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才能が見い出された少女

萌野の後継者問題が、森野家に降りかかる

「一つ聞いて良い?」

 良美が隣に立っているヤヤに言う。

「何?」

「何でこんな深夜に家庭訪問しないといけないの?」

 良美が思いっきりめんどくさそうな顔をして聞く。

「色々あって早く伝えたいことあるの。較美のお世話を小較に任せて来たんだから早く帰らないとね」

 その言葉に良美が一言。

「本当較美に甘いな。子供は甘やかしたら駄目だぞ」

 その言葉にヤヤは頬をひきつらせて言う。

「そーゆー台詞は少しは、子供の世話をしてから言って」

 そしてようやく扉が開いて、ヤヤと良美は、森野家のリビングに案内された。



「でそちらが、静の担任の先生ですか?」

 森野勇気の言葉にヤヤが頷き言う。

「はい。でも単なるパス代わりですから気にしないで下さい」

 顔を引きつらせる森野一家。

「早速ですが、静さんの事ですが良いですか?」

 その言葉に勇気が言う。

「またやったみたいですね。しかしこれは本人が出そうと思って出してるものでは無いのです」

「それは修行が足らないからです。修行すれば、自分の意思でコントロールできます」

 ヤヤの即答に驚く森野家。

「貴女は何か知っているのですか?」

 勇気の質問に頷くヤヤ。

「森野勇気さん、あなたは旧姓は萌野ですよね?」

 勇気が頷く。

「ええ、それが何か?」

「萌野家は、自分の意思の力を炎に変化させる能力を持っています。ここ二世代程その能力は低下していた見たいですので、静さんは先祖返りでしょう」

 その言葉に勇気は机を叩く。

「冗談は止めてください。そんな炎を出す血筋などある訳が……」

 ヤヤは自分の掌の上に炎を具現化させる。

「私は、少し違う血筋ですが、こんな事が出来ます。静さんも修行すれば、感情の発露で炎を出さなくし、一般社会で暮らすことは可能です」

 その言葉に勇気は思案顔になるとその妻、命が言う。

「聞きたいのですが、わざわざそれを伝える為だけにこんな夜更けに来たのですか?」

 その言葉に勇気が少し咎める視線を向けるが、命は譲らなかった。

「正確に言うと本題はこっからです。問題が一つあるのです」

 その言葉に勇気がヤヤを見る。

「それはどういうことです?」

 正直、森野家はヤヤを信じていなかった。

 今までも静の力をいい加減な解釈をしてお金を騙した取ろうとした人間は幾らでも居たからだ。

「先程説明したとおり、萌野に炎を出せる後継者が居ない状態なんです。ですから静さんを後継者にと動く人物が一人居るんです」

 その言葉に驚く、勇気。

「娘は、静は誰にも渡しません」

 大人しくして静を抱きしめる勇気。

 命はまっすぐヤヤを見て言う。

「主人の言うとおりです。例え主人の実家の人にも大切な娘は渡しません」

 ヤヤは溜息を吐く。

「その気持ちは解ります。問題は相手が一族での権力者だけじゃないって事です。知っていますよね萌野勇一の名前は」

 その言葉に勇気が驚いた顔をする。

「まさか財界の大物、萌野勇一ですか?」

 ヤヤが頷く。

「そうです。萌野の長は、能力者としての萌野家の存続の為ならば非合法な事でもやる覚悟があります。静さんを守ろうとして貴方達に大きな損失を与える可能性があるのです」

 不安げな顔をする静。

 そしてヤヤが言う。

「一応私の名前で口止めはしておくつもりですが、何かしらのアクションがあったら連絡ください」

 ぬいぐるみショップの宣伝用の名刺を渡すヤヤ。

「ぬいぐるみショップ『シロキバ』店主、白風較?」

 激しく場違いな名刺に戸惑う勇気であった。



「昨日の夜、ヤヤさん、白風較さんが行ったの?」

 教室でモゴが聞き返すと静が頷く。

「白風さんってどんな人なの?」

 モゴが少し悩んだ後言う。

「化け物退治の集団八刃の権力者の一人。単独で米軍一個師団を壊滅させられる人。家事の天才。ぬいぐるみ作成の第一人者。この学園の理事の一人。総括すると、普段は凄い良いお姉さんだけど、いざとなると権力と暴力で全てをねじ伏せさせられる人かな」

