怒涛の急展開、一人反則キャラが居ます
遂に始まるオーフェンの本格的な攻撃。モゴ達は打ち破る事が出来るのか?
都心にある一流企業の会議室の一室。
そこに不釣合いな10歳くらいの少女、オーフェン六頭首の一人、魔磨が不機嫌そうに顔で居た。
「つまり、八刃学園の作戦を全てメイダラスに任せろって言うの?」
そう言って、席に悠然と座る大人な女性を睨む。
「魔磨、貴女は失敗し過ぎてるのよ」
悠然と微笑む女性、六頭首の一人、メイダラスが言う。
「それは貴女も一緒の筈よ! 必殺相手に何度も作戦を失敗させられた筈よ」
それに対して肩を竦めてメイダラスが言う。
「それでも六頭首を失ったり、長い年月かけたバハムートを失ったりはしていないわ」
その言葉に、魔磨が黙る。
「確かに、我等六頭首もここ10年で激しく入れ替わった。これ以上のファーストを失うわけには行かないな」
そう言うのは、ロマンスグレーの男性に見える、六頭首の一人、グラードだった。
「我等六頭首が全員集まるこの会議の席で言う以上、勝算があるのですね?」
美青年、ファザードの言葉にメイダラスが頷く。
「雲集四門の召喚に成功したのよ」
その一言にざわめきが起こる。
そして、静かに座っていた老人、ジジードが低い笑い声をあげる。
「まさかあの四門を見つけ出すとはな。それで使えるのか?」
メイダラスは強く頷く。
「いまだ魔神竜との繋がりは消えていません。そして、彼自身の知識が新たな力を生み出してくれます」
そして六頭首達の視線が奥に座る一人の少年に集まる。
「それでは、八刃学園の件はメイダラスに一任しよう。期待しているよ」
その少年、六頭首最年長者、孫の言葉にメイダラスが言う。
「必ずご期待に答えて見せます」
そして六頭首達が詠唱する。
『八刃に滅びを
我等の父との再会を
それ叶うまで、
我等はオーフェン(孤児)なり』
「それで今日のお仕事なんだけど、新しい魔獣の気配の発生を感知したから探索して退治して欲しいんだけど」
その光の言葉に、静と通がモゴを見る。
「どうせもう夜なんだから足で探せば良いんだよ」
モゴの言葉に、静が通に囁く。
「かなり前回のダメージが大きいみたいですね?」
通は頷く。
「まーな、かなり喜んでいた所に借金の増額だもんな」
流石の通も、この状態のモゴに輝石獣を使わせる気にならなかったので、皆で足を使って探す事になった。
「モゴ、追い詰めて!」
通の言葉にモゴが頷き、青い狼のぬいぐるみを床に置く。
『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、風斬狼』
青い狼、風斬狼が獣晶して、夜の校舎を疾走する赤き豹を追う。
『我が守護の意思に答え、炎よ我等を守れ、守炎翼』
静がその赤き豹の前方に炎の壁を作る。
「貰った!」
そこに通が、緩青色鳥矢を射る。
とっさに赤き豹は、直撃コースから逃れる。
『羽撃』
緩青色鳥矢が生み出す、氷の板が赤き豹を真っ二つにして消滅させた。
「楽に終わりました」
静が嬉しそうに言う。
「どうせ儲けは3万以下。一万回以上倒さないと」
物凄く暗い言葉を吐くモゴ。
「とにかく仕事終わったんだから帰ろう」
通がそう締めたが、残念だがそれは始まりでしかなかった。
モゴ達が、赤き豹の魔獣を退治した翌日の放課後、モゴ達がぬいぐるみショップシロキバの手伝いをしている時、一組の金髪の母娘が入ってきた。
「ここのオーナーに会いたいのですが」
「あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ」
かなり美人な母親の問いかけに慌てる通。
「いま呼んできます」
モゴが、ヤヤを呼びに行く。
その間に、静は数体のぬいぐるみを9歳の位の娘さんに見せる。
「可愛いいでしょ?」
