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常識に迫害されていた少女

体から炎を出す能力の為に迫害されていた少女、その名は静

 モゴが下宿するぬいぐるみショップ「シロキバ」の朝は早い。

 モゴと小較が隣接した道場でトレーニングをする。

 それを主のヤヤが監督する。

「小較、体の動きが意識から外れてるよ」

「はいヤヤお姉ちゃん」

 小較はその言葉を受けて、動きが微妙に変わる。

 モゴは、まだ基本的な事しか、やっていないがそれでも、細かくヤヤの指導が入る。

 そして、朝食の用意をする為に、ヤヤがその場を離れる。

 モゴと小較は軽くシャワーを浴びている間に、朝ごはんのおかずの大半が出来上がる。

「そろそろ、ヨシ起こして来て」

 ヤヤが食器等を並べているモゴに言う。

「了解でーす」

 そしてモゴは二階の客室(ほぼ良美の部屋)に行って、ドアを開ける。

 床に缶ビールが散乱している。

 毎日ヤヤが掃除をしているので、昨日の夜だけでこれだけ汚した事になる。

「本気でどうやってるんだろ」

 そう呟きながら、モゴが部屋に入っていく。

「良美さん起きて!」

 モゴの声に全く反応しない良美。

「起きて! 起きて! 起きて!」

 揺さぶるが全く起きない良美。

 モゴがどうするか悩んでいると、小較があがってくる。

「良美起こすんなら、この位は必要だよ」

 掌を良美に当てる小較。

『インドラ』

 電撃が良美を突き抜ける。

 少しぴくぴくした後、良美が立ち上がる。

「毎朝毎朝、電撃かましてるんじゃなーい!」

「嫌だったら、電撃食らう前に起きろ!」

 二人の毎朝の様な喧嘩が始まる。



較美ヤヤミ、いっぱい食べるんだよ」

 良美と小較が降りてきたときには、ヤヤが三歳の子供、較美に食事を食べさせていた。

「はーい、おかあしゃん」

 その言葉にヤヤが訂正する。

「較美。何度も言うけどね貴方のお母さんはあっち」

 そういって良美を指差す。

 較美は少しの間良美をみてから一言。

「おさけくさいおばさん」

 何も言えなくなるヤヤ。

「娘に見捨てられてやんのー」

 小較の言葉に再び喧嘩モードに入ろうとした時、ヤヤが時計を指差す。

「早く食べないと遅刻するよ」

 その一言に、慌ててご飯を食べ始める良美と小較。

 ヤヤは較美の世話をしながらモゴの方を向いて言う。

「モゴ、借金の件は最悪は私が何とかするからあまり無理しちゃ駄目だよ」

 モゴは一瞬嬉しそうな顔をするが、直ぐに首を大きく振ってから答える。

「そこまで甘えられないよ。ここに殆どただで下宿させてもらってるし、学費や旅費の積立金まで払ってもらってるんだもん」

「そーよ、若いうちは苦労したほうが良いのよ」

 もっともらしい事を言う良美に、ヤヤが言う。

「良美は偶には家に帰ったら。良太だって寂しがってるよ」

 ヤヤの言葉に首を傾げる良美。

「あいつの寂しがってる姿なんて想像できないなー」

「確かに」

 小較まで同意する。

 言ったヤヤ自身も少し考えてから言う。

「なんか独身生活みたいだと、楽しんでそうだね」

 モゴがそんな三人の会話を聞いて冷や汗を垂らす。

「その人、奥さんが二週間も居なくても平気な人なんですか?」

 その言葉に対して小較が首を横に振って言う。

「三ヶ月以上帰ってなくても大丈夫な人。因みに前会ったのは、較美ちゃんに合いに来た時位だよね」

「子供出来たのが奇跡だって言われてるもんねー」

 ヤヤの言葉に良美も小較、そして較美まで頷いていた。



「本当に大丈夫なのかね?」

 大企業の社長風な男性、森野モリノ勇気ユウキが心配そうなに言う。

「やっぱり、学校等に行かず家で家庭教師を呼んだほうが良いのではないか?」

 その言葉に、勇気の前に止まる車に乗っている腰まで髪を伸ばした、まさにお嬢様風の少女が頷こうとした時、勇気の隣に立っていた着物を着た奥様を象徴した女性、森野命ミコトが厳しい眼差しで言う。

