妹思いでも、見得の張りすぎはいけません
魔磨襲来以降比較的平和な日々、そこに浮上した新たな問題とは?
「夏休みの林間学校に行きたい?」
通の確認に歩が頷く。
学校からの帰り道、何時もの元気が無い歩を心配した通に対する答えが、それだった。
「初等部だと自由参加で、北海道で林間学校を十日間やるの。普通はそのお金って一年かけて貯めるんだけど……」
歩の言葉に頬をかく通。
通達、遠糸姉妹は、父親のリストラに伴い、途中から転校してきた貧乏人である。
積み立ては当然、一括でそのお金を払える余裕は全く無い。
「チーちゃんやツーちゃんも行くから行きたかったな」
通は落ち込む歩みの姿に自分のサイフの残金と、今度入る筈の3Sの稼ぎを計算し、十万以上ある事を確認して、胸を張って言う。
「それだったらお姉ちゃん払ってあげる。これでも3Sの儲けで結構お金もちなんだよ」
途端に明るい顔になる歩。
「トー姉本当!」
自信たっぷり頷く通。
「ありがとう。二十万もの大金だからお母さんには言えなかったの!」
歩の無邪気に喜ぶその言葉に、通は歩に心配させない様に表情を変えなかったが、内心で物凄く動揺していた。
「何で小学生の林間学校費用が二十万な訳!」
次の日の教室で着くなり荒れる通。
それに対して雅が来て言う。
「あれって理事長のバイトの一つよ」
その言葉に、雅に詰め寄る通。
「どういうこと? まさか余分にお金を請求してるの!」
首を横に振る雅。
「違う違う、豪華な施設を使用して、バックマージンとってるだけよ」
「それでも十分問題よ! 文句言ってやる!」
通が理事長室に怒鳴りこもうとした時、高笑いが聞こえた。
「無駄よ、これはヤヤさんにも了承を受けているんだから」
何時もの予告無し、光の登場。
「それってどういう事ですか?」
静が尋ねると、光が答える。
「林間学校で使う施設は、安ければ良い物ではありません。出した金額で安心を買うんです。強制参加で無いのだったら構わないとお許しは貰ってます」
その言葉に通が詰め寄る。
「バックマージンって話は!」
「何の事かしら、あたしは知らないわ。第一それは単なる噂でしょ?」
通が見ると雅が頷く。
「解ってるわ、大切な妹さんに林間学校に参加させてあげたい姉心。そこで良い稼ぎの仕事をしない?」
その言葉に、怯む通。
「変な実験やエッチな事はしないよ!」
それに対して光が頷く。
「それはヤヤさんに止められてるから駄目なのよ。それにそっちだったら態々貴方に頼みません。貴方に頼むといったら解ってるでしょ」
「魔獣退治の仕事だったら、あちきもやるよ!」
借金プリンセス、モゴも手をあげる。
「少し違うわ、今回の以来は幽霊退治よ」
光の言葉に、不信そうな顔を見せる3Sの面々だった。
「とにかく、この屋敷に居る幽霊を見つけて退治すれば、三十万な訳だね」
通はまさに幽霊が出そうな屋敷の前で言う。
「止めましょう幽霊なんて怖いです」
魔獣を一瞬で燃やし尽くのに怖がる静。
「半分はあちきの取り分だからね」
平然としているモゴ。
「まー頑張ってね。あたしは証拠写真を撮るから」
何故か居る雅。
通が先頭に、問題の幽霊屋敷に入る一行。
「理事長って何処からこんな依頼を受けてくるのかしら」
静がおっかなびっくり、通の背中に張りつきながら言う。
「光さんって言うか間結は、財界ではそっちの事を引き受けるのは有名で、こー言った浄霊の仕事なんて言うのも頼まれるんだよ」
モゴが後ろを警戒しながら言う。
「それで通達が下請け会社って訳だね」
雅の言葉に、溜息をつく、通とモゴ。
暫く屋敷内を探索する3Sプラス一だが、中々幽霊と遭遇しない。
「本当に居るの? 居ないと困るんだけど?」
通の質問に雅は手元の資料をチェックする。
「でも幽霊を見たって証言は多いのは確かよ。何でもここは何度か取り壊しを行おうとしたけど、その度に幽霊が出ていた見たい」
その言葉に老朽化した屋敷を見回しモゴが言う。
「確かに今にも壊れそうだね」
その時、四人の目の前に火の玉が出て来た。
「キャー!」
あっさり静が気絶する。
それを支えるモゴだったが、大きく溜息を吐く。
「作り物だよ」
雅はそれを聞いて、そばにいくと確かに糸で吊るされた、市販の火の玉だった。
通は、気絶した静を見て言う。
「あたしでも眼鏡越しでも作り物だって解ったんだから、静だったら一目で理解出来そうだけどな」
「やっぱ気分的問題じゃない?」
雅の言葉に納得するしかない一同であった。
「問題はさっきのが作り物の火の玉だという事は本物の幽霊が居ないって事だよね」
通が真剣な顔をして言う。
「確かにそれは問題、次の新聞の記事にしようと思ってたのに」
雅も同意する。
「うーんでも変な気配はしない?」
モゴの言葉に通は首をふる。
「あたしどちらかというと、見て判断するタイプだから。そっち系統なら本来は静が得意だと思うけど?」
そう通が視線を向ける先には、いまだ目覚めない静が居た。
「探査系の輝石獣使った方が早いかな?」
モゴはそう言ってから口を押さえる。
通がモゴの方を見る。
「どうしてそんな便利な物があるのに使わないのかなー?」
「探査系って精度が必要で、純度が高い輝石使わないといけないから高いの!」
モゴが反論するが、通が言う。
