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大人しい子ほど切れると怖い見本です

後継者争い、八刃でもそれはあったりします。本人が望まなくても

 歩が4Sとして動いていた頃、静は静で騒ぎに巻き込まれて居た。

「認められません!」

 少女のその一言がその場に居た全員の意見だった。

 萌野の長、萌野勇一が睨むと、途端に威勢を失う萌野の直系の少女、萌野吠ホエル14歳だったが、それでも納得できない気持ちが勝ったのか続けて言う。

「萌野の姓を持たない者を次期長候補にするなんて認められません!」

 それに対して、勇一は鼻で笑う。

「未熟者に認めて貰う必要は無い」

 その一言でざわめきが起こるが、勇一は構わず続ける。

「文句があるなら力で示せ! 異邪と戦う強き力こそが八刃にとっての唯一の正義だ!」

 誰もが沈黙する。

 何故ならば、ここに居る全員で挑んでも勇一がその気をなれば、全員火葬出来るからだ。

「わしも静の力がお前達を勝る事が無いのなら無理に長にするつもりは無い。しかし、静がそれ相応の実力を持ったときは、誰も文句は言わせない。それを踏まえた上での次期長候補だ」

 沈黙する中で、静が躊躇しながら手を上げて言う。

「すいません。私はまだ萌野の長を継ぐつもりはないのですが……」

 その一言が、その場に居た全員の憎しみを燃え上がらせた。



「それは静がいけないわね」

 翌日の教室で、雅が指摘する。

「そうですか?」

 大きく頷く一同。

「だってそれって、皆が欲しがるケーキを一人だけ要らないって言うものだよ。敵視されて当然」

 モゴの解説に納得したのか大きく溜息を吐く静。

「でもなんで皆さん長になりたいのですか?」

 静の問いの雅がモゴの方を向く。

「そうよそれ、八刃の家の長になると何か特典があるの?」

 それに対して悩むモゴ。

「基本的に一族の方向性を決める事が出来るのが長なの」

 例の如く突然現れて光が言う。

「一族の方向性を決められるって凄そうですけど実益あるんですか?」

 雅の言葉に光が大きく頷く。

「大人数が動けば、それだけでお金が動くのよ。それに裏の仕事をやっている一族の場合、長が儲けの一部を差し出せって言えば逆らえないって即金性の特典もありよ」

「そういえば、お祖父ちゃんも一族の人間に何時も寺の維持費だって、裏の仕事の儲け一部を出させてたな」

 遠い視線で言うモゴ。

「それだったらモゴのお祖父ちゃんって金持ちなの?」

 通の言葉にモゴは大きく首を横に振る。

「宵越しの金は持たない派だから、集めた金もお寺の修復費とかで直ぐ使っちゃう。だからあちきの両親が商売で大失敗した時も、無い袖は振れないって、間結の人に口を利いてくれただけだもん」

「遠糸の長も凄かったわよ。能力者が減ったって解った途端、遠糸一族の解散を宣言したのだから。分家が散々文句言ったけど、長の命令って事で通ったもの。因みに遠糸の家も自分の森も持っていたんだけど、通のお父さんが知人の連帯保証人になって作った借金を返すのに白風に買ってもらったなんて話があるのよ」

