意見の対立の口喧嘩、微妙に前回と言ってる事が違っても無視してね
新たな魔約者の登場。3Sは、魔約者を割り出す事が出来るのであろうか?
「昨夜、双尾猫の再出現を確認したわ。今回も魔約が行われたと考えて間違いないわ」
朝食の席でのヤヤの言葉に、この事態を想定して泊って居た、通と静が唾を飲み込む。
「遂に新装備の真価が試されるんですね!」
独りやる気満々なのは、借金を完済の望みが出てきたモゴだった。
「あんな装備を使えって言うの?」
通の言葉にヤヤが言う。
「強制はしません。全ての帳尻は私がつけます」
その言葉に脅しの色は一切無く、実行できる事は3Sのメンバーは全員知っている。
「ヤヤの悪い癖だよ、最終的に全て自分でやろうとするのは、こいつ等だって戦ってるんだ、責任もたせな」
良美の言葉に、小較も頷く。
「そうよ、何時までもヤヤお姉ちゃんに頼りきったりしないよ!」
苦笑するヤヤ。
「はいはい。それじゃあ、ヨシ具体的に何をやらせるつもり?」
その言葉に良美は即答する。
「そう言う難しい事はヤヤが考える事」
「さっきといってる事が違う!」
小較が怒鳴る。
「良いんだよ、元々あたしは、難しい事考えられるように出来てないんだから。考えるのはヤヤの仕事、あたしは前に進むだけだ」
そう言いきる良美に小較が呆れた顔をする。
「じゃあ考える役目の私からの意見ね」
ヤヤはそう言ってから、3Sのメンバーを見渡してから続ける。
「魔約は物語にある悪魔との契約に近いものだと思われるわ。相手の願いを叶える代わりに自分の魂を消耗させて魔獣を発生させる。これは前回の魔約者、淡野姫子の診断結果と精神スキャンでほぼ間違いないと言っても良い。詰り貴女達のやる事は一つ解るわね?」
静が答える。
「魔約者を見つける事ですか?」
頷くヤヤ。
「そして胸に収められた、契約の証を破棄する事。これは、私を呼んでもらってもいいけど、輝石獣武装に専用装備の開発、搭載の準備が進められているわ」
その言葉に目を輝かせるモゴ。
「新装備の有効性がまたあがると言う事ですか?」
嬉しそうなモゴと反対に、通と静は嫌そうな顔をしている。
「あのデザインはどうにかならないんですか?」
通の言葉に、良美が不思議そうな顔をする。
「何で? テレビのヒーローみたいでかっこいいじゃん」
「だから嫌なんです!」
絶叫する通に頷く静。
「格好なんて気にして戦いなんて出来ないよ!」
モゴが断言すると通が反論する。
「あんなみっともない格好してまで戦いたくない!」
二人が睨み合う。
手を叩き仲裁するヤヤ。
「モゴ、通達は、戦いが全てっていう八刃の考えもって育ってないから、嫌がるのもしょうがないわよ。デザインの方は私から九菜さんに聞いてみるから、取り敢えずは、万が一の時を想定して、アニライズクリスタルのペンダントだけは持っていてね」
通はしぶしぶ頷く。
「はい」
「それで、喧嘩中な訳?」
教室で通に話しかける雅にお互い無視するモゴと通。
「しかし、八刃って本気で戦闘民族サイヤ人だね」
雅の言葉に静が頷く。
「はい。曽祖父の所では、本当に小さい子も戦闘訓練をしています」
「小さいって何歳?」
雅が聞くと静が指を6本立てる。
唖然とした顔になる雅。
「嘘でしょ?」
「それって分家だけよ」
静の所に来て居た、吠が言う。
「本家の人間は違うの?」
雅が質問で返すと吠が頷く。
「本家っていうか直系は生まれた直後に、素質を試されて、幼稚園に入る前に最低限の体術を教えられる。小学校入学前に、八刃としての俗に第六感を明確に認識出来る様になるのが決まり。出来ない人間は分家に里子に出されるわ」
それには通が立ち上がる。
「何それ!」
「実際里子に出された一番新しい記録が、姉御のお祖父さんですけどね。八刃にとって戦いが全て、一度ダンサーになろうと国外逃亡しようとした分家の人間が居て、処罰されたって話がある」