それに対してその娘がそっぽを向く。
「可愛くない?」
静の問いに少女が言う。
「どんな姿をしていても、化物が作った物は汚いよ」
その言葉に、母親の方が視線で叱る。
そうこうしている間に、ヤヤがやってくる。
「どの様なご用件で……」
ヤヤの言葉が途中で止まる。
「久しぶりですね、ヤヤさん」
その言葉にヤヤは深呼吸をしてから答える。
「久しぶりです、ミラーさん」
その女性、ミラーが苦笑する。
「そんなに敵対心を持たないで下さい。あの時は私もオーフェンに利用されていただけなのですから」
その言葉にヤヤが言う。
「利用されていたのは本当かもしれないけど、ヨシに毒を打ったのは貴女の判断でしょ」
その言葉に肩を竦めてミラーが言う。
「あの頃の私はおかしかったの。本当にあの時の事は幾ら謝罪しても謝罪したりないわ」
その言葉にヤヤは無理やり納得した顔をして言う。
「今日はその為に来たのですか?」
その言葉にミラーは首を横に振る。
「私の娘を紹介に来たの。こないだから八刃学園に通わせているわ。挨拶しなさい」
娘の方が頭を下げる。
「ミリス=ガーランドと言います。よろしくお願いします」
「もしかしてクラスメイトに遠糸歩って居ない?」
通の言葉にミリスは頷く。
「はい。転校したばっかりなので色々教わっています」
その言葉にヤヤが疑惑の視線をミラーに向ける。
「偶然よ」
釈然としない物を感じながらヤヤが言う。
「忠告しておきます。幾ら貴女にガーランド家の後ろ立てあったとしても、変な事をしたらタダですみませんよ」
「信用無いのね?」
苦笑するミラーに当然の様に頷くヤヤであった。
ミラーはシロキバを出た後、ミリスに言う。
「実力はわかった?」
ミリスは大きく頷く。
「残念ですが、今の私では手も足も出ません」
舌打ちするミラー。
「仕方ないわね。それでは当初の予定通り、お父様を利用したオーフェンを乗っ取り、その力を使ってお父様の夢だった八刃、特に白風の人間越えを達成するのよ」
「その為に、八刃学園で例の実験を行うのですね?」
ミリスの質問にミラーが言う。
「そう、馬鹿なオーフェン連中利用して、目的を達成するわよ」
そういって一つの壷を見せる。
「この壷に力が溜まった時、真の意味での復讐が始まるのよ」
満面の笑みを浮かべるミラーであった。
翌日の朝、モゴ達の所に雅が駆け寄ってくる。
「聞いた? 赤い豹が、テニス部の女子を襲ったって話」
雅の一言に、モゴ達が驚く。
「冗談でしょ? あちき達きっちり処理しといたよ」
モゴの言葉に雅が首を横に振る。
「昨日の放課後、テニスで居残り練習していた女子が襲われて入院したって話だよ」
通が立ち上がる。
「理事長に確認してくる!」
駆け出す通。
その後を追うモゴと静。
「本当の事よ」
理事長室で、幾つかの書類を処理しながら光が言う。
「私達が逃した魔獣が居たのですか?」
静の不安げな質問に光は首を横に振る。
「それは無い。あの時確かに全ての魔獣の反応は無くなった。これは結界を張っている私が確認してる事実よ」
「だったらどうして、あの夜と同じ魔獣が生徒を襲うんだよ!」
通の言葉に光が答える。
「新たに生み出されたと考えるのが妥当ね」
「でも、同種の魔獣が二回に分かれて、連続して発生する確率は極端に低い筈ですよね?」
モゴの言葉に光が大きく溜息を吐く。
「問題はそこ。本来なら発生するわけ無い状況が今発生している。これを偶然で片付けられる程あたし達は甘くない。オーフェンハンターや零刃、総動員でオーフェンの動きを調査中よ」
唾を飲み込むモゴ達。
「一応今出ている赤豹は全部倒しておいたわ」
小較が入ってきて言う。
「あたしもそれは確認した。詰りこの後、新たに赤豹が現れた時は、ほぼ間違いなくオーフェンの計画って事だね」
その時、鏡が入って来て報告する。
