意外とあっさりばらすのは伏線です
春河麻美、彼女の父親とヤヤとの間には複雑な因縁があった
「その子は、オーフェンとのハーフだよ」
夕飯の席で、小較が告げる。
「どうしてそんなのが、八刃学園に居るの?」
通の言葉に良美が言う。
「うちの学校は、誓約書さえ書けば、入学に制限が無いのを知らないのか?」
「限度があると思います」
静の言葉に、ヤヤが答える。
「確かに敵意を持つ相手だったらそうかも知れない。でも、その子は、父親がオーフェンだっただけ。迫害したら駄目ですよ」
モゴが首を傾げる。
「でもどうして知ってるんですか?」
小較が溜息を吐いて言う。
「丁度、あたしがオーフェンの関係者の洗い直ししてたからね。家族にオーフェン関係者が居る人間って実は結構居るんだよ」
その言葉に目が点になるモゴ達。
「静の件と同じだよ。常人とは、異なる力を持つと、弾かれて自然と非常識学園に流れ着くんだよ」
良美の言葉に、静が悲しい目をする。
「春河さんも辛い目に会っていたのですか?」
小較が首を横に振る。
「彼女は、比較的に普通。異能も触れた相手の過去を見るだけだから、実害は低い。ただ、彼女には少し問題があるよ」
「問題って何?」
モゴが聞き返すと、小較がヤヤの方を向くとヤヤが頷き言う。
「彼女の父親が所属していた組織を壊滅させたのは、私なのよ。それが原因で父親が死んで居るので、私の事を恨んでいる可能性はあるの」
「彼女の父親はオーフェンの思考に合わず抜け出そうとしてたんだけど、ヤヤお姉ちゃんが関わった事で、問題が大きくなって殺されたんだよ。ヤヤお姉ちゃんには、責任は全く無いけど、恨みと湿布は何処にも付くって言うしね」
肩を竦める小較。
「よく入学させましたねー?」
モゴの言葉にヤヤが少し困った顔をして言う。
「母親も死んで、身内が居なかったから、八刃学園だったら色々援助出来るからね」
「ヤヤさんって本当に良い人です」
静の言葉に良美が言う。
「戦闘モードに入らない限りな。戦闘モードに入ったら、極限の破壊生物だぞ」
その言葉にモゴ達は、何度か見た自分達からみても非常識な戦闘能力を思い出して、言葉を無くす。
「私に直接復讐を企む位ならほっておいても構わない。問題はオーフェンと繋がっているかどうかね」
あっさり言うヤヤに小較は少し不満気な顔をするが、頷いた。
麻美は、玄武エリアにある寮の自室で震えていた。
「あの人達にあたしの秘密がばれたら、殺されちゃう」
「そうね、八刃は、異邪に関するものには一切の容赦は無いからね」
意外な答えに麻美が声をするほうを見るとそこには、人外の美しさを持った女性、メイダラスが居た。
「あなたはだれですか!」
叫ぶ麻美に対して、メイダラスは唇に指を当てて言う。
「静かに。貴方も色々秘密があるでしょ?」
その言葉に麻美は口を押さえて頷く。
「麻美、大丈夫!」
晴菜がドアの外から声を掛けてくる。
「なんでもありません」
麻美が即答する。
「本当?」
晴菜の思いっきり疑っている口調に対して麻美がはっきり答える。
「本当です」
晴菜は渋々引き下がる。
「一応信用するけど、何かあったら直ぐ言うんだよ!」
メイダラスが笑顔で言う。
「いい子ね。それじゃあ、話をしましょう。貴方は今の自分の立場が凄く危ないくらい理解してるわね?」
麻美は頷くとメイダラスが妖しい笑みを浮かべて言う。
「私だったら助けてあげられるわ」
その言葉に、麻美は真っ直ぐメイダラスを見て言う。
「オーフェンの人ですよね?」
メイダラスが頷くと、麻美は首を横に振る。
「あたしは、オーフェンとは関わりあわないように生きるって、お父さんと約束したんです」
メイダラスの顔が軽く引き攣らせて言う。
「殺されるわよ?」
「これだけは譲れないんです」
麻美が強い決意を込めた言葉で答えた。
「必ず後悔するわよ!」
メイダラスは舌打ちをすると、捨て台詞を残して消えていくと、直ぐに涙目になって麻美が言う。
「本当にどうしよう?」
その時、拍手が起こる。