何も言えない状態になる通。
「しかし本気で非常識なのね八刃って」
雅の言葉に、モゴが言う。
「じゃあ、常識的な人間に魔獣の相手出来るの?」
「それは出来ないけど」
雅の言葉にモゴが言う。
「あちき達は、化物と戦う為に非常識とも言われようが、強くなきゃいけないの!」
吠も強く頷く。
「何様のつもり!」
通が机を叩く。
再び睨み合う二人。
「喧嘩は止めないぞ。ただしお前達が本気で喧嘩したら教室がもたないから外でやれ」
ホームルームをしに来た良美がそう言うと、二人はそっぽを向いて、席に着いた。
「とにかく、あたし達は魔約をした奴、魔約者を見つければいいんだろ」
放課後、昨日の事件のあった図書館に向う、通と雅。
「それで心あたり有るの?」
「現場百回って言葉知らないのか?」
通の言葉に溜息を吐く、雅。
「襲われたのは、森本烈雄、高等部三年の拳闘部のキャプテンよ」
その言葉に通が足を止めて振り返り言う。
「拳闘部って何?」
こける雅。
「ボクシング部の事だよ」
何とか立ち上がり雅が言う。
「筋肉系の人間がどうして図書館に居たの?」
それに対して雅が資料をチェックしながら言う。
「これは未確認情報なんだけど、森本先輩は、文芸部の部長の長谷川礼先輩に惚れていて、色々アタックかけてたって話だよ」
ガッツポーズをとる通。
「それって楽勝じゃん。前回みたいに恋敵を魔獣で襲わせているんでしょ? だったらその長谷川先輩に好意寄せてそうな人間を虱潰しにしていけば魔約者が見つかるぞ!」
その言葉に、雅は携帯端末のリストを通に見せる。
「これ何?」
通の質問に雅が答える。
「長谷川先輩って後輩に慕われてて、文芸部の男子、彼女居る人間以外の全員が好意を寄せてる。その他にも大量に居て、このリストにあがってるのはその一部だけだよ」
少し考えた後、再び図書館の方を向き通が言う。
「取り敢えず、文芸部の部員が居る図書館に向おう」
「それでどうするの?」
雅の突っ込みに通は一言。
「その時に考える」
「魔約者探しをしなくて良いのですか?」
クラスに設置された学内ネットに繋がる端末の前に座るモゴに静が尋ねる。
「どっかの単純人間みたいに、無闇に行動しても意味無いよ。場所から考えて、文芸部の人間が関わってる筈。だとすると一番の重要人物は、襲われていた森本先輩がアタックかけていた長谷川先輩だね」
そして細かい資料をチェックしながらモゴが言う。
「長谷川先輩って凄い人で、高等部に入学直後に文芸部を設立して、今では文系部活で一番の部員数を誇る部活にした人。当然、あこがれる後輩が多く、厚顔無恥の森本先輩は文芸部員全員から嫌われて居たらしいね」
そう言いながら、色々なデータをチェックしてリストを印刷するモゴ。
「長谷川先輩と一緒に図書館を利用している時間が多い男子生徒の一覧が出来たよ。これを上から潰していけばきっと魔約者を導き出せる!」
自信満々のモゴの言葉に静は不思議と不安を覚えた。
「本当にそうなのでしょうか?」
「3Sだ! この中に魔約をやった奴が居るから調査する」
図書館で活動をしていた文芸部員の所に通が割り込み宣言する。
「麻薬だって!」
文芸部員の一人が大声で反復すると通が頷く。
「そう魔約!」
ざわめく文芸部員達。
そして眼鏡が似合う静かな雰囲気を纏った文学女子高生、長谷川礼が立ち上がり言う。
「なんの根拠があって、文芸部員の中に麻薬をやっている人間が居るというのですか?」
「証拠は昨日の事件だよ、あれは魔約をやった人間の仕業だよ」
その言葉に、文芸部員達が困惑する。
「麻薬やってるからってあんな事出来るわけ無いだろう!」
最初に大声を出した男子が詰め寄って通の腕を掴む。
「若本くん。止めなさい」
礼の言葉に、その男子、高等部の二年生、若本輝久が手を離す。
代わりに礼が通の前に行き言う。
