出来れば上手く頭文字を合わせたかったのですが
新たな魔約。そして一人の血に縛られる少女
「お母さんお早うございます」
八刃学園の寮の一室で仏壇に手を合わせる、すっごく地味な一人の少女が居た。
髪は三つ編みで、服も制服を極々普通に着ている。
顔も十人並み、中等部二年の標準的な背と体型を維持している彼女の名前は春河麻美と言った。
次の瞬間、麻美の部屋の扉が開けられる。
「麻美遅刻するぞ!」
そう声を掛けて来たのは、元気があふれ出てくる様な雰囲気の少女で、髪はショートで、太い眉が印象的だが、胸はまだまだお子様な、麻美のクラスメイトの夏山晴菜であった。
「いま行きます!」
麻美は立ち上がり、晴菜の方へ歩き始めた。
「一つ聞いて良い?」
通の言葉に、九菜が頷く。
「何でも聞いて」
「何でスクール水着なの!」
輝石獣武装を行う為にある地下の輝石獣武装システム室に隣接した、実験室で旧タイプのスクール水着らしき物を着た通が怒鳴る。
そんな通の怒りをまるっきし無視して九菜が普通に答える。
「スペシャル・クロース・ミリタリー・スーツ、略してスクミス。強引な意訳では、特殊繊維軍装よ。薄いけど防御結界発生装置になっていて、輝石獣武装した時にそのエネルギーを使って害意ある攻撃を防ぐ。そして、モゴ達に頼まれていた輝石獣武装による破損の対象外になるのよ」
「つまりこれを下に着込んでいれば、裸にならなくて済むって事だね」
通と同じ様に、スクミスを着ていたモゴが言うと頷く九菜。
「でも、ずっとこれ着ていないといけないのですか?」
やはり同じスクミスを着ていた静が聞くと、九菜が。
「とりあえず、取替え用に三着ずつ用意してあるわ」
通が机を叩く。
「問題はそこじゃない! どうしてデザインがスクール水着なの!」
九菜は少し考えてから言う。
「旧タイプが不味かった?」
「違う! こんなマニアックなデザインな事に文句を言ってるの!」
通の言葉にモゴが言う。
「あきらめなよ、あんなのよりはましだよ」
モゴが指さす先には、下着にしか見えないデザインのスクミス達があった。
何も言えなくなる通に対して九菜が言う。
「全身タイツでも良いわよ」
力なく首を横に振る通であった。
「それじゃあモゴ達って服の下にスクール水着着てるんだ」
モゴ達が教室に戻り、事情を説明すると雅が聞き返してくる。
頷くモゴ。
「正直、ほっとしてる。これだったら下に着てても、良い訳がきくもん」
通が少し躊躇した後、頷く。
「でも、スクール水着を下に着込むなんて変態だよね」
静も何も言えない顔で頷く。
そんな中、小較がやってくる。
「仕事だよ。昨夜、玄武エリアにある歴史資料室に魔獣の襲撃があった。資料室に固執してる所から考えて、魔約の可能性が大で、調査をしろって話だよ」
その言葉を聞いて、やる気を出すモゴ。
「早速新装備を使う機会だね。行こう」
さっさと歩き出すモゴと慌ててついて行く静と渋々ついて行く通であった。
雅はそんな三人を見送る小較に言う。
「白風先輩は調査しないんですか?」
小較が頷く。
「あたしは、あたしで別件の調査があるからね。いつまでもオーフェンの好きにさせておけないから」
そう答えると小較はモゴ達の教室を出て行った。
「どうして入れないんだ!」
歴史資料室の前で、意志の強そうな、高等部二年の生徒、冬海浩太が怒鳴る。
「何度も言っているだろう。昨晩、襲撃があった。再度襲撃がある可能性が高く、危険な為、一般人は立ち入り禁止だ」
警備員の言葉に、浩太は反論する。
「危険など気にしない、俺にとって大切なのは御魂玉の無事の確認だ!」
「何か気になる名前だけど、それってもしかして極最近にここに運ばれたの?」