 それを横で聞いていて雅が驚く。

「何でそんな人がぬいぐるみショップのオーナーやってるの?」

「世を忍ぶ仮の姿。必殺仕事人のもんどさんが役人やってるのと同じ理由。昔っからぬいぐるみを作っていたらしいけど」

 そして静が言う。

「それでは、私の曽祖父にあたる萌野勇一ってどんな人なんですか?」

 それにはモゴも唸る。

「あちきは、あまりあった事無いよ。ただ、小較さんが毛嫌いしてたっけ。かなり萌野の後継者養成に力入れているって話は聞いたことあるよ。そして第二次世界大戦前後にあった大きな異邪との戦いに実際参加したことがある重鎮って事で、ヤヤさん以上の権力者だって話だよ」

 それを聞いて難しい顔になる静。

「そうですか……」

 モゴはそんな静の姿を見て、頭を捻って言う。

「放課後家に来ない?」

 その言葉に静が驚く。

「あのーどうしてですか?」

「炎はコントロールしないといけないでしょ。あちきはそーゆー指導出来ないけど、ヤヤさんだったら本当に何でも出来るから良いアドバイス聞けると思うよ」

 それには静も頷く。



 夕方の丸の内、森野グループの本社ビルの社長室。

 森野勇気は、昨日のヤヤの話を再度検討していた。

「あれは、今までのような詐欺師のペテンなのか? しかし相手にプラスになる要求は無い……。それともこれからなのか?」

 その時、秘書が入ってくる。

「社長、萌野財閥の萌野勇一様の秘書から今日直ぐにも会う約束を入れたいと電話が入っておりますが、如何いたしますか?」

 その言葉に勇気は、少し躊躇した後言う。

「今夜の予定は?」

「この後、重役会議があり、萌野傘下の会社の社長と夕食会の予定がありますが」

 秘書の回答を元に、勇気が即答する。

「それらの予定はキャンセルしてくれ、夕食会については私からも謝罪の電話を入れる」

「解りました」

 秘書が部屋を出たのを確認してから勇気が言う。

「早いな。あの女性から情報が行ったのか?」

 テーブルの上に置いた静の写真を見て勇気が誓う。

「静は誰にも渡さんぞ」



「はい深く息を吸って」

「はい」

 小較の指示の元、静が道場で炎のコントロールの為の簡単な練習をしていた。

「萌野の炎は、強い感情と結びつくの。だから才能がある人は子供の頃から感情の暴走で発現してたらしいよ。逆に大人になって、力のコントロールが出来る様になると、殆どそんな事無いって話だから、八刃学園に居る間に、コントロール法さえ身に着ければ普通に生活するのには問題ないよ」

「はい」

 静は幾分嬉しそうに返事した。

 そんな静を見て、モゴが首を捻る。

「正直あちきには解らないな、才能あるんだからその才能を磨こうと思わないのかな?」

 そんな言葉にヤヤが苦笑する。

「それは仕方ないよ、静さんは血筋こそ八刃だけど、八刃ではないんだから」

「それってどういうこと?」

 ヤヤが自信たっぷり言う。

「八刃は生まれてくるものではないの。成るものなの。そーゆー意味では貴女もまだ八刃では無いわ」

 モゴは口を膨らません。

「どうせあちきは、ヤヤさんみたいに才能ありませんよーだ」

「それが解ってないって証拠だよ」

 そう言いながら、ビールを飲む良美にヤヤが言う。

「夕食前に飲まないでっていってるよ!」

「いいだろう仕事後の一杯位よー」

 白風家は比較的平和であった。



 高級料亭の一室。

「今日は傘下の者との夕食会をキャンセルして、来てくれたそうだな」

 そう勇気に言うのは、萌野財閥の会長、かなりの高齢なのに、まだまだ強い眼力を持った老人、萌野勇一であった。

「萌野会長と会える機会は、そうそうございませんから」

 その言葉に萌野勇一が言う。

「そう硬くなるな、白風の次期長から話は聞いているだろう、わしとお前は血縁関係だ。まさかあの勇気が、森野の社長に成ってるとは気付かなかった。勇三ユウゾウも一言言えば、多少の融通位利かせてやったものを」