驚くと影から一人の男性、鏡が現れて言う。
「夜分すいません。用事が済み次第立ち去らして頂きますので、ご了承下さい」
「貴方は確か、理事長の執事の人ですよね?」
麻美の質問に鏡は頷き答える。
「そして八刃の関係者です」
その一言で身を引く麻美を落ち着かせるように首を横に振る鏡。
「安心して下さい。貴女に危害を加えるつもりはありません。逆にオーフェンと関係持たない限り、生活の補助もさせて頂くつもりです」
「どうしてですか?」
麻美の当然の疑問に、鏡は少し考えてから決心したように言う。
「ぬいぐるみ屋のシロキバの主人の事は知っていますか?」
その言葉に麻美が頷く。
「すごく可愛いぬいぐるみを作っている人ですよね? 何度か買いに行きましたんで知ってます」
「その女性が、貴女の父親が所属して居たオーフェンの組織を潰した張本人です。その関係であなたの父親が殺されたと、責任を感じている為だと思われます」
鏡の言葉に、麻美の顔に少し敵意が過ぎった。
しかし、鏡は、そのまま続ける。
「その人は、恨んでもらって構わないと言っています。ただ、恨みは直接自分に向けて欲しいと言っています。それさえ守っていただければ、援助は続けさせて貰うとも言っています」
麻美は物凄く辛そうな顔をする。
「つまり、あたしは、お父さんが死ぬ原因を作った人の好意で暮らしていたって事ですか?」
鏡は頷くと麻美が言う。
「その人に言ってください。もう援助は要りません。恨むつもりもありませんが関わらないでくださいと」
鏡は頷く。
「お伝えします。ただ、オーフェンがしつこく貴女と関係を持とうとしてきたらその時は、3Sに言ってください。それでは失礼します」
影に消えていく鏡。
「お父さん……」
悲しそうに呟く麻美であった。
「結局振り出しに戻ったって事だよね」
朝の教室でのモゴの言葉に通が頷く。
「ヒントは御魂玉って奴だけど、どうなんだよ?」
それに対して、静が今朝、鏡からもらった資料を確認する。
「間結の関連会社の人間が保有していた秘宝で、理事長が、学校に箔を付けたいと言ったので無償寄付してもらったそうです。時価で言うと3000万するそうです」
その一言に、固まるモゴと通。
「光さんも無茶を言うなー」
モゴの言葉に首を傾げる静。
「でも寄付で3000万は、普通だと思いますが?」
通が拗ねる。
「ブルジョワには解りませんよ」
そこに雅がやってくる。
「貧乏コンビで遊んでるけど、調査どうするの?」
「五月蝿い! とにかく御魂玉を狙っている人を一人ずつ調査していくのが順当な方法だね」
モゴの言葉に頷く、通達であった。
「どうにかして、御魂玉を調べたい」
歴史研究部の部室で部長の浩太が呟く。
そんな浩太を見ていた副部長の藍子は、何かを決心した顔をして部室を出て行く。
「あたしが、絶対御魂玉を手に入れる」
愛情に全てを捧げたその表情は、深い慈愛と共に狂気を孕んでいた。
「それで言いたい事はそれで全部?」
歴史資料室の前で、通が警備の人間を睨む。
正直、警備の人間も女子中学生に偉そうに睨まれて、不機嫌だがそれを表に出すわけには行かなかった。
3Sの戦闘能力は八刃学園の人間だったらだれもが知ることであり、今回はどう考えても自分達に問題があるからだ。
「警備の人間なんてせっついても自体は変らないよ。御魂玉が勝手に貸し出されていた現状はね」
モゴが嫌味たらたらと告げる。
「二人とも、警備の人に失礼ですよ」
3Sの良心、静の言葉に警備の人間が安堵の息を吐くが、雅が振り出しに戻す。
「でも、肝心の御魂玉が無いと、魔約者探しも上手く行かないよねー」
その一言に、モゴも通の表情が硬くなる。
「何、遊んでるの?」
3S、特殊清掃委員の顧問の良美がやって来た。
「肝心要の御魂玉が無いんですよ!」
通が反発すると良美があっさり言う。
「それって、いま御魂玉を持ってる人間が魔約者って事じゃないの?」
モゴが頷く。
「その可能性が高いよね。そうだとしたらやる事は一つだね」
