急展開、ラブコメは、少し放置です
遂に魔約が解決する。そして物語に大きな変化が
「なんであたしまで付き合うはめになってるの」
詰まらなそうな顔をする小較に瞳子が言う。
「バカップルの邪魔をするには、人数が多い方がいいじゃん」
その二人の前には、緩みそうになる表情を必死に引き締めて前を見続ける華とそんなツンデレぶりを楽しそうに見る猛が居た。
「猛、とっとと案内しろ!」
「解ってるよ。こっちだよ」
そうして案内されたショッピングモールの中で、いくつかの店を巡る、小較達。
「これなんか華に似合うんじゃないか?」
猛が、一つの花びらモチーフにしたアクセサリーを取る。
「そうか?」
華が恥ずかしそうに聞き返すと瞳子が言う。
「接近戦担当の華に似合ってるわけないじゃん」
「やっぱり! 人を小馬鹿にして!」
華が怒り肩で別の店に向かう。
猛は、頬を掻きながら言う。
「本気で似合うと思ったんだけどな?」
小較がその肩を叩き言う。
「自分の理想を押し付けない。相手の事を考えないと。華にとって可愛いさなんて無縁の世界に居たんだよ。似合う似合わない以前に強く抵抗があるんだよ」
猛が真剣な顔をして言う。
「華は、可愛いかっこうして欲しい。どんなに殺伐とした世界に居るとしても。それが我侭だとしても、そんな華を見たいんだ!」
小較が頭を掻きながら言う。
「それって、華に死ねって言ってるの解ってる? 弱さを持つって事は、そういうことだよ」
「女性らしい生き方が弱さだっていうのかい?」
猛がきつい視線で返すと小較が首を横に振る。
「恋に落ちることを言ってるの。ヤヤお姉ちゃんも夢斗さんと付き合い始める時には、凄く悩んだそうだよ。自分の立場、相手の安全、その他もろもろ。華は、敵も多い。そして貴方も。本気だったら中途半端な真似は、しないでね」
猛は、小較の言葉に困惑する。
「いきなり何を言うんだよ?」
小較が携帯を取り出して言う。
「急用、多分命懸けの仕事だよ。瞳子も行くよ」
瞳子が少し嫌そうな顔をして言う。
「この時代に命懸けの仕事って何?」
そう答えながらも、瞳子も先程の表情から戦闘モードに切り替わっている。
そして、華が駆け足で猛の横を抜けていく。
「時間が足らないから先に行くよ」
猛がそんな華に声をかけようとした時、小較が睨む。
「もう一度だけ言うよ、覚悟が無いんだったら、華に余計な干渉しないで。学生同士の表面上付き合いで終らせて」
そのまま小較が駆け出す。
最後に残った瞳子が言う。
「あたしだったら、貴方が望むのなら、危険な仕事から直ぐにも足を洗えるよ。覚えておいて」
言葉とは、反対に迷い無く駆け出す瞳子。
そんな三人の同級生を見送るはめになった猛が拳を握り締めて言う。
「一般人じゃ駄目なのか?」
「何か急展開だね」
闇が八刃学園、朱雀エリアにある音楽ホールの座席で、漫画本を読みながら呟く。
「ロミオとジュリエットの引用だからね」
モゴが、周囲に警戒しながら答える。
「歩と出かける約束してたのに」
大きく溜息を吐く通。
「でも、今日が一番危険らしいです」
静の言葉にモゴが頷く。
「明日の、日曜日のコンクール前の最後の合同練習。動くとしたら今日の可能性が高いです」
頷くモゴ。
「多分、魔約者の狙いは、コンクール出場の妨害だよ。そして失敗して、落ち込んだ部長の心の隙を突くこと」
通が舞台の上の命を見て言う。
「そうなると魔約者は、藤沢先輩だろ。今すぐスターダストしたらどう?」
「確証が無い、スターダストは、不許可」
闇の言葉に不満そうな顔をして小声で通がモゴに耳打つ。
「どうして、闇が居るの?」
モゴが肩を竦めて言う。
「たぶん現れるメイダラスを逃がさない為だよ」
そんな会話をしている間も、練習が続く。
そして、練習が大詰めに差し掛かった時、淫尾蛇が大量発生する。
八刃学園に通っている人間は、慣れた様子であっさり避難を開始する。
その中、とっとと武装を終えた、モゴ達が、淫尾蛇を蹴散らし始める。
「これで確定だな」
通の言葉に、静も頷いたが、モゴが首を横に振る。
「命さんじゃないみたい」
モゴが指差す先では、武人を見捨ててさっさと逃げる命が居た。
「恋に恋するお年頃。それでも自分の命より大切じゃないって訳ね」