「新たな被害者が出ました。また中等部のテニス部員です」
その言葉に光が言う。
「小較、赤豹の方をお願い」
「任せておいて」
そう言って、理事長室を出て行く小較。
「あたし達も直ぐに倒しにいきます」
通の言葉に光は首を横に振る。
「貴女達には、中等部テニス部について調べてもらうわ。同じ中学生同士の方が調べやすい事が有るでしょうから。お願いね」
「了解しました」
そしてモゴ達は、クラブ棟に向かう。
「また面倒な事になりましたね」
鏡の言葉に大きな溜息を吐いて光が言う。
「まーね。幾ら誓約書を書かせてあるからって、怪我させて何も無しって訳には行かないもんね。八刃にお見舞金の増額請求でもして稼がないとね」
必要な資料を集め始める鏡に光が言う。
「暫く帰れなくなるから、一度帰って来なさい」
その光の言葉に鏡は首を横に振るが、光が肩を竦めて言う。
「あたしは、良美さんやヤヤさんとも仲が良い芽衣子さんに恨み買いたくないの。あることない事ヤヤさんに吹き込まれた日にはあたしの首が危なくなるもの」
その一言に鏡が一度思案し、苦笑してから頭を下げる。
「了解しました。それでは、妻に会ってきます」
理事長室を出て行く鏡を見送ってから光がいう。
「早くこの一件を片付けて家に帰れるようにしないと、本気でヤヤさんにクレームが入るわね。鏡も何で一般人と結婚したのかしら。八刃の人間だったら使命の一言で済むのに」
その時理事長室の扉が開き、鏡が顔を出す。
「光様、他の件でしたら全て命令に従いますが、妻の事だけは譲るつもりはありません」
鏡の迫力に冷や汗を垂らしながら光がいう。
「解ってるわよ。頑張って家族サービスして来て」
鏡が今度こそ帰っていくのを確認してから光が溜息を吐いた。
「3Sだ! 事情聴取に来たぞ!」
中等部の女子テニス部の部室で通が宣言する。
その後ろでは、途中で合流した雅が言う。
「3Sにそんな権限あったの?」
「さー知りませんでした」
静が首を傾げるなか、モゴが言う。
「一応、非常時は3Sの命令には従うのが規則になっているけど、今が非常時と言うのには無理があると思う」
「後ろ煩い!」
通はそう言ってから女子部員達の方を向く。
「それで、襲われた女子部員に共通点は無かった?」
極々オーソドックスな質問にモゴが苦笑する。
「よくドラマであるけど、そんなの直ぐ出てくる訳ないよね」
しかし、答えは直ぐ返ってきた。
「全員、男子テニス部のキャプテンの恋人でした」
その一言に、通は来る途中で珍しい私服バージョンの鏡から受け取った資料を見る。
「でも、15人以上居るよ?」
女子テニス部部員達が頷く。
「間違いないです。キャプテンと付き合った事があるあたしの両側に居た人達が襲われて、付き合った事無いあたしが狙われませんでしたから」
「それでも15人以上の女子と付き合ってたなんて変じゃないですか?」
静の質問に対しては、雅が答える。
「中等部男子テニス部キャプテンといえば、テニスの腕とルックス、ついでに頭がよく、金持ちだから女子部員に人気が集まり、女子テニス部員の半数以上が恋人だった記録がある人ね」
その内容に愕然とする3Sの面々。
ここに居る女子の中にも数人が顔を背けるのを確認してモゴが言う。
「それじゃあ、恋人だった人たちは申請して下さい、3Sの方で護衛をつける準備をしますから」
するとその場に居た半分以上の部員が申請して来た。
「何か酷く間違ってる気がする」
通の言葉に答えを持つ人間は残念ながら居なかった。
「学校の外は、零刃の人間がボディーガードしてくれてるから安心して良いわよ」
夕食の席でヤヤが言うと本日から泊り込みで新しく発生する赤豹対策をする事になった為、一緒に食事をしている通が言う。
「にしてもなんであんな馬鹿と付き合う女子が多いのか解らない」
その言葉にモゴも頷く。