「何かの誤解ではないですか? 大多数の人間が目撃しています。麻薬服用による幻覚ではありません」
その一言に、雅が手を叩き言う。
「それは聞き違いよ、あたし達が言ってるのは、こないだこの学園で新しく発見された校則違反です。悪魔の魔に、約束の約の方の魔約ですよ。薬の麻薬じゃないですよ」
その言葉に、文芸部員達はさらに困惑する。
「簡単に言えば、悪魔と契約して、あの男を襲う力を手に入れた人間がこの中に居る筈だよ!」
通の言葉に、輝久が馬鹿にした顔で言う。
「悪魔と契約ってそんな馬鹿馬鹿しいことがあって溜まるか!」
しかし、同調するものは少ない。
「あの新しい校則は、そう言う意味だったのですか」
礼がそう言って、自分を納得させる。
「あたし達は、長谷川先輩に迫るあの拳闘部の部長を恋敵で消そうとしたのが今回の動機だと考えてる」
通が文芸部員達を見回す。
「それは、あの馬鹿野郎は皆、嫌っていたが襲うほどじゃ無い筈だ!」
輝久の言葉に頷いて居るのは、またもや少数であった。
「皆の部長を独占しようとしたあんな奴、襲われて当然だ」
「そうだ、そうだ。襲われて自業自得だぜ」
なんて言葉が小声で囁かれた。
「止めなさい」
礼は文芸部員達を静めてから通の方を向いて言う。
「疑われているのは解りました。しかし、うちの部員に限ってそんな事をする人間が居るとは思えません」
はっきりと断言する礼に、怯む通。
「うちの子に限って、いうのが一番危ないの。放置して、これ以上被害が出たときは、文芸部が廃部になる可能性もありますよ」
静と一緒にやって来たモゴを通が睨む。
「しかし、証拠は無いはずです。そんな状態で疑われるのは心外です」
礼が正論で攻めてくるが、モゴはひかない。
「あちき達には、非常時に限りかなりの捜査権を認められてる。当然それは、入学時の誓約書にも含まれてますよ」
礼はそれでも何か言おうとしたが、モゴはリストを見せて言う。
「長谷川先輩と長い時間一緒に居る人から、検査します。まずは若本先輩からです」
「俺がやったって言うのか!」
輝久の言葉に、モゴが答える。
「その可能性が高いって事です。検査をしに行きますよ。残りの中でもこのリストに載ってる人は、下校は認めません」
そう言って、モゴは輝久をつれて地下の特殊施設に向って歩き出す。
「静達は、残りのメンバーの監視をしていて」
そう言って、去っていくモゴに舌を出す通。
動揺している文芸部員の人たちに静が頭を下げて言う。
「学園の外で万が一の事があったら大惨事になりますので、すいませんがここで待機していて下さい」
礼は、リストを確認して言う。
「こんな様子では本日の部活は出来ないので、リストに載ってない人たちは解散して下さい」
その言葉に、リストに載っていない文芸部員(殆ど女子)が荷物を整理して図書館を出て行く。
しかし、その中、独りの少女が残って居た。
「部長は帰らないんですか?」
その言葉に礼は頷く。
「部長ですからね。文野さんは帰って下さい」
その言葉にその高等部二年の女子、文野李由は、首を横に振る。
「部長が残るのでしたらあたしも残ります!」
その言葉に、リストに載っていた男子が頷く。
そんな会話を通と静はリストに載っている男子の監視をしながら聞いていた。
「なんかやたら後輩に人気がある先輩だね」
頷く静。
「そうね、凄い読書家で、後輩の面倒も見るいい部長らいいわよ」
雅が解説する。
その時、文芸部以外の男子が礼に声を掛けて、その手に触れた。
次の瞬間、双尾猫が現れる。
通は、右手のリングに手を当てて唱える。
『九尾弓』
九尾弓を構えながら通が言う。
「今はあそこに居る、双尾猫を倒さないと!」
そう言っている間に、双尾猫の数は増えていく。
必死に倒す通と静だったが、倒す数より、増える数の方が上回っていた。
「これじゃあきりがない!」
通がそう言った時、静は覚悟を決めた顔をしてアニライズクリスタルの嵌ったペンダントを掲げて唱える。