「甘やかせてはいけません。学校一つ行けないようでは、この世の中を渡っていけません」

 その一言に、勇気も、車に乗っている少女も素直に頷く。

 そして車が発車した。



「それでは、これが今日から来る転校生の資料です」

 良美は山田ヤマダ和夫カズオ中等部の教頭から資料を渡される。

「またですか?」

「ええ又です。正直助かっています。貴女のクラスは比較的、転校する人が少なくて」

 山田教頭が、横で転校生などの手続き等をやっている事務の山本ヤマモト洋子ヨウコを見ると、

「はい。炎を出す犬がいる学校に娘さんを通わせられないと言われましても、それで学費を返還する訳には行かないもので」

 転校希望の生徒の保護者と電話をしていた。

「近頃のガキは根性ありませんね。たかが犬が火を出したくらいで転校したいなんて」

 良美の言葉に山田教頭が言う。

「前から思っていたんですが、大山先生は、平気なのですか? 正直私はこの少子時代に職があるだけ良いとやっていますが、胃薬が欠かせませんよ」

 良美は平然と答える。

「問題ありません。まー生徒に死人が出ない内は大丈夫でしょう。化け物退治してくれる人間でしたら幾らでもいますが、連続殺人事件を解決する名探偵の孫や子供になった高校生探偵いませんから」

 その考え方に胃の痛みが強くなるのを感じながら山田教頭が言う。

「とにかくよろしくお願いします」

 そしてその時、職員室の扉が開き、黒い長髪のお嬢様風の少女が入ってくる。

「すいません、本日転校してきた森野ですが、ここで良いんですか?」

 良美は頷く。

「早速来たみたいですね」



森野静シズカと言います」

 教室で挨拶をする黒髪のお嬢様、森野静であった。

 クラスメイト達が注目する中、良美が言う。

「森野グループのお嬢様だから彼氏取り合いするときに気をつけるように」

 その言葉にモゴが言う。

「良美さん、それって関係あるんですか?」

 その言葉に良美が深く頷く。

「ある。あたしは、良太と結婚する時、お金持ちのお嬢様にグリーンベレー送り込まれたものよ」

 その言葉に教室は鳴動した。

「信じられません!」

 鈴木次郎がクラスを代表して言う。

「信じられなくても良いが、本当だぞ」

「絶対に信じられません。大山先生が既婚者だなんて!」

 モゴと静を除く全員が頷いた。

「良美さんって子供も居るんだよ」

 モゴの言葉に雅が資料を探る。

「女同士でも子供出来るのねー。前から怪しいと噂があったのよ、ぬいぐるみショップオーナーさんと良い関係じゃないかと」

「信じられないねー。守ってあげたい近所の人№1で、八刃学園、綺麗なお姉さん好きですかコンテストで連続一位のヤヤさんが!」

 モゴは頬をかきながら言う。

「ヤヤさんを何から守るって言うんだろう?」

 その脳裏には、小較がお風呂中だからと、たった十分で百匹近い魔獣を消滅させた時の、人の限界を平気で無視しているヤヤの姿が浮かんだ。

「ヤヤは昔っから男子には、護ってあげたいと思われるタイプなのよねー」

 良美がしみじみ言う。

 インパクトが強すぎる話題に、固まる教室を見回し静が言う。

「何なんでしょうかこのクラスは……」

 その時、いきなり窓からカラスが飛び込んで、静に襲い掛かった。

「キャー」

 静が咄嗟に腕で顔を覆った時、その腕から炎が生まれてカラスを追い払った。

 教室に先程と違ったざわめきが起こる。

「なにあの子、炎出してるわよ」

「冗談じゃないぞ」

 陰口が聞こえてきて、静が俯いた時、教卓が砕かれる。

「そこ陰口言わない! 何か意見があるときは正面から言いなさい!」

 良美が注意する。

「あのー流石に炎を出す人間は変だと思います」

 鈴木次郎が手を上げて言う。

 すると良美は黒板を叩き割って言う。

「先生は情けないわ、たかが炎出すだけで変だと言うなんて!」

「炎出すなんて普通じゃないかと……」

 鈴木次郎のか細い反論に良美ははっきりと答える。

「あたしの親友は、素手でビルを倒壊させるわよ」

 その言葉に生徒がひく。

 雅が手を上げる。

「それって本当に人間ですか?」

「遺伝子的には多少違うそうだけど、心が人間だから人間よ」

 生徒達は脳裏にキングコングを思い浮かべた。



 昼休み、理事長室に良美とモゴが呼び出されていた。

「森野さんは、人体発火現象を起こす人でね、今までも何度も転校しているの」

 光が突然説明し始める。

「でもね、同時に大企業のご令嬢でもあるの。上手くこの学園の生徒として、学園生活を楽しんでもらえれば多額の寄付金があたしの懐に」

 邪悪な笑みを浮かべる光に、良美が言う。

「ヤヤに今の言葉伝えて良い?」

 その言葉に光が慌てて言う。

「冗談に決まってるじゃないですか。だからねーこの学園の理事の一人で、八刃でも強い発言力をもってるヤヤさんには言わないで。折角手に入れた理事長の座を失いたくないです」