「実際会ったけど、中身無いよね。自分の自慢話しか出てこないし、第一怪我した女子のことより自分に危害が及ばないか心配するなんて男として最低だよね」
通や静も頷く。
「良太さんも学生の頃ももててましたよね」
小較の言葉に良太の戸籍上の妻、良美が頷く。
「でもなんで、もてたのかいまいち不明だったな」
「良太は単純で、空手の実力もあったからだよ。学生の頃は相手の内面なんて複雑な事は気にならないんだよ。恋愛シミュレーションみたいなものだから」
達観した事を言うヤヤ。
その時、3Sの面々の携帯がメールの着信を通知する。
メールの内容は予測通り、赤豹の情報であった。
「がんばれよ」
顧問なのにいい加減な良美を置いて、モゴ達が八刃学園に向かった。
「眠い」
そう言って、目を擦る通。
「昨日は徹夜だったんだって?」
雅の言葉に頷く通。
「かなりの数の赤豹が出てきて、倒しても倒しても又出てくる・・・」
そのまま眠りそうに通だったが、後ろから迫ってきた炎に目を覚ます。
振り返ると、必死に目を開けようとして、その反動で炎を周囲に撒き散らす静が居た。
因みにその隣では、モゴが、服が燃えているのに完全に夢の世界に行っていた。
「かなりやばいわね」
雅の言葉がこの状況を表して居た。
「今のところ、零刃と学園内にいる八刃関係者の協力で、全ての赤豹を始末していますが、原因を突き止めない限り何れ限界が来ます」
理事長室で、疲労から授業をサボっている光に報告する、一睡どころか、ろくに休憩を取っていないのに平然としている鏡。
「解ってる。でもその原因を突き止める為には、一つ大きな問題があるわ」
光の言葉に鏡が頷く。
「現在の被害から推測して、相手は男子テニス部の主将と恋愛関係にあった者の一人が関係して居るのは間違いないと思われますが、対象が多すぎる為に、どう関係しているか不明な今、調査のしようが無い状態です」
光が大きく溜息を吐く。
「中坊の分際で、恋人を作りまくりやがって。親が寄付金出してなかったら囮にしてやるのに」
光の本音に苦笑しながら鏡が言う。
「実際問題思い切った手を打つ必要はあります。事情を説明した上で協力を求めるのが最善かと」
その言葉に光が嫌々頷く。
「このまま明日まで動きが無かったらそうするわ」
「制服は弁償してね」
更衣室で体操服に着替えたモゴが教室に戻る途中に隣を申し訳無さそうに歩く静に言う。
「はい」
素直に返事をする静だったが、雅が横から口を挟む。
「別に制服なんて行事の時しか着用義務無いんだから良いじゃない」
その言葉に、モゴと同じく何時も制服な通が言う。
「毎日違う私服を着てくるのは、大変なんだよ」
強く頷くモゴ。
その時、一人女子生徒がモゴにぶつかって倒れる。
静が慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
その少女が立ち上がり言う。
「大丈夫です。ぶつかってしまってすいません」
そう言って頭を下げて自分の教室に戻っていく。
「今の女子どっかで見たことある気がするけど、気のせいかなー」
通の言葉に、他の3名が溜息を吐く。
「昨日女子テニス部の部室に居て、恋人じゃないから無事だった人よ」
雅の言葉に納得する通。
しかし、モゴが驚いた表情で聞き返す。
「雅、今なんて言った?」
「だから恋人じゃないから無事だった人って」
戸惑った表情で繰り返す雅の答えにモゴが言う。
「どうしてあの時不自然だと思わなかったんだろう」
それに対して眉を顰める一同にモゴが言う。
「あの子、今回の事に関わってる。光さんに言って調べてもらわないと」
「確かに不自然ね、狙われなかったのだったらともかく、両側に狙われた人間が居るのに襲われなかったのは」
光の言葉にモゴが頷くのを見ながら、困惑している通が言う。