 通は溜息を吐く。

「お父さんも人が良いから」

 モゴが暗くなりながら言う。

「まだ人の借金だから良いよ。パパは、上手く行けば大儲け出来るって、原石を大量に買い込んで店潰したんだよ」

 その言葉に雅が言う。

「モゴのお父さんってギャンブラー?」

 モゴは首を横に振る。

「パパは酒もタバコもしなければ、浮気もしないよ。賭け事は宝くじすらしない。でもね、本業で大きい仕事選んでは、何度も失敗してるの」

 物凄く重苦しい空気が漂う。



 そんな話をしていた頃、この学園に新しい転校生が来ていた。

「あたしの名前は萌野吠! 今日からこのクラスはあたしが支配するわ!」

「萌野さん、そんな前時代的な事は止めておいた方が良いわよ」

 彼女を押し付けられた担任の姫子が言うと吠が睨む。

「前時代的とかは、関係ない! あたしに従うかどうかだ!」

 大きく溜息を吐く、吠の新しいクラスメイト。

「この学園って本当に毎日のように非常識な事が起こるな」

「3Sが固まってるクラスよりはましよ」

「そうだな。あそこは毎週、教室の改修してるもんな」



 昼休み、校庭でご飯を食べているモゴ達の所に吠が来て宣言する。

「静! 貴方の力を見せてもらいに来たわ!」

 静一人だけが戸惑う中、残りのメンバーは平然と食事を続ける。

「3Sの仕事は、協力すれば出費が抑えられるとおもうよ」

「モゴは絶対、出し惜しみする」

「二人とも、リアルバトルなのに呑気だね」

 モゴと通と雅の会話を聞いて吠が吠える。

「人の話を聞け!」

 大きく溜息を吐いた後、モゴが言う。

「はっきり言って、無意味な事だと思うよ。静ってまだ次期長候補としては実力不足だもん」

 その言葉に静が即座に頷くと、吠が再び吠える。

「なんでお前も納得するんだ!」

 静は大声にビクビクしながら答える。

「私は、萌野の技を習い始めたばかりです。萌野の皆さんと較べる事自体が間違っているかと思います」

 そんな正論に吠が言う。

「煩い! それでも貴方は萌野の炎を出せる! それだけでも特別だって自覚あるの!」

 難しい顔をする静。

「結局何がしたいの?」

 通の言葉に対して吠が答える。

「無論、あたしの方が優れている事を証明する事!」

 それに対して静が言う。

「吠さんとは何度か手合わせしていますが、一度も勝てた事はないのですから、吠さんの方が勝っていると思いますが」

 あっさりそう言われて、何も言えなくなる吠であった。



 放課後、シロキバの手伝いをする3Sの面々にヤヤが言う。

「萌野にとっては炎を出せるって言うのが一番大切な事なの。だから、神器に頼らず炎を出せる静はある意味、憧れ。萌野の人間としては、炎を出せる静には堂々と自分が次期長だっていっていて欲しいの。それが、静みたいに控え目な態度を取っていたら反発したくなるのよ」

