事だと思いますけど?」

 星語明日も頷く。

「異邪を排除する、それだけに関しては、私も同意です。八刃と違うのは、それを人類全員で行うべき事だって事だけです」

 織羽が少し考えてから言う。

「具体例も言ってた。今起こっている争いの大半を八刃がどうにかしようとすれば止められる物。少なくとも通常兵器しか使わない軍隊と地球上から核ミサイルを排除する事は、出来るって言ってた。そうなれば世界が今よりいい世界になると思わない?」

 頷くが、疑るように亜李子が言う。

「確かに、でも本当にそんな事が出来るのかしら?」

 しかし、星語明日が肯定する。

「八刃には、空間移動を可能にする人も居ます。その上、本家上位の人間が本気で動けば、通常兵器しか持たない軍隊など蟻を踏み潰すのと大差ない筈です」

 織羽が頷く。

「自分達の力を人類の為に有効に使えば、もっと世界をよく出来るのを知っていながら何もしない。パワーバランスを崩して、自分達の身内を危険に晒すのを嫌っての事だって。ヤヤさんは、戦争で死ぬ何万人を見殺しにして、自分達の大切な人だけを護る自分達は、罪深いって言ってたよ」

 複雑な顔をする星語明日。

「私達もそれに関しては、大きな事は、言えません。私は、何度も大災害を予測していますが、それを伝えていません」

 織羽が頷く。

「そんなのあたしも一緒だよ。予知能力者が持つ、葛藤って奴だよ」

 亜李子が歩達を見て言う。

「そんな複雑な物を彼女達も持ってるのでしょうか?」

「持っていない。所詮は、ヤヤさん達に護られてるガキだもん」

 織羽が断言した。

「おらお前等、席に着け!」

 真兎が教室に入ってくる。

「「「はーい、ラビット先生!」」」

 クラスの生徒の合唱に真兎が怒鳴る。

「ラビット先生と言うな!」



 八刃学園の白虎エリアにある、八刃の死角に二人の少女が居た。

「それで、あたしの出番は、何時?」

 瞳子、瞳輝の質問に、星語明日、導輝が答える。

「もう少し後です。魔約がもう直ぐ結ばれます。全ては、そこからです」

 瞳輝が言う。

「どうでも良いけど、ヤヤさんとは、まともにやって勝てるとは、思えないわよ」

 導輝が頷く。

「はい。ヤヤさん個人に勝つ方法なんて無いと言っても良いかもしれません。偉大なる八百刃様に戦い続ける事を宿命付けられたあの人には、それに相応しい力と意思が備わっています」

 瞳輝が眉をひそめて言う。

「だったらどうするの?」

「ヤヤさん個人に勝つ必要は、無いのです。私達が勝たないと行けないのは、八刃になのですから」

 導輝の言葉に瞳輝が舌打ちをする。

「八刃は、強大な組織だよ。あたしも所属してたから知ってる。純粋な戦闘力だけでなく、経済力・国に対する発言力等、実質的な闇の世界の支配者と言っても過言じゃないよ」

 導輝が首を横に振る。

「八刃は、統治者で在っても支配者では、無いのです」

「言葉遊びに付き合う暇は、無いよ。あたしには、瞳子としての用事もあるんだからね」

 苛立ちながらも瞳輝が言うと導輝が答える。

「八刃は、自分達以外の戦力を使えない。私達、先行者との戦いにおいても八刃と八刃に所属する戦力で戦う筈です。そこが私達、先行者との決定的な違いです。八刃は、ヤヤさんを始めとする大駒が多くありますが、それだけです。絶対的に子駒が少ないのです。大駒での一方的な蹂躙すら防げば、勝負を決めるのは、子駒なのです」

 瞳輝が言う。

「それって滅びたオーフェンでも一緒だったと思うけど?」

 導輝が首を横に振る。

「あの組織もまた大駒を頼りにした組織。子駒の価値を認めず、自分達の力だけを信じる愚かな組織でした。私達は、違います。私達には、大駒の蹂躙を防ぐ駒があり、そして有効に活用する私が居ます。この勝負は、必ず勝ちます」