「じゃあ、教卓と黒板の修理費はそっちもちで良いわよね?」

 良美の言葉に、鏡がすばやく電卓を叩き、光に見せると、光は少し躊躇したのち言う。

「解ったわ」

 モゴが手を上げる。

「光さんあちきは何で呼んだの?」

 それに対して鏡がレポートを差し出す。

「森野さんを襲ったカラスだけど、どうも通常の生物じゃないみたいなの。モゴはその調査と退治をしてね」

 光があっさり言うとモゴが質問をあげる。

「小較さんはどうしたんですか?」

 その言葉に光が言う。

「小較を働かすのと貴女働かすのだとどっちがお得だと思う?」

 大きな溜息を吐くモゴであった。



「それで、カラスの被害ね?」

 放課後の教室で雅が聞き返すとモゴが頷く。

「そうなの、なんか情報入ってない?」

 雅は自分のノートパソコンを弄りながら答える。

「学園内ネットに幾つかあがってるわね。ほら」

 モゴはノートに映った情報を見る。

「時間が別だから、同一犯の可能性が高いよ」

「モゴも大変だね」

 その時、静が声をかけてくる。

「あのー聞いて良いですか?」

「何を?」

 モゴが問い返すと、静が少し躊躇した後言った。

「人と違う力持っていて苦しくないですか?」

 その言葉に雅は頷く。

「確かに、モゴってあんなぬいぐるみを召喚獣にする力持ってて、今まで何とも言われなかったの?」

 モゴは頷く。

「基本的に秘密にしているから。それに多少の事は催眠術等で消したり出来る人も居たから。第一あちきの場合、周りの人間が自分以上の化け物揃いだから」

 そう言って遠い目をする。

 その時、再びカラスが襲ってきた。

「危ない」

 モゴは二人を押し倒し、自分はそのまま前転をして態勢を治すと、ポケットから水色の鳥のぬいぐるみを出す。

『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、冷風隼』

 ぬいぐるみが水色の隼に変わり、カラスと空中戦を繰り広げる。

「行け冷風隼!」

 モゴの指示に従い、突っ込む冷風隼だったが、その冷気の攻撃はカラスには通用しなかった。

 逆にカラスの嘴が冷風隼の翼に触れた時、翼が凍りつき、冷風隼は墜落し床に落ちると同時に消滅した。

「うそ! 冷気系の能力を持った魔獣って、あちき今日は、火炎系の輝石獣キセキジュウ持って来てないよ!」

「どうしてよ攻撃って言ったら、炎が基本でしょ?」

 雅の言葉に、モゴがカラスの攻撃を避けながら言う。

「だって前に、火炎系の輝石獣使って、小火出して修理代請求された事あるんだもん」

 避け続けるモゴからカラスの標的が変わる。

「嫌!」

 頭を抱える静に向かってカラスが襲い掛かる。

「やばい!」

 駆け出しながら、猫のぬいぐるみを構えるモゴ。

 しかし、モゴとカラスの距離は縮まらない。

 カラスが静に襲おうとしたその時、再び静の体から炎が湧き出し、それは、導かれるようにカラスに絡みつき、動きを封じる。

「チャンスこれで決めるよ!」

『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、暫刃猫』

 暫刃猫が獣晶すると同時にモゴが叫ぶ。

「刀になれ!」

 暫刃猫が変化した刀で、モゴはカラスを一刀両断した。



「それって萌野の炎じゃないの?」

 白風家の食堂で、較美にご飯を食べさせながら小較が言うとモゴが頷く。

「ヤヤさんに確認してもらってる」

 そしてヤヤが戻って来て言う。

「正解よ、異界に出稼ぎに行ってるモゴの両親に確認してもらったけど、森野さんのお父さん森野勇気は、萌野の長、萌野勇一の孫だよ」

 自分の娘の世話もせずビールを飲んでいた良美が言う。

「それじゃあ、あの子も八刃の一人って訳か?」

 ヤヤは難しい顔をして言う。

「問題はそこ。萌野の長にこの事が解ったら面倒な事になるよ」

今回のモゴの収支



 ○収入

  氷烏ヒョウオ退治+調査料   50,500

--------------------------------------------------

合計 = 50,500



 ○支出

冷風隼(触媒・ぬいぐるみ製造費)    1,800

暫刃猫(触媒・ぬいぐるみ製造費) +  3,000

--------------------------------------------------

合計 =  4,800



◎利益

収入    50,500

支出 -  4,800

--------------------------------------------------

純利  = 45,700



●借金残高

繰越金額   199,879,000

返済金額   - 45,700

--------------------------------------------------

借金残高   199,833,300

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