「どういうことですか?」
光は、モゴと二人、問題の生徒の情報引き出しを始めてしまったので、鏡が代わりに答える。
「襲う理由は無いとしても、襲わない理由も無い筈なのです。その少女が八刃の人間で強敵ならともかく、そうでない普通の少女だった場合、もののついでで襲われても全く問題ない状態なのです。しかし現実は襲われませんでした。それは明らかに不自然なのです」
言われて見ると通も納得できた。
「あの時は、襲われた理由に気をとられ過ぎて、襲われなかった理由まで気が回らなかったんだね」
そう言いながら資料を見せるモゴ。
「えーと中等部二年、淡野姫子入部時期が男子テニス部の校内対抗戦の後、間違いなく男子テニス部キャプテン狙いだね」
雅の言葉にモゴが頷く。
「もう少し早く気付いても良かったんだよ、恋人があれだけ居るのに刃傷沙汰にならないのは実際付き合ったら詰まらない男だって直ぐ解るって事だもん。するとライバルを蹴落としてまで独占したいなんて思うのは、一部の特殊の趣味の人間か、まだ恋人になった事がない人間だけなんだよ」
モゴの考えに光が頷く。
「今の時間は、部室棟に居るわね。直ぐに確保して、調査して!」
光の指示に鏡が動く。
「あたし達も行こう!」
通が先導して、3Sのメンバーも動く。
残った光は、資料を見ながら呟く。
「一番の問題は、この子がどうオーフェンと関係あるのかって事ね」
鏡が女子テニス部の部室に着いた時、その女性が現れた。
「もうばれてしまった見たいね。でも調べられる訳にはいかないのよ」
その言葉に、鏡は警戒し、間合いを取る。
そんな中、淡野姫子が驚き怒鳴る。
「絶対ばれないっていったじゃないですか!」
その言葉にその女性、六頭首の一人、メイダラスが言う。
「世の中には絶対なんて言葉は無いのよ! でも安心して貴女の願いを叶える邪魔をする奴等の排除する力はあげるから」
そう言って、メイダラスは、淡野姫子の胸に腕を沈める。
鏡が慌てて駆け寄るが間に合わなかった。
『汝の欲望を阻む存在を自らの力で打ち砕け、魔約獣』
次の瞬間、淡野姫子の体中から赤い毛が生えて、まるで人のシルエットをした赤豹になってしまう。
鏡がメイダラスを睨む。
「最初に言っておくわ、この子が望んだからその手助けする力を与えたの。魔約星という魔獣を生み出す石を体内に埋めてあげる事でね。そしてその子の感情を利用して、魔獣が大量に生み出され、彼女の目的を達成する為に動き続ける。本当私って親切ね」
その言葉に、鏡が怒鳴る。
「ふざけるのもいい加減にしてください! 貴女がやっていることは人の弱みに付け込み、魔獣を大量生産する事です!」
その言葉に、メイダラスが笑みを浮かべて言う。
「怖い怖い。怖いから私は退散させてもらうわ」
そして消えていくメイダラス。
鏡は激しい怒りを覚えながらも、バトルフィールドリングを取り出し、呪文を唱える。
『間結光様のお力をもちて、ここに戦いの為の結界を生み出したまえ』
周囲に被害が出ない状態にして、鏡は赤豹魔約獣の影を影沼にして、動きを封じに入るが、赤豹魔約獣が高らかに吠えると、無数の赤豹が生み出される。
鏡は慌てて、後退する間に、赤豹魔約獣は、影沼を抜け出す。
「今助っ人に入ります」
モゴが、光集進竜のぬいぐるみを取り出す。
『九尾弓』
通が、素早く九尾弓を構えて、羽矢筒に指を入れる。
『純白色鳥矢、孵化』
最強の攻撃力を持つ、純白色鳥矢を番え、射る。
『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、光集進竜』
純白色鳥矢と獣晶した光集進竜が相互強化して、次々と赤豹を滅ぼしていくが、数十体を滅ぼしたところで、力を失う。