 瞳輝が納得した顔をして言う。

「了解。貴女を信じるわ。それが、お父さんを助ける手段なのだから」

 去っていく瞳輝、瞳子を見送りながら導輝が呟く。

「不思議な話しですね、八刃のやり方を否定する私達七輝の多くが、大切な身内を助けたいと言う、八刃と同じ思考の持ち主が多いのですから」



「本当に勉強になりますかね?」

 3Sの部屋で推理小説(一部は、マンガ)を読む3Sメンバーを見ながら亜李子が言うと真兎が投げやりに言う。

「あったら良いな。上から、暫くは、こっちに居ろって命令が来た。八刃の連中は、新人教育まで手が回らないから、こっちに最大限の協力を求めてきやがった」

 亜李子が幾つかの資料をチェックしながら言う。

「その様ですね。今まで機密扱いになっていた資料まで公開してきましたから。戻れないのが不満なのですか?」

 真兎が頭を掻きながら言う。

「半分な。もう半分は、自分達の運命を勝手に決めようとしている連中が居るって事実に腹が立っている」

「八刃に反意を持っているのですか?」

 亜李子の質問に真兎が机を叩き答える。

「先行者って奴等もだ。両方とも俺達一般人を無視して、自分達の考えを押し付けてくる。全てを公表して、俺達にも判断させろ!」

 亜李子が困った顔をする。

「国家や国連も同じです。一般人には、不要な不安を与えることは、伝えない。大きな権力を持つものには、それ相応の苦痛を背負う義務があると言う事だと考えますが」

 真兎が真直ぐ亜李子を見て言う。

「過去がそうだったからこれからもそれを続けるのが間違ってる」

 そんなシリアスな雰囲気をぶち壊すのは、やはり歩だった。

「ねえ、このマンガの続き何処?」

 真兎が怒鳴る。

「お前等の仕事の話をしてるんだろうが! 少しは、こっちにも興味を持て!」

 千剣が小さく溜息を吐く。

「拙者達は、駒。命令された通りに動くだけ」

 ツモローも肩を竦める。

「頭脳労働は、他の奴に任せてる」

 真兎が顔を抑えた時、放送が入る。

『魔約警報、現在、魔約によって生み出されたと思われる魔獣が、暴れています。一般生徒は、余計な干渉をせず、避難して下さい』

 一斉に動き出す、歩達。



 輝石獣武装を終えて現場に到着した歩達を待っていたのは、陸上のトラックを覆う様な極端に足の長い豹の魔獣達であった。

「今度は、やたら好戦的な化物だな」

 真兎の感想通りに豹の魔獣達は、陸上部の生徒達に襲い掛かる。

「やらせない!」

 ツモローのエアーマグナムから青い弾丸、アイスブリッドワンが撃ち出される。

 しかし弾丸は、当る直前に爆発する。

「誰だ!」

 ツモローが怒鳴った時、歩が照明の上に立った敵を指差す。

「あそこからだよ。でもこの技って……」

 ツモローや千剣も戸惑う。

 真兎が舌打ちをする。

「敵の幹部さんの登場かよ」

 亜李子が頷く。

「初代3Sメンバー、元オーフェンハンターのトップメンバー、支配眼の魔王と人とのハーフ、豆田マメタ瞳子トウコ。そして先行者の七輝の一人、瞳輝」

「後輩を殺しは、しない。でもこっちの目的の為に、魔約の邪魔は、させない」

 瞳輝の言葉に、千剣が刀を構えて言う。

「瞳子さんこそ、邪魔をしないで下さい。さもなければ!」

 放たれた居合いが照明の柱を切り裂く。

 しかし、瞳輝が足元を一瞥するだけで切断された筈の柱が元に戻る。

「まさかと思うけど、貴女達レベルであたしをなんとか出来ると思っているの?」

 その視線だけで、空間が歪み、グランドに亀裂が入る。

 歩が九尾弓に純白色鳥矢を番え、放つ。

 一直線に瞳輝に向かう純白色鳥矢。

『羽撃』

 迎撃される前に強烈な光を撒き散らす純白色鳥矢。

「ジェットウイングフルパワー!」

 千剣が最後のチャンスに賭けて、一気に接近する。

 ツモローもスペースウイングで周囲の力を限界まで収束して、エアーマグナムを連射する。

 歩達にとっては、ベストとも思える戦法だった。

 しかし、瞳輝は、その斜め上を行く。

「眼晦ましをしたら、自分達の視界も塞ぐ事になるんだよ」

 後ろから聞こえる瞳輝の声に歩とツモローが冷や汗を垂らす。

「今の3Sのメンバーって魔獣退治がメインで接近戦戦力が少ないのが弱点ね」

 軽い口調の瞳輝を見た歩とツモローの中間の空間が爆発して、二人を大きく弾き飛ばす。

 閃光で姿が見えなくなっていた千剣が慌てて振り返り、接近しようとしたが、瞳輝は、余裕を持って言う。

「減点。連携を崩された以上、仲間と合流するのが先」

 千剣の輝石獣武装の翼が爆発して、地面に叩き付けられる。

「あいつらが負けるなんて……」

 実際の所、戦力としては、信用していた三人があっさり負けたことに驚きを隠せない真兎。

「あっちに瞳子さんが居る事は解って居た事です。きっと直ぐにヤヤさんが助けに来ます」

 亜李子の言葉に瞳子が苦笑する。

「確かにヤヤさんが来たら、あたしでは、即座に負ける。それも敵として相手したら、容赦してくれないでしょうね」

 亜李子が眉を顰める。

「随分と余裕がありそうですね?」

 瞳子が頷く。

「まーね、あたしもさっき聞いたばっかだけど、手は、打ってあるの」



 八刃学園に程近い広場にヤヤが居た。

「地龍さんみたいな大駒を使ってくるなんて思わなかったよ」

「オーフェンの失敗は、長達には、最大の注意を払っていたが、お前をフリーしていた事だ。八刃学園の守護者としての立場上、大きな事が出来ないと思っていたのだろうが、どんな最悪な状況でも一発でひっくり返すお前を封じる事が八刃との戦いで一番大切な事だ」