『百母栗理との約定を持ちて、この装備を寄り座しに、輝石獣よ獣晶し、我が力になれ、烈風準』
『輝石獣武装『烈風準』がコールされました』
九菜作成の人工知能『HUTABA』の言葉に九菜が頷き言う。
「座標確認!」
九菜の言葉に答えて、輝石獣武装システム室の中央にある八刃学園のモデルの高等部図書館が点滅して拡大映像が半球のカバーに展開される。
『座標確認終了しました』
『HUTABA』の声に九菜が頷く。
「セーフティー解除!」
『セーフティー解除。輝石獣武装『烈風準』開放します』
『HUTABA』の声と同時に、円柱の水槽に収まっていた隼の輝石獣が、水槽を透過して八刃学園のモデルに突っ込んで行った。
静の直ぐ上の空間に穴が開き、そこから大きな翼を持ち、機械部品を纏った隼、烈風準が飛んで来て、静の背中に密着する。
烈風準の体に装着されていた装備が、静の体に展開される。
頭には目を特殊ガラスでカバーするヘルメット。
両肩、両胸、肘先、腰、膝下に強化パーツが装着される。
最後に、烈風準が翼を広げる。
そして静は両手を前に突き出す。
「エアーブースター展開!」
両手の装備がオープンする。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ敵を撃て、撃炎翼』
炎が静の前に放たれると同時に、腕のエアーブースターから放出された風が、炎をパワーアップさせて、一気に数十匹の双尾猫を焼き滅ぼす。
怯む双尾猫の隙をついて、精神を集中する静。
「ストームウイング展開!」
背中の羽根が伸びて、静を包めるほどになる。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ全てを爆炎に包め、爆炎翼』
静の前で発動した爆炎は、『ストームウイング』から放たれたストームに巻き込まれ、指向性を維持して増幅、広域化して一瞬で殆どの双尾猫を燃やし尽くしてしまう。
「凄い、あの制御力低い静の炎が、周りに殆ど被害出していない」
雅の言葉に、通が頷く。
「本来なら、増幅だけの役目だけだった装備に指向性を持たせる事で、被害の拡大を防いだ九菜さんには感謝だね」
その言葉に、素直に嬉しそうな顔をする静。
「本当です。今度、普段着に着けられる制御装置の開発をお願いしてみます」
そんな雑談を他所に、礼は人的被害こそ皆無だったが、本の幾つかに破損がある状況を見て愕然としていた。
「そんな私の所為で大切な本が……」
「部長があんなに落ち込んでいる」
魔約者の言葉に、メイダラスがたしなめるように言う。
「そうよ、大切な図書館で暴れちゃ駄目よ、次はもっと暴れられる外に相手が来るまで堪えなくっちゃね」
大きく頷き去っていく魔約者を見送ってからメイダラスは壷を取り出して言う。
「そうやってどんどん魔獣を呼び出してね。その力が、魔約壷に力を溜まっていく。そしてこの力を使えば異界をさまよう、魔神竜とデスバハムートを召喚出来る。最強の力を手に入れて、私はオーフェンを自分の物にする」
含み笑いをするメイダラスであった。
「今回は九菜様の新装備のお蔭で被害はかなり抑えられました」
理事長室で鏡の報告を聞いた光だったが、少し考えた後、一言。
「炎を使ったんだもの、本に影響があったかどうか調べるのも大変よね?」
その一言に鏡も頷く。
「きっと生徒や司書からもクレームが来るでしょう」
「だったら全て買い換えましょう。どうせ費用は八刃から出るんだから」
その言葉に鏡が言う。
「解りましたその旨を、取引がある全部の書籍取り扱い業者に通達します」
そう言って理事長室をでる鏡を見送ってから光が言う。
「流石は鏡、全てを言わなくても解っているわね。大量発注だもの、100万以上のリベートが期待できるわね」
嬉しそうに微笑む光であった。




