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むしろツンドラ

続・オレとツレの結婚式事情

作者: 園橋のぎ

 キュポッと良い音を立ててマジックペンのキャップが取れた。


 うむ、何度聞いても良い音よのぅ、越後屋。

 流石お代官様、見事なキャップ取りでございます。


 頭ん中で良く分からん会話を作ってみたりしつつ、オレは「超極太」のマジックペンを構えて、


「はい、無ーし」

「あああああっ!?」


 びーっとでっかくバツを書いておいた。

 何か目の前で妙な物体が悲鳴を上げて悶えているけど気にしない。


「お前……ちょっとぐらい!」

「あ、これも要らん」

「あー!!」

「てか、オプション全部要らんだろ。はいはい、無駄無駄無駄ァッ!」


 オラオラオラァッ! とパンフレットをめくりながら勢いよくペンを走らせるオレ。

 オレのこの手が光ってうなる! 無駄を省けと輝き叫ぶ!


「止めろ、頼むから止めてくれっ! こいつだけは見逃してくれ!」

「ふははははっ! 見ろ、おすすめコースがゴミのようだ!」


 てかさ、オレ最初に言ったよね?

 花とか飾る気も無いし、ライスシャワーもしないって。

 何この特大クラッカー。ばっかじゃねぇの? 火薬くさいし、後片付け大変じゃん。はい、ばーつ。


「削除!削除!削除!削除!削除!」


 某キラを崇める人ばりのハイパーアクションでパンフの山を片づけて、オレはふいーっと額の汗を拭う。

 我ながら言い仕事したぜ。

 ついでに近くのコップを取ってぐびっと一杯。

 くっはー、仕事の後のこの一杯。堪らん。


「うーん、まずくない! もう一杯」

「……」

「あ、お前も飲む?」

「……」

「あ、そ。要らんのか」


 てかツレが真っ白に燃え尽きてる。面白れ、ププッ。

 手間なしブ○イトなツレの姿を肴に、オレはとりあえずチマチマと茶碗に注いだ奴を舐める。


 何をやっているかと言うとですね、この前まぁ……もにょもにょと色々あった結果、了承させられるどころか何故かオレから懇願するハメになった結婚式のプランを練っているのです。

 ぶっちゃけ今でも納得してませんが(実行とか、何でオレが頼む羽目になったのかとか)、一度やってくれと頼んだからには最後まで責任もってやってやろうじゃないかと思ってます。

 や、別にツレが紹介してくれたチャペルがあこがれの建築家さんのものだったからちょっぴり気分うはうはとか、そういう理由じゃないですよ?

 そのチャペルの持ち主が上品で素敵なマダムだったからちみっと気分のりのりとか、そう言う理由じゃないですよ?