慌てて次の準備をする二人、その二人を狙うように赤豹達が襲い掛かる。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ全てを爆炎に包め、爆炎翼』
静の必殺の爆炎が、赤豹を蹴散らす。
「ありがとう!」
そう言いながらも、次の純白色鳥矢を番え、射る通。
『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、乱風渦竜』
今度は、広範囲攻撃の乱風渦竜を獣晶して対応しようとするモゴ。
しかし、結果は変らない。
次の色鳥矢を番えながら通が言う。
「なんて数なの?」
呪文の詠唱の関係上喋れないモゴも頷く。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ尽きぬ流となれ、流炎翼』
火炎流で赤豹達を蹴散らした静が言う。
「攻撃が有効なのに、限がありません」
そんな事を言っている間も、赤豹魔約獣は遠吠えと共に新たな赤豹達を生み出している。
「何、弱音はいてるの!」
その声に、モゴ達が振り返るとそこに良美と小較が居た。
その隣には、中等部の現国教師、田宮夜三が居た。
『オーディーン』
小較が特攻し手刀で赤豹を切り裂く。
そして夜三が手に持っていた刀を抜いて唱える。
『我は神をも殺す意思を持つ者なり、わが剣に我が意を宿せ』
その刀が敵を滅ぼす強い意志に包まれた。
超人的な動きで、あっという間に十数体の赤豹を切り倒し、モゴ達のガードに入る。
「貴女たちは攻撃に専念しなさい。防御は私がやります」
その言葉に、通がモゴに聞く。
「この人も八刃の人?」
「そう、神谷の分家だった人で、今はお嫁さんに行ったから苗字は違うけど、今でも分家の中では最強の実力者って呼ばれてる」
その名に恥じない凄まじい攻撃力でモゴ達に赤豹を近づけさせない。
モゴ達が大技を放ち、鏡と小較が必死に突進するが、圧倒的な数の赤豹の前に阻まれる。
夜三の防御である程度余裕があるモゴが言う。
「どうにかしてあの出元を叩かないといけないのに、そこまで攻撃が届かない」
頷く通と静。
「諦めたらそこでお終いですよ」
夜三がそう激を飛ばす。
「鏡さん、影走で近づけませんか?」
小較が周囲の赤豹を切り裂きながら言うと、鏡は首を横に振る。
「この混戦状態では無理です」
その言葉に小較が舌打ちをする。
そして最初に限界が来たのは、モゴだった。
「もうぬいぐるみが無いよ!」
続いて、通。
「強い矢は打ち止め!」
静が放つ炎もどんどん弱くなっていく。
三人の攻撃が薄くなるのに反比例して夜三にかかる負担が増加する。
しかし、夜三は踏ん張り言う。
「諦めない! 誰か助けに来てくれるわ!」
そう言いながら肩で息をする。
前線に居る鏡と小較の負担は更に大きく、二人は大きな傷こそ無いが確実に傷を負っていった。
その時、良美が怒鳴る。
「鏡さん、小較、モゴ達の所まで下がって!」
その一言に、鏡と小較が下がる。
「一度体制整えるのですね」
静の言葉に小較が言う。
「良美が下がれって言ったんだったら、もう来てるって事だよ」
その次の瞬間、凄まじい白い光がモゴ達の前を埋め尽くした。
あれほど居た赤豹の大半が消滅していた。
そして悠然とヤヤが歩いてくる。
「待たせたみたいだね」
呆然とするモゴ達。
「お手数をおかけします白風の次期長」
鏡が頭を下げる。
「別に気にしなくても良いよ。私はこういう時の為に居るのだから」
赤豹魔約獣が吠えて、再び赤豹が生み出される。
しかし、ヤヤが右手を光らせて振り下ろす。
『ホワイトファングオーディーン』
その一発で出現した赤豹の大半が消滅する。
言葉を無くす通と静。
そして、ヤヤは赤豹魔約獣に近づく。
最後の足掻きとばかりに特攻を仕掛ける赤豹魔約獣。
『アテナ』
ヤヤがただそう唱えただけで足を止めない。