闇の大人的発言に通が言う。
「言っておくけど、実際に恋愛をした事が無い人間が言っても説得力無いからね」
闇がそっぽを向く。
「でも、そうすると残るのは」
静が、見た先には、玲魅が落胆の息を吐いていた。
「もう少し、本気だと思っていたんですけどね」
モゴが、爆炎鷹の炎を使って強引に近付く。
「貴女が魔約者ね?」
頷く、玲魅。
「何を根拠にそんな事を言うのですか?」
余裕たっぷりな態度に通が怒鳴る。
「その態度が証拠だ!」
肩を竦める玲魅。
「非論理的な子ね。あたしが魔約者だというなら、動機を教えて欲しいわね」
「藤森先輩の気を引くためでしょ!」
通の言葉に肩を竦める玲魅。
「どうしてです? あたしは、今一番部長に近いのですよ?」
通が言葉に詰まった時、鏡が現れて言う。
「調査結果が出ました。藤原玲魅は、前の学校で恋人と同じサッカー部の補欠を挑発して、レイプさせて、それを公にする事でサッカー部を大会出場停止にしていました」
静と通が信じられないって顔をする中、モゴが言う。
「貴女は、好意を持つ男性が絶望するところを見ることが好きな変態なんだ!」
その言葉に玲魅が陶酔した顔で言う。
「あの快楽が解らないなんて、可哀想ね。自分の愛する人が、絶望に打ち震えて、最後には、自分にしか縋れなくなる。これこそ独占よ!」
狂気が篭った瞳に思わず後ずさる、通と静だったが、モゴが肩を竦めて言う。
「だったらどうして転校したの?」
悦に入っていた玲魅の顔に怒気が含まれた。
「馬鹿親の所為よ! レイプの事を気にして人を勝手にこんな学校に押し込んだのよ!」
軽く息を吐き玲魅が続ける。
「それでも、部長に会えたのだから良いかしら。前の人も熱血してサッカーの事しか考えられない人だったけど、部長は、更に入れ込んでる。これでコンクールに出れなかった時、どんな絶望の表情を見られるか、想像しただけで、イッてしまうわ」
さすがに顔を赤くするモゴ。
「お前の望みをかなえる為には、もう力尽くで、本人以外を負傷させるしかないわね」
いつの間にかに現れたメイダラスがその手を玲魅に突き刺す。
『汝の欲望を阻む存在を自らの力で打ち砕け、魔約獣』
玲魅の下半身が蛇の様に変化し、まるで伝説にある蛇の下半身を持つ蛇神、ナーガに変化する。
そして一気に増える淫尾蛇達に、モゴ達が対応している間に、メイダラスは、後退しようとした。
『邪悪なりし者を捕らえ、縛せよ。重縛陣』
闇の呪文の共に、会場に数箇所に隠蔽された魔方陣のパーツが反応して、メイダラスの動きを封じる。
「まさか、事前のチェックでは、こんな仕掛けは無かった!」
メイダラスが焦った声を出すと闇が近付き言う。
「その為に、あたしが、態々ここに来たの。あたしだったら、相手に気付かれない小規模な魔方陣で封じる事が出来るからね」
舌打ちをするメイダラス。
「あの魔約獣が倒されるまで、大人しくしてなさい。終り次第。捕獲してオーフェンの情報を引き出すから」
闇の言葉に、メイダラスが不敵な笑みを浮かべる。
「あら、貴女は、助けなくていいの? あの魔約者に説得は通じない。拒絶反応が無ければ魔約星の位置は、判明しない。魔約星を壊す事が出来ない以上、あの子達に魔約者は倒せない。そうなったら貴女の出番じゃないの?」
闇は、肩を竦める。
「八刃はそんな過保護な組織じゃないよ。自分の仕事だけを全うし、出来ない人間は、その命に代えてやれって言うだけ」
平然と答える様に少し驚くメイダラス。
「八刃は、戦う為だけの組織なんだよ」
大戦を経験した、冷たい瞳にメイダラスの汗が止まらなくなった。
二人がそんな会話をしている間も、戦闘は、続いていた。
『素青色鳥矢、孵化』
通が矢を番えて、すぐさま敵の集団に打ち込む。
『羽撃』
矢から大量の水が発生して、淫尾蛇の動きを抑制する。
そこにモゴが隼のぬいぐるみを取り出して唱える。
『冷たき風と在らん隼、百母桃の名の元に、合わせ鏡に映せし様に増やし在れ。合鏡獣晶』
冷気を放つ隼、冷風隼が、獣晶すると同時に無数に増えて、水で動けなくなった淫尾蛇を凍りつかせる。
静は、背中の翼で自分を包み込む。
『ストームウイング』
静が竜巻に包まれる。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ尽きぬ流となれ、流炎翼』