 静が溜息を吐きながら言う。

「でも私が未熟なのは本当の事ですし」

 そこにもう酔っ払っている良美が来て言う。

「解ってねーなー。次期長なんだから今なんてどうでも良いんだよ。様は将来一番強くなっているって言う意気込みを見せて欲しいんだよ」

 その言葉に悩む静。

「えーSボウガン使っちゃ駄目なの?」

 歩の言葉に頷く通。

「馬鹿高いレンタル料取られるんだから駄目!」

「嫌だ嫌だ」

 駄々をこねる歩。

「結局萌野の長を継ぐつもりあるの?」

 モゴが静に尋ねた。

「えーとそれは……」

 言葉を詰まらせる静に良美が言う。

「そーゆー所がいけないんだ!」

 反論出来ない静の後ろでは、歩の駄々に負けて、Sボウガンを借りる事を承諾する通が居た。



「今日は珍しく顧問が居るが、無視しても構わない」

 小較は、冷たい視線で酔っ払って宿直室で横になっている良美を見る。

「光の話じゃ、今日の夕方に異界との穴が開いて、魔獣が発生したらしい。今回は大物らしいので、遭遇したら直ぐ戦わないで誘き出して、数人で当たる事」

「「「はい!」」」

 3Sのメンバーが返事をして散っていく。

 小較は、溜息を吐いて良美に毛布をかけてから自分も魔獣探しを開始する。



 静が一人恐々歩いていると、吠が現れる。

「情けない! 何時も戦場の最前線を行く萌野の血が流れているのか不安になるよ!」

「そう言われましても、怖いものは怖いのです」

 静の情け無い答えに大きく溜息を吐く吠。

「何で貴方みたいな人が萌野の炎をだせるの?」

 静が困った顔をする。

「そうですね。無かったらもっと平凡な人生おくれたのですが」

 その一言に吠が激怒する。

「ふざけないでよ! あたし達が萌野の炎を手に入れなくてどれだけ悔しい思いをしてるか知ってるの!」

 涙目になる静。

「私も好きで炎出せる訳ではありません!」

 一発触発なそんな二人の周りに無数の蛙が現れる。

「魔獣です。早く皆の所におびき寄せないといけません」

 静の言葉に、吠が言う。

「何言っているの! ここは萌野の底力見せる時でしょうが!」

 そう言って、真っ赤な短剣を両手に一本ずつ構える。

『烈火の短剣よ! その力を解き放て!』

 吠の言葉に答えて、両手の短剣、烈火の短剣から炎が噴出す。

 吠は、その短剣でどんどん蛙を切り裂いていく。

「あたし達の炎は全ての異界の者を燃やし尽くす炎よ!」

 そこに、モゴと通が駆けつける。

「静大丈夫?」

 モゴの言葉に頷く静。

「吠さんが戦ってくれていますから」

 その言葉に通が言う。

「それじゃ駄目じゃない。あたし達が倒さないと報酬が目減りするんだからね」

 そう言って、左手で右手首のリングを触れる。

『九尾弓』

 展開した九尾弓を左手で構えて、右手の指を羽矢筒の穴に入れる。

輪黄リンオウ色鳥矢、孵化』

 黄色い矢羽を持つ矢を抜き出し、番えて射る。

 輪黄色鳥矢が蛙達の頭上を通過する時、通が唱える。

『羽撃』

 輪黄色鳥矢の鏃から、複数の雷撃が発生して、蛙達を打ち砕いていく。

 モゴも、大きな斧を持った甲虫、土斧甲虫のぬいぐるみ床に置いて唱える。

『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、土斧甲虫』

 ぬいぐるみは、人の腰までの大きさになって、その斧で次々と蛙を叩き潰していく。

 そんな様子を静はただ見ていたが、嫌な予感に襲われて叫ぶ。

「皆さん、一旦引いてください!」

「馬鹿言わないでこのまま全滅させてやる!」

 吠が、蛙達の中心に突入した瞬間、蛙達が一斉に口から闇を吐き出す。

 闇は大きな蛙に変化し、その舌で吠を捕らえる。

「嘘いきなり変身?」

 通は、そう言いながらも羽矢筒に指を入れる。

輪青リンセイ色鳥矢、孵化』

 青い矢羽を持った色鳥矢を抜き出して、番え言う。

「冷気で合わせるよ!」

 通の言葉に頷いて、モゴが、青い隼、冷風隼のぬいぐるみを取り出して呪文を唱える。

『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、冷風隼』

 モゴの呪文に答え、ぬいぐるみは青い隼に変化して、冷気を振りまきながら進む。

 その隣で、通が輪青色鳥矢を射る。

 冷気を振りまきながら進む輪青色鳥矢と冷風隼の冷気が相乗効果で、周囲の温度を一気に零下まで下げて、闇の蛙も凍りつかせる。

「決まった!」

「あたし達が力をあわせればこんなものよ」

 モゴと通が喜んでいる時、静が呟く。

「吠さんまで氷ついているのですが」

 その一言に、固まるモゴと通。

「八刃だからこんくらいじゃ死なないよ」

 そう言いモゴだったがその横顔には冷や汗が流れていた。

「きっとそうよね」

 同意する通の横顔にも冷や汗が流れていた。

 改めて二人が、闇の蛙を見た時、氷が砕ける。

「無事そうだね」

「そうね」

 さっきとは別の意味で冷や汗を垂らすモゴと通。

 静が二人に校舎の方を向いて言う。

「小較さんを呼んできます」

「あたし事は構わずやれ!」

 吠はそう吠えて目を瞑る。

 その姿を見て、静の中の何かが弾けた。

「雑魚が煩い!」



「という事で、色々と精神的に負担になる事があるかもしれませんが、最終的には本人の意思を優先するようにします」

 ヤヤは静と萌野の現状報告に森野家に来ていた。

「祖父は相変わらず事を荒立てる事しかしない」

 静の父、森野勇気が溜息を吐く。