 まぁ、オレが渋るのを分かってて、そういうところを探し出してきてくれたツレに少しぐらい感謝しても良いかなーとか思ってるのは本人には秘密だ。


 とにかく。

 式場として借りることを許可していただいたので、今はどういう式をやるのかて言うことの打ち合わせ中なのですよ。

 プラン練っているというより削いでいるって言った方が正しい感じだけどね。

 プランと一緒にツレのライフポイントなんていうものまで削がれちゃってる気もするけど……ま、殺しても死なないような最強さんだから問題ないだろう。

 オレ、人類最弱レベルですから。平気平気。

 口から何か抜けかかってる気がするツレを眺めつつ、オレはぼけーっとする。

 復活の呪文は唱えないけど、復帰まで待ってやるオレって我ながら優しい。

 エコだね。


 そんなことをグダグダ考えつつ待ってると、ツレがぐらーっと傾いてオレの肩にすがってきた。

 どさくさにまぎれて触って来るその根性が気に入らなかったので、叩き落としておいた。

 それにべちゃーとそのままオレの膝の上に崩れ落ちて、ツレがぼそぼそと愚痴る。


「酷い……俺が仕事の合間に何とか作った時間で必死に集めてきたパンフレットがこの仕打ち……」

「……チッ」

「今舌打ちしなかったか……」

「チッ!」

「やり直したっ?!」

「やり直しもしますよ。てか、何でこんなもん集めてきてるんだよ……ったく、油断も隙もねぇ」

「何で俺は今ののしられているんだ……」


 何でお前は今打ちひしがれてんだよ。

 オレは手酌で自分の茶碗に注ぎながら、半眼になる。あ、酒じゃなくて牛乳ですよ。


「要らんもんばっかり溜めこみやがって……オレの話聞いてた? 披露宴しないって言っただろ。それに、ああいうデリケートな場所に火薬系とか持ち込み厳禁なの。飲食も禁止。周囲に傷つけるものも持ち込み禁止」

「いや、そうかもしれないけど……」

「かもじゃねぇよ。あのチャペル本当は文化遺産級なんだぞ」


 冗談抜きで。

 贔屓目抜きで。

 それに、マダムも参列して下さるっていうことの意味分かってる?

 オレはぺちぺちとペンのケツの側でパンフレットを叩く。


「お前さぁ、自分が何したいか決めてからこういうの選んで来てる? どうせノリとか憧れとかで片っ端から集めてんだろ。ってオレの足に何してやがる!」

「いや、まぁ……選択肢が色々あった方が良いだろ? 資金的には苦労しない程度の稼ぎはあるんだし」


 何故か勝手にオレの腿とか撫でつつ、そんなこと言うオレのツレ。

 触るなくすぐったい。そして溜息をつくな。生温かい息がオレの足にかかってキモイんですけど。


「てか資金に苦労しないって、オレへの嫌みか」

「そうじゃなくて……一生に一度のことだろう? お義父さんと、お義母さんもお招きするんだし、あんまり質素すぎるのも拙いだろう」

「どうかなぁ、あの人達そういうの気にしないと思ってたけど」

「可愛い娘の結婚式なんだから、気にはしてると思うぞ」

「んー……」


 そうなんだろうか。

 というか、あの人達に「可愛い娘」なるものが存在したかどうか非常に謎だ……ま、そこはどうでも良いけど。

 でもあちらとしても世間体もあるし、今までわざわざ手間かけて養って来てやった相手が地味婚とか、あてつけかと思われそうではあるな。

 何せ、このツレ、そこらのシャッチョサンより金持ってるし。


 いや、それにしたってこのカンカラをバギーの後ろに着けて退場とか、レッドカーペットとかは要らんと思いませんか?

 キャンドルサービスも当然しませんし。

 ウェルカムボードも別に要らないし。

 何で花のアーチとか作ろうとしてるんですか。他人様の庭ですよ?

 ブーケトスとか、だから生花は持ち込まないんだってば。

 オレは溜息をついて、ぺちこ、とツレのデコに手を置く……って何嬉しそうに握ってるんですか。違ぇよ。

 

「とにかくさ、最低限で良いんだよ。結婚式つっても報告だろ実際」

「いや、俺はそれだけのつもりじゃないんだけど……」

「あー……お前はそうかもな」


 そう言えば、こいつ普通の家族的なことにすごい憧れ持ってるんだっけか。

 オレをとっつかまえたのも八割ほどは「平凡な一般家庭」への憧れだし。

 ぶっちゃけ憧れるならもっと普通の女の子捕まえろよとか思ってますけど、どうやらツレの立場っていうのは普通の女の子だと「え、結婚はちょっとムリ」とか尻込みされるものらしくて、まぁ鈍くてうっかり逃げ損ねたせいで「この際これで良いや」ととっ捕まったのがオレである。