竜巻に放たれた炎の帯は、四方八方に突き進み、氷漬けになった淫尾蛇を粉砕する。
歯軋りをして怒鳴る玲魅。
『まだよ! まだまだ淫尾蛇は、呼べるわ!』
モゴが呆れた顔をして言う。
「いくら呼んでも無駄だよ。あちき達が瞬殺するから」
通と静も頷く。
怯む玲魅を見て、闇が怒鳴る。
「開放できないようだったら、殺しても良いわよ。無かった事にするくらい八刃だったら可能だし、許されるわ」
「あんたの生きていた時代と一緒にするな!」
通が怒鳴り、静は、首を横に振る。
「そんな事は出来ません」
モゴが頬を掻いて言う。
「多分、闇様が言う通りだよ。八刃だったらそれは、許されるよ」
その答えに驚いた顔をする静。
通は、モゴに掴みかかる。
「本気でそんな事をするつもり?」
モゴは笑顔で答える。
「あちき達は、八刃の前に3Sだって事を忘れてない?」
通が闇を睨み答える。
「そういうことよ! あたし達は、あたし達のやり方で決着をつける!」
闇が呆れた表情をする。
「いつの間にか温い組織になった見たいね」
闇がメイダラスを一瞥して、何かアクションを起こそうとした時、後ろの座席から声がする。
「闇、お前の役目は、そこの奴の押さえだろ。魔約者の始末は、3Sの担当だ。どんなやり方をするかは、奴等に任せろ」
欠伸をする良美を闇が睨む。
「一般人に指示される事では、無い」
良美は、メイダラスですら怯ませた視線を正面から受けて平然と答える。
「あたしは、3Sの担当だ。文句があるならあたしが相手になるぞ」
闇が舌打ちをする。
「白風の次期長とは、争うつもりは、ありません。しかし、失敗したらその時は、あたしが始末します」
その言葉にメイダラスが少し余裕を取り戻して言う。
「予定とは、違うみたいね? あたしは、奴等が失敗するのを待ちますか」
メイダラスに牽制の視線を向ける闇。
玲魅が異常に伸びた爪でモゴ達に襲い掛かる。
モゴが、爆炎で攻撃を防ぎながら後退する。
「貴女のやろうとした事は、失敗した。もうあきらめなよ」
『五月蝿い! まだだ!』
暴走する玲魅をモゴが引きつけている間に通が二本の色鳥矢を取り出していた。
最初の一本、素茶色鳥矢が放たれる。
『羽撃』
大量の土が上空から玲魅に降り注ぐ。
『この程度の物が効くか!』
土を払いのける玲魅に次の矢、輪金色鳥矢が迫っていた。
『羽撃』
輪金色鳥矢が周囲の土を硬質化させて玲魅の動きを封じた。
三方から囲むモゴ達。
「藤原先輩、もう止めてください。これ以上やっても何も変わりません」
真摯な瞳で静が言うが、玲魅は、聞かず、新たな淫尾蛇を生み出す。
しかし、モゴ達は、宣言通り、瞬殺していき、玲魅の顔に死相が出てくる。
誰の目にもこのまま続ければ、彼女が死ぬことは、明白だった。
「どうする、モゴ?」
淫尾蛇を倒しながら聞き返すが、モゴは、首を横に振る。
「魔約星の位置が解らないとスターダストが出来ないよ」
その時、玲魅の前に武人が立ち塞がる。
「もう止めてくれ! このままでは、藤原がコンクールに参加出来なくなる」
場違いな言葉に通が怒鳴る。
「あのね、解ってる。その人は、そのコンクール参加を邪魔しようとしていたんだよ!」
武人が強い意志を篭った目で答える。
「まだ参加出来る。参加する以上は、ベストメンバーで参加するだけだ」
意外な言葉に玲魅が戸惑う。
『貴方馬鹿? 私は、貴方を絶望させようとしているのよ?』
その言葉に武人がはっきり答える。
「それは、絶対無理だ。俺は、絶対絶望しない。俺が生きている限り、自分の道を突き進むだけだからだ」
言葉が無くなる玲魅の方を向き武人が言う。
「練習を再開するから、早く準備をしろ」
玲魅の目から涙が流れ、下半身の蛇の部分が輝き、魔約星の位置が解る。
通は、素早く準備を始める。
『スターブラスターセット』
通の色鳥矢の先端に端子が付き、エネルギーチャージが始まる。
十分なエネルギーが溜まった所で色鳥矢が放たれて、玲魅の魔約星に直撃する。
『スターダスト』
開放される玲魅を慌てて受け止めるモゴと静。
その様子を見て闇がメイダラスに告げる。
「予想外にも上手く行ったみたいだよ」
メイダラスが肩を竦める。