「大人しく、使えわないとこのまま帰るよ! 正直本当に居なかったら、時間の無駄だからね。まともに3Sの仕事してた方が増しだよ」
その言葉に大きく溜息を吐き、モゴが背負ったリュックから、灰色の燕のぬいぐるみ取り出す。
『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、魔追燕』
灰色の燕は、本物の燕の様に飛び、少し旋回した後、飛行し始める。
「間違いない、通常とは違う気配があるよ」
モゴはそう言うと、通が静を背負って、魔追燕の後を追う一同。
「今の何だよ?」
一人の少年が言う。
「きっと手品だぜ」
そう答える少年もまた冷や汗を流している。
最後の少年が言う。
「まさか本物の拝み屋なんじゃないか?」
最初の少年が解らないと言う顔をして言う。
「オガミヤって何だ?」
「化け物を退治する人の事だよ」
最後の少年の答えに手を叩く。
「勇者って事だな」
中途半端な理解の仕方をする少年達であった。
「この近くだよ」
そして魔追燕が示す先には一つの扉があったが、通達は蹴破って中に入る。
そこには、幽霊の仮装をした子供達が驚きの表情でモゴ達を見た。
「本当に勇者なのか?」
「勇者がこんな小娘な訳ねえよ!」
そんな事を言い合っている少年の一人に雅が近づき言う。
「もしかしてここって君たちのひみつ基地?」
その言葉に少年達が頷く。
「そうだここは僕達のひみつ基地だ! そこを壊そうとする悪い大人は俺達が追い返すんだ! 手品何か怖くないぞ!」
そう言ってる少年自身も膝が笑ってる。
困った顔をするモゴと通。
その時、静が目を覚ます。
「ここは?」
静が暫く回りを見回した後、奥に居た一人の少年を見て言う。
「その子、人間ではありません!」
その言葉に、通が素早く眼鏡を外す。
『九尾弓』
九尾弓を構えると、その少年は少年達の影に隠れ人外の声で言う。
『へへへ、幾ら遠糸の矢でもこれだけの子供達の盾の中は無理だろよ!』
しかし、モゴがもう行動を起こしていた。
『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、冷風隼』
獣晶された冷風隼は、少年達を冷風で退ける。
『素黄色鳥矢、孵化』
黄色の矢羽を持つ矢を羽矢筒から抜き出し、通が九尾弓に番え、射る。
その矢は、少年達が冷風隼の退かされた僅かな隙間を通り、少年の姿をした化け物を貫き、雷撃と共に消滅させた。
少年達は突然の展開に大泣きを始めた。
「結局どういう事だったんだ?」
担任という事で呼び出された良美が、事後処理の為、幽霊屋敷に来ていたヤヤに聞く。
「少年達の中に、オーフェンが紛れた居たの。オーフェンとしては、子供達が盾に出来るあそこは丁度良い隠れ家だった訳だよ」
ヤヤは、幽霊屋敷に張り巡らされていた術式機構を確認して言う。
「ここが八刃学園の空間の穴に悪さしていた場所の一つだったみたいだよ」
「一つって事は他にもあるのか?」
良美の言葉にヤヤが頷く。
「多分。そっちは、間結の人間が調べるってはりきってるから良いけど、今回の一番の問題は……」
ヤヤの言葉に良美も深く頷く。
「光がこの副業を八刃に知らせていなかった事だな」
この後、光はこの手の副業について洗いざらい喋らされて、その儲けを全て八刃学園の運営費に回されることに成った。
今回のモゴの収支
○収入
オーフェン工作員退治 150,000
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合計 =150,000
○支出
魔追燕(触媒・ぬいぐるみ製造費) 8,000
冷風隼(触媒・ぬいぐるみ製造費) 1,800
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合計 = 9,800
◎利益
収入 150,000
支出 - 9,800
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純利 =140,200
●借金残高
繰越金額 199,373,300
返済金額 -140,200
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借金残高 199,233,100
今回の通の収支
○収入
オーフェン工作員退治 150,000
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合計 =150,000
○支出
素黄色鳥矢 10,000
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合計 = 10,000
◎利益
収入 150,000
支出 - 10,000
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純益 = 140,000
●通のサイフ中身
おこずかい残金 108,100
退治バイト利益 140,000
歩林間学校費(諸経費込み) -233,000
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サイフ残金 15,100