赤豹魔約獣の強力な爪がヤヤに襲い掛かった。
だが、その爪はヤヤの皮膚を1ミリも切り裂けなかった。
「これで終わりにしましょう」
白く輝く右手を赤豹魔約獣の胸に突き込む。
抜き出した手に、星型をした禍々しい光を放つ石があった。
それをヤヤが握りつぶすと、赤豹魔約獣は元の少女の姿に戻った。
その少女を抱きかかえてヤヤが言う。
「終わったみたい。お疲れ様」
その一言にモゴ達はその場にしゃがみ込んでしまう。
鏡と小較、夜三が複雑な後処理をしている中、モゴ達はその様子を眺めていた。
通が呟く様に言う。
「ヤヤさんって強かったんだ」
静も驚いた様に頷くとモゴが言う。
「この八刃学園の最後にして最強の守護者だもん。前に聞いた話だけど、大陸間弾道弾すら撃墜した事もあるって話だよ」
その言葉に顔をひきつらせる通と静。
「あたし達ってもしかして核ミサイルの隣で生活していた様なもんなのか?」
通の言葉にモゴが首を横に振る。
「核ミサイルだったら、発射される前だったら対応できるけど、ヤヤさんの場合、普通の攻防でも普通じゃないから対応方法が無いよ」
そして通と静が良美と何か話すヤヤに畏怖の視線を送る。
「オーフェンも厄介な術を開発してきたみたい」
ヤヤの言葉に良美が言う。
「でも予測はされた事だろう?」
ヤヤが頷く。
「オーフェンは高位の異邪みたいな強大な力が無い反面、やる事が陰湿で計画的だから。これも単発で終わるとは思えない」
「どうする? お前一人に頼りっきりって言うのは不味いぞ」
良美の言葉にヤヤが言う。
「例の新兵器を使うしか無いね」
そう言いながらモゴ達を見る。
「やっぱテストはあいつ等か?」
良美の言葉にヤヤが溜息を吐く。
「一番適当だと思う。本来ならもっと時間かけて調整してから使わせるつもりだったけど、そーも言ってられないみたいだからね」
そう言いながらヤヤが携帯をかける。
「七華聞こえる? すまないけど栗理さんを迎えに行ってくれる。そう例の奴のテストをもう始めるから」
今回のモゴの収支
○収入
赤豹魔約獣事件解決補助 100,000
--------------------------------------------------
合計 =100,000
○支出
特殊事態のため、支出全額八刃補助 0,000
--------------------------------------------------
合計 = 0,000
◎利益
収入 100,000
支出 - 0,000
--------------------------------------------------
純利 = 100,000
●借金残高
繰越金額 349,108,100
返済金額 - 100,000
--------------------------------------------------
借金残高 349,008,100
今回の通の収支
赤豹魔約獣事件解決補助 100,000
--------------------------------------------------
合計 =100,000
○支出
特殊事態のため、支出全額八刃補助 0,000
--------------------------------------------------
合計 = 0,000
◎利益
収入 100,000
支出 - 0,000
--------------------------------------------------
純利 = 100,000
●通のサイフ中身
おこずかい残金 10,800
退治バイト利益 +100,000
--------------------------------------------------
サイフ残金 110,800