怖い表情になるモゴ達であった。
「大人しく吐いた方が身のためだと思うよ」
笑顔でそう言うモゴに、相対した歴史資料室の管理責任者の男性が言う。
「だから、君たちに話す義務は、無いと何度も言っているだろう」
通は冷めた視線で言う。
「あたし達に、逆らってただで済むと思ってる?」
その言葉に余裕たっぷりな表情で男が言う。
「理事長ならきっと理解してくださる」
モゴは、呆れた表情をして言う。
「なるほど、光さんに賄賂を渡してるって事だね」
静が驚いた顔をする。
「本当ですか?」
「何の事だか解らないな」
とぼける男に雅が言う。
「どうするの、3Sの権力が通じないみたいだよ」
モゴがバックの中から、イソギンチャクのぬいぐるみを取り出す。
「あとくされの無い拷問方法なんて幾らでもあるって事で」
『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、縛磯巾着』
モゴの獣晶で呼び出された、イソギンチャクの輝石獣はその滑った触手を男に伸ばす。
「何をするつもりだ! そんな物で私を襲って、ただで済むと思っているのか!」
男の怒鳴り声にモゴは笑顔で答える。
「安心して。危害は決して加えないから。グランパ曰く、そのうち気持ちよくなるって」
「止めろ!」
男が力の限り叫ぶ。
「危害を加えないって、何をするのですか?」
首を傾げる静を雅が引っ張り部屋を出て行く。
モゴもドアに向って歩いていく。
「気持ちよくなった頃、帰ってくるよ」
「オヤジが触手に襲われる姿なんて見たくもないからな」
通もあっさり外でて行く。
「お願いだ、止めてくれ!」
必死に懇願する男にモゴが振り返り言う。
「あちきも、好きでやってる訳じゃないんだ。御魂玉を誰に貸し出したか教えてくれたら、こんな事をしなくてもいいんだけどねー」
「話す! 話すから止めてくれ!」
力の限りの絶叫する男にVサインを出すモゴであった。
「やっぱあれに襲わせてから、開放した方が良かったんじゃないの?」
目的地に向って歩いている途中に通が不機嫌そうに言うが、雅は肩を竦めて言う。
「あいつって、前々から色々やばい噂があったからねー」
沈痛な面持ちで静が言う。
「御魂玉を貸し出す代わりに、肉体関係を求めるなんて最低です」
そんな中、モゴは独り悩んでいた。
「でも、そーなると逆に難しくなるね」
通が不思議そうに問いかける。
「なんで? そこまでして手に入れたかった、秋原先輩が魔約者だって事でしょう?」
首を横に振るモゴ。
「魔約者だったら、そんな事をしないで、もっと直接的な方法があった筈だよ。あの外道と寝る覚悟あったら魔約に頼る必要も無かった筈だよ」
雅が頷く。
「なるほどねー」
「あのー魔約の所為で、そう言う事をする気になったとは考えられませんか?」
静の言葉にモゴが難しい表情をする。
「可能性は無いとは言わないけど、前回のカラスの魔獣の行動と合わないよ。関係ないと思ったほうが合ってるよ」
そうこう言っている間にモゴ達は、歴史研究部の部室に到着する。
「さて、どちらにしても御魂玉は回収しておかないと後々面倒になるなからね」
通がドアを蹴破る。
そこでは、御魂玉を穴が開くほど見ていた浩太とその浩太を嬉しそうに見ている藍子が居た。
「何のようだ! 今は忙しいんだ!」
浩太が怒鳴る。
「部長の邪魔はさせません!」
藍子が立塞がる。
「頼んだぞ!」
必死に御魂玉を確保して逃げようとする浩太に、通が切れる。
『九尾弓』
通の左手に九尾弓が握られる。
『淡青色鳥矢孵化』
羽矢筒から、矢を抜き出して、番い射る。
『羽撃』
淡青色鳥矢の鏃から放たれた冷気が、浩太を氷で捕縛する。
「自分の夢の為なら女性を犠牲にするなんて、前時代的な事がまかり通るとでも思った?」
通の言葉に、藍子が睨み返す。
「邪魔しないで! 部長の為ならあたしは何でもするわ!」
モゴが肩を竦めて言う。
「自己犠牲は立派そうに見えるけど、自分の行動を誇れる? 秋原先輩がやった事をココで言っても大丈夫?」