 ……うむ、間抜けだ。

 いや、もう逃げだすのはそろそろ諦めたんで、しょうがないから付き合いますけどね。

 オレはパンフレットの余った部分を何と無くぐりぐりと塗りつぶしながら溜息を吐く。


「でもさぁ、オレ達の家族はまだしも他の皆超忙しいじゃん。式自体は十五分くらいってとこで良いんじゃね? で、さくっと解散」

「……本当にそれで良いのか?」


 オレの膝の上でごろっと仰向けになってツレがオレを見上げる。

 や、だいぶ慣れたけど相変わらずムカツクくらい綺麗な顔してやがるなぁ……平手で潰したら駄目だろうか。うん、ダメだな。どうせ数秒しないうちに元のお美貌に復元されるんだろうし。オレの手の方が壊れかねないし。

 それに、まぁ腹は立つけど、その、なんですか……まぁ、気遣いに気付かないほどオレも子供じゃないのですよ。

 ものすごーく、勘違いも方向違いも甚だしい、迷惑でしかない気遣いですが。


「あのさぁ……オレがお前に遠慮するタチかよ」

「するだろ」


 うぐっ。


「いや、まぁその辺は置いときまして……」

「家族だろ」


 はい?

 何か急に飛んだ話にオレは目をぱちくりさせる。

 急にどうしたんですか? ついにおかしさがMAXに達したんですか?


「おい……あのなぁ、夫婦ってのも家族だろう」

「夫婦?」

「……俺とお前の関係は?」

「おお! 法律上の配偶者、もとい合法的なオレの金づる!」

「……泣くぞ」


 軽い冗談ですよ。ホントウダヨ?

 明後日の方向を見ながら言ってみたら、オレのツレは何やらふかーい溜息をついてゴロンと寝返りを打った。

 そっちの方向にはオレの腹しかありませんが。見ても楽しくないと思うけど。


「……まぁ、なんだ。お前にとっては金づるだろうがなんだろうが、俺はお前の夫だ。もう少しわがまま言ってくれて良いんじゃないか?」

「……良いの?」


 首を傾げたオレに、法律上の旦那(仮)がもぞっと寝返りを打ってまたオレを見上げて、「当たり前だろう」と笑った。

 ……爽やかな笑顔が目と心に痛い。ハンサム様はお得ですね。

 とりあえず精神衛生と情操教育上よろしくない無駄美貌を目を閉じてシャットダウンして……オレはニタァッと笑う。

 見て無くても膝の上のツレが全力で退いたのが分かった。


「言ったな?」


 クックック、と笑ったオレに膝の上でツレの顔が驚愕から後悔に変わってゆく。

 ふっ、もう遅い。


「じゃあ、タキシード着たい。つーかドレス却下」

「何で?!」

「ブーケとかベールとかめんどいもん。あ、当然ブーケないからブーケトスとかしないで良いよな」

「ちょ、待て。待ってくれ」

「あと指輪も要らんよな。邪魔だし」

「はぁっ?!」

「あと、終わったら友達と久々にお食事会して、お泊まり会するから。後よろしく」

「普通そこぐらいは俺と過ごしてくれよ!」


 一日分の休みやっともぎ取ってきたのにと悲痛な声をあげるツレにオレは首を傾げ、


「忙しいんじゃねぇの?」

「忙しいさ!」

「じゃあ、さっさと戻って仕事の続きすれば良いじゃん。後が苦しいぞ」

「……」

「あ、うん、でもほら、一日ぐらい休みとってぱーっと休んで遊ぶのも良いよな。うん。午前中は式で潰れちゃうけど午後からゆっくり。うんうん。よし、じゃあ式は五分に短縮してさくっと終わらせて」

「終わらせなくて良い!」


 折角人が珍しく気遣ってやったのに何故か怒られた。

 意味分からん。

 この意味不明な情緒不安定っぷり、どうやらツレはまりっじぶるーって奴らしかった。



 ちなみに、ドレスとトレーンベアラー、それから指輪については後でツレに押し切られました。チッ。


 何度だって言ってやる。


 チッ!!



 

誰とは言わないけどこんな未来

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