 その言葉に勇気は即答する。

「私は森野に養子に入った人間です。いまさら萌野の血縁に頼るのは、筋違いだと思いますが」

 その牽制に萌野勇一も気付く。

「つまり自分はもう萌野の人間では無いというつもりか?」

 まるで刃の様な鋭い言葉だったが、勇気も即答する。

「はい。ところでお話とはなんでしょうか?」

 強い意志を篭った言葉に萌野勇一が言う。

「あの勇三の息子とは思えない豪胆さだな。率直に言う。お前の娘、静を萌野の養子に出せ」

「お断りします」

 一拍も置かない即答である。

 睨みに耐えながら、勇気が続ける。

「娘の話は白風さんから聞いたのですか?」

 それに対して萌野勇一が言う。

「あの娘を頼るつもりだったら諦めろ。まだあんな小娘よりは耳は広く、声も届く」

 その一言で勇気は悟ったヤヤとは別ルートから情報が萌野勇一に届いたと。

「まー今日の所は預けておく。しかしお前にも誇り高き萌野の血が流れていることを忘れるな」

 そういって席を立つ萌野勇一だった。

 そして勇気は、帰りの車の中で昨夜の名刺を見る。



「はいそうですか。こちらでも調べてみます」

 そういってヤヤが電話を切る。

 夕食の後、ゆったりした空気を壊す思い溜息を吐いてから、振り返りモゴに言う。

「今日学校で静さんの力の事話した?」

 モゴが頷く。

「うん、静さんがヤヤさんや萌野の長の事聞いて来たから答えたよ」

 するとすぐさま電話をとるヤヤ。



「こんばんわ、ヤヤさん。こんな遅くに、なんですか?」

 そう光が冷や汗を垂らしながら応答する。

『萌野の長に、静さんの事を漏らしたの、あなたね』

 ヤヤの明らかに冷たい言葉に光は顔中から冷や汗を流す。

「何のことか解りませんが」

『まー言った事を、とやかくいっても仕方ないね。だけど忠告しておくよ、次余計な事を漏らしたら、別の間結の人間が理事長になるよ』

 そのまま電話が切れる。

「どうしよう?」

 困惑する光に鏡が顔の汗を拭きながら答える。

「ここは傍観するのが宜しいかと思われます。萌野の長も力がある人間です。光様に必要以上の助力は求めて来ません。白風の次期長も自分と萌野の長を天秤かけた時にどちらに傾くか知っている以上、無理に力を貸せとは言ってきません」