その呑気な声に振り返ると、そこには、八刃学園の生徒だったら誰でも知っている3Sの中等部メンバーが居た。
「お前等がここに居ると言う事は、化物がらみだな!」
浩太が声をかけたモゴに詰め寄り、襟首を掴む。
モゴはあっさりとその手を捻り、空中で一回転させて床に叩き付ける。
「最初にあちきに質問に答えてくれると嬉しいだけど」
「冬海くん大丈夫!」
慌てて駆け寄る、ロングヘアーの大人しめな女子生徒、高等部二年の秋原藍子。
藍子は、浩太に近づき、モゴを睨む。
モゴは溜息を吐いて、手を離して言う。
「答え聞かせてくれますか?」
それに対して、浩太は立ち上がり答える。
「こっちにも条件がある。御魂玉の無事の確認だ!」
モゴはあっさり頷く。
「ついでにその御魂玉について詳しい事聞かせて下さい」
そう言ってから警備員に話しを通す為に動く。
その間に、通が言う。
「先輩達は何でここに居たんですか?」
浩太は、苛立ちを隠さず歴史資料室の方を見ながら答える。
「ここが襲撃にあったって聞いたからだ。御魂玉の無事を確認したかったんだ!」
あからさまな態度に頬をかく通。
そんな時、通達の後方から、二人の女子生徒が来る。
「部長入れそうですか?」
そう質問したのは、晴菜であった。
そしてその後ろに居た麻美がモゴ達を見て、驚いた顔をして晴菜の後ろに隠れる。
その態度に通が溜息を吐く。
「あたし達って、一般生徒の恐怖の対象なんだねー」
静も困った顔になる。
浩太が晴菜達の所に行って言う。
「あいつ等の付き合う事で何とか入れそうだ」
「良かった。寄付されたばっかりの貴重な歴史資料である御魂玉の無事が確認出来ますね」
晴菜の言葉に浩太が慌てて黙れとアクションを取るが、警備員を説得し終わったモゴが戻って来て言う。
「気にしなくても良いですよ。あちき達と一緒の限り危険は無いですから。その御霊玉の事を詳しく聞きたい一緒に来てください」
そして、モゴ達と一緒に浩太達は歴史資料室に入る。
「古臭い部屋」
歴史資料室に入った時の通の第一声だった。
「通もう少し言い方があるでしょうが」
雅が突っ込むが、そんな会話を無視して、浩太は一直線に奥のショーケースに向う。
そこに収められていた勾玉を見て安堵の息を吐く。
「それが問題の御魂玉って訳ですか?」
モゴの質問に浩太が頷く。
「ああ、間違いない。何度も見に来てるからな。出来る事なら手にとって確認したいんだが可能か?」
モゴは少し考えた後、警備員から借りた、鍵を使って、ショーケースを開けて、御魂玉を取り出す。
それを自分で凝視してから静に見せる。
「魔力的な物を感じる?」
静は首を横に振ると浩太に渡す。
「確かに御魂玉だ。この感触、予想通りだ。八尺瓊勾玉と同じ、瑪瑙で出来て居る」
その言葉に、雅が通に聞く。
「八尺瓊勾玉って何?」
「あたしが知るわけ無いでしょうが」
そんな会話にモゴが言う。
「有名な草薙の剣と同じ三種の神器の一つだよ。もしかしてそれが実は八尺瓊勾玉のオリジナルとか言う話なんですか?」
浩太は首を横に振る。
「違う。しかし、一説には八尺瓊勾玉は、元々一対でその対になるのがこの御魂玉って話だ。このまま持ち帰って調査して良いか?」
モゴが手を横に振って言う。
「それは無理です。あちき達はここの中で調査する位の権力はあるけど、流石に勝手に貸し出したり出来ないです」
「理事長にも繋がりがあるから何とかならないのか?」
浩太がしつこく食い下がるが、モゴは相手にせず、楽そうな晴菜の方を向く。
「これは貴重な物だって事だよね?」
晴菜が頷く。
「なんでも理事長の親戚が学園に寄付したって聞いてるよ」