「浩太だけには言わないで!」
モゴに掴みかかる藍子だったが、モゴはあっさりその手を外して言う。
「相手に秘密を作って、自分が犠牲になったから相手から愛されて当然だなんてふざけた事考えてるんでしょ?」
「いけない! あたしは、愛されるだけの事をした!」
切れる藍子にモゴが断言する。
「愛情は、代償を求めないものだよ。打算で愛情を手に入れようとしている貴女のそれは、単なる恋だね」
雅が驚く。
「モゴが愛情について語ってる?」
通は無言で、手帳を見せる。
「それって何?」
小声で聞き返す雅に、静が恥しそうに言う。
「3Sのマニュアルに、説得の仕方ってあるのです」
「なんの捻りもなかったぞ」
通が呆れた顔で言った。
その時、凍り付いて動けない浩太に向って前回襲ってきたカラスの魔獣が襲ってくる。
モゴ達は、アニライズクリスタルを掲げる。
『百母栗理との約定を持ちて、この装備を寄り座しに、輝石獣よ獣晶し、我が力になれ、爆炎鷹/烈風準/地孔雀』
『輝石獣武装『爆炎鷹』・『烈風準』・『地孔雀』がコールされました』
九菜作成の人工知能『HUTABA』の言葉に九菜が頷き言う。
「座標確認!」
九菜の言葉に答えて、輝石獣武装システム室の中央にある八刃学園のモデルの歴史研究部の部室が点滅して拡大映像が半球のカバーに展開される。
『座標確認終了しました』
『HUTABA』の声に九菜が頷く。
「セーフティー解除!」
『セーフティー解除。輝石獣武装『爆炎鷹』・『烈風準』・『地孔雀』開放します』
『HUTABA』の声と同時に、円柱の水槽に収まっていた輝石獣達が、水槽を透過して八刃学園のモデルに突っ込んで行った。
空中に穴が開き、三匹の輝石獣が、モゴ達に迫る。
モゴは、素早く制服の脱ぐと、爆炎鷹が、モゴの背中につき装備が展開する。
通は、少し躊躇しながら制服を脱ぐと、地孔雀が、通の背中につき装備が展開する。
静は、制服を脱がずに、そのまま烈風準が展開されて、制服が破ける。
輝石獣武装をすませると同時に、静が、前方に円を作るように翼を展開させる。
『エアーロード』
風の道が、浩太を包むように生まれる。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ尽きぬ流となれ、流炎翼』
風の道発生と同時に静が放った流炎翼が、浩太に近づこうとしたカラス魔獣達を燃やし尽くす。
「取らせないよ」
眼鏡を外した通の視線が、執拗に御魂玉を狙う、カラス魔獣の群れを射抜く。
『素緑色鳥矢孵化』
羽矢筒から抜き出された、素緑色鳥矢が九尾弓に番えられ、カラス魔獣のやや下方を通過する。
『羽撃』
通の言葉に答える様に周囲の木の枝が伸びて、カラス魔獣達を一気に捕らえる。
必死にもがくカラス魔獣達を見て、通が言う。
「逃がすつもりも無いよ」
一呼吸して、唱える。
『アースプラス』
地孔雀の尾羽が地面に突き刺さり、そこから放たれる力の波動が、カラス魔獣を捉える木の力を増幅させる。
「出元、探るよ」
自分と、藍子の守りを爆炎鷹の羽根、『ファイアーフェザー』に任せて、モゴが燕のぬいぐるみを取り出す。
『魔を追跡す燕、百母桃の名の元に、合わせ鏡に映せし様に増やし在れ。合鏡獣晶』
燕のぬいぐるみは、無数の魔追燕と変化して、一斉にちらばり、カラス魔獣の出所を探り始める。
「見つかった!」
モゴがそう言うと駆け出す。
「ここは私に任せてください」
静の言葉に、通が頷き、モゴの後を追った。
「間違いない、出所はここだよ」
モゴが寮を指さすと通るが愚痴る。
「玄武エリアの寮って、やたら人数が居るじゃん」
その時、タイミングを合わせたように麻美が現れる。
「貴女達は……」
戸惑う麻美。
「幾らなんでもタイムリー過ぎない?」
通が呟くと、麻美の後ろから晴菜が顔を出して怒鳴る。
「あんた達、麻美に何をするつもりだ!」
モゴが肩を竦ませて言う。
「何かやたら面倒な事になりそうな予感がする」