「白風さんにはご迷惑おかけします」

 静の母、森野命が頭を下げる。

「気にしないで下さい。これも八刃の問題ですから。色々面倒を負うのは偉い人間の宿命です」

 ヤヤがそうまとめると勇気が頷く。

「若いのに解っている。バブル景気などでいきなり偉くなった奴が、その真理も解らず、問題を他人の所為にする奴が多いのに」

「白風さんみたいに出来た人間相手なら静の問題も出ないわね。静も小さい頃から何でも直ぐ出来るから、出来ない人間見ると苛立つ癖があって、大変だったわ」

 命の言葉にヤヤが眉を顰める。

「あの静がそんな性格しているのですか?」

 頷く命。

「みんなちゃんとやっている時は、良いのですけど、誰かが出来ない事を文句言い始めると直ぐに切れて放火現象を起こしていました」

 勇気も何度も頷く。

「そうそう、小学校の創作ダンスで、出来ない男子が拗ねた時も、爆発させていたな」

 ヤヤが意外そうな顔をして言う。

「萌野の炎は感情の高ぶりが力ですからありえますけど、あの普段弱気な静さんが」

 それに対して命が言う。

「それは私の教育の賜物です。小さい頃は、それは傲慢な子でした。だから少しでも生意気な事を言ったらお仕置きをしました」

 冷や汗を垂らすヤヤ。

「それって幼児虐待かと思いますが」

 命は涙を拭くふりをして言う。

「静には、名前通りの物静かな子供になって欲しかったのです」

 その時、ヤヤの脳裏には浮かんだのは、

『かなり溜まってるから爆発したら大きいな。どこかでガス抜きしないと』

 今後の対策だったが、残念ながら間に合わなかった。



 いきなりの静の言葉に、モゴも通も、吠まで目を丸くする。

「後は私がやるから黙っていろ!」

 静は両手を前に向けて唱える

『我等が正義に答え、炎よ敵を浄化せよ、浄炎翼ジョウエンヨク

 圧倒的な熱量の炎が、吠共々闇の蛙を燃やす。

「静、幾ら萌野の人間が炎に強いって言ってもこれは危なくない?」

 モゴがそう言うと、睨み返した静は、まだ炎が消えない場所に行くと、無造作に炎の中に手を突っ込むと吠を引っ張り出すが、その体には焼け跡一つ無かった。

「意識はあるわね?」

 何時もとは違う静の迫力に何度も頷く吠。

「浄炎翼は、魔だけを燃やす炎だから平気。炎を出せないで文句言うくらいなら炎を出せるようになれば良いでしょうが!」

「でも才能が……」

 言葉を濁す吠に静が言う。

「言い訳は聞かない! 炎出せるようになれ!」

 そう言ってから吠から手を離す。

 そして帰っていく静に、またまた違う意味で冷や汗を垂らすモゴと通であった。



「静って元々荒い性格だったんだ」

 雅の言葉にモゴが頷く。

「ヤヤさんが細かく聞いてたけど、炎の抑制も含めて、かなりきついお仕置きされてたみたい」

 そう言ってモゴは自分の席で真面目に予習をする静を見る。

「とにかく静の前では、ぐちぐち言わない。良いね?」

 通の言葉にモゴが頷く。

「姉御!」

 吠が入ってきて、静の前で敬礼して言う。

「この吠、今日から姉御の妹分として自力で炎を出せるように頑張ります!」

 困惑する静を見て、雅が言う。

「本当、八刃ってまともな人間居ないね」

 反論できない、モゴと通であった。

今回のモゴの収支


 ○収入

  闇蛙アンア退治      50,000

--------------------------------------------------

合計 = 50,000



 ○支出

土斧甲虫(触媒・ぬいぐるみ製造費)      2,200

冷風隼(触媒・ぬいぐるみ製造費)     + 1,800

--------------------------------------------------

合計 =  4,000



◎利益

収入    50,000

支出 -  4,000

--------------------------------------------------

純利  = 46,000



●借金残高

繰越金額   199,186,100

返済金額   - 46,000

--------------------------------------------------

借金残高   199,140,100



今回の通の収支


 ○収入

  闇蛙アンア退治      50,000

--------------------------------------------------

合計 = 50,000



 ○支出

輪黄色鳥矢       5,000

輪青色鳥矢    +  5,000

Sボウガンレンタル料    + 20,000

--------------------------------------------------

合計 = 30,000



◎利益

収入    50,000

支出 - 30,000

--------------------------------------------------

純益  =  20,000



●通のサイフ中身

おこずかい残金       10,800

退治バイト利益     20,000

--------------------------------------------------

サイフ残金        30,800

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