「光さんに確認しときますか。ところでそれを欲しがってる人間に心当たりあり?」
その言葉に晴菜があっさり頷く。
「有るの?」
モゴが意外そうな顔をするが、晴菜が答える。
「あちき達、歴史探求部がその第一候補だよ。御魂玉を調べれば、うちの部で調べている学説に証明になるの」
強く頷く、浩太。
「そう葉月教授の天皇、古代神官説を証明する証拠になるんだ!」
熱血してる浩太を見て、通が言う。
「つまり魔約者の第一候補って訳だね」
その言葉に、麻美が激しく反応する。
あからさまな反応に、スクラムを組むモゴ達。
「今の反応なんだろう?」
モゴが疑問をあげると通が言う。
「いくら何でもこれであれが、魔約者って事は無いだろう?」
「でも、微かに異質な気配を感じます」
静の言葉に、麻美を凝視し、モゴが言う。
「通常の気配と違う気配を感じるのは間違いないよ」
静と通も頷く。
通は、麻美の所に行って言う。
「研究室まで来て貰うよ」
顔を真っ青にして、麻美が首を横に振る。
「ちょっと調べるだけだから」
モゴが、横に回りながら言う。
「嫌!」
麻美が逃げ出す。
「逃がすか!」
追いかける、通とモゴ。
そんな三人の後姿を見送る一同。
その時、無数の烏が現れると、御魂玉を奪おうとする。
静は咄嗟にアニライズクリスタルの嵌ったペンダントを掲げて唱える。
『百母栗理との約定を持ちて、この装備を寄り座しに、輝石獣よ獣晶し、我が力になれ、烈風準』
『輝石獣武装『烈風準』がコールされました』
九菜作成の人工知能『HUTABA』の言葉に九菜が頷き言う。
「座標確認!」
九菜の言葉に答えて、輝石獣武装システム室の中央にある八刃学園のモデルの歴史資料室が点滅して拡大映像が半球のカバーに展開される。
『座標確認終了しました』
『HUTABA』の声に九菜が頷く。
「セーフティー解除!」
『セーフティー解除。輝石獣武装『烈風準』開放します』
『HUTABA』の声と同時に、円柱の水槽に収まっていた隼の輝石獣が、水槽を透過して八刃学園のモデルに突っ込んで行った。
静の直ぐ上の空間に穴が開き、そこから大きな翼を持ち、機械部品を纏った隼、烈風準が飛んで来て、静の背中に密着する。
烈風準の体に装着されていた装備が、静の体に展開される。
当然、制服が弾けるが、今回は下に装備したスクミスの上に装備が展開される。
頭には目を特殊ガラスでカバーするヘルメット。
両肩、両胸、肘先、腰、膝下に強化パーツが装着される。
最後に、烈風準が片翼を広げる。
「エアーウォール展開!」
強烈な突風は翼が展開された方向に壁を作るように流れる。
『我が守護の意思に答え、炎よ我等を守れ、守炎翼』
防御の炎が、風の壁と相乗効果を生み、御魂玉に突撃して来たカラス達を残らず焼き殺す。
目の前の事態に言葉を無くす歴史探求部の一同。
慌てて戻ってきたモゴが言う。
「静、こっち見てたよね?」
何を聞きたいのか理解してる静が答える。
「彼女から、魔獣を呼び出された時に変化が感じられませんでした」
その言葉に通が逃げて行った麻美をその視界で捉えながら言う。
「それじゃあ、何で逃げているんだ?」
静もモゴも首を傾げるだけであった。
「とにかく、面倒な事になって来たって事でしょ?」
雅の言葉に溜息を吐く、3Sのメンバーであった。
何とか逃げた麻美は地面に座り込みながら言う。
「私の正体があの人たちにばれたら大変な事になります」
震える麻美。
「お父さんみたいに殺されてしまいます」
怯える麻美を屋上から微笑を浮かべて見るメイダラスが居た。
「血の宿命からは誰も逃れられないのよ」




