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 「進路宜候、両舷微速前進。風は?」

[ゲンザイノシンコウホウコウニヘイコウ ビフウナリ]

「わかった。このまま接岸する」

 ようやくたどり着いた港は、雲海図に載っていないのが不思議なほどに栄えていた。港の大きさに対して船の数は嫌に少ないが、灯りは港街のそれそのものであり、活気がある。補給には問題ないだろう。

 セレナ号は桟橋へと近付き、そこに横付けする。

 「接岸まで50……40……30……。両舷停止、20……10、両舷後進微速……停止。錨を下ろしてくれ」

力仕事を船自身に任せ、トモキセはセレナの発光器を持って甲板に出た。久々に嗅ぐ街の臭い。遠くから薪か何かが燃える臭いやら、木の臭いがする。

 おかに上るのは26日振りになる。生鮮食品もやっと食べることができる。トモキセにとっては缶詰めや瓶詰め、干し肉などの保存食の方が馴染み深いが、それでも採れたての野菜の歯応えは何にも変えられないのだ。

 [ビョウ カンチン コウコウニカカワルゼンキカンヲテイシ]

「あいよ、お疲れさん」

 係留ロープを持ち、投げたものを受けとる水夫が来るのを待つ。先ほどセレナが発光信号にて入港を合図したのだが、妙に遅い。伝わっていなかったのだろうか。

「遅いな。桟橋から離れちまうぞ」

[エンポウニスイフラシキジンブツ タスウ セッキンチュウ]

「お前も言うのが遅いんだよ」

[ヨウビョウ ゼンソクコウシン]

「反抗するなよ」

 船の態度はどうであれ、桟橋の根元付近からこちらに向かって水夫が近づいてきていた。その数、20はいるだろうか。変に多すぎる。やがてハッキリと視認できる位置まで近付いたとき、トモキセは気付いた。

 「あまり歓迎されてないようだな……」

軍服を着て、手にはマスケット、これは明らかに兵士である。獣人が殆どであるところを見るに、『ストキヴ』の海軍だろうか。投光器によって、甲板のトモキセが照らされる。久々の眩い光に、目だけでなく、頭まで溶けてしまいそうであった。

 「貴船の寄港目的を述べよ!撃ちー方用ー意!」

逆光になっていて見えないが、その声は間違いなく水兵の声であった。きっと、数多くの銃口がこちらを向いている事だろう。

「補給だ!物資が底を付いちまってなあ、光が見えたもんだから、ここに寄らせてもらったんだ!」

声を張り上げ、質問に答える。別に恐怖などはない。よくあることである。それにセレナ号には武装はないが強力な切り札がその後ろについているのだ。

「他の船員はどうしている!」

「生憎俺一人だ!」

答えると、水兵たちが途端にざわつく。この規模で、だとか、たった一人で、だとか。当たり前だ、普通はセレナ号程の大きさになれば、船員は少なくとも20名は必要になる。

「下らない冗談を言うな!ふざけているようでは発砲も辞さない!」

当たり前の反応である。しかし冗談ではないのだから、撃たれる筋合いはない。トモキセは切り札を引いた。

 「連合の船って言うのはな、俺みたいなへっぽこ一人でも泳がすことができるようになってんだよ!」

水兵全員に、街まで響くように、大きくハッキリと声をあげた。一瞬の静寂、そして、大きなどよめき。

 「お、おい!投光器、国旗を照らせ!」

「国旗は船体後方とマストにある!船名は横にでかでかとセレナって書いてあんだろう!」

水兵たちは慌てふためきながら投光器を操作する。トモキセは光から外れたが、目に光が焼き付いて、まともな視界が取れない。夜目が利くのが長所なのだが、こうなってはどうしようもない。下手に動くこともできずに、その場に座り込んだ。

 「国旗視認!三人連合船籍!撃ちー方止め!捧げー銃!」

掌を返したように、途端に敬意を表す水兵たち。軍人ではないが、トモキセも一応敬礼をしておいた。

「先ほどの無礼、謝罪いたす!」

「なに、こっちも軍港とは知らなんだ!ともかく係留させてくれ!ザイルを投げる!」

座ったまま、桟橋に向けて思い切りロープを放る。切り抜けたことには切り抜けたが、軍に囲まれて過ごすこととなると、少々面倒になりそうである。

 「係留完了!ようこそ我が港へ!歓迎する!良ければ案内するが!」

「いいや、航海の後始末があるもんでな!暫く後、こちらから挨拶に行く!」

「了解した!担えー銃!」

 水兵たちは帰っていく。少なくとも襲われる可能性はないが、軍隊との関わりは精神をすり減らす。出来ればさっさと補給を終わらせ、雲海に出るのが一番よい。

 「……セレナ、月の予想進路は」

[ジリキデノヨソクヲモトム]

「目が眩んで何も見えねえんだ、頼む」

[ケイサンカンリョウ ミッカカンノテイタイノノチ 『ナハルド』ホウメンヘムカウ]

「三日かよ……」

月が動かない以上、セレナ号も離れるわけにはいかない。三日はここに留まることになるようだ。

「まあ、いい。マストしまえ、離艦準備だ」

 まだ眩んでいる目をなんとか見開いて、トモキセは艦橋へ戻る。久々の樹なのだから、野菜やら肉やら酒やら何やら、楽しめるものは楽しんだ方がよいだろう。

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