「本当に残念だわ」
意外な余裕に闇が周囲の気配を探り、感じ覚えがある気配を見つけてしまった。
「嘘、この気配って……」
困惑した闇の前に魔磨が現れる。
「まさか、貴女と再会する事になるとは、思わなかったわ」
緩みかけた気配が一気に無くなり、構える3S。
「姿が違うけど、魔磨さんの気配がします。まさかと思いますが……」
珍しく言葉を濁す闇に魔磨は邪悪な笑みを浮かべて言う。
「貴方達の所為でこんなに力を失って、こんな姿になってしまったが、貴女が知ってる魔磨よ。ついでに教えておいてあげる。貴女に近付いたのも結界に穴を開けると為だったのよ」
歯を食いしばり、唇から血を流す闇。
「貴女だけは、あたしが倒す!」
「出来るのかしら?」
魔磨が挑発する。
「弱体化した半異邪一人、あたしだけで十分」
闇が空中に光の陣を描く。
『聖なる光よ、敵を打ち破る覇を生み出せ、聖光覇陣』
空中に描かれた陣から光が次々生み出されて魔磨に襲い掛かる。
「その程度で、六頭首の一人に効くと思わないでね」
魔獣が発生し、次々と光を食らって自爆していく。
「これは、貸しね」
魔磨がそういった時、囚われていた筈のメイダラスが消えていた。
しかし、闇は動揺すらしない。
「代わりに貴女を殺すわ」
再び陣を描き始める闇に魔磨は、不敵な笑みを浮かべて言う。
「残念だけど、貴女を倒すのは、もう少し後なのよ」
消えていく魔磨。
舌打ちをする闇にモゴ達が近付いて行く。
「又逃げられてしまいましたね」
静の言葉に通が言う。
「次の機会に回せば良いだろう。それより事情がよく解らないんだか、どうして魔約に拒絶反応しめしたの?」
良美がやってきて言う。
「あいつは、怖かったんだろう、置いていかれるのが。夢に求める一人先に行く相手を強引に引き止めようとしてたんだよ。一緒に進んで行ける、そんな状況こそ、あいつが本当に望んだ未来だったんだろう」
手を叩くモゴ。
「なるほどね。ところで良美さんは、こんな所で何して居たんですか?」
遠くを見て良美が言う。
「闇との共同作戦の詳細を直接伝えに来たんだが、演奏を聞いてる間に眠ってしまった」
モゴ達の責める視線をおもいっきり無視する良美が闇を見る。
「作戦通りなのに、どうしてそんなに不満そうなんだ?」
闇は、悔しげに言う。
「あれだけは、あたしの手で倒したかった。あたしの所為で……」
何も言わず思いっきり抱きしめる良美の胸で泣く闇であった。
「流石に大戦参加者は、並では、無いわね」
魔約壷を持つミラーがメイダラスに近付いた。
人気が無い校舎の裏で、メイダラスは、その姿を少女、ミリスに戻す。
「はい。しかし、今回で必要な力が溜まったと思います」
「嫌な予想ほど当るって、本当ね」
その声にミラーが振り返ると小較が居た。
「大人しくそれを渡して投降して下さい」
ミラーが怒鳴る。
「私とお父様を利用した奴等を今度は、私が踏み台にしてやるの! 私達は、絶対に諦めない! ミリス、やりなさい!」
ミリスが頷き、再びメイダラスの姿に戻った時、地面が盛り上がり拘束する。
「残念だけど、トラップは、無数に仕掛けさせてもらった、逃げられないぜ」
華が現れる。
「最初から、一度取り逃がして、正体を確認する予定だったんだよ」
瞳子が現れて、包囲が完了する。
舌打ちするミラー。
「こうなったらここで開放するまでよ! 雲集四門、必要な力はここにあるわ!」
魔約壷が掲げられた時、空間が歪み、上空に歪む。
そして空間が裂け、禍々しい巨大な竜が生まれる。
「あれってバハムート? 違う、似てるけど別の存在だ」
小較の呟きにミラーが答える。
「あれこそ、魔神竜と融合したバハムートの最終形態、サタンバハムートよ! あの本体を呼び出すために力をこの魔約壷で集めていたの。それがあつまった今、我等に勝てる者は、居ない。オーフェンを出し抜く為の準備が少し不足しているけど、親に捨てられて泣いている子供を操るのは、そんな難しくないわ」
ミラーが高笑いをあげる中、サタンバハムートから放たれた光がミラーとミリスを回収してしまう。
悔しそうな顔をする華。
「もう少し一歩だったのに」
そこにヤヤが現れて言う。
「長かったオーフェンとの決着をつける時が来たみたいね」
頷く小較であった。