 その言葉に激しく頷く光。

「そうよね。今回は静の事を萌野の長に教えて恩を売ったって事で良しにしましょう」

 そう言って自分のベットルームに向かう。

 鏡は電話でメイドに安眠に向いたアロマの準備を指示する。



 その日の静は朝から暗かった。

「どうしたの?」

 雅が聞いてくるのでモゴが溜息を吐く。

「光さんが余計な事を萌野の長に密告したから大人の世界でかなり大変な事になりそうなの。まーあちき達は何も出来ないんだけどね」

「あたし達は委員の仕事は有るわよ」

 小較がモゴの後ろから声をかけてきた。



 放課後の体育館

「バスケットボールが勝手に動く怪現象が起こってるそうなの」

 小較の説明に雅が補足する。

「死んだバスケット部員の怨念って話よ」

 何故か一緒に来た静が怯えるが、モゴは一言。

「この学校怪我人は居るけど死人ってまだ出てないよ」

 そう言っている間に、バスケットボールが空中に浮くとゴールに入っていく。

「あれなんですか?」

 その言葉に雅がカメラのシャッターを切る。

「次の新聞の記事に使えるよ」

 小較がモゴに言う。

「何か見える?」

 その言葉にモゴが首を横に振る。

「無理言わないでよ。小較さんに見えないのがあちきに見える訳ないよ」

 その二人の会話に驚く静。

「あのー見えないんですか? あの空中を進む鼠を?」

 小較とモゴがじっと静が指差す先を見る。

「駄目、霞にしか見えない」

 小較がそう言うとモゴが目を細めて続ける。

「うーんなんか輪郭は見えるけどよく鼠って解るね?」

「私にはしっかり見えますが」

 静が戸惑いながらも言った。

「もしかして静って白風先輩やモゴより能力高いんじゃない?」

 雅の言葉に小較が唸る。

「可能性はある、鍛錬無しで炎出せるんだものね。それじゃあちょっと協力して、鼠の動き見てて」

 そう言って、小較が体育館に入る。

「モゴはサポート、細かい鼠の動きを静に聞いて、フォローして」

 モゴは青い狼のぬいぐるみを取り出して言う。

「解った」

 モゴは静の方を向くと笑顔で言う。

「それじゃあお願いね」

 静は少し驚いた後慌てて頷く。

「はい。がんばります」

 小較は不明確な鼠の姿に囚われない様に、目を瞑り気配だけを頼りに迫ってくる鼠に向かって腕を振る。

『フェニックスウイング』

 両手の動きから放たれる炎が迫ってきていた鼠モドキを燃やす。

 モゴも床にぬいぐるみを置いて呪文を唱える。

『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、風斬狼』

 青い狼の輝石獣が獣晶する。

「モゴさん、あっちの鼠が、小較さんを狙ってます」

 静の言葉にモゴが頷き、そちらに風斬狼を向けさせる。

 小較に襲い掛かろうとした鼠が風斬狼に噛み砕かれる。

 その間にも、小較が鼠を掃討して行った。



「今回の一番の功労者は静さんね」

 小較の言葉に静が慌てる。

「そんな私はただ、鼠の様子を伝えただけで……」

「あの手の小物は弱過ぎて動き等が把握し辛く面倒な事になる場合も多いの。相手をしっかり見えた静さんがいたから余計な手間が省けたのよ」

 そして雅が手が叩く。

「いっそのこと、静も3Sに入れば?」

 その言葉に驚く静。

「でも私は力のコントロール法さえ覚えられれば良いんですが」

 そんな様子にモゴが唸る。

「そーなった場合あちきの取り分って減るのかな?」

 小較が意地悪な顔をして言う。

「当然。まーがんばる事ね」

「こっちは借金返済が掛かってるんだよー」

 拗ねるモゴ。



 学生達は和気藹々としている中、大人達は色々と大変な事に成っていた。

「萌野の傘下の会社から契約取り消し要求が相次いでます」

 秘書の説明に勇気が頷く。

「解った。今はとにかく、引き伸ばしておくように担当者に言ってくれ」

 そして目の前に居るヤヤの方を向く。

「すいません、学園の方から洩れるのを防げませんでした」

 そう頭を下げるヤヤ。

 それに大して勇気が言う。

「貴女のせいでは無いですよ。これは私の親族の問題ですから。人当たりが良い父と祖父が不仲だった為、深く考えてなかった私の落ち度ですよ」

 そしてヤヤが言う。

「こんな時遠糸の長が居れば、説得に協力してもらえるのですが。今八刃で萌野の長に意見を言える人間は居ないんです」

「もう一度、萌野勇一に会います。そして説得して見せます」

 勇気が硬い意思を込めて言った。

今回のモゴの収支



 ○収入

  風鼠フウソ退治サポート      10,000

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合計 = 10,000



 ○支出

風斬狼(触媒・ぬいぐるみ製造費)    2,000

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合計 =  2,000



◎利益

収入    10,000

支出 -  2,000

--------------------------------------------------

純利  =  8,000



●借金残高

繰越金額   199,833,300

返済金額   -  8,000

--------------------------------------------------

借金残高   199,825,300

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