 地龍、体輝の拳がヤヤに伸びる。

 ヤヤは、反撃をしながら答える。

「そっちの考えは、解りました。でもあちきもガチの戦いで負けるつもりは、無い」

 体輝が頷く。

「当然だ。しかし、私は、勝つつもりが無い。私がやるのは、単なる足止めだ」

 睨み合うヤヤと体輝。

「あちきは、自分の考えを変えない。そっちは?」

 ヤヤの言葉に体輝が答える。

「私の考えは、最初から変わっていない。人が人の身でこの世界を護り、生き続ける。人外の力に依存しない!」

 両者が再び拳を交える。



「体輝がヤヤさんの足止めをしている。体輝だったら、十二分にその役目を出来る」

 瞳輝の言葉に亜李子が頭を巡らせる。

 その間にも陸上部の生徒達に豹の魔獣達が襲い掛かる。

 怪我人が増えていく。

「お前は、あいつ等を殺すつもりか!」

 真兎が怒鳴ると瞳輝が肩を竦めて言う。

「あのね、光の結界が何の為にあると思っているの? よっぽどの事が無ければ死人は、出ない。その為に闇さんがフォローまでしてるんだからね。その安全性が確立されているから、この学園で魔約を行っているんだよ」

 亜李子が怪我人を指差して言う。

「それでも怪我人が出ています。死ななければ良いって訳じゃないです」

 瞳輝が冷めた目で言う。

「その言葉は、八刃の連中に言ったら? 奴等は、生徒に被害が出るのを承知でこの学園を作ったの。この学園は、八刃の連中が空間の歪みを収束する為に作った施設。詰り八刃は、生徒達を生贄にしてまで自分達だけの平和を護ってるのよ!」

 反論出来ない亜李子達。

「こうやって魔獣が動き、魔約にエネルギーを使われていけば、界門円に力が溜まっていく。安心して、それこそ死人が出るような事が無い様に導輝も気をつけている。最悪は、あたしが、魔獣を始末する。魔獣退治は、3S時代によくやったからね」

 起き上がろうとする歩達の前に立ち塞がり瞳輝が告げる。

「この子達よりずっと上手にやれる自信は、あるわ」

 流石の歩も怒った顔をして瞳輝を見る。

白土槍陣ハクドソウジン

 陸上部を襲っていた豹の魔獣が地面から出て土の槍に貫かれていく。

 声のほうを向いた瞳輝の頬を汗がたれる。

「予備戦力が投入される可能性があるって予知されてたけど、まさか貴方が来るなんて」

 そこに居たのは、青い槍を持った青年が居た。

 細身だが、強い存在感を放つその人物を見て真兎が言う。

「八刃の人間なのか?」

 瞳輝が頷く。

「八刃の予備戦力の中では、最強って言っても過言じゃない。あたしがオーフェンハンターをやっていた時にエンさんが重要な要件で離れる時、代行として来ていた人」

 千剣が驚いた顔をする。

「それでは、あの人は、最強の鬼神の代行が出来る程の使い手なのですか?」

 瞳輝が大きく間合いを空けて言う。

「敵を倒す能力自体は、ヤヤさんに劣るけど、どんな状況でも実力を発揮できる能力からスピアオブオールラウンド(全戦場型の槍)って言われる、ヤヤさんの従兄妹、白風零レイ。ゼロさんよ」

 その青年、ゼロが残りの豹の魔獣を槍の一閃で消滅させて言う。

「腕を上げたな」

 瞳輝が頭を下げる。

「はい。それでもゼロさんには、勝てないのでここは、引きます」

 真兎が睨みながら言う。

「あっさり引き下がって良いのか?」

 瞳輝が笑みを浮かべて言う。

「当然、導輝には、自分の手に負えない予備戦力が投入されたらひいて良いって、言われてるの」

 そのまま、周囲の空間を歪ませ逃亡する瞳輝。

「また複雑になってきやがったぞ」

 治療班が到着する中、真兎が言うと、ゼロが答える。

「戦いというのは、そういうものだ」



 大学の講義を終えた小較の所に瞳子が来る。

「小較、ノート見せて」

 手を合わせる瞳子の言葉に、小較が溜息を吐いて言う。

「八刃の用事じゃないと出席にならないんだからね」

 瞳子が小さく溜息を吐いて言う。

「そこが問題よね。どうせなら、そこ等辺も条約に入れてもらえばよかった」

 小較が呆れた顔をして言う。

「ここまで切り替えが出来るあなたが羨ましいよ」

 瞳子が笑みを浮かべて言う。

「彼氏の仕事の手伝いの関係で中立を保たないと行けない小較の言葉は、深いね」

「ノートを要らないの?」

 小較の冷たい視線に慌てる瞳子。

「ごめんなさい。謝りますからノート貸して!」



 重い空気と軽い空気が入り混じる先行者との戦いがここに始まるのであった。

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